高次元なものをそのまま伝えられる手段があるなら、ミケランジェロだって使っていた

水口哲也氏(以下、水口):当然ですけど、最初頭の中にあるイメージって、3Dからスタートするわけですよね?

豊田啓介氏(以下、豊田):どうなんですかね? 最近、そういう工程的な入り方にも複数のモデルが……工程的なもの、メタモデルもあって、形のイメージもあって。

そもそも、先ほどのRez Infiniteじゃないですけど、かたちにならないモワッとした雰囲気のようなものとして、こういう雰囲気を作りたいというところから工程をデザインするときもあるし、テクノロジーがきっかけになるときもあるし、かたちのイメージをするときもある。もっとメタなものからスタートしている感じはありますね。

水口:その過程で、やっぱり1回は2次元の建築図面に起こすというのは……どうなんですか?

豊田:もちろんそれで整理されることも多いんですけど、それしか手段がないっていうのはやっぱり不自然だと思うんですね。これまでは紙しかないから当然それでしかやれないと思っていたんですけど、建築界はそれが正解だという固定概念に、あまりにも縛られすぎているんです。仮に紙以外に、高次元のものは高次元のままで伝えられる手段があるんだったら、ミケランジェロだって当然それをがっつり試していたと思うんですよ。

「これまでの評価軸はそうだった」という理由だけで、「それは正解だ、それ以外は不正解だ」というようなことを言うのはナンセンスだよな、って。新しいテクノロジーの面白いのは、やっているうちにだんだん自分の常識のほうが溶けていくんです。やらなければわからないので。

水口:実際に建築や都市設計の世界で、ARとかMRの使用事例はどれくらいあるんでしょうね?

豊田:実務的にはけっこうまだベタなところで、それこそ家具を置いてみて寸法が入るかどうかというところに使うとか。そういう、普通の人がわかりやすいものからですよね。建売住宅で、できたときの壁紙の色をどうしようみたいなね。

僕らもまだ慣れるつもりで、この前Unreal Engine 4(高性能なゲームエンジンで、建築業界ではVRを用いたビジュアライゼーションなどに活用されている)だけを使って、住宅の設計を全部やってみたりしたんですけど。

小林佑樹氏(以下、小林):へ~!

水口:すごいですね。

デジタル上の仕上がりと遜色ないリアルさに思うこと

豊田:BIM(Building Information Modeling:初期段階にバーチャル上で建物の構築を行うことで、設計や施工のミスと工数を減らすことができるソフトウェア)やCADを使うのが建築業界では普通なんですが、まだゲームエンジンで設計をというのはほとんどないと思います。いろんな確認やシェアがVRゴーグルだけでほぼできるという。

水口:BIM・CADかUnrealっておっしゃいましたっけ?

豊田:原則はUnrealの中だけで作ったりとかもやっていて。それはそれでやっぱりおもしろくて。ライブラリとかすごいじゃないですか。あと光のシミュレーションとかも。建築でやってると、図面と3Dを立ち上げてから光シミュレーション用のものにわざわざ移して、光学的に厳密にやったりするんですけど。現実的な間隔としてはUnrealのシミュレーターでも十分なので。

むしろこれでやっていたときの光の入り方とか、素材のシミュレーションがリアルすぎるんです。普通建築やってて仕上がったときの最後のうれしいことって、施主にお披露目して「うわ~、やっぱりできるとすごいですね!」という褒め言葉なのに、(建物が)できてみんなで入るとみんなの感動のツボが「うわ~、まったく同じっすね~」っていう。

(会場笑)

そこだけ建築家としてはちょっと微妙な(笑)。それくらいリアルでした。

小林:それは微妙なんですか? 感覚として僕らや豊田さんたちがもともと慣れてるだけで、実はそれが正しいかたちというわけじゃないんですか?

豊田:僕らとしてはやっぱり、デジタル上でできたもの以上のものを加味しているつもりなので。やっぱり「できたら違うよね」と言いたかったんですけど。「すっごい! そのままじゃない?」というのは、ちょっと微妙な気がします(笑)。

小林:なるほど(笑)。

水口:ここからの話って、例えば建築図面から作る前にシミュレーションするとか、その中で建築(の図面)を起こすという話なので、たぶん今日小林さんや僕が話したいテーマなんですよね。そこから先は、「要するに都市とか建築って一体何だ?」というような話になってくるわけじゃないですか。

これからの都市はコモン・グラウンド化する必要がある

水口:この前、小林さんと僕で「おもしろいね」というふうに読ませていただいたWIREDの特集記事の中で、大阪万博のことにも触れられてますよね。これからの都市って、コモン・グラウンド……要するに「共通化」していく必要があるよねと。

この共通化って結局、情報やデータというものも建築の一部として……一部というか建築として取り込むという考え方ですよね。

豊田:僕はそう思っています。

水口:それって、たぶん今までの建築家は誰も発想しなかった……いや、できなかった話だと思うんですよね。そういうものがなかったという前提で都市が作られてきたわけだから。

デジタルとアナログとか、触れるタンジブルなものと触れないインタンジブルな情報なども含めて、全体として「それが都市である」とか「建築である」という。こういうことを言っているのがすごくかっこいい。すごいところにきてるなというか。

小林:そうですね。

豊田:デザイナーとしてはそこは微妙なところでもあって。もちろん、なにをもって「デザイナー」と言うかの定義次第なんですけれども。

例えば、よくレクチャーなどでも言うのは、今は新しいビジネスの世界があって、それに応じた都市とか環境をデザインしなきゃいけない。今のビジネスの最先端で言うと、やっぱり情報プラットフォーマーが出てきて……という話の先に、UberやAirbnbみたいなものが出てくる。

Uberは、要はタクシーという固定された物理的なパイを、乗用車でもタクシーでも定義次第でいくらでも変えられるように、離散化したり流動化するわけじゃないですか。あれが最先端のデザインですよね。

Airbnbがホテルという固定されたパイを流動化して離散化して、WeWorkがオフィスを同じようにしていくと、最先端の連中が扱っている次元って、もはや空間次元じゃなくなっちゃってるわけですよね。

ポイントは、Uberはタクシーのデザインを変えることを求めないないですし、Airbnbもホテルのデザインは変えないですし。そうなってくると、そっちに行けば行くほど……僕らもそっちにコミットするんですけど、新しい価値をだすための勝負領域が、いわゆるかたちのデザインである必然性が相対的に小さくなっていく傾向あるんです。旧来のデザイナーの立場としてはどんどん微妙な感じにはなっています。

でもたぶん、今の時代の価値を扱おうとすると、それこそ高次元化していくので。XYZの3つの選択肢以外のところに、ものすごく価値のある次元ができてきて、こっちに社会的なデザイン価値が出るとなると「むしろここは扱わないのが正解」という選択というか、デザインもできてくると思っていて。

何をもって「建築家」と呼ぶかの定義すら曖昧に

小林:さっきの「一種の社会システムをデザインする」というのとは違うんですか?

豊田:そこはたぶん境界が曖昧になっていると思うんですね。さっきお見せした腕のない方が、自分のどこを拡張するかという感じで。

僕らがこれまで「建築というもので扱う領域や次元はここです」と、それ以外と明確に白黒をつけていましたが、外にも広がっていくし、外からも建築に入ってくるように、どんどん離散化、流動化していくみたいな。

なにをもって建築家と言うのかが、本当に場合と定義次第でどうとでも取れちゃうような感じです。

水口:よくソフトウェアの業界でも「アーキテクチャ」と言いますからね。

小林:確かにそうですね。

水口:いろんなものがアーキテクチャに、総合的になるんだろうなって。それこそ「音のアーキテクチャを都市の中で実装しよう」という考え方の方もいらっしゃるし。そうなりますよね。きっとみんなそれぞれが、nrealやMagic Leapみたいなものを普通につけて街を歩く時代は、10年後には絶対実現してるじゃないですか。

豊田:たぶん10年もかからないですよね。

水口:10年後は、きっとみんな普通にかけていますよね。このカンファレンスなんかでもみんながかけていて、こういう(張り紙やスクリーンを指差す)二次元を見て「懐かしいね」とか言ってるわけじゃないですか。

豊田:「物理的に集まるしかなかったんだよね、昔は」みたいな。

水口:昔は1人とか何人かと対面して、どういう関係で座ったのかということを懐かしく感じちゃうと思うんですよ。

小林:確かに、確かに。

水口:人が真ん中にいて、みんなが周りを囲んでるとか。そんないろんな形態が出てきちゃうわけで、あらゆるものが変化していくと思うんですよ。

専門性を持つ人たちがバランスよく、シームレスに関わる世界

水口:そういうことが当たり前になった時代において、そのときのアーキテクチャはどうなっていると思います? また、どうしたいと思っています?

豊田:その領域が例えばゲームであるのか、音楽という領域なのか、建築なのか。呼び方だって、どう呼んでもいいものになってるんだと思うんです。

その専門性が、高次元の領域の中で、物理的な建築的なものを扱う周辺が得意な人、音的な領域がすごく得意な人など、そういうシームレスな専門性の組み合わせとバランスになっていくんだと思っています。

チームの組み方で、「これは音と物理環境に特化したアルゴリズムが必要だ」みたいな。職業の表現自体がすごく難しくなっていくんだろうなと思います。

それが物理空間に入ってもいいし、食べるものが入ってもいいし、匂いが入ってもいい。その組み合わせって、本当に無限に出てくるじゃないですか。専門性っていう概念も今はいかに一つの領域に深くスパイクするかですが、多領域の繋ぎ方とかその組み合わせの仕方もまたその人のエッジというか、一つの専門性になるんじゃないかと。

小林:僕らはよくARクラウドという話をするんですけど、あれはいわゆる人間側から見たデジタルな空間みたいなものを考えていて。コモングラウンド(街のデータをデジタル記述した都市のコピーに、AIやロボット、自立走行マシンといったデジタルエージェントに現実世界を認識させる仕組みを取り込むこと)って、それにプラスして機械から見たリアルの話とかも含んだ概念じゃないですか。

そうなったときに、コモングラウンドとか豊田さんがおっしゃってるお話とかって、けっこう機械からの視点というか、ロボティクスから見た都市みたいなものまで含まれているのかなと思っていて。

コモングラウンドを掘り下げていくときに思うのが、建築の中でデジタル情報というものがいわゆるマテリアルみたいなものになっていくのかどうかって、ちょっとお聞きしたいなと思います。

今まで壁というもので建築を作っていたけれども、例えば20世紀だったらコンクリートが多かったわけじゃないですか。でも、その中で、21世紀後半とか22世紀になったときに、実はデジタルな壁ができるような話とか、デジタル情報に寄った建築みたいなものができてくるのか。コモングラウンドの先としてお聞きしたいなと思います。