働き方改革がうまくいかない「ただ一つの理由」とはなにか

和田武訓氏(以下、和田):みなさんこんにちは。よろしくお願いいたします。簡単に自己紹介をさせていただければと思います。私は、チームワーク総研の統括ディレクターをしております、和田と申します。よろしくお願いします。

山田:サイボウズの山田理と申します。(僕も)簡単に(自己紹介をさせていただきます)。

サイボウズには2000年1月に入社しました。当時は会社ができて2年ぐらいで、社員がまだ10人ちょっとでした。管理部門や財務、人事、法務といった内部統制など、そういうところをたどって、一通り責任者としてやってきました。2014年には「アメリカの事業を立ち上げるぞ」ということで、単身でサンフランシスコに行きました。今は、米Cybozu Corporationの社長を兼務しています。

社員は現在38人ぐらいで、主にアメリカのメンバーをマネージしています。働き方改革といってもいろいろありますよね。サイボウズは、僕の入社当時は28パーセントだった離職率が、今では4パーセントぐらいまで下がっています。28パーセントの離職率をつくり出したのは僕です(笑)。

和田:(笑)。よろしくお願いします、それでは始めましょう。今日のメインタイトルはこれですね、「働き方改革がうまくいかないただ一つの理由」。

山田:「ただ一つ」。

和田:はい、「ただ一つ」ですね。みなさん、もう答えを求めている感じですか?(笑)。

山田:一つにまとめるといっても、100社あったら100通りありそうですけどね。

和田:もう答えが出ちゃいました(笑)。今日は、働き方のセッションがけっこう続いているんですけれども、この会場「ゴリラステージ」で1つ前に行われていた大槻の働き方のセミナーを聞かれたという方は、どれぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

山田:3分の1から半分ぐらいですかね。働き方改革、相当がんばっておられますね。

和田:みんな、かなりうなずいていますね(笑)。前列の方のうなずき方がすごいんですよね。

山田:ちなみに、内容はけっこうかぶっています。僕も聞いていたんですけれども、大槻のほうがわかりやすいです(笑)。

和田:最初にお伝えしておきます(笑)。

サイボウズのビジョンにバージョン番号が付いているのはなぜ?

山田:僕自身は、これまで働き方改革のつもりで(仕事に)取り組んできたわけではないんですが、いろいろなところでこうしてお話をさせていただくときには、「ビジョン2018 チームワークあふれる社会を創る」という(サイボウズの)ビジョンやコンセプトがあるなかで、「チームワークはビジョンが大事」ということを考えて取り組んできた、とお話ししています。

サイボウズは、こういうビジョンのもとに会社をつくってきたと多くのメンバーが語っていたりしますし、みなさんにもそう聞こえていたりするかもしれないですね。でも、これにはバージョンがついていますよね、2018と。実は、ビジョンはけっこう変わっていまして、固まってきたのはこの2、3年です。あまりにも微妙に変わっていくので、ついに今年からバージョン番号をつけるようになったくらいなんです。

もともとサイボウズは、明確なビジョンに向かってチームをつくってきたというわけではなく、いろいろ悩み、苦しみ、もがきながら走ってきた結果、「こういうビジョン、いいね」というところで落ち着きました。それが、みなさんがそばで見ているサイボウズの状態です。

今では「チームワークあふれる社会を創る」という考えのもと、自分たちもチームワークあふれる会社になるというのが私たちのビジョンです。現在は、ソフトウェア事業とメソッド事業という、2つの事業を進めています。

和田:結局、ビジョンは全社の企業理念ですから、変わるとなるとびっくりしますよね。「変わるんだ⁉」「番号つくんだ⁉」みたいに。来年はどんなものに変わるんだろうと思うでしょうし、ITベンチャーみたいなメッセージングをしているサイボウズに入社したら、IT以外のところも手がけることになるという……。「あれ、僕はなにをしにサイボウズに入ったんだっけ?」と思いながら仕事していましたね。

グループウェアが提供できる価値は、チームワークをよくすること

山田:20年くらい前には「情報サービスをとおして世界の豊かな社会生活の実現に貢献する」というビジョンというか、経営理念だったんですね。これが途中から「グループウェア世界一を目指す」に変わったんです。そこでグループウェアをずっと手がけてきたんですけれども、だんだんグループウェアが伸びなくなってきました。

この分野で世界一を目指していくなかで、じゃあ我々はグループウェアでなにを実現したいんだろうと考えたところ、それは「チームワーク」なんじゃないかと思い至りました。グループウェアが提供できる価値とは、実はチームワークをよくすることなんじゃないかということですね。

僕はどちらかというと、ここにいらっしゃるみなさんと同じように、グループウェアのユーザーなんですよ。僕はサービスを売ったこともほとんどないですし、つくったこともほとんどありません。このグループウェアを使いながら、サイボウズという会社をどうつくっていくか、どうやってチームワークをよくしていくかということにずっと取り組んできたんですね。

そうした世の中の流れがあったのかもしれないんですけれども、みなさんから「もうちょっと話を聞かせてほしい」と言っていただく機会が多くなってきました。こういったことを、ノウハウとしてみなさまに提供するのが大事なのかなと感じたんですね。

そこで今年から、新規事業「メソッド事業」をはじめ、チームワーク総合研究所というチームをつくったうえで、新しいビジネスをスタートしました。

お越しいただいているみなさまのなかで、サイボウズのユーザーの方はどのぐらいいらっしゃいます?

(会場挙手)

半分弱ぐらいですかね、ありがとうございます。それで働き方改革に悩まれているということは、たぶん「サイボウズのグループウェアを入れていない」のが理由だと思います。

和田:(笑)。

山田:もっと使いましょう。

風土つくりは、経営者・人事・IT部門の三位一体で行う

和田:(スライドを指して)もしかしたら、今回のどこかのセミナーで、こちらのスライドを見た方がいらっしゃるかもしれません。サイボウズのほかのメディアなどで、この「制度」「ツール」「風土」という関係性をご存知の方がいらっしゃるかもしれませんね。

山田:そうですね。少し解説させていただきます。会社の制度やツール、制度に関して多くの人が考えるのが、「ツールを入れたら風通しがよくなる」「情報システム部門の方がとにかくがんばる」「人事制度を変えたらチームワークがよくなる」「とにかくみんなのモチベーションを上げよう」「リテンションしよう」といったことです。

しかし、実際は人事部ががんばって制度をつくっても、情報システム部門ががんばってツールを入れても、会社の風土と一致していないと、従業員からはやっぱりそれが透けて見えてしまうわけです。

「公明正大に」と言いながら、かなりクローズドに情報共有していたりすることもありますよね。または「みんなで協力し合ってやろう」と言っているにもかかわらず、トップダウンで物事が決まって、一方的に下りてくるといった運用方法もあったりします。そうしてトップダウンで言われたことを実行した人が偉いみたいな評価制度になっていると、結局は「言っていることが違う!」となって、うまくワークしないんです。

それどころか、みなさんの頭のなかにモヤモヤだけが残って、「うちの会社ってなんなんだろう」「経営者の言っていることがわからない」みたいになっていくことが多いのかなと思います。

だから、風土は大事だなと思います。風土は経営者が中心となってつくっていくんですけれども、経営者、人事、IT部門が三位一体となってつくっていくのが大事かなと、自分たちで取り組みながら感じているところです。

和田:サイボウズのなかでも、いろんな取り決めがあります。私たちがお客さまのところで研修したり、社内のプライベートセミナーなどをやったりするときによくお聞きするのが、「うちの業界は古い体質で」とか「経営層が古いんです」といったことです。結局、働き方というのは、この風土改革のあたりが課題になっているんですね。風土改革の難しさにハードルを感じるお客さまもいらっしゃると思います。

山田:風土を変えるとか、もっと言えば制度を変えるといったことに関して、みなさん自身が権限を持たれているわけでもなかったりするじゃないですか。そういう中で、「働き方改革はこうするんですよ。サイボウズはこうやってきました。どうですか」と言ったところで、「ああ……いい会社ですね」としか言えないような気がするんです。

そうではなく、みなさんがみなさんの立場でなにかができるような風土にしたい。自分で変えることができるということを、今日は少しでも感じて帰っていただけたらなと思いながら、お話をさせていただいています。

風土を変えるには行動を、行動を変えるためには制度が必要に

山田:風土についてなんですが、先ほど言ったように会社にはビジョンがあるものの、そこで「公明正大」とか「多様な個性を重視する」と言っていたのかというと、そうではなかったんですね。全然違う言葉を使っていたんです。

サイボウズはもともとパナソニック出身の青野が創業していることもあって、松下の七精神とまったく同じような「サイボウズの七精神」があって、そういうところから始まっているんですね。例えば「力闘向上」という4文字熟語などがありました。そういったビジョンは変わってきているんですが、僕らは今まで風土を変えようと思って取り組んできたわけじゃないんです。

おかしいなと思ったのは制度でした。「ベンチャー企業なんだから、ガンガン成長していけるように、もっともっとやろうよ」という考え方だったんですね。それで評価して、ついて来られなかったら辞めてもらう。そんな制度があったんですよ。100人の社員がいたとしたら、2パーセントをクビにしてしまう制度だったんです。十何年か前、離職率28パーセントをたたき出した時の制度です。

そんな制度だったこともあって、やっぱりみんながいきいきしていないと感じていました。働いていても、全然楽しくないわけですよ。業績も落ち目になっていきました。そこで、みんなが辞めないためにはどうしたらいいんだろうと思って、制度を変えてきたわけです。

制度を変えていくなかで、「こういう制度っていいな」ということを俯瞰して見てみたら、その制度は「公明正大」「多様な個性を尊重している」といったところに基づいているような気がしました。では、それを言葉にしてみようということで、言葉にしてみる。そうすると、だんだんインプットされていくので、今度はそれをもとに制度をつくっていこうと、こういう循環が生まれてくるんですね。

なにが言いたいかというと、風土をつくるのはそんなに簡単ではないですし、むしろあまり考えないほうがいいと思う、ということです。「御社の風土はなんですか」と聞かれて説明できる人なんて、いないと思うんですよ。

例えば「サイボウズの風土はなんですか」と聞かれて、「理想への共感、多様な個性の尊重、公明正大、自立と議論」と答えたところで、「これはどういうこと?」と聞かれた時に「うーん……」となるんですよね。

青野は、しばしばこう言っているんです。僕にも意味はわかるんですけれど、では僕はどんな行動をしたらいいのか、なにをしてはいけないのかとなると思うんですよ。風土でなにが大事かというと、行動に移すことなんです。みんなにこういう行動をしてほしいと思うから、風土であったり、さきほど大槻も言っていた文化やカルチャーという言葉を使うわけですね。

では、行動してもらうためになにをすればいいのかというと、そこで必要なのが制度なんです。ルールといってもいいかもしれません。

「社員がいきいきと働ける方法」で訴えかける

山田:「うちの会社はこういうことをすると信頼されますよ、こういうことをしなかったら信頼が下がりますよ、だからうちの会社ではこういうツールを入れるんですよ」といった風土があると、メンバーの行動が変わっていくんです。

なにが言いたいかというと、日々、生活したり働いているなかで、みなさんが嫌だなと思うことはだいたい一緒なんですね。この「嫌だな」と思うことをフィードバックしながら自分たちの行動を変えていくと、それが「いいね」に変わっていくんです。だって、みんなが嫌だと思っていることを変えていくわけですから。みんながいいねと感じるようになっていきますよね。そして、「いいね」となってきたものが風土と呼ばれるようになるということです。

繰り返しになりますけれども、「うちの会社は文化がいまいちで、経営者が動かないからこの会社は変えられないんだ」と新橋の飲み屋で愚痴をこぼしていても、会社はなにも変わらないんです。逆に、みなさんがおかしいなと思うこと、かつ同僚がいいなと思うことについて、その同僚と一緒に(それらに向けて)行動していくことで、「いいね」がどんどん増えていく。それが、外から見ると文化や風土に見えるようになるということです。

どんな経営者でも、みんなが「嫌だな」と思いながら働いている会社より、「いいね」と思いながら働いている会社のほうが、いいに決まっているじゃないですか。経営者の人も困っているわけですよね、どう変えていいかがわからないから。なにかを変えたら、「なんで変えるんですか!」と必ず誰かが言う。でもなにもやらなかったら「なんでやらないんですか!」と必ず言われる。

つまり、どう変えていいかわかってないんですよね。でも「こうすることで、みんないきいき働けるんですよ」と言うと、「おお、それいいね。うちのビジョンや行動指針みたいなものに入れとこうか」となるんです。このあたりは、経営者に一筆入れてもらわないといけなくなるかもしれないですが、それを動かすのはみなさん自身です。

みんなの「いいね」が文化となっていく

和田:「これ、いいね」を実現するのがツールの役割になってくるんですよ。例えば、始めやすいところでいうと、「社長がブログ書きます」といったことです。うちも昔はそうでした。

山田:社長自らが「これが大事だ」と書くということですね。書いていくといい言葉がいっぱい出てくるわけですよ。そして、それを見た近くの忖度する人たちが「いいですね!」「やりましょう!」みたいなコメントをする。でも、これが何日も続いていくと、「なんだか書き慣れてるな」とメンバーが感じてくるんですね。すると、逆に寒くなるんですよ。

さっき言ったように「こうしようね」といった(仕事に関する)ことは、日々のみなさんとの会話のなかに表れてくるんです。この会話はなぜ発生するのかですが、「昨日なに食べた?」とか「次はあの店に飲みに行こうか」といった話より、おそらく各会社でのコミュニケーションというのは仕事の話が多いと思うんです。みんな、そんなに暇ではないので。

「あの取引先にこれを提案したらこうなった」「サポートでこんな意見が来て、本当につらかった」「これどんなクレームだった?」「こんな製品つくりたいね」「そんな機能つけるの?」といった、普段の業務で日常的に行われている会話が、すごく大事になってくるんですね。それを見た経営者やマネージャー、担当者などが「いいね」と言ってあげるんです。みんなが「いいね」と言うと、それが今度は文化になっていくんですね。だから、ツールはけっこう重要なんです。

和田:ITだと「いいねを押す」ことのイメージが湧きやすいですけれど、ツールにはリアルオフィスもあるじゃないですか。だから、リアルでも「いいね」をしやすい空気が生まれるような場づくりが、社内の取り組みとして必要なんでしょうか?

山田:いいつっこみをしてくるね。

和田:待ってました?

山田:はい(笑)。僕はどちらかというと、本当にITオンチです。そもそもITがなにかということをよくわかっていません。サイボウズに入ったから、たまたまITを使っているようなものなんです。それまでは、どちらかというとリアルなコミュニケーションがすごく大事だと思っていたんです。サイボウズはいろんなかたちの仕事場や、自由につくれるクラブ活動・イベントなどで、みんなが集まったらサポートするといった、いろんな人たちが集まる出会いの場を積極的につくろうとしているんですね。