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新規事業のファンづくりとは?コロナ後のファンダムビジネスを考える(全4記事)

エンタメ社会学者が語る、ユーザーの消費行動の変遷 クリエイター・編集者と共同作業でコンテンツを押し上げる人たち

「新規事業のファンづくり」をテーマに開催された本イベント。エンタメ社会学者の中山淳雄氏が登壇し、クリエイターエコノミーの市場規模や、Web3・推し活現象から考える自社の新規事業のファンづくりについて解説します。本記事では、加速する“脱プラットフォーム”の流れや、コンテンツを持ち上げていくコミュニティの力について語りました。

前回の記事はこちら

消費者がコンテンツの開発・販促にも参加する時代

中山淳雄氏(以下、中山):僕もこの3年間ユーザーインタビューをめちゃめちゃしていたんですけど、「大きく変わったな」と思うのがこの図で、今回のセミナーのハイライトでもあります。

ユーザーかコンシューマー(消費者)がいて、プロデューサーなり編集者なりが、漫画でも音楽でも持ち上げてくれて、クリエイターと一緒になって消費者に届ける。この3項対立図がめちゃめちゃ増えてきたなと思うんですね。

これは17~18年前からの傾向ですけど、2016年、2017年ぐらいから「推し活」が増えてきます。「お金にもならないのによくやるな」とみんなが思っていると思いますけど、「いや、これがめっちゃおもしろんだ」とTwitterでバンバン振りまきながら、推し活をしている人(テイストメイカー)が消費者と編集者の間にいる。

そこにこの3年で増えましたけど、TikTokを使いながら、さっきの「『アイドル』を自分も歌ってみた」「踊ってみた」と広げていくリミクサーと言われる人たちが、消費者とクリエーターの間にいます。

これはまだ普及していないと思いますが、Robloxや『フォートナイト』でキティの世界を作ってみたら、サンリオ公式のキティのワールドよりも、ユーザーが作ったもののほうがはやったりするんですよね。

ワールドビルダーといわれる、クリエイターでも編集者でもある人たちは別にそれを商売としているわけではないんです。隙間や余剰に、みんながちょっとエディティングして入り込む。この動きは2000年代のネット世界にはちょこちょこありましたけど、それが動画や音楽でもできるようになった。

20世紀から21世紀にかけての消費行動の変化

中山:20世紀は開発や販促、クリエイターと編集者がプロとして作って届けるのが本当に大変で、「消費者に対していいものを出していきますよ」という時代だったと思うんです。

21世紀は消費者が開発や販促に参加して、クリエイター・編集者性を高めながら「一緒に共同作業で持ち上げましょう」という時代なのかなと思っています。これに類する動きがばんばん出て、先ほどのクリエイターエコノミーになったんだなと思うんですね。

2024年にこの図を出したら、すごく話題にしていただいたんですけど。実は3年前にも『推しエコノミー』という本を出していて、これもけっこうバズったんです。

先ほどの消費者の変動で言うと、推し活ユーザーは1つの局面でしかないんです。でもこの時に思ったのが「ハリウッド(経済圏型」の「AIDMA(アイドマ)」です。興味を持ってもらって、だんだん情熱を持って、棚を見た時に「このシャンプーを買おう」という。

買ってくれた人たちの中の2割ぐらいが、ニッチなヘビーユーザーさんになり、8割を買うという世界線ですね。これは雑誌モデルやテレビモデルでもGRP(CMの視聴率の合計)でどんどん視聴していって、タッチして好きになってもらおうと取り込む動きと同じです。

僕は2016年、2017年ぐらいからこれと真逆の動きを、アニメやゲーム、プロレスの世界で感じていたんですね。彼らは無関心からSNSを使って広げていって、実際にお金をかけてサブスク会員にもなるし、そこから教育したりチームをまとめていったりする人が出てくるんですよね。半分セカンドクリエイターで「これは俺が持ち上げるものだ」となっていくんです。

ファンの購買している・していないは関係ない

中山:僕はこれを「リーチ型」と「リール型」に分けました。ファンは購買しているしていないを問いません。「中山先生の本は本当に革新的なので、みなさん読んでください」と言って、毎回僕のTwitterを必ずリツイートするんだけど、本人は1回もお金を出して買ったことがないという生徒がいるんですね。「図書館でいつも読んでいます」という(笑)。

彼らからすると「本を読む」のはライブなものじゃないから、大事じゃないんですね。誰かとシェアできて、初めて価値あるものになる。だから(本は)「別に図書館で読めちゃいますよね」という感じなんです。

でも実は僕は彼らのことをすごく重宝していて。非購入者なんだけど、半分ギルドマスターになってくれているので、彼から売られているもののほうが、だいぶ大きいんです。彼自身が「買う・買わない」はあんまり関係なくて、時間がないから買うだけでツイートすらしない人よりも、むしろ貢献してくれているなと思うんです。

彼らは「推し」を決めるまでがすごく長いんですね。いろいろな選択肢があるから、サーチして、興味を持って、アテンションがあって、「これもいいかな」と比較もしながら決めていく。だから結局サービス終了するものもめちゃめちゃ多い世代なんです。

「あ、これは勝ち確だな。中山さんは7冊ぐらい本を出しているし、この後もたぶん推し系のやつだったらずっと出し続けるな」と思うから、アクションして、実際これをパーチェスしないんですけど、エンゲージやシェアしながら、セカンドクリエイターになってくれるんですね。

これはワールドビルダーやミキサーとはまた違うんですけど、推し活ユーザーとしてはこういう在り方もある。推し活エコノミーの中では、「シェア」「参加」「購買」があって、リール型で持ち上げていくものがあります。半分一緒になってやっていく、先ほどの『アイドル』の「歌ってみた」「踊ってみた」の1,000人ですね。

このユーザーを巻き込む動きは3年前からありました。でもこの2年ぐらい、音楽やアニメでめちゃめちゃ事例が出てきて、それを抽象化して書籍にしたのが『クリエイターワンダーランド』や『推しエコノミー』です。

メジャーよりマイナーなものがうまくいく世界線

中山:この3年間はメジャーなものがぜんぜんうまくいかず、マイナーなものが出てくる事例が本当に多いです。まずNFT(非代替性トークン)業界ですね。今、世界で1,000億円ぐらいですかね。

アメリカで一番人気のあるプロレス団体が「NFTでやる。みんな、これを使いたまえ」と商品化していったら、だいたい500万円分ぐらい売れましたよ。みんなが2万円ぐらいで買うんですけど。

Kawaii SKULLさんという個人のカメラマンが「NFTはおもしろそうじゃん。こういうかわいいガイコツを作ったらいいんじゃないの?」と、いきなり8,000個を作ったんですね。1個1個手作りしたやつが、1.6億円売れたんです。

この時フォロワーは200人ぐらいなんですけど、「こいつ、おもしろいことをしそうなクリエイターだな」「持ち上げようぜ」「こいつをスターにしてやる」という動きにつながって。

実は有名なRTFKT(アーティファクト)の人が持ち上げてくれた瞬間、それまでは400万円ぐらいでしか売れなかったのが、突然8,000万円になって、そこから半年ぐらいガンガンと売れて、1.6億円になっている。これは2021年にあったことです。

同じようにクラファンで、ジブリが「美術館を修復したいです」「とにかく修復に使います」と集めたことがありました。「何が壊れたんでしたっけ?」「何が良くなるんでしたっけ?」という(はっきりした)ビジョンがなくても、「だってジブリだもん」というだけで、1人1万円で300人が集まって300万円になったんです。

これは知っている人はあまりいないんですけど、(サッカーには)J1やJ2じゃなくJ8というのもあって。シンガポールに住んでいるアクセンチュア株式会社出身の人が鎌倉でサッカーチームを作ったんですね。

「俺のチームはスタジアムがないので、なんとか助けてくれ」という感じで、鎌倉の一人ひとりを回って、200人ぐらいから16万円ずつぐらい集め、3,000万円も集まったんです。「ジブリを10倍で超えたぞ」と言っていたんですけど。

やはりビジョンや透明性、あとは「自分が参加したら、これは持ち上がるかも」感で、みんなの参加率がまったく違ってくる。だから先ほどの音楽業界でのインディーなものを持ち上げる快感につながるんですね。

加速する“脱プラットフォーム”の流れ

中山:かたや川本真琴さんは、2022年9月に「サブスクを考えた人は地獄に落ちて」と言って話題になりました。これだけサブスク時代になり、メジャーなものがどんどん落ちて「ストリーミングはたいして儲からない」という中で、「え? いや、めっちゃ儲かっているんですけど」という人に、僕はけっこう会うんですね。

「香水」で有名になった瑛人さんは、個人で年1億円ぐらいの収益が得られました。レペゼン地球も自分たちで音楽ライブを開いちゃって、年間1億円ものサブスク配信での収入があります。舐達麻はレコード会社に所属もしてないんだけど、(月)数千万円ですね。

これはユーザーが参加する余白をうまく空けていて、トップダウンアプローチじゃないんです。「みんな、こういうのを好きだろ?」とわかり切った攻め方をしない人たちが、上がってきた歴史があるんですね。

よくあるのがWeb1、Web2、Web3といったプラットフォーム時代。われわれはGAFAを含めてWeb2時代を超えてきました。プラットフォームがあると便利だけど、結局規制している世界の中で自由にレビューを書いても……と。

最近僕自身にあったことですけど、Facebookに入れなくなったのに復旧もしてくれなくて。20通ぐらい出しても一切反応してくれない。実は僕の写真を勝手に使った人がいて、それなのに僕が「写真を勝手に転用している」と言われたんです。(勝手に僕の写真を使った)詐欺の人が正で、僕が逆に誤りになったという。こうやって彼らが(独断で)判断したりするんですね。

それがだんだんWeb3へ行って「参加する」ブロックチェーン型に移ってきた。自分たちの情報はすべて自分たちに帰属するべきだし、「すみません。X(旧Twitter)はイーロン・マスクが買っちゃったので、いったんなしになります」というようなプラットフォームにも、みんな飽き飽きしてきた。

コンテンツを持ち上げていくコミュニティの力

中山:これからはだんだんWeb3型になっていく。一筋縄にはいかないと思うので、10年、20年の変化だと思いますが、いずれユーザーが主体になって「ここが持ち上げていってコミュニティができていくんだよね。コミュニティでIPやコンテンツが上がっていくんだよね」という世界観に変わっていくんじゃないかなと思っています。

やはり2020年以降は確変したよなと思います。クリエイターエコノミーは、まだ全体の中の1割でしかないですけど、YOASOBIみたいに、本作より本作を持ち上げる人たちの力が大きい。ストリーミングやアーカイブがあるので、みんなでパスし合って、古いものも持ち上げられるようになりました。

プロが作ったものが断然上なので、13兆円中2兆円はひっくり返ることはないです。ただユーザーが切り込みを入れて一緒になる動きは、今後も増えるだろうなと思っています。

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