JAXAの新入社員36人のうち、19人が女性に

榎本麗美氏(以下、榎本):みなさんこんにちは。ここに立った瞬間に、(参加者席に)女性の方がすごく多くてうれしいなと思いました。

今日は「HELLO SPACEWORK! NIHONBASHI Session5 【宇宙×女性】宇宙の未来を切り拓くヒロインたち」ということで、モデレーターを担当いたします、宇宙キャスターの榎本麗美です。どうぞよろしくお願いいたします。

今回は「宇宙の未来を切り拓くヒロインたち」ということで、こんなに宇宙業界最先端で活躍されている女性のみなさんが揃う機会はなかなか無いので、私自身も楽しみにしていたのですが、観客のみなさんも女性率が高いのでみなさんも期待してくださっているんだなと感じます。

みなさんに早くお話していただきたいんですけれども、まずは、宇宙業界の背景からご紹介します。

JAXAは今春、新卒採用で大きな節目を迎えました。新入社員36人のうち女性が19人と、初めて半数を越えたそうなんですね。これまで宇宙業界は、やはり男性中心だったイメージが強かったんですが、女性が活躍できる業界にどんどん変わってきているんだなという印象を受けます。

このセッションでは、日本で2人目の女性宇宙飛行士として宇宙に飛び立った山崎直子さん、そして宇宙ベンチャーでご活躍されているみなさまをお迎えいたしまして、宇宙業界で働くことの魅力、そしてふだんのお仕事、働き方などについてうかがっていきたいと思います。

また「女性」というテーマですが、性別だけに限定せず、宇宙業界におけるダイバーシティについても触れていきたいと思っております。そして後半は、みなさんから質問を受け付ける時間もありますので、会場のみなさんは質問を考えながらお話を聞いてください。

そして配信をご覧のみなさんも、質問をピックアップしていきたいと思いますので、どんどんコメント欄に書いてください。

宇宙の未来を切り拓くヒロインたちが集合

榎本:それではさっそく、スピーカーのみなさまをご紹介してまいりましょう。まず始めに、株式会社アクセルスペース広報の生本めいさんです。

生本めい氏(以下、生本):よろしくお願いします。

榎本:そしてお隣は株式会社アストロスケールゼネラルマネージャーの伊藤美樹さんです。よろしくお願いします。

伊藤美樹氏(以下、伊藤):よろしくお願いします。

榎本:そしてお隣、宇宙飛行士、一般社団法人スペースポートジャパン代表理事の山崎直子さんです。お願いします。

山崎直子氏(以下、山崎):よろしくお願いします。

榎本:そして、株式会社SPACEWALKER経営企画サステナブル推進広報、スパイスファクトリー株式会社CSO(最高サステナビリティ責任者)の流郷綾乃さんです。お願いいたします。

流郷綾乃氏(以下、流郷):よろしくお願いします。

榎本:このセッションでは、なんとグラレコが入っているということなんですね。グラレコ、みなさんご存知ですか? イラストを描きながらイベントを紹介してくれます。今日はIBM BlueHubのサポートによるグラフィックレコーディングを実施いたします。

みなさん、IBMという会社はご存知の方も多いかと思うのですが、実はかつてIBMは、NASAのアポロ計画に深く関与していて、人類史上初めてのアポロ11号による月面着陸は、その実現可能性を模索するIBMの情熱が成功に導いた科学的功績の1つだったそうです。IBMのコンピューターシステムが大活躍したということなんですね。

そのテクノロジーとオープンイノベーションで、日本初の革新的事業を創出するIBM BlueHubでは、宇宙系のスタートアップも視野に支援をされているそうなんです。

今回の宇宙イベントでは、IBMデザイナーによるグラフィックレコードでみなさまの思いを可視化し、遥かなる宇宙へと誘います。ここで日本IBMデザイナーの山田龍平さんをお呼びしたいと思います。山田さん、さっそく描いてくださってますね。

山田龍平氏(以下、山田):はい。今日はみなさんのお話だったり、会場のみなさんのご質問等を、絵によって可視化していこうと思います。よろしくお願いします。

(会場拍手)

榎本:よろしくお願いします。昨日の様子も見ていたんですけれども、すごくかわいいグラレコが完成していたので、今日も期待しています。

山田:はい。お楽しみに。

宇宙飛行士が語る、宇宙飛行のダイバーシティの歩み

榎本:よろしくお願いいたします。ではまず、山崎直子さんから宇宙業界における女性の活躍、さらにはダイバーシティの現状をお話しいただきたいと思います。山崎さん、よろしくお願いいたします。

山崎:あらためまして本日はご参加くださり本当にありがとうございます。私自身は、ここにちょっと書いてありますけれども、子どもの時からSFやアニメに感化されて、「大人になったらみんなが宇宙に行く時代になるんだろうな」と思って、ここまで来ています。今でもその夢は変わっていません。

私自身は、2010年に国際宇宙ステーションに滞在をしました。現在は、前澤友作さんと平野陽三さんが国際宇宙ステーションに元気に滞在されていて(※注:2021年12月20日に帰還)、本当にうれしいなと思っています。

私がISSに滞在したのはISS組立・補給ミッションだったんですけれども、スペースシャトルには7人中3名の女性がいました。長期滞在という、ISSに6ヶ月ぐらい滞在していたメンバーは6名のうち1名が女性の方でした。合わせて4名が同時に宇宙に滞在するのは、この時初めてだったんです。

記念写真を撮った時の様子です。そもそも宇宙飛行のダイバーシティといいますと、昔はアメリカ、旧ソ連の軍人さん、そして白人男性しかいなかったという時代がありました。けれどもテレシコワさんが女性初の宇宙飛行を成し遂げられ、それから少しずつ軍人さんだけではなく民間のバックグラウンドの人に広がり、そして日本人も徐々に宇宙に行き出しました。

社会の歩みとともに改善されている宇宙飛行士の女性比率

山崎:私の大先輩である向井千秋さんが、日本人女性で初、かつアジア人女性でも初という宇宙飛行を成し遂げられたわけですが、向井千秋さんがJAXA(当時の宇宙開発事業団)に選抜されたのが1985年だったんですね。

その時は、ちょうど世の中的には男女雇用機会均等法が成立された年でした。つまり、男女差差別なくきちんと雇用して昇進をしていきましょうということが制定された年だったんです。ですから、いろんな先人たちの努力のもとに今の私たちがいるんです。

私が宇宙飛行士の候補者に選抜されたのが1999年で、その時は社会的には男女共同参画社会基本法が制定された年でした。雇用だけではなく、男女ともに個人として能力を発揮できる社会作りをしていこうということがちょうど制定された年だったんです。

このようなかたちで、社会の歩みと歩調を合わせながらきています。今宇宙飛行士の仲間の中でも国籍・性別・年齢を含めて、かなりさまざまなバックグラウンドの多様性があります。

直近で言いますと、NASAが月に向かう「アルテミス計画」をリードしています。そこに参加する宇宙飛行士のチームが選抜されていまして、そのうちの半数は女性なんですね。つい最近、NASAが新たに10名の宇宙飛行士候補者を発表しましたけれども、10名中4人が女性。これまでの歴代の平均を取ると、宇宙飛行した人の女性率は10パーセントぐらいなんです。でも最近の例を見ていくと、だんだん女性比率が改善して上がってきているというのが事実です。

身長や年齢、理系文系を問わず、誰もが宇宙に行ける時代に

山崎:今、13年ぶりに日本でも宇宙飛行士の募集が始まるということで、ここでももっと多様な方に応募していただけるとうれしいなと、私自身も思っております。募集要項もここにありますように、理系文系を問わず、身長の幅も広がって、かなり門戸が広がっております。

参考なんですけれども、ヨーロッパでも今年新たな宇宙飛行士を応募して、今選抜を開始している状況です。そこではパラストロノート(parastronaut)枠というものも、カテゴリーは別ですけれども設けられています。

要は、身長が130センチよりももっと小さい方、あるいは足に欠損がある方なども、パラストロノート枠で採用しましょうと。逆に、どうしたらいろいろな方が活動できるような宇宙船を設計できるか、みんなで一緒にフィージビリティスタディをしていきましょうという強いメッセージを発しているんですよね。

最近の前澤さんがやられているような宇宙旅行の流れを見ても、人工器官、具体的には足に人工骨を入れた方も宇宙飛行をきちんと成功させています。年齢で言えばサブオービタル(宇宙に行ってまたすぐ戻る飛行)ですが、90歳の方が成功させて最高年齢を引き上げました。いろんな方がどんどん宇宙に行ける時代になってきたなと思います。

宇宙飛行士に対する「無自覚な偏見」の存在

山崎:私自身は今現在、日本ロケット協会という学会のもとで「宙女(ソラジョ)」という活動を6年ほど、いろいろな方と一緒に取り組んでおります。その宙女が発足するちょっと前ですけれども、アジア太平洋地域の宇宙会合(アジア・太平洋地域宇宙機関会議)があった時に、サブイベントとしてダイバーシティを議論する機会がありました。

みなさんと話していると、やっぱり思うところは一緒なんだなと。なかなかSTEM分野(科学・技術・工学・数学)に女性が少ない。日本で言えば工学部に15パーセント、理学部に28パーセント。それがなかなか変わりません。また制度はあっても、運用面として社会に浸透するまでにどうしても時間がかかりますので、そうした身近な事例、ロールモデルを作っていこうとしています。

それからアンコンシャスバイアス(無自覚な偏見)をきちんと意識して説いていくことが大切です。意識をしないからこそアンコンシャスなんですけれども、そういうものがあると理解することが大切です。本当にみなさん、国も変われど文化も変われど一緒なんだなと思いました。

ちなみに私自身は、学生時代アメリカに1年間行った時にいろんな方とお会いしたんですが、70代のおばあちゃまにお会いしたことがあるんですね。その方はヘリコプターのパイロットで「とっても楽しいのよ」と満面の笑みで語ってくれたんです。私はびっくりしたんですね。でも、待てよと。びっくりしたということは、自分の中にパイロット像を勝手に作ってしまっていたのかなと。

女性の方、しかも70代の方でもパイロットが本当にできるんだと、すごく元気と勇気をもらったんですね。その時に自分にアンコンシャスバイアスがあったことにも気づかされたんです。やはり知らないうちにあるんだろうなと思います。

「男女」の軸だけではなく、多様な軸を考える時代に

山崎:こうしたダイバーシティ活動する時にはよく「女性活躍」とも言うんですけれども、女性だけでやるのではなく、男性でも女性でも一緒にともに働きやすい環境を作っていくことが大事だと思っています。ですから、宙女の活動も男女共にみなさんと取り組んでいて、かつ宇宙分野だけではなく他の分野の方とも一緒に、意見交換しながら、事例を共有しながら取り組んできています。

今日参加してくださっている方とも意見交換できることを楽しみにしています。どうもありがとうございます。

榎本:山崎さんありがとうございます。お話をうかがっていると山崎さんが宇宙飛行士になられた時は「女性の活躍」が言われていた中で、今の時代って、そこからさらに進化して「多様化」がキーワードになっているなと感じたんですが。山崎さんの実感としても、どんどん変わってきていると思われますか? 

山崎:はい。まさにそうですね。男女というのは多様性の中の1つの軸であって、もっといろんな多様な軸が大切ですよと、よく認識されてきているなと思います。そうした意味だと、今日は宇宙業界のたくさんの方がパネリストでも来てくださっていて。

宇宙というと、やはりJAXAは中枢機関でありつつ、でもいろいろなメーカーさん、研究機関、そして大学と、本当にさまざまな現場がたくさんあるんです。そういうところも、今日はみなさんのお話から感じていただけたらうれしいなと思っています。みんなで取り組んでいますよということを、ぜひ感じてください。

榎本:先ほどの山崎さんのお話の中にあった、社会に浸透していくという課題ですとか、STEM分野に女性が少ないんじゃないかというところも絡めながら、私たちでちょっとでも答えが出せたらなと思いました。