フレームワークは最強のビジネススキルになっていく

徳本昌大氏(以下、徳本):さっきの話を少ししましょうか。授業をやっていると、よく「AI時代にフレームワークは必要なんですか?」と聞かれるんですね。学生のチームに「プロンプトの入れ方によって答えが変わってくる」というお話をしました。正しいプロンプトを入力すると、AIから正しい答えが返ってくる可能性は高いですよね。

僕らがフレームワークを使えば、AIとの関係をもっと良くできるんじゃないかなと思っていて。いろいろなフレームワークを使って自分たちでプロンプトを考えていく。「こういう仮説なんだけど」と入力をすると、良い答えをもらえる可能性が高まる。

「AIは敵じゃないし味方だ」と思ってやり続けていくと、フレームワークは最強のビジネススキルになっていくんじゃないかなと思っています。

では、マルチサイドプラットフォーム(個人に対しては無料でサービスを提供し、法人には有料でサービスを提供することで、個人の顧客分のコストを法人の顧客が負担するといった方法)について話しましょうか。この考え方は、僕らにとって最強のビジネスモデルなんじゃないかと思っているんですが。

「使い勝手の悪い携帯電話」と言われていたiPhone

徳本:どういうことかと言うと、みなさん、iPhoneはいつ頃買いましたか? 若い人たちは最初から持っていたかもしれないですけど、アメリカで出たのが2007年だったんですね。日本で買えるようになったのは2008年。

僕はたまたま(当時)アメリカの会社の担当をしていたので、2007年に彼らが来日するたびにiPhoneを見せられていました。その時にTwitter(現X)とFacebookを見て、とてつもない衝撃を受けたんですね。

「これでは広告代理店がなくなっちゃうな。もう辞めたいな」と思って、さっきのお酒をやめたタイミングがまさにそこだったので。(僕は)iPhoneとソーシャルメディアのおかげで「人生が変わった」と言えるかもしれないんですけど。

当時iPhoneにはアプリがあまりなかったんですよね。だから実は、日本では「使い勝手の悪い携帯電話」と言われていました。ちょうどその頃アプリの記事を書き始めていたんですけど、(当時のiPhoneには)ゲームやスケジューラーのような基本的なアプリしかなかったんです。

「まだまだほかのテクノロジーで代用できるじゃん」という時代で、1つのデバイスの中で完結できるという期待値も低かったんですよ。ところが徐々にアプリが増えれば増えるほどiPhoneの魅力が高まって、ビジネスパーソンが使い始めていったんです。

(僕は)iPhoneの定点観測をずっとやっていたんですけど、2008年に持っている人はイノベーター理論の一番最初の人たちしか持っていなかった(笑)。

日本では普及するのに5~6年かかかった

松村太郎氏(以下、松村):せっかくなのでイノベーター理論のスライドを。これもケースとして紹介しているフレームワークになります。

徳本:最初に2.5パーセントの人たちが飛びつきます。ギーク(マニアック)なものはここで終わっちゃう商品もありますよね。次に徐々に周りの人たちが「いいな」と思っていく。ここに早取りしてくれるアーリーアダプターという人たちが13.5パーセントいます。

当時僕は自社までつくばエクスプレスで通っていたので、実は定点観測をつくばエクスプレスの中でやっていたんです。「どうやってiPhoneが増えていくんだろう」とずっと見ていて。

2011年ぐらいには、つくばエクスプレスに乗っているビジネスパーソンのほとんどが、iPhoneを使っていました。ただ山手線ではまだぜんぜんいなかったんですね。2012年ぐらいから山手線で徐々に増えていって。

2013~2014年ぐらいでアーリーマジョリティになり、どこに行ってもビジネスパーソンがiPhoneを使うようになりました。それから若い女性がiPhoneを持ち始めたのは、2013年、2014年ぐらいだったように思います。

やはり普及に5~6年はかかっていたかな。その後カラーモデルが出て一気にマジョリティになった感じです。これがなぜ起こったのか。1つはアプリがどんどん増えていったところ。アプリが増えれば増えるほどユーザー体験が良くなっていき、ユーザーが増えていきます。

YouTubeを買収したGoogleに学ぶ、今の時代の経営戦略

松村:これはどういう理論かと言うと、まず相互に依存する関係を作る点が1つです。相互に依存するのは当たり前ですよね。それとネットワーク効果。アプリ開発者が増えれば増えるほど良いアプリが増えていって、ユーザーが増えるほどアプリ開発者にとっても魅力があるところになっていく。Apple側から見れば、ストアから手数料収入が得られます。

さっきの売上でサービス部門がどんどん上がっていくのも、アプリが貢献しているところなんですね。このマルチサイドを作れる会社は、やはり強いなと思っています。

先ほど事例で出した「なぜGoogleがYouTubeを買ったんだっけ?」という話ね。YouTubeを買った時にみなさん「大丈夫?」と思いましたよね。だけど結局YouTubeはマルチサイドプラットフォームなんです。制作者がいて視聴者がいて、広告モデルを作っていくというエンジンをどんどん大きくしていったんです。

制作者と視聴者という相互依存の関係とネットワーク効果を使って、マルチサイドを作っていったということです。マルチサイドを作っていくところが、今の時代においては大事なんじゃないかなと思っています。

実はこの本も「AppleやGoogleから学べるんだな」という思いで書きました。本で一番書きたかったのはここだったんです。

GoogleとAppleの収益モデルの違い

松村:そうですね。先ほどGoogleやFacebookとAppleが同列で投資家から評価されたと言った理由も、実はこのモデルをAppleが社内で持てたからだと思います。しかも「よりピュアなかたちで」と付け加えたいんですけれども。

FacebookやGoogleはマルチサイドプラットフォームではあるんですが、Googleは広告主側からお金をもらうモデルだったので、プラットフォームそのものが手数料を取るモデルではなかったんです。

ただユーザーを無料サービスでたくさん集めておいて、「ほら、ユーザーが集まっているでしょ。ここに広告を出したいでしょ」というかたちで広告主を集めた。人が集まっているところと広告主とをユーザーでマッチングするという。

あと広告主からすると、自分たちのプロダクトやサービスに関係があるユーザーに広告を見せることができる。ユーザー側からすると自分に関係のある広告だけが出るので、当初はこのマッチングが成立していたんですが……。でも、みなさんからすると広告はじゃまなものですよね。

先ほど「ピュア」という言い方をしたんですけど、個人的にはこれでは「相互ネットワークが働くマルチサイドプラットフォームではない」と見ています。それからYouTubeでは有料プレミアムのサービスを始めて、「広告が出ません」と言い始めちゃった。「お金を払えば広告を見なくて済むよ」となれば、そもそもユーザーと広告主のマルチサイドプラットフォームという関係性は「正常じゃないじゃん」となりますよね。

しかもそれを自分たちで言い始めてしまった。そこが「Google、ちょっと大丈夫なのか?」と思っている部分だったりします。

もちろんデジタル広告自体の市場がどんどん上がっているので、そこはカバーできているようにも見えるんですが、2023年から2024年にかけて広告費の成長が陰っています。ここをどう評価するか。「このマルチサイドのスタイルはどうなの?」とちょっと注意しながら見たほうがいいと思います。

持続的な成長が可能なAppleのビジネスモデル

松村:一方Appleの場合は、もうちょっとピュアなマルチサイドを作っています。その理由は先ほど徳本さんが紹介したように、iPhoneユーザーが増え、さらに魅力的な市場だとアプリ開発者も増える。

アプリ開発者が増えると、iPhoneの価値が上がるアプリがたくさんできるので、iPhoneユーザーもそれを目当てに集まってくる。片っぽが増えると片っぽが喜ぶという相互ネットワークが、きちんとしたかたちで成立しているんです。

Appleも開発者に対して「サブスクモデルをやってね」と提供してはいるんですけど、それはあくまで開発者が継続的な収入を得られるようになるため。YouTubeのプレミアムのサブスクモデルとは若干異なる位置づけになるのかな。

そう考えるとAppleが作ったマルチサイドプラットフォームは、広告モデルで出来上がっているマルチサイドプラットフォームと比べて、もうちょっと持続的な成長が続くモデルかなと思います。

<続きは近日公開>