お客さんからこんなサインが出たら深掘りのチャンス

高橋浩一氏:やはり深掘りは大事だということになるんですが、「どういう時に深掘りをしたらいいのか?」ということで、5つのポイントを挙げたいと思います。

お客さまがビジョンや目標を非常に強調してくる時があります。お客さんは何かを言いたいわけですよね。これはぜひ耳を傾けましょう。さらに、繰り返し出てくる発言があるということは、そこに感情が含まれている場合が多いです。

そして、理想と現状のギャップ。「本当はこういうふうになってほしいのに、意図せずしてこうなっちゃっているんですよ」と。これもしっかり聞いておきたいところです。

そして、周囲と本人のギャップということで、わかってもらえていないことへの不満とか、な「上司がわかってくれないんですよ」とか、あるいは部署と部署との対立構造なんかもあります。よく出てくる構造には、本当にドはまりしていることがあったりする。こういうことも、ちゃんと深掘りをしておきましょうということです。

深掘りをする時にどんな塩梅で深掘りをしたらいいのか? というのがあります。私がよく申し上げるのは、「思い込みを深掘りして気づきを促す」ということです。

説得を焦らないことがポイント

例えばお客さまが、こちらの提案に対して言動として「いい商品、いいサービスだとは思うんですが、使いこなせるかどうか不安です」ということをおっしゃったとします。これは営業の場面だとよくありますよね。

「お客さま、大丈夫です」と、つい反論したくなります。説得したくなります。しかしそこをぐっと抑えて、「もう少し詳しく聞かせていただけますか?」と深掘りするわけですね。そうすると、言動の裏にある解釈や価値観の話にいきます。

「いや、実は当社の社員はそれほどレベルが高くないんです」と。これも聞いた時に、「いえいえ、お客さまご安心ください。当社はリテラシーに不安があるお客さまも安心してお使いいただけます」と言いたくなります。ただし、言いたくなるんですが、もう少し深掘りしてみます。

「なぜそういうふうにおっしゃるんですか?」と聞いてみると、「いや、実はですね……」と、ちょっと意外な過去の事実が出てきたりするわけです。そこで具体的に「どういうことが起こったんでしょうか?」と聞いてみると、いろんな背景が見えてくる。

ここがポイントなんですが、これって過去の話じゃないですか。今提示したサービスに対しておっしゃっている話じゃないですか。今の話と過去の話をごちゃっとしている可能性がありますよね。

なので、「なぜ過去にそういうことがあったからといって、そんなふうに思われるんですか?」というふうに、ちょっと突っ込んで聞くわけです。すると、「いや、実はよくよく考えてみると社員のレベルという話よりは、過去に導入した時のやり方がよろしくなかったかもしれない」と。

そうなったら、「ここで意外かもしれませんが」というふうに新しい事実を提示する。この段階に来て初めて、ちゃんとお客さまに対して新しい情報を提示する。言わばここが説得していく時の論拠になったりするわけなんですが、ここでのポイントは説得を焦らないことですね。ちゃんと深掘りをしてから、新しい情報を提示をするということです。

ディスカッション内容を整理する際に満たすべき点

深掘りの話をしてまいりました。双方向な場作りをして、イントロで投げ込みをして、そして投げ込みをしたものに対するリアクションを深掘りする。これをちゃんとやっていくと、だいたいお客さまがしっかりとお話しくださる。次につながっていくということが起こります。

でも、この熱を絶やさない、推進を止めないフォローが大事なんですよね。最後にディスカッションを締めくくる際に、ちゃんとポイントを整理しておきましょう。

キーワードを整理する。それについての抜け漏れがないかどうかを確かめる。そして、それぞれのキーワードについて曖昧な点があったら確認をしておく。それぞれのキーワードの優先順位を明確にしておく。これが、いわゆる要件整理というやつですよね。それを議事録でまとめてフォローしていくということです。

メールにつけていただいてもかまいませんが、ファイルでつけていただいてもいいでしょう。しっかりと議事録をつけて、ちゃんと深掘りしてくれてメモもあると、「あぁ、わかってくれているな」と、お客さまにとっても非常に議論の解像度が上がりますから。

相手の感情カーブで言うと、しっかりとしたまとめがあると大いにプラスになるわけですよね。さらに、ここに対して次のステップがあると前進します。

決裁者以外へ送る資料は「表紙をつけない」ことを推奨

こういったことをしていく上で、例えばオンライン商談だったら画面共有を使って共同編集作業をすることも有効です。どういうことかというと、いわゆるプレゼンモードではなくて、編集モードで書き込みをしていくということです。

似たようなスライドが3枚続いているのがお見えになりますかね。こんな感じで、例えばAさんのおっしゃった意見についてこんなふうに深掘りをしてみる。そしてBさんのおっしゃった意見についてこうやって深掘りしてみる。

こういう感じで、人それぞれのおっしゃる話に沿ってある程度深掘りをすると、ファイルがどんどんぐちゃぐちゃになっていきますね。でも、このぐちゃぐちゃがいいということです。

さらに、この資料に表紙をあえてつけないで送る。私は、決裁者以外へ送る資料については表紙をつけないことを推奨しているんです。なぜかというと、「まだこれは途中段階なんです。だからぜひご意見をください。リアクションください」というふうにサインをわかりやすく示すためです。

表紙がついていると、お客さまはついついジャッジするモードになりがちなんですが、ディスカッション営業は、お客さまにいかに入ってきてもらうか、お客さまからいかにリアクションをいただくかが非常に重要なわけです。そこを考えていくにあたり、表紙をつけないことも1つの手段ではないかということです。

さて、ここまでをまとめてみたいと思います。ディスカッション戦略の進め方におけるポイントは、双方向な場作り。イントロでの投げ込み。問いかけと傾聴による深掘り。そして、推進を止めないフォローからなるということです。

ディスカッション戦略の実施サンプル

いろいろとお話をしてまいりました。最後にディスカッション戦略の実施サンプルということで、当社が実際に使っているケースをここで映させていただきたいと思います。

まずは枠組みとして、これはある程度ワークシート化しています。例えば「御社の経営、事業レベルの社内方針ってどうなっていますか?」「その中で、個人的な重要ミッションって何ですか?」というふうに聞くわけですね。

そうすると、例えば当社の場合は「営業を強化したい」という企業さまとディスカッションすることが多いですから、「『モノ売り営業』を脱却して、高付加価値ソリューション営業にスタイルを転換していきたいです」という会社の方針が出ています。

「では、○○さまは、そこに対して個人的なミッションとしてはどんなものをお持ちなんでしょうか?」「提案営業の型を作って浸透させるのが私のミッションです」。なるほど、と。それに対して、「これまでどんなことに取り組まれてきたんですか?」と聞くと、取り組まれてきたアクションが出てくるわけですよね。

それに対して「なるほど。社内ヒアリングされたり、ロープレをしてこられたんですね。それに対する感触としてはどうなんでしょうか? うまくいっているのか、うまくいっていないのか、そのへんの感触をお聞かせください」というふうにすると、「うまくいっていることもあればうまくいっていないこともある」と。

じゃあ、そこに対して「理想どおりに進まない原因って何なんでしょうか?」と聞く。社内の合意が固まらなかったり、現場から「忙しい」と言われてしまうという課題が出てくるわけです。

議論をより深めるための「投げかけ」

でも、本当にその議論をいいものにしていこうとすると、出てくる原因に対して「本当のボトルネックは何なのか?」を探っていくことが必要になってくるわけですよね。

ですので、「本当のボトルネックって何なんですか?」と聞いていくと、「いや、実はですね……」ということで、「実は」な話が出てくるわけです。そこに対してこんな投げかけをしていきます。

「○○さまが、なかなかできていないけどやりたいなと思っていることは何なんですか?」と聞くと、ここに潜在的な願望が出てくるわけです。これはある意味で言うと、理想へのヒントなわけですよね。

ここまで聞いた上で、「もし理想どおりに進まない原因が解消されなかったら、このままいってしまったらどのぐらいで着地するような感じでしょうか?」「いや、これだとちょっと目標に届かないですね。達成率90パーセントぐらいで終わってしまうかもしれません」「もしこれがちゃんとうまくいったら、理想のシナリオってどんな感じでしょうか? いや、これだったら目標達成できるんじゃないでしょうか?」と。

こんなふうに全体を整理できると、お客さまの認識に対してあるべき姿と現状のギャップを見える化することができます。

さらにそこに対して、シナリオAはこのままよろしくない点が改善されなかったらどんなふうになるのか。そしてBは、理想どおりだったらどうなるのか。こんなふうに置いていきますと、見積もり提示から受注まで、受注目標が5億円だとすると、これだったら5億円の目標がクリアできるわけですよね。

受注率を上げるというのは、見積もり提示の額が変わらないとしても、受注率が上がれば目標が達成できる。そうなるためには受注率を上げる必要があります。

枠組みをきれいに完成させるよりも「共に議論するプロセス」が重要

さぁ、どうしたらいいか。受注率を上げるだけではなくて、見積もり提示の見込みや読みが積み上がる行動量を増やすアプローチもありますので、ここで量を増やすためのアクションの候補や、質を上げるためのアクションの候補を一緒に話をしていくことになります。

ここまでお話をすると、「ぜひこれをやっていきたいんです」という話になったりするわけなんですが、今お見せをしている例は細かいほうだと思います。これは、当社の中でも私の趣味がけっこう入っている。お客さまの課題について、緻密にしっかりと解決したいと思ってしまうので、ついついこんな感じで考えてしまうんですが。

みなさんには、「このままやってください」と申し上げたいということではなくて、あくまでもこれは1つのサンプルですので、もう少し簡略化して運用されるのがよろしいかなと思います。

ただ、ここに対してよくいただく質問がありますのでお答えしていきたいと思います。「これ、お客さまにお見せするんですか?」と(よく聞かれますが)、基本は内部用です。だから、手元に持っておく感じですよね。

というのは、お客さまによっては、こういうのが見えていたほうが話しやすいお客さまもいらっしゃいますし、逆にないほうが好みのお客さまもいらっしゃいますから、このへんはお客さま次第です。

当然ながら、これは1回の打ち合わせではまとまりません。2回から4回ぐらいのイメージです。聞いても埋まらない箇所は当然あります。その時には、「妄想と仮説で書いてみました」と提示して意見をいただくのがおすすめです。

「定量的に考えるところが特に難しそうです」と。特にお客さまの潜在課題を洗い出していくところだと、すべてを数字で明らかにするのはやはり難しいこともあると思いますが、一部でも定量化できると非常にパワフルですよね。

そして、「お客さまにいろいろと示せるほどの引き出しがありません」ということなんですが、この枠組みをきれいに完成させるよりも、共に議論するプロセスが重要であるということなんです。きれいにやるよりは、共に議論することが非常に重要です。

営業担当者が抱える典型的な悩み

その上で、先ほどのポイントに少し補足をしていきたいと思います。1枚目のシートについては現状を丁寧に切り分けて、こっち側は組織の方針、こっち側は個人のミッションで分けていますよね。そして、事実と意見。こっち側が事実であり、こっち側が意見ということです。

このへんがけっこうごちゃっとなっているケースがあるんですよね。ですので、まずは現状を丁寧に切り分けましょう。

そして、課題を深掘りした上で要望とつなげるんですが、よく営業の方から典型的な悩みとして聞くのが、「お客さまの真の課題を捉えるのが難しい」。真の課題を捉えるのは当然難しいですが、課題を深掘りした上で要望とつなげることができると、お客さまとの間で、一見すると難しいような真の課題を捉えやすくなります。

「このままいったら未来はどうなるか?」と「理想」のギャップを言語化するとあるんですが、例えばAはざっくり言うと、当社がご支援せずにこのまま成り行きでいった場合。Bは、もし当社がご支援させていただくとした時に目指す未来になります。

当然、お客さまとしては投資対効果がありますから、AとかBがしっかり見えていたほうが投資対効果を説明しやすいですよね。

完璧主義に陥らないことも大切

そして2枚目のシートについてなんですが、「このままいったら未来はどうなるか?」というものと、「理想」とのギャップを要素分解する。やはり投資対効果を議論するにあたっては、「これはどこに効いてくるんだろうか?」という論点が当然あります。質と量の両面を見た上で、アクションを網羅的に洗い出していく。

このように、ディスカッションの論点についてある程度押さえたシートが、ここで例示したものになります。繰り返しになりますが、これを本当にそのまま運用するのはかなり難易度が高いので、お伝えしたい点は、完璧主義に陥らない。

これをそのままやろうとすると、当然ながらいろいろ難しいと思います。ですので、使えるところだけ自社なりにアレンジして使っていただくことを強く推奨する次第でございます。

ということで、本日の内容をお話ししてまいりました。「『どうしてもあなたから買いたい』と言われる営業になるには?」。今日の話をしていたトピックは、商品紹介やプレゼンという概念が出てきません。「共に創るディスカッション」をするということに終始します。

そもそも、お客さまと共創する「共に創るディスカッション戦略」というのは、本格的に案件化する前の段階でリスクを抑えて、ディスカッションに持ち込むこと。お客さまと一緒に議論を深めてアイデアを練っていくことで、価格競争に陥らず、スムーズな受注を狙う。これがディスカッション戦略です。

そのためには、双方向な場作り、イントロでの投げ込み、問いかけと傾聴による深掘り。そして、推進を止めないフォローが大事であるということです。そもそもお客さまに入ってきていただくことが必要なんですよね。ジャッジする、ジャッジされるという関係ではなくて、「共に創る」という関係です。

そのためにはということで、サンプルをご提示しました。完璧主義に陥らず、使えるところだけ自社なりにアレンジして使うことを推奨したいと思います。