一般社団法人プロティアン・キャリア協会が主催したプロティアン・フォーラム2024。本セッションでは、「人的資本経営時代のこれからの人事とは?」と題して、ソニーグループ株式会社・安部執行役専務室付組織開発アドバイザーの望月賢一氏、トイトイ合同会社代表の永島寛之氏、一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/4designs株式会社 代表取締役CEOの有山徹氏が登壇。本記事では、「退職=裏切り者」という風潮が昔からまったくないという、ソニーで受け継がれるカルチャーについて語ります。
前回の記事は
こちら ソニーはアルムナイが必要ない理由
有山徹氏(以下、有山):そうですね。先ほども少しあったアルムナイのところで言うと、永島さんはコミュニティのつながりといいますか、社会関係資本はどういう認識を持たれているのかをお聞きしたいんですけど。
永島寛之氏(以下、永島):そうですね。だから、カムバック採用とかって僕は逆だなと思っているんですよ。もう1回雇用関係を戻そうっていうのは、今こういう社会関係資本を意識したアルムナイと逆行……まぁ、たまたま戻るっていうのはいいんですけどね。
つまり雇用契約を切った人との関係性をどう引くかって場がアルムナイだと思う。もう退職率10パーセントの会社であれば、10年経てば自社と同じくらいのボリュームのものが出来上がってくるので。
そこと線を引くのがアルムナイであって、これを活用していくことは、もうすごく身近な労働資本なんじゃないかなって、最近は思います。
有山:なるほど。望月さん、ソニーはアルムナイのところの取り組みは何かされていますか?
望月賢一氏(以下、望月):ソニーは何もやっていないんですよ。
有山:というより、永島さんも元ソニーのアルムナイですよね。
永島:ソニーはアルムナイが必要ないんですよ。いくつかあるんですけど、アルムナイがなくても、この前、望月さんがおっしゃったように、普通に関係性を持って働いているし、普通に戻ってくる人もいる。アルムナイであるかどうかよりは、アルムナイはその関係性を補助する役割だと思う。
望月:そうですね。だから、元職場と普通にコミュニケーションするし、飲み会に行ったら「なんだお前、今日来ていたの?」ということが起きる。なんだったら、一度他社に行った人が「もう1回働くことになりました」と来ていたケースも実際ありましたので。
有山:だからソニーでは昔から、退職イコール裏切り者とかの文化はまったくなかったと。
望月:ないですね。さすがに、会社だって懲戒処分した人をもう1回(雇う)ことはないですけど(笑)。一番わかりやすく言うと、いわゆる円満退社だった人とは、個人との関係、まさに社会関係資本でつながっていると。ひょんなことでご縁があると、「実は、今度うちの部署でお世話になることになりまして」なんていうのが、私が若い時からありましたね。
“情報漏洩になるライン”がわからないから、SNSをやらない
有山:やはりソニーの脈々と受け継がれたカルチャーみたいなところが強いんだなと。アルムナイの話もありますけど、もう1個、プロティアン・キャリアの「社会関係資本を伸ばす」というところで言うと、やはりSNSも、個人からするとキーワードとしてあるかなと思っています。
今の時代だと、会社さんによっては禁止されているところもけっこう多いのかなと思うんですけども。そのあたりは、人事としてどう捉えるのがいいか、ぜひお二人のご意見を聞きたいなと思っています。永島さん、いかがでしょうか?
永島:組織と個人がフェアな関係性は、「個人の責任で」となるんですけど、やはりいろいろ問題も起きるので。最近はそういう会社が増えてきましたけど、なかなか難しいことは難しいんだろうなと思います。でもフェアな関係を築いていれば、お互いの責任でやれるかなと思いますけどね。本当に名前も出しちゃいけないとか、厳しいところは厳しいですよね。
有山:会社名は出しちゃ駄目だけど、別に個人としてやるんだったらOKみたいなところは多いんですかね。
永島:線引きが難しいんですよね。「これが情報漏洩になるのかならないのか」って面倒くさいから、みんな何も出さない。
望月:発信しなくなりますよね。
永島:そうそう(笑)。もったいないですよね。もっとやれるようになればいいんでしょうけど、会社によっては難しいところがあるかなと思います。
社員が発信するメリットとリスクを議論する必要性
有山:望月さんはいかがですか?
望月:ただ、LinkedInとかFacebookとか、ああいう一定の社外のSNSは、まさに個人が自分の社会関係資本を築くことができる、会社の中ではない人脈とか知的刺激を受けることができるコミュニティと出会うためには、個人はSNS等を利用したほうがいいんだろうなと思います。
自分の人脈とかを企業の中に閉じないネットワークに広げていって、異なる知見を手にする機会に恵まれるとかは、絶対にある。個人の立場で言うと、社会関係資本の1つを手に入れるためには、SNSは利用の仕方によってはすごく武器になるんじゃないかなと思います。
有山:そうですよね。先ほど「社内では、つながりを増やすようなことをやっていくのも(人事の)役割になっていく」という話もありつつ。「SNSはちょっと待ってね」というところが実態としてあるかなと思うんです。人事の役割としては、そこがなかなか難しいところですよね。
望月:SNSの発信を禁ずるのは、さっき永島さんもおっしゃっていた機密保持みたいなところに引っかかってくることに、すごくセンシティブな会社。会社の仕事に関しての発信は許さないっていうのは、けっこうあると思うんですよ。
だけど、個人が自分の経験、知見で会社の機密に触れない範囲で自分のネットワークを広げるためにSNSを利用するのは、あると思うんですよね。だから、SNSにどう利用価値があるのか、個人から見た場合と会社から見た場合のリスク&ベネフィットみたいなものは、これからもっと議論をしてちゃんと深めていかなきゃいけないのかなと思います。
人事の中だけで閉じていたら、良い成果は生めない
有山:ありがとうございます。なるほどですね。望月さん、永島さん、気になったところはございますか?
望月:僕は途中でコメントも書いたんですが、経営企画と広報と人事のコメントがあって、「あぁ、本当そのとおり」と思っています。まさに経営戦略と連動だったら経営企画ですし。それを組織に浸透させるといったら、やはり広報の、特にインターナルコミュニケーションとかコーポレートコミュニケーションの人たちとちゃんとアラインさせていかなきゃいけないと思う。
なので、人事の中だけで閉じていたら、たぶん良い成果を生めないよなって思ったりしました。
有山:なるほど、ありがとうございます。永島さんは何か気になったコメントなどはありましたか?
永島:やはりこのへんは持論を持たれている方の参加者が多いんだなと思って(笑)。このメンバーで、みんなで何かやったらすごくいいなって思った次第です。こんなにコメントを読んじゃうのは初めてです。
有山:これを機に何か仕掛けることをやりたいですね。
永島:同じ答えがあまりないので、やはり人的資本経営っていうのは企業の枠を取っ払う考え方だと思うんですよね。だから、会社によってやり方は柔軟に変わってくるっていう、良い方法なんだなって思いました。
必要以上に社員を囲い込まない
有山:ありがとうございます。あっという間なんですが、最後、クロージングメッセージということで。今回、「個人または組織の成長に向けて、どんな社会にしていきたいですか?」といった共通の質問をお二方に投げかけさせていただいて終わりたいと思います。
では、望月さん、いかがでしょうか?
望月:やはりキャリアとかいろいろ言われている時代であればこそ、やはり主体的に取り組んでいる人たちが機会に恵まれていくような社会の仕組みとか、そういうふうに社会が変わっていくべきだろうと思っているし、そうしていきたいなと思います。
それで結果的に活き活き働く人が増えれば、組織のアウトカムとして業績にも絶対つながっていくと思うので、主体的に取り組む人たちがどんどん恵まれていくようにしていきたいなと思います。
有山:ありがとうございます。では、永島さん、いかがでしょうか?
永島:そうですね。そのとおりだなと思います。やはり個人のスキルとか知識、経験、それが今の会社に役立つことだけを考えてアクセスしていくと、拒否されてくる時代ですよね。やはり個人は、自分のスキル、経験を最大化していくところが(組織への貢献と)重なっていくのが大事になってきますし。
やはり会社が必要以上に(社員を)囲い込んで越境させないとか退職させないとかではなくて、人と人の集団で、スキルとか知識の総量を上げていく。そんなことを意識していくといいんだなって思って、私もアルムナイの研究なんかも進めていきたいと思っています。またいろんなお話ができればと思っています。
有山:今回、2つの大きなテーマということで、これからの人事と、昨今、アルムナイや、コミュニティ、社会関係資本というところのつながりが注目を浴びているといったところで、ディスカッションさせていただきました。お二人の顧問、ありがとうございました。