矛盾や伏線は一切気にしない

石田紗英子氏(以下、石田):このように名シーンをみなさんと一緒に見てまいりましたが、まだまだ新シリーズは魅力いっぱいですよね、ケンコバさん?

ケンドーコバヤシ(以下、ケンコバ):ちょっとモニターをチェンジしてもらいましょうかね。モニターチェンジ!

(会場笑)

ケンコバ:先生の前でこの話しますか? 「矛盾だらけで伏線もない!」。おい! 言いすぎやろ、これ!

嶋田隆司氏(以下、嶋田):すごいね(笑)。

ケンコバ:まぁ、先ほど前科持ちの話もしましたけども。ジェロニモが自分の試合を自分で見てるというようなシーンもありましたし。みなさんもそれぞれの心の中に1つは「あのシーンどういうこと?」みたいなのあるでしょ? ウォーズマンが髭剃ってたりとか。

(会場笑)

ケンコバ:いろいろあると思うんですけど、先生もその辺はよく言われると思うんですよ。

嶋田:はい。

ケンコバ:ただ、先生はそんなの関係ないんですよね?

嶋田:全然関係ないです。

(会場笑)

ケンコバ:小島よしおより早かったですから。「そんなの関係ねぇ!」を初めに言い出したのは先生ですからね。

嶋田:やっぱり僕が読んできたマンガって、そういうもんだったんですよ。

ケンコバ:ほう。

嶋田:昔の、梶原(一騎)さんの作品とか。

ケンコバ:はいはいはい。

嶋田:すごかったのが、『タイガーマスク』読んだ時に、タイガーマスクの必殺技を見て、馬場が日本プロレスのジャージ着て「オー」って言うてて、その2、3コマ後に裸なんですよ。「えっ、一体いつ脱いだの?」とか。

ケンコバ:馬場さんが急にそんなはだけるわけないですからね。

嶋田:あと『アストロ球団』

ケンコバ:アストロ球団はムチャクチャですからね。

嶋田:なかなか球が打てなくてどうしようかっていった時に、キャラクターがいきなり切腹するんですよ。

(会場笑)

嶋田:切腹してホームラン打つんですよ。だからもうそういう矛盾に満ちたもんばっかり見てたんで、「えっ、何が悪いの?」っていうのがすごくあるんですよね。

ケンコバ:実際先生はこういうコメントも残されてるんですよ。「毎週毎週に全力をかけているから、矛盾とか伏線とか一切気にしない」と。

嶋田:昔のマンガってやっぱり子どもが読む本ですから、1回1回にアイデアをいっぱい詰め込んでアンケートの1位を獲りにいくっていうのが僕らのやり方だったんですよ。今って大人のファンが多いんで。

ケンコバ:確かにマンガを読む年齢層自体がちょっと上がってるかもしれないですよね?

嶋田:上がってる。伏線回収したら、「あっ、伏線回収した」って。「そんなに気持ちのいいもんか?」って。だって、1年前の伏線を1年後に回収することって、昔だったらありえないんですよ。やっぱり子どもって忘れてしまいますから。

今のマンガは縛られすぎている

ケンコバ:先生、今(ニコニコ動画で)流れてるコメントでも「おもしろければいいんだよ」って。

嶋田:僕らは梶原さんとかアストロ球団みたいなものが描きたくてこの世界に入ったんであって、そんなごちゃごちゃ伏線回収とか……。

ケンコバ:ごちゃごちゃ言ってんじゃないよと。おもしろければいいんだよというコメントの中に1つだけ「なぜかいい話風」というのが出ましたけど(笑)。

嶋田:ははは!

ケンコバ:あとなぜか、『ブラックエンジェルズ』の松田の名ゼリフばっかり出るんですよ。「いいんだよ、こまけぇことは」っていう。

(会場笑)

嶋田:ドラマでもそうでしょ? 今は13回やから、ちゃんとした伏線も張って回収するって。昔のドラマって26回ぐらいあって……。

ケンコバ:そうですよね、1年やったりもしてましたもんね。

嶋田:ね。人気やったらどんどんどんどん(伸びる)。そしたらそこで1回殺したキャラクターが、「もうみんな殺さないでくれ」って言っていきなりまた出てきたりしますから。それって本当にキン肉マンの世界と一緒で。

ケンコバ:ははは! そうですよね。

嶋田:やっぱり、いい生き方とか、いい死に方したら読者は何とも思わないわけで。死んでも生き返ってきたらうれしいっていうのが子ども心で。

ケンコバ:確かにうれしいです。ウルトラマンでも何でも興奮しましたもんね。

嶋田:今のマンガは縛られすぎてるかなって。そういうところが。大人の考えだと「おかしいじゃないか、死んで生き返ってくるのは」って。でも僕ら人間は取り返しつかないですけれど、マンガの世界の中ではやり直しもきくし、取り戻すこともできる。

ケンコバ:そうですよ。今後「なんで死んだやつが生き返るんだ」って言うやつはね、宮下あきら先生の目の前で言ってみろっていう話ですよ!

(会場笑)

嶋田:ホンマですよね! 宮下さんもっとひどいですよ。

ケンコバ:ははは(笑)。すばらしい。先生、でも週刊連載にこだわるというのは、これは大変なんじゃないですか?

嶋田:大変ですね。

ケンコバ:いろんなマンガ家の方、トップ獲った方、大物の方ってだんだんペースを落としていくイメージがあるんですけど。

嶋田:僕らの時代って、担当編集が「とにかく数を描け」って、作品の。いっぱい読み切りもやらされましたし。

ケンコバ:連載中でも?

嶋田:はい。キン肉マンやってる時に、同時並行して『闘将!!拉麺男』やってましたから。

ケンコバ:そうですよね。フレッシュジャンプでしたかね。

嶋田:キン肉マンを毎週19枚やって、ラーメンマンを45枚描いてたんですよ。今そんなことする人いないですから。

ケンコバ:そうですよね。

嶋田:でも編集は言うんですよ、「何かが見えてくる」って。

ケンコバ:それ、もうランナーズ・ハイみたいなことですよね?

嶋田:でも何も見えなかったんですよ。

(会場笑)

ケンコバ:ははは! やった結果。言われたとおりやり続けても何も見えなかった。

嶋田:「矛盾だらけの作家」って言われた汚名だけが……。

ケンコバ:消耗した末に汚名だけが残った(笑)。すばらしい。いい生き方ですよ。

嶋田:ははは(笑)。

あえて副題をつけず、無印にこだわる

ケンコバ:先生ね、今の新シリーズに「7人の悪魔超人編」とか、そういうシリーズ名がないじゃないですか。それってなんでつけないんですか?

嶋田:昔って映画でもそうですけど、「ダーティーハリー2」とか、「ゴッドファーザー パート2」とか、なんか副題があるほうがかっこいい時代があったんですけれど、今って相棒シリーズにしても無印じゃないですか。シーズンなんとかっていうのはあるかもしれないですけど、結局わかんないじゃないですか。だからあえて無印にこだわったんですよね。

ケンコバ:あえてなんですね。じゃあ改めてつけるというのもないんですか?

嶋田:全然なかったんですよ。そしたらコミックスを出す週刊プレイボーイさんからは「それでは困る」って言われて。何かつけてくれないと本出せないって。

ケンコバ:どうですか? 今日つけるっていうのは。

嶋田:いや、もうつけないです!

ケンコバ:つけない。先生がこう言ったらもうつけないですよ。

嶋田:だからジャンプコミックスとして出すっていう案が出されて。

ケンコバ:あえて無印で攻めると。でも、確かに今回どうつけたらええかわかんないですね、展開もいろいろあるし。ちょっとルーツ的なこと、超人の成り立ちを探ったりというのもあるし。

嶋田:何がいいと思います? もし副題つけるとしたら。

ケンコバ:僕だったら「超人ルーツ編」みたいなことですかね。

嶋田:あっ、あぁ……、いいっすね。

(会場笑)

ケンコバ:ははは(笑)。だって言うたら成り立ちが描かれるわけじゃないですか。超人の成り立ち以外にも、実は悪魔超人界でもこの人がコーチでこの人が生徒だったみたいな、ルーツの話があったりするじゃないですか。

嶋田:僕らはもういっぱい(副題案を)がん首並べて、それが出なかったんですよ。それいいですね。

ケンコバ:マジですか? じゃあ非公式で。まぁ、便宜上そう呼んでくれみたいに先生から言うといていただけたら。

嶋田:でもたぶん今は副題がない方がいい時代なんでしょうね。本当に。たぶんそう思います。

ケンコバ:確かにね。まぁとりあえずは無印でそのまま行こうということですね。

超人たちはお客さん思い

ケンコバ:先ほどから「矛盾だらけ」みたいな話ありますけど、突っ込みどころが読者からもやっぱりまだまだ届くということで。ちょっと用意したので見てもらいましょうか。

石田:まずこちらはパーフェクトオリジン。実はいいやつではないんでしょうか? ということですね。

ケンコバ:そうなんですよ。ちょっと粗野な感じがするんですけど、結構人間のことを気遣ってくれているという。「人間ども!」とか言うくせに、「この試合は無料だ」と自腹切ってくれているというね。

これ、興行にしたらかなり儲かるはずやのに、「入場は無料! ただしこのリングサイドでの立ち見はやめとけ、巻き添えを食う可能性があるから危険だ」という風にちゃんと配慮してくれてるんですよね。ガンマン、結構いいやつなんですよね。

石田:ではどんどん行きましょう。こちらです。

ケンコバ:サイコマンね。「鳥取砂丘へ集まれ、5時間後」って、結構日本国内だったらどこからでも行ける時間を用意した上で、「観客席はたっぷりと用意してありますよーっ!」って言うんです。また自腹!

(会場笑)

ケンコバ:わりかしお客さん目線に立ってるというか。

嶋田:彼らの目的として、自分の超人としてのパワーとか技量をたくさんの人に見てもらいたいっていうのがあるんで。そうじゃないと意味がないんですよ、宇宙中に発信できないから。

ケンコバ:でもキン肉マンの世界ではリングサイド25,000円だって言っても売り切れる大会ですからね。なのに無料で「たっぷりと用意してありますよーっ!」っていう。大好きです、こいつら。いいやつらです。

嶋田:自分たちは超人として戦うんですけど、観客には一切危害を加えない。

ケンコバ:すばらしいですね。まぁ、悪じゃないですからね。悪魔じゃないですから。

リモコンは万能である

石田:このサイコマンなんですけれども、次の画像を見てください。

石田:持ってるのはリモコンですね?

ケンコバ:リモコンね、ボタンが1個ついた。ちょっと大人のおもちゃ的な形をしたリモコンなんですけども。

(会場笑)

ケンコバ:このリモコンがボタン1個なんですけど、まずはオーロラビジョンをつける。というか、「オーロラビジョンってああいうのでつくのか!?」みたいなね。テレビのリモコンみたいにプツンってつく感じなのかっていうのがまずありますし、ちょっと次も見てみましょうか。

ケンコバ:同じリモコンでですね、同じ1個のボタンカチッで……。

石田:さぁ、何が出てくるんでしょうか?

ケンコバ:これ、ブロッケンも結構すごいんですよ。「遠い鳥取で起こっている地響きがここまでしてきやがる」って、鳥取を言い当ててるっていうね。

石田:あはは(笑)。

(会場笑)

ケンコバ:ちょっと次も見てみましょう。

ケンコバ:同じボタンでピラミッドまで出てくるっていう。

石田:オーロラから次はピラミッドですよ、すごーい!

ケンコバ:ちょっと続きも見ましょうよ。

石田:そしてさらに、リングまで出てきた!

ケンコバ:同じボタンカチッ、で、今度はリングが登場するという。万能リモコン現るというね。これ先生、世紀の大発明ですよ!

(会場笑)

ケンコバ:あっ、また押しますよ、これ。「出でよ、処刑リング!」カチッ、でもう1個リングが現れるっていうね。すばらしい。

石田:あはは(笑)。

嶋田:舞台移動する時あるじゃないですか。いちいち説明するとページが長くなってしまうので、リモコンってすごく便利なんですよ。

ケンコバ:ははは!

嶋田:昔、大会委員長もよく使ってたんですよ。

ケンコバ:そうですね。リモコンは万能である、と。

嶋田:万能です。

ケンコバ:人類の進化はリモコンによって起きたと。

嶋田:どれだけページが省かれるか。

ケンコバ:なるほど、マンガ的説明のページが省けると。

嶋田:でもこれに関しては本当に読者は何とも言うてないですから。

ケンコバ:いまメッセージで「リモコンルーツ編はどうですか?」って出てますね(笑)。

嶋田:ははは!

ケンコバ:リモコンのルーツは探ってないですから。

嶋田:でもオリジンですからもっとすごいリモコンなんでしょうね。

サイコマンの部屋は女子ちっく

石田:そしてそのリモコンを持つサイコマンですけれども、サイコマンのお部屋を拝見しましょう。

ケンコバ:超人墓場のね。先生、これサイコマンはちょっとこじらせてるんですか?

(会場笑)

嶋田:ははは(笑)。

ケンコバ:天蓋付きのベッド。ぬいぐるみだらけ。ぬいぐるみも明らかに自分を模したぬいぐるみを置くという。

嶋田:気持ち悪いですよね。

石田:オカマキャラですか?

ケンコバ:これ正直、本当のお嬢様か、高級ソープランドのベッドですよ。

嶋田:ははは!

ケンコバ:ちょっと女子チックな。

嶋田:サイコマンみたいなオネエキャラみたいなのって出たことなかったんですよ。

ケンコバ:ちょっと言葉遣いもオネエというか、丁寧語をわざと使いますよね。

嶋田:初めてのことだったんで。中井(義則)くんに「サイコマンの部屋は適当に」って原作に書いたら……中井くんの趣味が出ましたよね。

ケンコバ:ウソや! なすりつけたらダメですよ、今日いないからって(笑)。

石田:いろいろな突っ込みのポイントがあるんですけども。先生、この新シリーズの38巻から50巻までたくさんの試合があったんですけれども、これ全部1日のできごとって本当ですか?

嶋田:はい。1日です。

石田:えーっ。

ケンコバ:じゃあ、かなり裏方さんがサクサク進めてくれてる感じですね?

嶋田:はい。

ケンコバ:進行に滞りがないんですよ。

石田:すごいですね。

少年ジャンプの法則「友情、努力、勝利」はキン肉マンが生んだ

石田:突っ込みどころ満載のキン肉マンをご覧いただきました。さぁ、それでは……。

ケンコバ:さらなるキン肉マンの魅力ね。

ケンコバ:「常にパイオニア」。未だにジャンプで言われている「友情、努力、勝利」、これはもうキン肉マンが生んだようなもんですもんね? キン肉マンの世界から派生していって今のジャンプの三原則になっているという。そこはもう先生は自負あるんじゃないですか?

嶋田:ジャンプの創刊時に、(編集部が)子どもたちに「好きな言葉は何ですか?」ってアンケートを取ったんです。そしたら「友情」「努力」「勝利」の3つが入ってたんです。じゃあそういう作品をたくさん作っていこうということで……。

ケンコバ:じゃあモロにそういう作品を描こうということで?

嶋田:キン肉マンをやるときには、担当編集から「友情、努力、勝利」っていう言葉は聞いてなかったんですよ。で、やってるうちにある日、中野(和雄)さんが、「あ、キン肉マンって、努力はしてないかもしれないけど、友情と勝利は入ってるよね」って。その時初めて3つの言葉って知らされたんですよ。

ケンコバ:そうなんですか。

嶋田:ジャンプの作家には「その3つを入れろ」って編集が言うっていう話があるんですけど、それは全然ないんですよ。僕らも言われたことなかったです。

ケンコバ:そうなんですか。それは決まりごとなのかと思ってました。

嶋田:無意識にやったことがそうなったんですよね。

ケンコバ:未だに続く理念ですからね。それを立ち上げたのはゆでたまご先生であるし。それで言うたら、このような大御所の先生でWebで連載したのはゆでたまご先生が初めて。これは結構思い切りがいるというか、未知の世界に近いじゃないですか、当時はまだ。

嶋田:嫌でしたね。やっぱりずっと紙でやり続けたかったんですけど。でも週プレの編集者がまたいいこと言うんですよ。「先生は常にパイオニアであったじゃないですか」と。

ケンコバ:「切り開いてきたじゃないですか」と?

嶋田:キャラクター人気投票もゆでたまごさんが最初やし、読者からキャラクターを募集するっていうのもゆでたまごさんが最初やと。じゃあネット・Webのパイオニアになろうじゃないですかって、肩をポンと叩かれたんですよ。

ケンコバ:乗せられたんですね?

嶋田:乗せられたんですよ。

ケンコバ:ははは(笑)。でも結果それがネットの口コミで広がっていって。

嶋田:だって、ネットで読もうなんて思わなかったですもん。

ケンコバ:僕なんかまだ対応してないですからね。

嶋田:それが今、本当にタブレットとか携帯で見てるのを電車とかで見ると、「あぁ、やってよかったな」っていうことは思いますね。

ケンコバ:そうですよね。より時代に対応していったという。やっぱりゆでたまご先生は結局すごいんですよ。そういう風にパイオニアでいらっしゃるんですよ。

キン肉マン 51 (ジャンプコミックス)