因果関係自体がシャッフルされる状態とは?

水口哲也氏(以下、水口):豊田さんのほうで、大阪・関西万博でARの技術を含めてコモン・グラウンドの壮大な実験ができるとするじゃないですか。そうするとどういうことにチャレンジすべきとか、今、頭の中にどういうふうにしようというイメージがありますか?

ここにいる人たちって、もしかするとそのイメージを具現化できる人たちなんですよね。その可能性がある人たちなので。

豊田啓介氏(以下、豊田):たぶん、ここにいる方々が中心になって、多発していくんだと思うんですけど。

水口:そうそう。例えば「今ここなんだよね」という話って、言える範囲でなにかあれば。

豊田:僕が言える立場にないので……

(一同笑)

なんの根拠もないんですけれど、可能性としては死ぬほどあって、いっぱい出してはいるんですが。

小林:例えばさっきの、理想とするコモン・グラウンドや都市計画みたいなものがあるじゃないですか。その中で最初のワンステップとして、解体される前の建物をスキャンしたり、ARの中で家具を置いてみたりという話もあったんですけれど、次のステップとしてそのゴールに向かうためにどういうすればいいかとか。

豊田:何なんですかね。因果関係自体がシャッフルされる状態はすごく大事なんだろうと思っていて。今は言っても、事前にシミュレーションして失敗がないようにするとか、因果関係とか流れ、工程自体が従来と同じじゃないですか。

そうじゃなくて、あとになってから、その前の状態に戻ってものを変えることが、いろんな段階でできるようになっていく。社会の複合的な体験の在り方みたいな……。口で説明するのはちょっと(笑)。ただ、そういう可能性がたぶんいっぱいできていく気はしますね。

で、その枠組み自体があたらしいから、誰もその仕事や発注のしくみがつくれない。ニワトリとタマゴな状態なんです。僕らがいろんな場面で実装をかさねて、例えばARナビゲーションでもARアバターの身体ハックのアプリ化でもいいので、どういう技術と環境が必要で、それにはどの程度の予算と時間、どんなプレイヤーが入る必要があるのかとか、その効果はどういう形で見えてくるのかとか、そういうのが具体的に見えないと実装のための発注がされないわけです。それをみんなでまずは社会に見せてあげるしかないんじゃないかなと。

全体最適の延長で個別最適化まで実現

豊田:すごくベタな話で言うと、例えばライブ会場ってめっちゃ混みますよね。当然「このへんでコンサートをやっているから、こっちの道は混んでる。だからその混雑は避けたい」と思う。今だったら、例えばこっちの道に「ポケモンGO」のカイリューというモンスターを出しておけば、ポケモンクラスタの人はこっちに行ってくれる可能性がある。

また別の道では「レアなタマゴサンドが販売になります」ということになると、サンドイッチクラスタにそっちに流れるとか。

統計的にどういうクラスタの人がいるかがわかると、個々には自分の好みを積極的に追ってるだけなのに全体最適化がされていって、でも個別最適化もされていく。たぶん運営側の感覚からすると、そういうことができるわけです。それも因果関係を前後させる1つの技術みたいな。そういうものがいろんなスケールで必要になるのは間違いなくて。ただ、その枠組みとか予算とか必要な環境がわからないから、誰もそれを前提とした準備ができないんです。

水口:それってマップレベルのオペレーションシステム、OSとか……そういう統合をするなにかが必要になってくるイメージはありますか?

豊田:それがまさに僕がイメージするコモン・グラウンドというもので、例えばSLAM(Simultaneous Localization and Mapping:自己位置の推定と周辺のマッピングを同時に行って位置を測定する技術)。今だと一応、各エッジがSLAMを書いて、それを共有してデベロップするところは、各サービスやデベロッパーごとにやっちゃうじゃないですか。

でも、SLAMを書く作業ってめちゃくちゃ面倒くさいし、計算に時間を取るし。都度、差異だけでなく環境全体を計算するので。それを、実空間のデジタルツインデータみたいなものがあらかじめあって、そこに置いてあるオブジェクトの基本データもあって、基準点だけポイントで置いてあれば、その情報をこっちでダウンロードして、再生しながらその差異だけ取っていくほうが、断然計算が楽なはずなので。

それを各デベロッパーが個別に開発するよりは、もう「建物には必ずこの形式のデータがありますよ」と。その汎用データ環境をベースにそいつとの差異だけに特化して、コーヒーデリバリーマシン開発してもARナビ開発しても、どのメーカーもそれをベースにして開発できるとなった瞬間に、初めてコストなど含めた実装可能性が出てくるんだと思うんです。

というのは、LiDARとかどうしても高価なデバイスなので、それ積んで計算してバッテリーもみたいに全部エッジ側でやろうとすると、どうやっても製品の単価が落ちない。なにを共有化することでサービスとして必要なところに特化できるのか、という整理が社会としてできる汎用の高い領域って、たぶんいっぱいあるんだと思うんですね。

そしてそういうサービス側の情報と環境側の物の世界とをつなぐ専門性を持っているのは、建築業や都市の領域だと思うので。それが僕らのほうでできると、ARの開発をする人や自律走行エージェントを開発する人が、あるステップから開発を始められる。そのベースをどうやって作ったらいいのかということをみんなで急いで探索していく必要があるんだろうなと思いますね。

建物データの公開が資産価値すら左右するようになる

小林佑樹氏(以下、小林):まさにデジタル上のステージじゃないですけれど、どう提供したうえで各デベロッパーがそこにコンテンツを乗っけるか、というイメージですよね。

豊田:まさに。都市開発で言えば、森ビルさんのビルは、必ず全建物の照明の位置と家具がUnrealとUnityで提供されているんだけど、「三井不動産さんはUnrealだけなんだよね」となると不動産価値も変わってくると。

小林:ははは(笑)。そうすると、やっぱり公開しているデベロッパーさんというか、ユーザーのほうがコンテンツが乗ってくるから魅力も増える。

豊田:三菱地所さんは床にあのタイプのマーカーを絶対入れてくれてるんだけど、住友不動産さんは光学マーカーしか入れてくれないんだよね、みたいな。

水口:それで建物の資産価値が低くなるとかね。

豊田:ほんとにそれで変わってくると思いますね。

水口:「デジタルが弱いんだよね、あそこ~」みたいな。

小林:そういうステージを作ってコンテンツを乗せることは、わりと今は自由にできないんですか? 

デジタルを乗せるとしても、さっき言っていた既得権益などをガチガチに固めている人たちにとっては見えないじゃないですか。だから、別に豊田さんが自分でデータを公開してデベロッパーさんを集めてやることが、可能性としてできるのかなと思って。

豊田:どうなるんですかね。もちろんやりたいんですけれど、とても僕らの企業体力で扱える規模でもないし、そもそも相応の場所もってないとそんなのやらせてもらえないですよね。だから僕らがとりあえず芸大のキャンパスでまずデジタル化をやったのは、芸大って誰も文句言わないじゃないですか。「アートです」って言っちゃえば、みんな「あ~、そうか」ってなりますからね。

小林:ははは(笑)。

豊田:でも、僕らがいきなり森ビルをスキャンしてそれで公開実験とかマネタイズとかしたら、森ビルさんに絶対怒られますからね。

個人情報を使って実験してもいい人はチケットが安くなる、段階式のチケットプライス

水口:そう考えると、大阪万博は本当に実験してもなんでもオッケーな感じで。

小林:そうそう。それこそ、日本のデベロッパーが海外のデベロッパーに公開して、「ここにコンテンツを乗せてください」と言ったら、それはそれでおもしろいことができるかなと思って。

各ピースのARデベロッパーはすごくおもしろいものを作っているけれど、それを統合して、さっき言ったみたいなステージにプラットフォームを作ってあげて、コンテンツを乗せる場を提供してあげる人が、やっぱりまだ日本では少ないのかなと。

豊田:日産もトヨタもホンダも、(自動運転のために)自分たちで道路をつくれるわけじゃない。道路は公共で提供してるけど、それは既存の車のために特化してるからやっぱり自律走行は難しい。自律走行に適合したデータとセンサーの組み合わせの汎用モデルを開発して一定エリアの道路は必ずそのデータ形式に適合しているとか、その状況を早く作ってあげなきゃいけないんだろうなと思うんですけど。

水口:あとは人も当然都市の一部になっているわけで、例えば人事PRというか、万博の中に遊びに行くということは、「自分の個人情報を使って実験をしてもいいですよ」という心構えで行く可能性もありますよね。

万博の期間は実験でもあります。「顔は認識しますよ」とか。

豊田:それもチケットプライスに影響すると思うんですよ。段階的にあって、A段階しか個人情報提供しない人は1万円なんだけど、Cまで提供する人は8,000円みたいな。そうなるんじゃないかなと。

水口:いろんな意味でセキュリティもそうだし、チケット、ゾーニングとか。いろいろいいことはありますよね。ただ、今それをやろうとすると……なんだか一大事だなって(笑)。

小林:ははは(笑)。

豊田:でもその基本モデル、誰かが早急に提示してあげないと、2025年に実装できないんです。

都市レベルで実験しないと社会サービスとして実装できないことが、万博なら実験できる

豊田:そういう文脈は世界のITジャイアントたちは明確に理解していて、GoogleにしてもAlibabaにしても、いわゆるスマートシティ実装をしようとしている。たぶんそういう絵を描いて、トロントの湾岸開発をしようとしたり。Alibabaが杭州を全部デジタル化したりしているんですけど。

まさに今面白いのは、Googleがトロントの再開発案を発表しているのに、市民の反対がすごくなってきてるじゃないですか。市民の反発で、Googleが次の発表がなにもできない状況になり始めていて。

技術的に「ITジャイアントじゃなきゃスマートな開発ができない」とか、資金的に難しいとかいろんなものがあったのに対して、結局資金と技術があったとしても、ソーシャルな反発に対してちゃんと安全や安心を提供できない限りは社会実験ができないという、ソーシャルリスクという新しい要因が急速に大きくなってきている。

でも、今の社会的プラットフォームを商品として実装するには、仮免許実習的に社会実験しないと予想値とのパラメーターや関数の正しさをキャリブレーションできない。結局そこで、社会実装を都市レベルでやらないと本当の社会サービスが実装できないっていう、そういった開発の段階に社会がなってきたと思うんですけど。

そのために、いろんなITジャイアントが街ごと買うという流れになってきている。それでも中国であれば、ある程度できると思うんだけど、それは中国外で使えないものになるし、アメリカとかでやると市民に反対されちゃうと。

それに対して、万博ってまず住民がいないじゃないですか。そして半年だけで全部壊しちゃうし、しくみは単一企業ではありえないから絶対にオープンだし。そういう意味でもGoogleにもAlibabaですら不可能な、半年間限定の実験都市を建設していろんなユーザー集まってみんなで実験のノウハウやデータをシェアする、そんな実験都市を日本で作るなんて、万博っていう機会以外でどう考えてもあり得ないじゃないですか。

万博だと、社会的コンセンサスがある前提でちょうど2025年っていう最高のタイミングに仮設実験都市を作って、「データとノウハウをみんなで共有して、そのあとみんな壊すから後腐れなしよ」と言える。そう考えてみると冗談みたいに理想的な状況ですよね。それをちゃんと使わないとなぁと思って。

水口:こういう実験を通過するかしないかで、その先の日本の未来が変わると。

小林:違ってくると思いますよ。豊田さんにかかっていますよ(笑)。

豊田:いろんな人がいるから僕は関われないかも……(笑)。