AIに置き換えられるもの、人間に残されるもの

中土井僚氏(以下、中土井):まったく文脈が飛んじゃうかもしれないので、変な質問だったらごめんなさい。尾原さんの書籍『努力革命』はすばらしいなと思っています。

尾原和啓氏(以下、尾原):ありがとうございます。

中土井:ある意味、あれも努力のパラダイムを変えられているなって思うんですね。知識に対して、人がどう成長していくかも変わっていくと見られているような感じがするんですが、尾原さんの中では、今までと何がすごく変わってくると見てらっしゃるんですか。

尾原:10年スパンで言えば、組織の求めている正解は最大公約数的なものなので、それってAIが一番得意なことですよねっていう話です。

中土井:なるほど。

尾原:最大公約数的なものは、AIが真っ先に置き換えてくれるわけですよね。どっちかというと、今までは単純繰り返し労働が置き換えられると言われてましたが、ChatGPTとかLLMの特徴は、ホワイトカラーと呼ばれている仕事、僕らみたいな中途半端なコンサルのほうが、一番置き換えられることです。

言い方が悪いんですが、そうした時に残るものって、「こっちだと思うよ」って最大公約数からは外れるけど、なぜか人が支援したくなるもの。これを僕らは「偏愛」っていう言い方をしてるんですが、こっちが人の価値になっていく。

ですので、そこから逆算で考えた時に、むしろAIを自分の新しい成長へのステップに落とすとしたらどうなるかをこの本で書きました。

「限界費用ゼロ社会」とは?

中土井:そうなっていく先に、さらに流動性が高まるものってどんなものがあるんですかね?

尾原:1個確実にあるのは、クラウドファウンディングとかがよく動いてる背景の1つで、すべてが限界費用ゼロ社会にいくわけですね。

中土井:え、何社会?

尾原:「限界費用ゼロ(社会)」という言い方をするんですが、いわゆる固定費的なものがどんどんかからなくなる。わかりやすい話で言うと、動画を作ることがほぼ無料ツールでできるといいなって言うし、YouTubeとかを使えば世界配信ができる。

だからNetflixって、今までは映画を1本見るのに2,000円ぐらいかかっていたのが、月額3,000円とかを払ってしまえば動画が見放題。でもNetflixはめっちゃ儲かるとなっているわけですよね。

中土井:うんうん。

尾原:それとおんなじことが、他のクラウドファウンディングでできる。もちろんREADYFORの中にもありますが、中国の深圳とかが簡単にハードのプロダクトとかを作ってくれるから、「こんな器具があったらいいな」と言って、1,000人くらいにしかニーズがないものがぽこぽこ作れる。もっと言うと、AIが一番効くのは明らかにプログラム開発です。

困っている方が10人しかいない問題解決も、ChatGPTとかAnthropicとかを使うと、「目の前にいるあなたを救うために、僕がプログラムを書いてあげるよ」みたいな。それどころか、もしご本人が言葉をしゃべられるのであれば、「タイピングができなくったって音声入力でアプリを作ってあげるよ」みたいな世の中になっていく。

中土井:おもしろい。

尾原:そういう観点で、世の中が限界費用ゼロ社会に確実に向かっている。その時に大事なことは、「この人を救いたい」とか「こういう世の中であってほしい」みたいなことです。

今までは100万人、1,000万人が集まらないと問題解決できなかったものが、100人の思いでもできるように世の中がどんどんなっていくのは大きいと思うんですよね。

29歳の時、がん闘病中に考えていたこと

中土井:その流れで米良さんにぜひ、うかがってみたい。抽象論で難しすぎる質問だったらごめんなさい。お好きなようにお答えいただいてかまいませんと、先にお伝えしたいなと思います。

今の限界費用ゼロ社会になっていく時って、お金という話で言うと、米良さんがまさにタッチされてるところと非常に関係が深いなと思います。そっちに向かって行くことって、「思いの乗ったお金の流れを作る」という米良さんが見ていらっしゃるものと、どんなふうに絡んでくると見えてらっしゃいます?

米良はるか氏(以下、米良):ストレートな回答になるかわからないですが、私は6年前にがんにかかっていて、7ヶ月間療養してたことがあったんですね。それがちょうど29歳から30歳の間だったので、「もし30代から自分が元気になったら、自分の人生をどういうふうに生きていこうかな?」と思った時に、READYFORはすでにもうやっていたんですね。

今後READYFORをがんばるのか、あるいはぜんぜん違う選択肢を歩むのか。社長業をやっていると、そういうことを考えるチャンスがないから、せっかくだったらそれぐらいフラットに捉えてみようと思った時期があったんですよ。

フラットに自分で何をしたいんだろうと思った時に、ずっと考えていたのが、「これから社会ってどうなるんだろう?」ということを考えること自体が、すごい楽しみだったんです。

なんでも自由にできると思った時に、私が一番最初にやったことって、これからどんな社会になっていくんだろう、その時に自分はどんな価値を提供していけばいいんだろうっていうことを夢想することで、それが好きだったんですよね。

中土井:すごい。

尾原:ほぉ。

米良:これからどんな社会になっていくんだろうな? って思った時に、まさに限界費用ゼロ社会みたいなものが、自分の中でもかなり大きく、これから多くの人たちの思考だったり日々の生活を変えていくんだろうなって思って。

先行きが不透明な時代に対する恐怖

米良:私は、終身雇用の社会ってすごく良い社会だなって思っていて。だって明確にレールがあるわけじゃないですか。レールがあって、目の前にやらなきゃいけない仕事があって、それを日々こなしてやっていれば、自分の居場所はあり続ける。同じチームで、同じメンバーで同じように歳を取っていくって、すごく安心できると思うんですよね。

1,200人ぐらい経済学部にいたけど、起業する子なんて私かもう1人ぐらいしかいなかった。そういう状況を考えると、ちゃんとレールがある社会って、多くの人にとっては良い社会だったんだろうなと。

これがどんどん先が見えなくなる、変化が大きくなる、企業が個人を守れなくなるっていう、そんなフワッとした社会になったら、みんなが何を自分の大事なものとして生きていけばいいんだろう? って、すごく恐怖を覚えた。みんな、そんなことをやってきたことはないよなって思って。

私は好きだからやってるだけなんですが、「社会がこうなったらいいのかな?」と考えるのが好きとか、さっき偏愛とおっしゃってましたが、自分が会社とかで日々やらなきゃいけないことをどんどん与えられなくなっていく。

AIでどんどんできることが増えていくようになって、暇になっていって、「あなたは今ここにいる必要があります」ってことを誰も言ってくれないような社会になってくる。その時に、自分自身は何を本当にしたいんだろうかとか、何が好きなんだろうかっていうことをすごく問われて、とてもつらいというか、苦しいと思うんですよね。

その時に、みんながそれぞれ思う自らの好きなもの、大切にしたいもの、こんな社会があったらいいなとか、いろんなものがあっていいと思うんですが、見つけていけるといいなぁっていうのを思っていて。

「好き」が見つかりやすい世の中を目指して

米良:なので、最終的にはREADYFORに戻ってがんばろうと思った時の一歩は、そういう社会になってくる時に、みんなの「好き」がみんなが見つかるといいなって思っていたからです。

中土井:なるほど。

米良:それが社会にとってすごい良いことか、良いことじゃないかは置いておいて、みんなにとって、自分にとって大切なものや「好き」が見つかりやすい世の中だったらいいなって思ってる。その一助になるように自分が仕組みを作れたら、自分は社会を作ることを考えるのが好きなので、それを楽しいと思えるんじゃないかなって思って。

なので、直接はつながらないんですが、現在の社会においては、そういう「好きだよね」だけで問題解決しないような話もけっこうたくさんある。

「社会にとって大事だよね」ってみんなが思うんだけど、資本主義から外れるものにもっともっとお金を付けていくことが、今私がやっている挑戦です。すみません、ちょっと(話題が)飛んじゃったんですけど。

尾原:でも、今のお話ってすごくわかる。レールがある組織や会社っていう話と、今あるレールしか守らなきゃダメっていう話は別だと思うんですよね。

だからパナソニックの松下幸之助さんだって、ソニーの盛田(昭夫)さんだって、レールがあるところだけを走っているわけじゃなくて。それぞれの創業者の方がレールを作って、その後の方々がレールを作っていって、みんなが安心してレールを走れる会社を作ったわけじゃないですか。

さっき言ったように限界費用がゼロに近づいてくると、新しいレールを引くリスクってどんどん下がってるんですよね。

尾原氏が思う、chocoZAPが切り開いた道のすごさ

尾原:例えばわかりやすいのが、chocoZAPというライザップさんが新しく引いたレールです。月額3,000円ぐらいで家の近所でトレーニングができるんだけれども、トレーニングもウェアを着替えることなく、その代わりシャワーもないんだけど、10分サッと運動できますみたいなところがあるんです。

ここがすごいのは、「失敗だ」って思ったら元の状態に戻して返さなきゃいけないんですが、新しく出店した時に撤退コストを徹底的に減らしていくために、元の状態に戻すための部隊を全部内製化していること。

「失敗したらすぐやめればいいじゃん」っていう話だし。あと、高級ジムじゃないから、中に置かれてるトレーニング機材を自分たちで独自に開発しなくても、まずは外で売ってるものを中古で買ってきて実験して始めている。

やっていったらトレーニングだけじゃなくて、「セルフ美顔器や美白器があったほうが長続きして、結局トレーニングもするね」と気づいたり。レールを出したり引っ込めたりすることが、ものすごく簡単な構造の社会になっているんですよね。

そうなった時に、「じゃあどっちにレールを伸ばしたいの?」ってメンバーが思えるように、どういうふうにその組織を持っていくか。

「いや、これはちょっと失敗かもしれない」「でも、あの上司に怒られるかもしれないから、失敗してるかもなんて言えないよ」みたいなことを、「いや、これちょっとヤバくないっすか?」と言えることによって、本質的にここで言ってるような波乗り型のプランニングになっていく。

「これは自分らしいレールの伸ばし方なのかな?」と、今やっていることやビジョンが、自分らしいのか・自分らしくないのかが問いになっていくことによって、新しいレールが自分らしく生まれていく。

僕からすると、米良さんが言ってることと中土井さんが言ってることって、山を別の方向から登っているのかなと思っちゃうんですよね。

個人主義を加速させる風潮に対するアンチテーゼ

中土井:さっきの米良さんのお話は、お金のことと関係がないようなお話でしたが、私にはすごくお金の話として聞こえていたんですね。「お金のために働く」とか「お金のために」という言葉が消えるんだなって、すごく思ったんですよ。

「限界費用ゼロ社会×(かける)」という話だと思うんですが、お金のためにがなくなった時に、お金を使うとか、お金のためを目的にするんじゃなくて、好きのために使う。

使わなくてもなんとかなるのに対して、使うという行為自体が非常に能動的というか、その基準を自分の中に持てることを可能にしていくんだなって。今のクラウドファウンディングの流れは、それをさらに後押ししていくんだろうなって聞こえました。

米良:ありがとうございます。

中土井:私がこの書籍(『『ビジョンプロセシング』』)で書いたことって、正直、どちらかというと時代の過渡期を表現しているところがありまして。コスパ、タイパの話じゃないですが、やる前に意味があることかどうかを考えたり、「効率ってなんのための効率なの?」と考えることは、ほとんどが自分にとって都合がいいかどうか。

しかも自分にとっての何の都合がいいかと言うと、生存に役立つかどうか。そういうところからみんなが考えてしまうと、非常に割が合わない。勘定が合わなくなった時に、みんなが思考停止するなとすごく感じているんですね。

なので私は今の時代の過渡期において、逆に「×(かける)自分らしさ」を尊重し過ぎる風潮が、個人主義をすごく加速させ過ぎている感じがしているんですね。

個性主義はいいんですが、個人主義はみんなが自分のことしか考えなくなると思うので、個性を活かし合うのではなく自分勝手になっていく。それに対して、「それっていいんでしたっけ?」というアンチテーゼでもある感じなんですよね。

それに対して、今の米良さんがおっしゃっていた「好き」を中心に置けるようになるのって、まさに個性主義のように私には聞こえています。尾原さんが言ってくださったように、山の別のところから見ているという感じで、確かにそうかもなって感じがしましたね。

リーダーシップにおいても「問いを立てること」が大事

米良:最近、自分が心がけていることで言うと、答えみたいなものからビジョンを問うっていう話があったと思うんですが、リーダーシップにおいて問いを立てることが大事になってきてるなと、最近すごく感じる。

さっき限界ゼロの話をしましたが、今、READYFORが掲げている問いで言うと、どうしても、お金を早く生める、短期的に大きなリターンを生む領域にお金が集まる。これが資本主義だと思うんです。この資本主義の構造の中では、どうしても小さな複雑化した社会課題だったり、小さな好きがどんどん分散化して複雑化している。

その中で、大きなニーズじゃないんだけれども、社会として大切にしなきゃいけない。あるいは誰かが大切にしたいと思うものがあると、そういうところへのお金の流れはやっぱりなかなかハマらないなと。

中土井:そうですね。

米良:このハマらないお金の流れの問題を解決をすること、あるいはイノベーションを起こすことによって、お金の流れを変化させていきたいっていうのが、今、自分たちが解きたい問いで、どうにかして解決したいと思っています。なのでクラウドファウンディング以外にも、いろんな事業や商品をどんどん作っていってる状況です。

自分が解きたいと思っている、資本主義の社会では解決しないような社会課題に対してのお金の流れを作ることや、ビジョンをいろんな人に言ってると、いろんなカテゴリーやセクターの人がおもしろがって集まってきてくれる状況になっている。

READYFORのメンバーは「問い」を解くために集まっている

米良:うちの会社のメンバーも、もともとはスタートアップ出身の人とか、ソーシャルが好きみたいな人だったんですが、最近は本当にいろんなバックグランドの人たちが、この問いを解きに集まっているなっていう感じになってきている。

まさに、チームとチーミングの間かなという感じで、それぞれのバックグランドやプロフェッショナリティを組織に集結させて、「この問いが解けたらめっちゃ楽しいよね」みたいな感じでわいわいやっているのが、今のうちの会社の状況だなと、見ていて思っている。

そうすると自分がやっていることって、「これをいつまでにやってね」とオーダーしているというよりは、問いにいろんな人たちが集まっていく、会社自体もある種のプラットフォームみたいな感じになってきているな。

実際、集まっていると、話していても「おもしろい問いがなくなったら飽きるよね」みたいなことをすごく言っていて。

中土井:おもしろい。

米良:「おもしろい問いを持ってきてね」みたいなことをけっこう言われるんですよね(笑)。最近、自分がそういう問いをひたすら立て続けられるような人間でありたいなって思ってたので。さっき答えと問いみたいな話があって、自分の中でも最近のトレンドワードになっているなと思って共有してみました。

中土井:ありがとうございました。