今日のトップページが気になるメディア

砂流恵介氏(以下、砂流):今のが、媒体の説明です。ここから本題に入っていきたいんですが、今日、(参加者に)事業者の方も多かったのでホッとしています。タイトルにもなっているブランドについて、さっそくお話をうかがいたいと思うんです。

さっきのメディアの話で、2つの方向というか、僕が青木さんに聞きたかった部分では、メディア側、事業者側、僕はどっちにもいたことがあるんですけども、メディアとしては、パターンが何個かあると思うんですね。

さっき紹介したEngadgetは、僕、勝手に「『北欧、暮らしの道具店』さんと似てるな」と思うんですけど。似てると思う理由は、Engadgetというメディアは歴史がインターネット上ではそこそこ長いほうなんですけど、ユーザーが「Engadgetは今日、どんなニュースを上げてるんだろうな?」とトップページを見にくるメディアだと僕は思っているからです。

もちろんSNS流入とか、ニュース記事も速報として入ってくることも多いんですけど、ただほかのメディアよりトップページを「今日、何のニュースをEngadgetはあげてるんだろう?」と見ることが多いメディアなんですよ。

Engadgetとよくイベントやってるんです。毎年1回ぐらい、文化祭やったり。ハッカソンとか。

カリスマ性で物が飛ぶように売れる時代を経て

そういう関係性ですごく読者と近いのかなと思うのと、事業者側から見た時に「どうやってファンを作ろう?」という話だったり。音楽では、たまたま今、僕がお手伝いさせてもらっているので、考えることが増えてると思うのは、昔、浜崎あゆみさんとかジュディマリ(JUDY AND MARY)もですけど、カリスマ性でワーと売れてたじゃないですか。

今じゃ考えられないですけど、JUDY AND MARYの『THE POWER SOURCE』というアルバムは200万枚以上売れてるんですよ。『そばかす』も100万枚以上売れてます。

今、握手会なしでそれを達成するのは難しいじゃないですか。あゆ(浜崎あゆみ)とかもそうですけど、それでいうと昔はある程度はカリスマで引っ張ってたと思うんです。あとテレビの力も、もちろんあると思います。

今はどっちかというと、自分がこのバンドがどう好きかとか、その曲がどう好きかというのを僕がお話して「じゃあ、聴いてみよう」とか、関係性が近い感じで広がっていくことが多いかなと思うんです。

そこの部分と御社が、両方、事業者側から見てもメディア側から見ても、コミュニケーションにすごいヒントがあるんじゃないかなと思う。どういうブランディングをされてるのか、というお話を。

“ブランドがある”とはどんな状態か

すみません、前段階がめっちゃ長くて申し訳なかったです。いろんなかたちがあると思うんですけど、御社内でもブランドの定義をまず明確にしとかないと、話が混乱しそうなので、ここから教えていただいてもよいですか?

青木耕平氏(以下、青木):そうしたら、ブランドがあるという状態と、ブランドがないとは言わないですけども、希薄だという状態がどう違うのかという話と。製造業、あるいはサービス業と、ブランドビジネスがどう違うと僕らが思っているのか。

これはあくまで一般論ではなくて、我々はどういうふうに捉えているかということで聞いていただければと思います。まずブランドがある状態というのは、どういう状態かというと、まさにいまJUDY AND MARYさんという話が出てきました。JUDY AND MARYというバンドにブランド価値を持ってるユーザーは、まだ聴いたことのない新譜を買いたいという気持ちがあると思うんです。

つまりその商品をまだ手にしてない、聴いていない、どんな物かもわからないけどほしいと思う気持ちが先に生まれている。これはたぶん、ブランドがある状態なんじゃないかと思います。

僕らでいうと注文いただいた時に、そこの注文情報のなかにメッセージ書くところがあって、そのなかに「何年も前から買いたいと思っていました」というコメントをいただいて、注文いただくことがよくあります。これはいくつかのことを意味していて、ひとつは初めて僕らと会ってから数年間は買うことなく付き合ってくれていた。

砂流:すごいですね。

ほしい物より「買いたい気持ち」が先行

青木:もうひとつは、買いたい物がたぶんなかったんですね。買いたい物がないのに、先に買いたいという購買動機が生まれてた。複雑な話なんで、うまく説明できてるかわからないんですが。普通はここに本があって「この本素敵だな。ほしいな」と思って買いたいという気持ちが発生するわけですが、おそらくこのB&Bさん(イベント会場)だと「なにかB&Bに買いに行きたいな」という気持ちが生まれるんですね。

これがたぶん本屋さんにブランド価値が生まれてる状態。普通の本屋さんに行ったら、たぶん本棚を見てほしいなと思う本があったら買いたいなと思う気持ちが生まれる。これはだいたいサービス業ないしは小売店、製造業といわれる、一般的なビジネスの状態だと思うんです。

要はまだ何もプロダクトなりサービスなりが提供されてない状態であるにも関わらず、すでにそのブランド名ないしは屋号とかそういったロゴマークを見た時に想起されるイメージに購買意欲が沸いてしまう状態ができてるということが、おそらくそのブランド価値が持ててる状態と我々は理解しています。

先ほどブランドビジネスと申し上げました。例えば製造業とか小売業とかサービス業の違いを説明する時に、よくトヨタとレクサスの違いというのを言っていて。トヨタとレクサス、ご存知の通りひとつの経営の母体になるわけですけども、会社を分けて経営を分けてる。この理由は、おそらくトヨタは製造業の会社なんですけども、レクサスはブランドビジネスの会社だと思うんですね。

製造業の会社は、例えばそれがどういうスペックの車をどれくらいのコストパフォーマンスで提供するかによって選ばれたり。あるいは、VIPカスタマーを育てたりしてると思うんですけども、ブランドビジネスの会社というのはそのブランド名とかロゴマークに触れた時に想起するイメージ。このイメージで、物を買いたいという気持ちが起こることをやっている。

だから、トヨタの商品はもちろん車なんですけども、実はレクサスの真の商品はレクサスという言葉とかロゴを見た時に思い起こすイメージが真のプロダクトなんだと思うんです。なので僕はそのいわゆる一般的なブランドとは、僕らの思うブランドビジネスと、そうでないものの境目ということなのではないのかなと。

例えばヴィトン(Louis Vuitton)というブランドがある時に、「ヴィトンのこのバッグがほしい」と思って行く人もいると思うんですが、「ヴィトンのなにかがほしい」とか、そういう人たちもたくさんいらっしゃる。

砂流:初めて買う方とか、ほとんどそうですよね。

「仲間になりたい」存在かどうか

青木:そうですよね。これは普通の小売業とか製造業ではなかなか起こりえない状況ですね。なので、それが起こってるかどうかでブランドが築けているのか、そうでないのか。あるいは、ブランドが築けてるかどうかというのは、一般化することはできないですね。

この人に対してはブランドが築けてるけど、あの人に対しては築けていないってことがあって。自分たちが対象とするお客様に対して、どのくらいそういったことが築けてるかということが重要になってくるんだと思うんです。

なので、我々が言っているブランドビジネスということは、要は商品のスペックやコストパフォーマンスを高めていくことで選ばれようとすることではなくて、その「北欧、暮らしの道具店」というロゴとか名前を聞いた時に思い浮かべるその「仲間になりたいな」と思うようなイメージですね。それを作っている。

砂流:仲間になりたいか、どうか。

青木:ブランドとそういう仲間になりたいという気持ちの表れだと思うんですよね。「こういうハイブランドの物を持てる人に見られたい」という気持ちだったり、自分がそういう物を持ってることで自分を評価したりする気持ちだったり。

たぶん提示してるイメージに自分を同一化したいという気持ちが購買行動というもので、我々としても「北欧、暮らしの道具店」という名前を聞いたりロゴを見たりした時に、無意識に思い浮かぶあるイメージが我々の対象顧客にとって「仲間になりたいな」という気持ちになってくれるようなイメージをつくることが我々の真の仕事だと思います。

砂流:僕、あとで聞こうと思っていた「(「北欧暮らしの道具店」は)何を売っているんですか?」は、そういう部分のことですよね?

青木:何を売っているというか、我々の主要な仕事は何かということで、やはりその「仲間になりたいな」と思ってもらうということを、どこまで深めていけるか、広げていってもらえるかということになります。