2024年度の初任給は前年比で4パーセントアップ

ナレーター:投資に興味のある男女150人に、今一番気になっている経済トピックは何か、アンケート調査を実施! 今回のテーマは「初任給上昇」。

今年の初任給は前年に比べ4パーセントアップ。1991年以来の推移となっています。

藤野英人氏(以下、藤野):ちょっと大胆かもしれませんが、初任給40万円時代が来るかというところを、ぜひ論じてみたいなと思っております。

実は「初任給40万円時代」というのは、もう射程距離に入ってると思っています。初任給30万円という会社もぼちぼち出てきているんです。

初任給は20万円とか21万円ぐらいだったのが、この2年間ぐらいの間で24万円、25万円、26万円という数字も見えるようになってきました。少し勢いのある会社で、より多く人を採用したいと思っている会社は、30万円という数字を打ち上げてきています。

ただ、私はこの流れは始まったばかりだと考えております。まずは、今まで不当に新卒の給料が安過ぎた。これから新卒の給料は、世界的にも、それから過去の日本の歴史の中でも、安く抑えられていたところの反動があるということになります。

じゃあ、なぜ今まで給料上がらなかったのか。まず今、若者の初任給が上がっている大きな理由は人手不足です。新卒社員の人が非常に減ってきているということです。

「女性の社会進出」と「シニアの社会参加」がもたらしたもの

藤野:今になって人手不足の問題が言われるようになったのか? ということですが、要因はいくつかあります。一番大きいのは「女性の社会進出」と「シニアの社会参加」です。

30年ぐらい前、女の人は結婚すると寿退社という言葉があったんですね。今の20代の人が寿退社という言葉を聞いても、知らない人が多いです。寿退社というのは、結婚したら辞めて、それで専業主婦としてずっと生きるということを選択した人が多かった。

今はもうそんな時代ではありません。寿退社という言葉もなくなった。結婚しても別に普通に働きますし、それから出産しても育児休暇を取ってから復活してくることが多くなった。女性の社会参加が進んだことによって、少子化(人手不足)の部分を女性の社会参加でずっと食い止めてきたんです。

あと、もう1つ。30年ぐらい前は55歳定年が多くて、55歳でほとんどの人が仕事を辞めました。その後は悠々自適と言われている、のんびりと人生を楽しむということで、縁側でお茶を飲みながら将棋を指したり、盆栽を育てたりしながら残りの人生を過ごすのが、多くのシニアの人の生き方だったんです。

でも、今は縁側もなくなってきたし、それから縁台将棋みたいなものもあんまり見なくなってきたし、そもそも55歳定年から60歳、60歳から65歳、今は定年延長で70歳が当たり前になってきた。このシニアの人たちが働くことによって、労働力不足を補ってきたところがあります。

ところが、それがもう行き着いたんですね。女性の社会参加はちょっぴり進んでるんだけど、もうほぼ頭打ち。シニアの社会参加もほぼ頭打ちになりました。なので、これからは子どもが減った部分だけ労働力不足になります。

月給20数万円で家庭を作ることは「とても無理」

藤野:もう1つあるのは、外国人の社会参加。外国人が日本に入ってきて働くというのは、これから出てくると思います。この間(動画公開は2024年7月27日)、岸田内閣は「移民は入れません」と言いました。言いましたが、実際にはけっこう入れてるんです。規制緩和して、ばんばん移民が入ってきています。

これは本当はちゃんと議論しなきゃいけないと思うんだけれども、口では「移民を入れない」と言いながら、実質緩和して移民をけっこう入れてるんですよ。なので、これで(人員を)多少補ってるところもあるんですが、少し焼け石に水のところがあって。

今は若い人が足りなくなって、若い人が足りないからどうするかというと、給料で補うしかない。なるべく払えるところは給料を払っていくことによって、なんとかしようというふうにしています。

結果的に賃上げ。2024年春闘においても、賃上げ3パーセント以上の定昇も含めて、5パーセント以上の賃上げをするんだと。実際に入社の初任給も4パーセント以上上昇するんだというところです。でも、まだぜんぜん足りないです。

実際に(月給)20数万円で結婚して子どもを作れるのかというと、物価の上昇とかを考えるととても無理ですよね。そうすると、恐らく40万円ぐらいあったら安心して結婚して子どもを産むということ(選択肢)も出てくると思います。

若い世代が結婚しないリアルな理由

藤野:今(若い世代が)結婚しないのは、「草食化した」「異性に興味はない」とかはぜんぜん嘘で、単純に「生活するには給料が安過ぎる」というところが大きいですね。

初任給40万円時代になったら必ず出てくるのは、「そんなに若い人にお金を払ったら、もう企業はやってけないよ」という話なんです。すみません、そういう企業はもう淘汰されたほうがいいんです。血も涙もないのかって話ですが、違うんです。

大事なことは、経営者には厳しいかもしれないけれども、倒産というのは実際に働いている社員にとっては悪いことじゃないんです。

なんでかというと、より高い付加価値のサービスをして、値上げができて、それで良いサービスでたくさん給料を払ってるところが生き残り、そうでない会社はダメになるということですから。そうすると、ダメになると経営者はなかなか苦しいんだけれども、経営者以外の社員は働く場所があるから、全体で言うとハッピーになれるんですね。

これを聞いている経営者の方もいると思うんですが、「なんてことを言うんだ」と思われる前に、自分たちも給料を上げて、ちゃんとお客さまに良いサービスをして値上げをして、みんなでハッピーになるようにするんだというふうに発奮すべきだと思います。

僕に文句を言おうが何をしようが、論理的に言うと、給料を上げないともう難しい状態になっている時にみなさんのライバルがやってきますからね。給料を上げて、良い値上げをして、良い商品を作って、お客さまに満足してもらって、給料をちゃんと払うということをしてくれる会社が生き残ることになると思います。

これから比較的早い段階で「初任給40万円時代」が来ると思いますし、また、それを見据えて行動されたらいいんじゃないかなと思いますね。