2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
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牧兼充氏(以下、牧):もう1個だけ、これも私の本に出てくる話ですが、「『失敗』を促進するインセンティブのデザイン」です。例えば、「うちの企業は失敗する文化がないんです」みたいなことを言う方はとても多いんです。
確かに文化も無関係だとは言いませんが、それよりも失敗を促進するインセンティブがあるかどうかが重要で、企業の中でその仕組みを組み込んでいくことが重要なんです。
これもちょっとサイエンティストの研究から持ってきているんですが、ある研究費があって、その研究費には2つの種類があるんです。5年間の研究期間を想定すると、どちらの研究のほうが研究者のクリエイティビティを高めるか。
グラントAは中間評価が存在する。2年目の終わりに評価をして、そのあと継続するかどうかを決める。グラントBは中間評価が存在せず、いきなり5年間もらえます。
どっちの研究者のクリエイティビティが高まるかという話を聞いてみると、だいたい7割くらいがAで、3割くらいの人がBを挙げることが多いんですが、実は答えはBなんですね。中間評価が存在しないほうが、クリエイティビティが高まる。
これはなぜか。研究者の研究テーマの選び方を分析すると、2年目の終わりに中間評価があると、短期的に成果が出そうなリスクが低い研究テーマばかり選ぶようになるんです。それを「知の深化型」と言いますが、よりリスクの低い研究に取り組むことになるんです。
中間評価がない場合は最初から5年間の時間があるので、「最初の2年ぐらいは失敗してもいいや」と思い、よりリスクの高い研究に取り組むようになります。こちらは「知の探索型」と言います。
なので前半を見てみると、前半は中間評価をしたほうがパフォーマンスが高いんですが、後半の3年間ぐらいで一気に研究成果が逆転するということで、中間評価のないほうが創造性の高い研究がたくさん出てくるということです。
牧:これはライフサイエンスの分野でスタートした研究ですが、いろいろな企業の中でもリスクを取るためのインセンティブの手法として応用可能で、人事評価の制度にどのように組み込むかという議論もけっこうなされています。
ということで最初の図に戻りますが、「予測アプローチ」と「行動による創造アプローチ」があるとすると、行動による創造アプローチのほうがいかにイノベーションを生み出すか、新規事業を生み出すかという話と、先行研究と行動による創造アプローチで説明していることがいかに相性がいいかということが、ご理解いただけたんじゃないかと思います。
最後に、4つ目のPartで「『実験』を活用する企業」を少しご紹介をしておこうと思います。特にデジタルの分野では、A/Bテストみたいなものが多いんですが、世界ではブッキング・ドットコムが一番実験を活用している会社だとも言われています。
例えばWebサイト内の説明を少し新しいものに変える。ホテルの予約画面に「ゲストは周辺の散歩を楽しみました」という、つまり「散歩にいい場所ですよ」という説明を入れると実際にホテルの予約数が上がるかというように、何かアイデアを思いついたらA/Bテストで実験をしています。
そうすると、この場合は特に優位な影響がなかったので、新しい説明を加えるというのは棄却されたと。
次は、同伴の子どもの年齢を選択する項目に、チェックアウト日を表示する。つまり「チェックアウトの日時の子どもの年齢」と書いてあったのを、「2016年7月23日時点の子どもの年齢」という表示に変えると、予約数が増えたということがわかったので、その表示を変えることをやるわけです。このようなことは、デジタルの世界ではたくさんやれるわけですよね。
牧:続いて、Q&Aでいただいている「n50、n50に対するランダム化実験をする王道だけど、レストランで個人店が1店しかない場合、どのように仮説検証すべきなんでしょうか」という質問についてです。
ワインで1店舗だけでやった実験なんですが、一般的には「価格を上げると購買数は下がる」と経済学の原則では言われるじゃないですか。安ければ買う人が増えるし、高ければ買う人は減る。それを実証実験したものです。
サンディエゴにあるワイナリーの店舗を借りて、30日間くらいで1店舗の中で1日ごとに値段をランダムに変えたんです。そうすると、雨の日のコントロールなどもできるので。これがけっこうおもしろいんですが、低いクオリティのワインの値段を変えてみると、確かに価格を10ドルから30ドル上げると買う人が減るんですよね。
一方で高いクオリティのワインは、実は値段を上げると買う人が増えるということがわかる。ここで仮説も、価格を上げると購買数が増えるということを実証実験でやっているわけです。
それと、ハラーズ・エンターテイメントという有名な会社に、ゲイリー・ラブマンという人がいます。彼は本当に異色で、ハーバード・ビジネス・スクールの助教授を辞めてカジノ運営会社のCOOに転職し、カジノの中で賭けビジネスのRCT、ランダム化実験をたくさんやるんです。
彼に言わせると、「アカデミアにいた頃よりも実験がしやすくなって、むしろ楽しい実験がたくさんできている」ということなんです。
例えば、州外からもっと来店させるためにはどんなクーポンを作るか、客の機嫌を取るためにどうすればいいか、ウェイターのサービスを上げるためにどんなボーナスを作るかとか、こういうのをすべてランダム化実験でやっているそうです。つまり、デジタルな会社や企業だけではなくてもやれるわけですよね。
牧:ハラーズには、「ハラスメントをしてはいけない」「ものやお金を盗んではいけない」「対照群のない調査をしてはいけない」という、「戒めるべき3つの大罪」というものがあります。つまり、必ずコントロール群を作って比較するということをやらないと、エビデンスにならないと言っています。
また、キャピタルワンというクレジットカード会社では、カードの勧誘の手紙は白い封筒か青い封筒、どちらが良いかという実験をやっています。こんなの理論でわからないわけですよね。じゃあ実際にやってみようということで、5万通ずつ発送し、どちらが反応率が高いか見極めるという細かいこともやっています。
あとおもしろいのは、コールズ(kohl's)はデパートチェーンですが、コスト削減の目的で営業開始時間を1時間繰り下げることを検討したそうです。そうしたら役員会で揉めて、賛成する人と反対する人が両方いた。
じゃあ実際に実験をやってみようということで、国内の店舗のうち100店舗だけ実験をしたところ、売り上げがわずかに落ち込んで、コストは大きく削減された。
これによって、エビデンスなしに議論をしてもしょうがなくて、実際にやってみればいいとわかるわけです。しかも、これを全店舗でやると大損失になってしまうので、一部だけでやってみるわけです。こういうことが可能なわけですね。というようなかたちで、いろんな実験をやっている企業があります。
A/Bテストは本当に強力なツールで、このあたりの実験の方法、科学的思考法を持っていると、初めて「失敗」と「間違い」の区別がついて、失敗から学べるわけです。こういう厳密な分析の手法をしていないと、失敗と間違いの区別がつかないということですね。
牧:最後にまとめに入ります。本日はかなりいろいろなトピックをカバーさせていただきましたが、最初に科学技術の知能がどのように新規事業につながるかというメカニズムの話を少しさせていただきました。そして、その「失敗のマネジメント」を通じたイノベーションの成功法則を活用できるようになってくるという話。
そして、ビジネスのより良い意思決定のために「科学的思考法」を活用できるようになっていただくということ。かなり駆け足でしたがこの3つをお話しして、ご理解いただけたんじゃないかと思います。
今日お話しした内容は、私が3月に出した『イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学』の中で、今日の3つの論文は全部より詳しく紹介していますし、特に科学技術とイノベーション・新規事業がどうつながっていくか、さらに詳しい説明がこの本の中にありますので、ご興味あればぜひご購入いただければと思います。
また、ちょっと遅れる可能性がありますが、来月発刊を目指して、PHPビジネス新書から『「原因→結果」トレーニング』という科学的思考法の本、今日話したような内容をさらに詳しくした新書を出す予定で、予約販売も始まっていますので、ご興味があればぜひご覧ください。
さらにこの領域を深めたい方へということで、講演させていただく時にいつもお話をさせていただいているんですが、それには新著をご購読していただくのが1つですし、私はイノベーション分野の企業研修をけっこう頻繁に行っています。
今日みたいな講演形式もありますし、ケース教材を使ってみなさんと一緒にディスカッションをする場合もありますし、実際に実験の立て方をワークショップ形式で行ったりもしています。
牧:その他、新しいイノベーションの仕組みの社内での実装とか、「いろんな新しいことを試しても、どう評価したらいいかわからない」という相談をたくさんいただきます。エビデンスに基づいた評価指標の構築なども、実際にいくつかの企業と共同研究で常にやっていますので、ご興味のある方は事務局までご連絡いただければと思います。
私は経営学者なんですが、あまり経営学者の言葉を引用しないで、サイエンティストの言葉を引用することが多いんです。最後に申し上げておきたいのも、リチャード・ファインマンというノーベル物理学賞受賞者の言葉です。
「いくらあなたの想像が優れていたとしても、いくらあなたが優秀だとしても、誰が主張したとしても、その主張した人が有名だったとしても、それは関係ない。実験(実証)の結果と異なっていれば、それは間違いだ。それだけが真実だ」と彼は言っています。
経営学もこんな学問でありたいと思いますし、経営の実践もエビデンス・ベースドで語れるようになることがとても大事だと思っています。そして、それがこれからの時代の経営学の役割だと私は信じています。ということで、だいたい時間ですので、いったんこれで終わらせていただいてQ&Aの時間にしたいと思います。
司会者:牧さん、ご講演ありがとうございました。みなさま、先ほどの内容をより深くおうかがいしたいという方がいらっしゃいましたら、アンケート等に書いていただければと思います。牧さんに直接お問い合わせいただいても構いません。よろしくお願いいたします。
司会者:お時間もありますので、Q&Aを1~2問させていただければと思っております。
研究開発分野や商品開発、マーケティングの分野など、データや数値を扱う領域においては、失敗を活かして仮説検証を行っていくというのは今まで日本企業でもよくやられていた領域なのかなと思うんですが、こと事業開発や新規事業となると、急にできなくなる印象があったりするんですね。それはやはりゴール設定や仮説設定の問題なんでしょうか?
牧:なるほど。確かに日本企業はオペレーションが得意で、例えば工場のオペレーションの効率化みたいなものだと、ちょっと変数をいじって改善をしていく、みたいなことをよくやっていますよね。
そういう意味で言うと、日本人は大胆な仮説みたいなものを立てて、それを実行していくことが、オペレーションに比べるとまだまだ苦手です。ただ、そこはオペレーションもできるので、社内で仕組みさえ作ればやっていけるのかなと思っています。答えになっているかどうかあれですが。
司会者:ありがとうございます。もう1つは、アクセラレーターの例で「早めに失敗を見極めることが大事」というお話があったと思うんですね。
忍耐強く継続していくことを是とする文化は、日本企業の文化の中にもあると思うんですが、失敗を見極めるというか、撤退ラインの見極めって本当に難しいことだなと思っていまして。
失敗を見極めるラインはどのように見極めたらよろしいのでしょうか。もしくはその仕組み作りとしては、外部の方を入れるのが一番の正攻法なんでしょうかね。
牧:そうですよね。一般的に、日本人は諦めが悪いことは確かです。
司会者:はい(笑)。
牧:ずっとやり続けちゃうんですよね。
牧:例えば失敗を5回繰り返すと、だんだん学びの量が下がっていくんですよね。1回目に失敗することが多いんですが、2回目の失敗は半分で、だんだんサチって(飽和して)いくところがあって。「学びが十分減ったな」と思うところでやめるのが、理論的には1つ重要なんです。
なので、それが答えのその1なんですが、それはなかなか定量的に測りづらい。もう1個の方法は、アントレプレナーシップの場合で「エフェクチュエーション」という概念が最近増えています。
エフェクチュエーションの理論の中でよく言われるのが、「アフォーダブルロス」と言います。最初から最大の損失としては、「このくらいまでは損してもいい」という金額だけを決めておいて、その範囲内ではやり続ける。
なので、チームなり会社なりで「ここはいくらの損失まで出していいか」というのを最初に決めておくことが重要かなというのが、2つ目の答えだと思います。
司会者:ありがとうございます。まず、学びが少なくなった時点でやめていくというのは、確かにそのとおりだなと思いました。あともう1つが、撤退ラインの数値を予め決めておくということですよね。特に新規事業開発になると、そこの設定が曖昧になってしまうケースもあるので、まさにハッとさせられたところでございました。
お時間となりましたので、講演Q&Aセッションに関しては、ここで終了させていただければと思います。
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