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「北欧、暮らしの道具店」に聞く、ファンに愛されるブランドのつくりかた(全7記事)

「仲間になりたい」存在かどうか–クラシコム青木代表が考えるブランドの定義

5月9日、下北沢B&Bにて開催された「 『北欧、暮らしの道具店』に聞く、ファンに愛されるブランドのつくりかた」。ユーザーの約7割が毎日サイトを訪れるという『北欧、暮らしの道具店』は、どうしてこれほどまでに愛される存在となったのか。同サイトを運営するクラシコム代表の青木耕平氏の思想に、砂流恵介氏が迫ります。本パートでは、青木氏が考えるブランドの定義、サイトの世界観を統一する方法について語られました。

今日のトップページが気になるメディア

砂流恵介氏(以下、砂流):今のが、媒体の説明です。ここから本題に入っていきたいんですが、今日、(参加者に)事業者の方も多かったのでホッとしています。タイトルにもなっているブランドについて、さっそくお話をうかがいたいと思うんです。

さっきのメディアの話で、2つの方向というか、僕が青木さんに聞きたかった部分では、メディア側、事業者側、僕はどっちにもいたことがあるんですけども、メディアとしては、パターンが何個かあると思うんですね。

さっき紹介したEngadgetは、僕、勝手に「『北欧、暮らしの道具店』さんと似てるな」と思うんですけど。似てると思う理由は、Engadgetというメディアは歴史がインターネット上ではそこそこ長いほうなんですけど、ユーザーが「Engadgetは今日、どんなニュースを上げてるんだろうな?」とトップページを見にくるメディアだと僕は思っているからです。

もちろんSNS流入とか、ニュース記事も速報として入ってくることも多いんですけど、ただほかのメディアよりトップページを「今日、何のニュースをEngadgetはあげてるんだろう?」と見ることが多いメディアなんですよ。

Engadgetとよくイベントやってるんです。毎年1回ぐらい、文化祭やったり。ハッカソンとか。

カリスマ性で物が飛ぶように売れる時代を経て

そういう関係性ですごく読者と近いのかなと思うのと、事業者側から見た時に「どうやってファンを作ろう?」という話だったり。音楽では、たまたま今、僕がお手伝いさせてもらっているので、考えることが増えてると思うのは、昔、浜崎あゆみさんとかジュディマリ(JUDY AND MARY)もですけど、カリスマ性でワーと売れてたじゃないですか。

今じゃ考えられないですけど、JUDY AND MARYの『THE POWER SOURCE』というアルバムは200万枚以上売れてるんですよ。『そばかす』も100万枚以上売れてます。

今、握手会なしでそれを達成するのは難しいじゃないですか。あゆ(浜崎あゆみ)とかもそうですけど、それでいうと昔はある程度はカリスマで引っ張ってたと思うんです。あとテレビの力も、もちろんあると思います。

今はどっちかというと、自分がこのバンドがどう好きかとか、その曲がどう好きかというのを僕がお話して「じゃあ、聴いてみよう」とか、関係性が近い感じで広がっていくことが多いかなと思うんです。

そこの部分と御社が、両方、事業者側から見てもメディア側から見ても、コミュニケーションにすごいヒントがあるんじゃないかなと思う。どういうブランディングをされてるのか、というお話を。

“ブランドがある”とはどんな状態か

すみません、前段階がめっちゃ長くて申し訳なかったです。いろんなかたちがあると思うんですけど、御社内でもブランドの定義をまず明確にしとかないと、話が混乱しそうなので、ここから教えていただいてもよいですか?

青木耕平氏(以下、青木):そうしたら、ブランドがあるという状態と、ブランドがないとは言わないですけども、希薄だという状態がどう違うのかという話と。製造業、あるいはサービス業と、ブランドビジネスがどう違うと僕らが思っているのか。

これはあくまで一般論ではなくて、我々はどういうふうに捉えているかということで聞いていただければと思います。まずブランドがある状態というのは、どういう状態かというと、まさにいまJUDY AND MARYさんという話が出てきました。JUDY AND MARYというバンドにブランド価値を持ってるユーザーは、まだ聴いたことのない新譜を買いたいという気持ちがあると思うんです。

つまりその商品をまだ手にしてない、聴いていない、どんな物かもわからないけどほしいと思う気持ちが先に生まれている。これはたぶん、ブランドがある状態なんじゃないかと思います。

僕らでいうと注文いただいた時に、そこの注文情報のなかにメッセージ書くところがあって、そのなかに「何年も前から買いたいと思っていました」というコメントをいただいて、注文いただくことがよくあります。これはいくつかのことを意味していて、ひとつは初めて僕らと会ってから数年間は買うことなく付き合ってくれていた。

砂流:すごいですね。

ほしい物より「買いたい気持ち」が先行

青木:もうひとつは、買いたい物がたぶんなかったんですね。買いたい物がないのに、先に買いたいという購買動機が生まれてた。複雑な話なんで、うまく説明できてるかわからないんですが。普通はここに本があって「この本素敵だな。ほしいな」と思って買いたいという気持ちが発生するわけですが、おそらくこのB&Bさん(イベント会場)だと「なにかB&Bに買いに行きたいな」という気持ちが生まれるんですね。

これがたぶん本屋さんにブランド価値が生まれてる状態。普通の本屋さんに行ったら、たぶん本棚を見てほしいなと思う本があったら買いたいなと思う気持ちが生まれる。これはだいたいサービス業ないしは小売店、製造業といわれる、一般的なビジネスの状態だと思うんです。

要はまだ何もプロダクトなりサービスなりが提供されてない状態であるにも関わらず、すでにそのブランド名ないしは屋号とかそういったロゴマークを見た時に想起されるイメージに購買意欲が沸いてしまう状態ができてるということが、おそらくそのブランド価値が持ててる状態と我々は理解しています。

先ほどブランドビジネスと申し上げました。例えば製造業とか小売業とかサービス業の違いを説明する時に、よくトヨタとレクサスの違いというのを言っていて。トヨタとレクサス、ご存知の通りひとつの経営の母体になるわけですけども、会社を分けて経営を分けてる。この理由は、おそらくトヨタは製造業の会社なんですけども、レクサスはブランドビジネスの会社だと思うんですね。

製造業の会社は、例えばそれがどういうスペックの車をどれくらいのコストパフォーマンスで提供するかによって選ばれたり。あるいは、VIPカスタマーを育てたりしてると思うんですけども、ブランドビジネスの会社というのはそのブランド名とかロゴマークに触れた時に想起するイメージ。このイメージで、物を買いたいという気持ちが起こることをやっている。

だから、トヨタの商品はもちろん車なんですけども、実はレクサスの真の商品はレクサスという言葉とかロゴを見た時に思い起こすイメージが真のプロダクトなんだと思うんです。なので僕はそのいわゆる一般的なブランドとは、僕らの思うブランドビジネスと、そうでないものの境目ということなのではないのかなと。

例えばヴィトン(Louis Vuitton)というブランドがある時に、「ヴィトンのこのバッグがほしい」と思って行く人もいると思うんですが、「ヴィトンのなにかがほしい」とか、そういう人たちもたくさんいらっしゃる。

砂流:初めて買う方とか、ほとんどそうですよね。

「仲間になりたい」存在かどうか

青木:そうですよね。これは普通の小売業とか製造業ではなかなか起こりえない状況ですね。なので、それが起こってるかどうかでブランドが築けているのか、そうでないのか。あるいは、ブランドが築けてるかどうかというのは、一般化することはできないですね。

この人に対してはブランドが築けてるけど、あの人に対しては築けていないってことがあって。自分たちが対象とするお客様に対して、どのくらいそういったことが築けてるかということが重要になってくるんだと思うんです。

なので、我々が言っているブランドビジネスということは、要は商品のスペックやコストパフォーマンスを高めていくことで選ばれようとすることではなくて、その「北欧、暮らしの道具店」というロゴとか名前を聞いた時に思い浮かべるその「仲間になりたいな」と思うようなイメージですね。それを作っている。

砂流:仲間になりたいか、どうか。

青木:ブランドとそういう仲間になりたいという気持ちの表れだと思うんですよね。「こういうハイブランドの物を持てる人に見られたい」という気持ちだったり、自分がそういう物を持ってることで自分を評価したりする気持ちだったり。

たぶん提示してるイメージに自分を同一化したいという気持ちが購買行動というもので、我々としても「北欧、暮らしの道具店」という名前を聞いたりロゴを見たりした時に、無意識に思い浮かぶあるイメージが我々の対象顧客にとって「仲間になりたいな」という気持ちになってくれるようなイメージをつくることが我々の真の仕事だと思います。

砂流:僕、あとで聞こうと思っていた「(「北欧暮らしの道具店」は)何を売っているんですか?」は、そういう部分のことですよね?

青木:何を売っているというか、我々の主要な仕事は何かということで、やはりその「仲間になりたいな」と思ってもらうということを、どこまで深めていけるか、広げていってもらえるかということになります。

社内の意思統一の方法は?

砂流:ちなみにみなさんに共有されてる感じなんですか? 説明してそうなってるんですかね?

青木:社内のスタッフに対して?

砂流:世界観がものすごく統一されてたりとか、センスの統一はどうしてんだろうなと思い。たぶん、今みたいな話を青木さんから聞くとすごくわかるんですけど、おそらく僕の予想はほかの方に聞いても似たような答えが返ってくるんだろうなと思うんですよ。それって、すごく難しいことだと思うんですが、どうされてるんですか?

青木:まず、こういう話を社内ですることはほとんどないです。

砂流:ないんですか?

青木:社員に対して「私たちはブランドだから!」とか、寒いから絶対嫌じゃないですか(笑)。今日は一応みなさん集まってくださるなかで、どう考えてるか一生懸命に話してるんですが、社内で社長がなんかこう「俺たちはこうやるんだ!」みたいなのをしゃべるというのは僕的には寒い意識があります。

そういう自分たちがどういうビジネスやるかというのは、月1回全体会議で、そのなかに15分くらい僕の持ち時間があるなかでちょこちょこしゃべるくらいなので。個別にブランドがああだとか、こうだとかほとんどないです。

ただ、今、世界観とか統一性の問題とかが極めて重要です、と。例えばディズニーランドってところがあり、ある世界観の統一をするためにミッキーマウスは一時に1人しかいないようにすると非常に苦心をして、ある世界観を守るために合理性を疑うかのごとくの努力をされているということがあるんですが、我々もある統一性とかを求められていると思います。

社員の多くが元お客さん

なので、重要度は高いんですがそれを教育でどうにかしようと考えるのは非常に困難な道だと思ってまして。我々の場合、どういうふうに解決しようと思っているかというと、ほぼ100パーセント採用で解決しようと考えています。

基本的には我々の場合、ほぼ自社サイトからしか募集をしない。いわゆる一般職に就いている人の大半は元お客さんです。

砂流:サイトにくる方ですね。

青木:ですから、基本には自分が楽しかったと思うようにやりなさい。あるいは、自分がうれしかった対応をしなさい、というところで成立するところがベーシックに言えばあります。もちろん、細かいところの指導とかマニュアルとかありますけど、全体としてはそんなところです。

それから、我々は採用を、年に1回中途一括採用というかたちで。年に1回、中途採用なんですけどもだいたい3ヶ月半くらいの採用プロセスのなかで年に1回だけまとめて採用するという方式をとっていて。その時にだいたい500人くらい応募いただいて、そのトップ1パーセントくらいの人たちを採用するというやり方をやっています。

さっきも申し上げましたように、もともとは読者である。我々の世界観に1人のユーザーとして共感してるという人たちのなかで、スキル的にもカルチャーセンス的にも、そのトップ1パーセントの人を採用することだけを創業以来一貫して続けてきているので、基本的にはそんなに言葉を尽くして手を尽くして世界観の統一に苦心をしなくてもある程度のベースラインになると思うんですね。

もうひとつテクニック的なことを言うと、「写真の統一感がありますよね」とか「綺麗ですね」とお褒めいただくことがあるんですが、もともとそういう仕事をしていたり文章を書く仕事をしてた人はほとんどいないです。たぶん、30人のうち1人くらいしかいないです。

砂流:そんなレベルですか!

ビジョンを教えることは困難

青木:基本的にはそういう人たちは採らない方針というか、どちらかというと素人に近い人たちを採るようにしていますね。必ずしもその人たちを排除してるわけではないんですが、結果的にそっちのほうがよくなることが多いということですね。

これはどういうことかというと、さっき言った世界観の話でいうとどういう物が美しいとか、どういう物がかっこいいとか、どういう物が気持ちがいいという頭のなかにある判断基準ってあるじゃないですか。ビジョンていうか、「こういうふうな風景が綺麗だよね」とか「こういうテーブルの感じはおしゃれだよね」とか頭のなかにあるイメージの出し方を教えるのは簡単なんですよ。

テクニック的に「こう撮ったらいいよ」とか「こう切り取ったらいいよ」とか「こういう構成にしたらいいよ」とかテクニックを教えることは簡単なんですけど、この頭のなかにあるビジョンを外部で作るのは無理なんですよね。

それはそこまで、今までにその人がしてきてる経験とかインプットの総量で、半生をかけて培ってきてるものなので、それを僕らごときが「それはこうしてこうしてこうするとよいよ」なんてことを言ったところであんまり意味がないので、採用のプロセスのなかにロールプレイングのプロセスを組み込んであります。

バラエティ番組で「物ボケ」というものがあるじゃないですか。物を置いて、それでボケるという。そういう感じで物を置いておいて。

例えば「このカップを売るためのスタイリング写真を撮りなさい」というテーマで、ここから好きな物を取ってスタイリングをして写真を40分くらいの時間のなかでパシャパシャ撮っていき、何枚撮ってもいいんですけど、提出カット1枚を出すテストがあるんです。

そうすると、これで何がわかるかというと、まず撮る前にイメージがあるかというのが如実にわかるんですね。イメージがなければ適当に並べて「運よくいい写真撮れないかな?」という撮り方をするんですけど、頭のなかにイメージができてる人は最初からそれを撮りにいってるというのがわかるんですね。

採用では頭のなかのイメージを見る

提出カットがこれとなりますから、どういうプロセスで試行錯誤をしたうえでどういう決定をしてるかというところを見れば、その人のテクニックは別として頭のなかにどういうイメージがあるかというのは比較的わかりやすいんです。

そうすると、カメラとか下手でもいいんですよ。「この人が撮ろうとしてるのは、こういう画かな」というのがわかって、それが僕らにフィットしていれば、この人はそんなに教えなくても要は「あなたの頭のなかにあるそのかっこいいイメージはこうやったら出るよ」という。

カメラの扱い方とか、レタッチの仕方だとか、そういったことだけを教えてあげればいいじゃないですか。これは非常に簡単なことです。

もうひとつはある課題でコラムを書いていただいたり、お客様からのあるメールに対して返信を書いてもらうというようなことをして。微妙な案件に対してどういうコミュニケーションをとるのか、どういう文章のリズムが好きなのか、どういうビジュアル的なイメージが美しいと思うのか、みたいなことですね。

なので、テクニックの拙さはぜんぜん見てなくて。イメージがどう持てているのかを見ていて。それが合いさえすれば、もともと同じイメージを持っている者同士という設定なので。

砂流:仲良くなれるに決まってる感じですよね?

青木:出し方を教えるというのは比較的容易だということですね。

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