今、1から会社をつくってみるとしたら

和田武訓氏(以下、和田):みなさんが自社で取り組む時には、無理に風土をつくるより、先に制度をつくったほうがいいかなと思います。

あとは、環境のあたりに課題がありますよね。取り組みがうまくいっていないところや、進まないなと感じていることがあると思うんですけれども、そのあたりの話をしてみたいと思います。

山田理氏(以下、山田):繰り返しになるかもしれないんですけれども、僕はどちらかというと制度について考えながらやってきているので、それが結局は風土につながっているなと思うんです。風土を作る「風土クリエイター」なんですよ。

和田:(笑)。

山田:あれ、なんだか湿っぽいですね。カリフォルニアはもうちょっとカラッとしているんですけれど。

和田:カラッとしゃべったほうがいいかもしれませんね(笑)。

山田:そんな中ですごく大事だなと思うところは、そもそも世の中ではどうなのかということと、世の中の会社はどういう環境の中でできあがってきたのか、それから、その環境はどう変わっていこうとしているのかといったことです。その変わっていく環境の中で、そこからもう1回、1から会社をつくってみようと思ったらどんな会社になるのかという、少し俯瞰した視点からの話をさせていただきたいと思います。

(スライドを指して)昭和とインターネットとありますね。僕は完全に昭和(の人間)です。僕が会社に入ったのは平成4年、1992年なんですけれども、その時にはインターネットなんてなかったです。

面談記録なども手で書いていました。それを上司にわたして、赤ペンを入れられたものをまた直して、それをまたもう一回、手で書いて渡すといったように、紙で行ったり来たりを繰り返します。1日の終わりには、上司のスケジュールを見て帰るといったことをやっていた時代です。

その後にインターネットが出てきました。若い人などは、生まれた時からインターネットが当然のようにある状態ですよね。

そこにこのITが入ることによって、会社のなにが変わっていくか、世の中のなにが変わっていくか。これは僕の感覚なんですけれども、昔はどの会社にも、おそらくヒエラルキーがあったと思うんです。自分がいて、課長がいて、部長がいて、役員がいて、社長がいる。要は、トーナメント制になっているんです。

下っ端はreport to課長、課長はreport to部長、部長はreport to本部長、本部長は社長へ。だから、社長には全部情報が集まるような仕組みになっているんですね。

誰もが同じ情報を持てる時代に重要なのは、どう使うかの発想

山田:昔は情報を手に入れるのはすごく大変だったんです。そもそも集まらないといけなかったり、紙に書いて送らなければいけなかったり、電話をかけないといけなかったり。だから、情報はものすごく価値が高かったんです。

情報(の価値)が高い時代には、情報を持っている人に権限が集まるんです。だから、その人がクオリティの高い意思決定ができる前提があります。

でも、今はインターネットの時代になって、情報(の価値)は圧倒的に安くなっています。もう10年来会っていない人の昼ご飯(のメニュー)を、みなさんは知っているんです。それくらい、情報は簡単に手に入るんです。

そんな時代における情報は、「どう使うか」が大切になってきます。情報を持っているから偉いのではなく、みんなが持っている情報をどう使っていくのかが重要な時代になってくる。つまり、情報格差から情報共有へ移り、その共有された情報をどう使うかになってきます。

和田:他社さんやお客さまとお話をすると、だいたい出てくる言葉は、やっぱり働き方とマネジメントなんですよね。それも、もう変わっているよという話ですよね。

山田:そうです。言ってしまえば、部下も上司もみんながほぼ同じ情報を持てる時代に、上司は一生懸命に情報を隠すんです。それを出してしまうと自分の権限がなくなりそうだから。能力はあまり変わらないと、自分でもわかっているんですよ、上司は。だから、その情報を渡さないと思うんです。でも、そんなのはダダ漏れなんです。そういった状況で、いかに情報を共有していくのか。

その意味では、マネージというのはトップに意思決定の権限があって、管理しているわけですよね。自分が意思決定して伝え、部下はそのとおりに仕事をする。それがうまくいっているかどうかを監視する。これがマネジメントであると。

情報がいきわたった時代には、チーム戦が圧倒的に有利

そうではなくて、集まろうと呼びかけます。「俺は、こういうことで困っている。みんなはこれについてどう思う?」といったかたちです。たぶん、人事のことに詳しい人もいれば、ツールのことに詳しい人もいる。絶対にいろんな個性があると思うんです。

それをオーガナイズして、意見を出してもらいます。そして、「じゃあ、これでいこう」と決めるところだけは僕にやらせてと……申し訳ないんだけど、そういう立場なので、といったかたちですね。このように、マネジメントからオーガナイズへ向かう時代になってきているんじゃないかなと思います。

少し戻りますが、今まではやはり情報に価値があったため、所有というかたちで個人に価値が付いていました。所有していないと戦えなかったからですね。それが、今度はシェアするようになっていくということは、みんながわかっているわけです。それなら、チーム戦で向かったほうが圧倒的に有利です。なぜなら、みんなに同じように情報がいきわたっているんですから。

ということで、マネジメントからオーガナイズへと、チームマネジメントの仕方、チームワークのあり方は変わっていく時代になっています。そうすると、いろんな情報が社内だけではなく社外からも得られるようになってきます。そして、今度は忠誠心から距離感へと変わっていく。

何が言いたいかというと、昔は同じ会社に長くいたほうがノウハウがたまって、そこでスキルを磨いて活躍できる。中心の人たちの忠誠心が高ければ高いほど、全体の信頼度も高いという世の中でした。でも、これもダダ漏れなわけです。

みんな知っているんです。あの人が、どこの会社でなにをやっているか。「サイボウズってこんなことやってるらしいよ」といった言葉を聞きながら、会社で働くわけですよ。

また、物理的にも情報を簡単に共有できるようになったため、ビジネスもやりやすくなっていると思うんです。少なくとも、昔ほど大変ではなくなっています。

忠誠心だけを求めて「うちの社歌はこれだ。一緒に歌うぞ、エイエイオー!」のよう、中心に来た人間が偉いといったところから……ワークライフバランスではないですけれども、もう少し家事をやりたい、ほかの会社でも働いてみたい、辞めたけれどもう一回戻りたいといったように、こうした「距離感」を意識してチームを作っていく、もしくは作れる時代になってきているのです。

和田:ほかのセッションの情報も、Twitterで感想が書かれたりしていますし。参加していない方が「Cybozu Daysが気になる」と書いていたりもしますからね。

「1週間に1度、送別会がある会社」からの脱却

山田:15年前、離職率28パーセントになった時は、本当に上から一方通行のマネジメントでしたし、情報強者によるヒエラルキーのなかで意思決定をしていくということをやってきました。インターネットの会社であるにもかかわらず、わざわざ昭和的な発想で情報共有をしていたんです。「忠誠心、忠誠心」といったかたちです。

人が次々と辞めていくのはなぜだろうと考えると……仕事以外に家事をやらなくてはいけないし、育児もやらないといけない、疲れたから少し休憩もしたい、もしくはほかの会社で働いてみたいという声がありました。

そして、この声を受け入れていったんですね。なぜかというと、辞められたら困るから。せっかく採用して、「一緒にやろう」と言っていた人が辞めていくという、このつらさたるや……。離職率が28パーセントということは、100人いたら1年間で28人が辞めるんですよ。1年間で28人が辞めるということは、月に2人以上が辞めるんです。1週間に1回は送別会があるんです。想像できます? この雰囲気の悪さ。それサイボウズだったんですよ。

そんなの嫌じゃないですか。なぜ辞めていくのかを聞くと、こういう働き方はもう嫌だと。ガンガン走って振り落とされるのは嫌だと。僕らも前までは「七精神」を覚えさせようと必死になっていました。7個も覚えられないから5個にしようかといって、5個にしたくらい忠誠心にこだわっていたんです。

そんなことを経て、こうして多様な働き方を受け入れてみたところ、それでもチームはできるんだなと、実感として気付きました。いま、世の中では働き方改革が盛んです。働き方改革といえばワークライフバランスだ、みたいなことになっていますよね。少し違う方向に進んでいる部分もあるんですけれども、そうした流れが来ています。これは加速していくだろうという印象です。

日本は制度を変えようとし、アメリカは文化を変えようとしている

山田:それでは、アメリカの話をしてもいいですか?

和田:いいですよ、今は1年の間、ほぼアメリカにいますもんね。

山田:僕は、この離職率28パーセントから4パーセントに変えた人事制度の責任者として、ずっと歩んできたんです。そして4年前に、アメリカに1人で行きました。そこから自分で採用をしていき、37人のメンバーになっていくんですけれども、さて、昨年の離職率は何パーセントでしょうか? 答えは57パーセント。倍になりました。僕が作った28パーセントを大幅に更新して、最高記録達成です。今年は29人いるうち、2人しか退職していないので、たぶん10パーセントちょっと程度になっているんです。

僕は最近この制度をつくったんですけど、日本で感じてきたことをアメリカで4年間やってみて、離職率が57パーセントからまた10パーセントぐらいになっていく過程を見て、アメリカでもこうなるんだなと実感しました。アメリカはすごく個人主義で、個人が強いところがあるんですね。少しでも嫌なことがあったら、みんな違う会社に行ってしまうんです。

そう簡単に残ってくれないところがあって、距離感というものを意識しました。アメリカでは、働き方改革という言葉がそもそもないんです。ある意味で、すでに自由だから。働き方もフレキシブルで、リモートで働きたい人はリモートで働くし、短時間で働きたい人は短時間で働く。ただ、結果を求められるんですね。

自由な分、やはりストレスはたまりますよね。勝ち組だけが成果を得られて、そうではない人たちは権利を得られないという、すごく差ができる環境です。

そこで感じたことは、彼らは会社と距離を保ちながらも、チームでやっていくということ。距離は維持しておきたいということです。マネージされるなんて、やっぱり嫌なんですね。自分たちの個性が大事なので、オーガナイズ、つまり「一緒にやろう」でいいんだなと(思いました)。こういうカルチャー、風土みたいなところに「いいね」と共感してくれて、残ってくれる人がいます。その人がまた新しい人を呼んでくれて、結果的に離職率が下がっていくといったかたちになっています。

少しまどろっこしくなりました。先進国の(企業の)時価総額ランキングのトップ10のうち、8社はアメリカの企業です。競争主義のなかで「働き方が違うんじゃないか」「もうちょっと会社を信じてもいいんじゃないか」といったことが、ミレニアル世代のなかから生まれて、そういう機運になってきているということです。

日本はまだ、働き方改革といって制度を変えようとしていますけれども、アメリカはどちらかというと文化を変えようとしています。ただ、日本でもそういう方向に向かっている気がしています。なんとなくグローバルで見ても、同じような方向に向かっているのかなということを、今、アメリカで感じているところだったりします。

覚悟を決めるとは、自分でできることを選択すること

和田:そろそろまとめたいと思います。最後に、みなさんへのメッセージです。

山田:そうですね。最初に僕が言ったところまで戻るんですけれども、チームワークにおいては信頼が大切ということは、みなさんにも共感してもらえますよね。

では、その信頼をなにで測るのか。ずいぶん定性的ですけれども……信頼について、よく社内でもめることとして「あいつは営業でめっちゃ売ってくるけど、会社にあんまり興味ないし、いつ辞めるかわからない」といったこと。「でも、売ってくれるから信頼度が高いよね」となることがあります。

一方で、新人でまだスキルが全然ない人がいます。でもかなり会社が好きなんです。すごく遅い時間までがんばって、新しい仕事に対しても「はい、がんばります!」とモチベーション高く取り組んでくれる。クオリティはそんなに高くないかもしれないけれど、「あいつはやる気があるし、会社のことが好きだから信頼度高いよね」となることもあります。

つまり、どちらかではないんですよね。一番いいのは、もちろんスキルがあって覚悟があるというか、きちんと仕事をしてくれる忠誠心の高さと、(会社の)理想への共感が高い人です。このかけ合わせが信頼になります。社内でも説明しているんですが、スキルというのは能力です。能力とはなにかといったら、みなさんが持って生まれた能力の状態で、もちろんみんな違います。

頭がいい人もいれば、そうでない人もいる。話がうまい人もいれば、そうでない人もいる。足が速い人もいれば、そうでない人もいる。能力というのは一人ひとりに差があります。ただ、努力によって増えていくんです。これも、人それぞれで差がありますけれども。

それに対して、覚悟というのはどちらかといえば選択です。みなさんが持って生まれた状態というのは一緒です。例えば「サイボウズでがんばって働きたい」「フルコミットして、24時間365日働きます」という人もいれば、「サイボウズと家事・育児は半々でがんばります」「半分は違う会社で働きます」という人もいます。でも、これらはスキルではないですよね。これは選択で、誰でもできることです。できることを選ぶというのが、覚悟だと考えています。

みんな「覚悟」というと、「清水の舞台から飛び降りて!」とか「命を懸けろ!」みたいな、すごい決断だと感じるかもしれないんですけれども、ただ単にできることを選択するということが覚悟ということなんです。みなさんが選ぶということだけなんですね。

今日のお昼ごはんをラーメンにするか、カレーにするかで、「うーん、清水の舞台から飛び降りるつもりで、覚悟を決めてラーメンで!」といった気持ちで選択しますか? みなさんは毎日、いろんな選択をしているんですよ。

自分にできることを1つやってみる、という覚悟

みなさんは、自分たちの会社の風土になにか違和感を持っていて、もっと変えていきたいと思っているから、覚悟を決めてここに座られているんだと思います。

覚悟も決めず、ここに来ないで、新橋でくだを巻いて飲んで、選択もせずに愚痴っている人はたくさんいると思うんです。でも、みなさんはもうすでに、第一歩を踏み出しているわけです。

次にみなさんが決める覚悟は、「これはいいな」「これはおかしいな」をつぶやいてみるということ。まずは共有してみる。さらに「こうしようよ」と言ってみる。それで「いいね」を集めてみる。これから世の中は、この「いいね」が動かしていきます。情報を持っている人が動かしていくわけではないんです。自分たちはこうしたいと言える人たちが、世の中を変えていくんです。

わかりやすいのは「サイボウズの製品を買う」ことなんですけどね。

和田:(笑)。

山田:題名に戻ると、「うまくいかないただ一つの理由」は、覚悟が足りないということなんです。でもそれは、「命を懸けてください」ということではないんです。

みなさんができることを、1つやってみる。意外とできていないことや、みんなが諦めていること、外部のセミナーに行って「いい話だな」と思ったけれど、うちの上司は変わらないからと思って止まっていることを、1つやってみる。自分たちがやれることをやるんです。それをやれていないのが、一番大きな理由だと思っています。

和田:「覚悟を決めましょう」が、理由としてまとまりました。ありがとうございます。このあとは、最後の特別講演「楽しいは正義」ステージです。引き続き最後まで、お楽しみいただければと思います。

では、以上で本セッションを終了させていただきたいと思います。ありがとうございました。

山田:ありがとうございました。

(会場拍手)