大企業 vs ベンチャーぶっちゃけ対談

重松大輔氏(以下、重松):みなさん、こんばんは。株式会社スペースマーケット代表取締役の重松でございます。本日のモデレーターを務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。

私は、大学卒業して平成12年にNTT東日本という会社に新卒で入社をいたしまして、当時スタートアップとかそういう言葉もなく、私の家系もサラリーマン家庭じゃなかったんですね。経営者とかそういうのはよくわからなかったんです。

とりあえず大企業に入ってみたということでやってまして、でもあるとき新規事業をやりたいとずっと言ってたんですけど、会社のカルチャーにもよると思いますけど、NTTとかはあんまり新規事業って感じじゃないですね。

30ぐらいのときにNTTの同期だった友人が立ち上げたフォトクリエイトという会社があって、そこに声をかけられてJOINをしました。以来十数年、本当に赤字垂れ流しのところから入って、一昨年上場まできた。(従業員が)10人から100人の世界なわけですね。

そこから本当に新しいベンチャーの人生がはじまって、勢いあまって2年ぐらいに前にスペースマーケットという、お寺から球場から結婚式の空いている時間帯、最近は教会とか遊園地も入ったりしているんですけど、いろいろなスペースの賃貸ができるマーケットプレイスということをやっております。なので、大企業とベンチャーを知っているということで、お話させていただければと思います。本日はよろしくお願いします。

(会場拍手)

BtoBのあらゆる取引を自動化する

佐々木大輔氏(以下、佐々木):どうもこんにちは。freee の佐々木です。僕は学生時代にスタートアップでインターンをしています。

そのあと博報堂に入って、かなり紆余曲折をして投資ファンドに転職をして、スタートアップのCFOをやって、Googleに入って、いま会社を立ち上げました。

会社を立ち上げるのにだいたい3年ぐらいです。どんなことをやっているかというと、あらゆる小さなビジネスを持っている人たちが創造的な活動にだけフォーカスできるようにしたい、そういった思いをもって、面倒なポストの業務を全部自動化しようということで、経理業務を自動化できる会計ソフト、それから給与計算も自動化できる給与計算ソフトを提供しています。

この会計とか給与というのはひとつの細切りにすぎなくて、将来的にはBtoBのあらゆる取引を自動化するようなプラットホームにしていきたい。あるいは人工知能的なアプローチを使って、あらゆるビジネスのCFO的なサービスを人工知能で自動化して提供する。こういったことに取り組んでいきたいという会社です。

マーケットシェアが重要なんですけども、いまクラウド会計ソフトのマーケットではトップシェアになっていて、新興のスタートアップもあるんですけど、いまレガシィな企業と2強みたいなかたちで競争していてすごくおもしろいです。

最近では金融機関とも提携を進めて、中小企業向けに新しいやり方で融資できるようなプラットホームというのを作るということに取り組んでいます。

これはちょうど今週アナウンスしたんですけど、(スライドの)次をお願いします。こんなかたちで大手の金融機関さんと提携を進めていると。こういうことに取り組んでいる会社です。今日はよろしくお願いします。

(会場拍手)

ソニーが立ち上げた新規事業

下村秀樹氏(以下、下村):ソニーの下村といいます。ここに来てみたら、「スタートアップと大企業の対立軸をはっきりと出すように」と言われてちょっと戸惑ってはいますけど、僕もあまり深く考えたことがないので、適当に経験したことを話したいと思います。

私自身はソニーが2社目で大企業から大企業へと移ってきて、ソニーに入ってからすぐにロボット、QRIO(キュリオ)、AIBO(アイボ)をエンジニアとして開発していました。(会場を見て)そんなに驚きますか?

開発した人は絶対世の中にいるはずで、たまたま僕がそれだったというわけです。じゃあ、尊敬してください(笑)。

(会場笑)

下村:そのあと人工知能の研究を深くやろうってことで、3、4年、研究所を立ち上げて、いまディープランニングとか流行っていますけど、それの走りとなるような研究をしっかりやっていまして、本を書いたりもしてました。

そのあと、なぜかソニーの中で「お前、新規事業やれ」と4年前ぐらいに言われて……技術で生きていくんだろうなと思っていたのにひでえなと思ったんですけど、会社で新規事業やるなんて幸せだなって思ってやりはじめました。

いま外に出ているものだと、ソニーの「MESH」は僕と萩原君というリーダーで一緒に作り上げてきたものです。それからエアロセンスというZMPとソニーモバイルの合弁会社で、ドローンを飛ばして測量する会社の立上げにもかなり深く関わっています。

いまでも両方のプロジェクトに毎週毎週かかわっています。会って話をしたり、社内メンターみたいな役をずっとしています。けっこうちゃんとやってるなという気が自分でもしてきました(笑)。

いまは新規事業の人材向けのマネージャーをやっていて、(スライドの)一番右上に書いてあるビジネスクリエーター室というソニーの組織を持たせてもらっています。これは、社内外からビジネスをやりたい、技術というよりはビジネスをデペロップメントしたい、顧客開発して本当に新しい事業を作りたいという人を呼び集めてきて、その人をソニー内にたくさんあるシードに配置する。

さらに育成の機会も与えてみんなで盛り上がっていこうという場所を運営させてもらってます。大企業でこういう組織を持っているところがあまりないらしくて、「ソニーさん、やっぱりいいらしいですね」なんて言われて、けっこういい気になっています。なので、もし来たかったらこういうチャンスもあるというのを、後でもう1回話します。

最近、僕のところにそういう意味で新規事業の情報が集まってくるんですね。ソニー内の新規事業で1個僕が気に入っているのがあって紹介します。(スライドを見て)これなんですよ。わからないですよね。

(胸ポケットから実物を取り出して)これはボタンを押すと香りが出るんですよ。このコンセプトのなにが好きかというと、ウォークマンって音楽を外に持ち出したじゃないですか? (これは)アロマ、香りを自分だけのものとして外に持ち出すというコンセプトでいくと。

いまそこに藤田くんがいますけど、彼がやっているんですね。こういうものがソニーから生まれるんだと。そこに携われるというのはすごくいいなと思って、いま楽しく仕事をしているところです。今日はよろしくお願いします。

重松:よろしくお願いします。麻生さんよろしくお願いします。

ハードウェアスタートアップの製造支援

麻生要一氏(以下、麻生):こんばんは。リクルートホールディングスの麻生です。よろしくお願いします。僕はリクルートに入って10年目になります。

入社2年目の終わりに、リクルートが長年やっている「New RING」という新規事業コンテストで受賞したところから僕の社内起業家人生がはじまりまして、自分でつくったプロジェクトをそのまま大きくして分社化をして、今日1階にも出展させていただいている株式会社ニジボックスという、リクルートホールディングス100%出資の子会社なんですが、その会社の社長をしています。

2年前からリクルートホールディングスに兼任で呼び戻されまして、リクルートホールディングス全体の新規事業開発を統括するということで、Media Technology Labという部署をやっています。

リクルートの新規事業開発のやり方はすごくボトムアップでして、年間500件を超える提案がリクルートグループ中から集まってきます。その中で良さそうなものをテストマーケティングにかけて少額の投資をして、良さそうなものを事業化にかけていくという。

いわゆるスタートアップがスタートアップを起こしてVCから資金調達をしてというようなステップ論を1社の中で育成するようことをやっていて、その統括をしています。

最近やっている新規事業でおもしろいものを2つほど紹介したいんですけど、(スライドを見て)これはリクルートの新規事業で、12月にリリースした「BRAIN PORTAL」という事業があるんですが、ハードウェアスタートアップ向けの製造支援の事業をはじめました。

キックスターターとかで、ソニーさんはアロマスティックみたいなものを作ったら、製造と量産まで完全にいけるという話だと思うんですけど、例えばこれをスタートアップで調達して、クラウドファンディングで資金調達して、さらに量産化しようと思ったときに、スタートアップのやることって工場探すことなんですね。でも、探せないんですよ。

ハードウェアってすごい精密機械なので、3Dプリンターのモックの段階では出力できた部品を工場に持っていったら金型が抜けなくて製造できないんですね。そうすると設計が最初からやり直しで倒産しちゃうと。調達に成功したハードウェアスタートアップの実に80パーセント以上が倒産するというんです。

そういう状況に対して、ソニーさんや日立さん、パナソニックさんなどのメーカーのOBの方をネットワーク化したメーカーのプロフェッショナルネットワーク(をつくっていく)。あとは日本の工場で、どの県にある、どの工場の、誰が、どういう素材の、どういう工程に強いのかということをデータベース化しようと思っています。

それを量産化の工程でつまずいちゃうハードウェアスタートアップにマッチングしていくという事業をはじめています。

あともう1個だけ紹介させていただくと、ニジボックスという僕の会社がやっている新規事業で「レシポ」というサービスをやっています。これは、「圧倒的な特売サイト」と言ってまして、お茶を買うと150円のレシートがコンビニで出てきますよね? そのレシートを写真に撮って、レシポというサイトに送ってもらうと、150円だったとすると、最大150円をキャッシュバックするというサイトになっています。

圧倒的な特売サイトで、テレビとかでめっちゃ取り上げられていて、ユーザーがめっちゃ伸びています。これはどこで儲かっているかというと、万単位で特定の日に特定の商材が特定の店で売れるんで、O2Ooneというところで、メーカーさんから「販促費で消化してくれ」と。そういうことをたくさんやっています。立場的にはベンチャー的だったりするので、質問によっては向うサイドに加担する場合もあります(笑)。

(会場笑)

麻生:今日はよろしくお願いします。

下村:(大企業側が)不利ですね(笑)。

クラウド型会計ソフト「freee」を起業したきっかけ

重松:いやー、すごいっすね。ではパネルディスカッションスタートということで、ベンチャーの方に質問。「なぜ大企業を飛び出してスタートアップしたのですか?」ということで。まず、佐々木さんから。

佐々木:僕はGoogle時代に中小企業向けのマーケットを持っていたんです。どういうことかっていうと、検索結果の横に広告が出せるんですよ。あれって中小企業の方でも誰でも、自分で申し込んで出せるんですよね。

ただ、皆さんそういうことを知らないので、それをマーケティグして広げましょうというのをやっていました。すごく成果が出たので、僕はアジアパシフィックの責任者になりました。

やっていてすごくおもしろい仕事だと思ったんですけど、小さいビジネスをやっている皆さんはテクノロジーのことをぜんぜん知らなくて、実はいろいろなものを活用すれば自分でできないことがいっぱいあるんだけども、それがぜんぜん知られていない。

また歯がゆかったのは、オンライン広告ってわりと最後にくるもんなんじゃないかなって思っていて。そもそも(当時の)日本のビジネスってWebサイトも持っていない、あとはみんなFAXを使ってコミュニケーションをしている。

こういうような状況なので、もっとビジネスのど真ん中をインターネット化するといったことに取り組めないかなって思ったんですね。

たまたま僕がGoogleの前にスタートアップでCFOやっていて、自分のチームの経理を見ていたときに、「会計ソフトってけっこう問題点が多いんだな」って思ったことを思い出して、もう一度「あの業界ってどうなったんだろう」って検索してみると、なんのイノベーションも起こっていない。

こんなに課題が明確にあるところにイノベーションが起っていないということは問題だと思って、いてもたってもいられなくなって、自分でプログラミングを勉強してコーディングを始めた。それが起業したきっかけです。

いち早く気づいたシェアリングエコノミーの可能性

重松:私はまずNTT東日本という会社に入って、NTTの良いところは安定しているところで、悪いところも安定しているところだと思っています。

当時の上司に言われたのが、「40才になると君はなんとか支店の課長だよ」みたいな話をされて、先が見えるってすごい怖いことだなと思って、いま40才なんですけど、同期とか見るといま本当にどこかの支社とかの課長なんですよ。

そういう先の見える世界が嫌だったので、見えない世界に行こうと思って。でも、いきなり自分で立ち上げるのは怖かったので、いったんスタートアップっぽいところに行こうと思って探していたら、たまたまフォトクリエイトという私のNTT時代の同期だった創業者がいた会社にジョインしました。

(スタートが)十数人ぐらいの本当に無茶苦茶な会社だったんですけど、それがだんだんと事業を大きくして、当然成長の痛みや、組織も30人の壁とか50人の壁とか100人の壁とか、そういうのも全部体験して、結果的に一昨年上場して1つの成功のかたちを見ました。

ある程度安定した会社になって、そこで安定というか、いい意味で先が見えてきたというのがあって、その瞬間にやっぱりまた不安定なところに戻りたいなと思って。

「じゃあ、次は自分でやろう」と2年半前にいろいろ考えて、一応100個ぐらいビジネスアイデアを考えました。あとは、起業したい方は絶対やったほうがいいんですけど、500startupsとかY Combinatorとかアメリカのアクセラレーターとかが出資しているリストがネットで落ちているんですね。

あの人たちのほうがトレンド(をつかむのが)早いので、それをつぶさに見ていって自分にできるのないかなって思ったんですね。自分の今までやってきた経験が生きて、やっていて楽しくて、おもしろいビジネスないかなって思っていたところに、1つのキーワードとしてシェアリングンエコノミーというのが(浮かんだのが)2年半前だったんですね。

UberとかAirbnbが伸びていて、これは日本にも絶対来るはずだと思っていた際、当時、結婚式写真をネットで販売するというビジネスをしている中で結婚式場に営業に出入りしてました。

結婚式場の平日ってガラガラじゃないですか。土日祝日はフル稼働しているわけですね。一方で、普通のオフィスは、土日もセミナールームとか会議室とか、無駄に空いてたりするんですね。

これは絶対お金払ってでも借りたい人がいるはずだというのを、Airbnbとかの発想が一緒になって、これはやるしかないということで、ちょうど2年ぐらい前にスペースマーケットという会社を作ったという感じです。

大企業を辞める理由が見当たらない

重松:次は大企業の方に質問ということで。「なぜ大企業で新規事業という道を選んだか」ということで麻生さん。麻生さんって、自分で起業したほうがよかったんじゃないですか?

麻生:いろいろ言われるんですけど、「なぜ大企業を選んだか」という質問はあんまり当てはまらなくて、僕の場合はやりたいことをやりたいと言ったらやらしてもらえたので、出る必要がなかったんです。

重松:いい感じですね。

麻生:いや、本当にそうなんですよ。今も「(会社)出たら?」っていろんな人に散々言われるんですけど、出る必要をあんまり感じてなくて。やりたい新規事業のほとんどが今できているんですね。なので、出る必要に迫られなかったからということです。

下村:個人的に僕も麻生さんに近くて、必要に迫られないんです。僕50歳ですけど、45歳ぐらいまで真面目に研究開発をしていて、本当に研究で飯食っていくと思ってずっとやっていて、突然「新規事業をやれ」って言われたんです。

「ふーん」と思って、とりあえずやってみようと思ったら2つぐらい結果が出てきて、自分自身のキャラも自分でなんかガリガリやるというよりかは、わりとフォロワー的なマネージャーなんですね。

だから「君たちやりたいの何?」「よし、じゃあこうやったら?」「じゃあ、ここ引っ張っていこうか。ここと話つけようか」みたいな感じで、大企業で新規事業をこの立場でやるのは非常にキャラが合っていると。個人的にはあまり辞める理由がないんですね。一方で、みなさんに参考になるかなと思うのが、やっぱり辞める若いやついっぱいいるんですよ。

例えばexiii(イクシー)という筋電義手をやっている会社の親友がいるんですけど、彼は1年ぐらい前まで僕のところにいたんですね。突然来て辞めていったんですけど、その彼を見ていると、やっぱり世の中に対してインパクトを与えたいという思いが潜在的にあるんですね。

それをどうやっていいかわからないので、彼も大企業でちゃんとロボット作ったりしてたんですけど、やっぱりあるとききっかけがくるんですよ。それはアワードもらったり、ベンチャーから資金調達ができるタイミングがきたとか。

その段階で何度も僕のところに相談きましたけど、僕も最後は背中をバーンと押しちゃったんですよね。なるほどと言って出るわけですよね。

だからすごく強い思いがあって、そこにきっかけが重なったときに若い人たちが次のチャレンジをするのかなと思って。それはいいことだなと思うんですよ。社内でたぶん筋電義手はやらなかったと思うので。彼がやりたいと思ったことをやれたのはすごいよかったなって思います。

もう1つ、外に出た彼を見ていて、すごい勢いで成長するんですね。社内ってやっぱり閉鎖的なところがあるので。それを見ていると、スタートアップで自分の責任を持ってやるというのはすごい重いことだし、だからこそ得られるものがある。大企業にいて僕らはもう少しそういう価値観を社内で持たないと危ないと思うんです。ちょっと脱線ですけど。

重松:ちょっとこの2社は特殊かもしれないですね。僕が入った会社はかなり堅い会社だったので。新規事業なんか考えられない感じですよね。

麻生:やりたいと思ったときにチャンスに巡り合うかというのもそうだなって思ってまして。僕もリクルートの中で、やりたいって言ったときにやらしてくれるチャンスを与えてくれたから大企業でやっていますけど。

下村:そうですね。思いを持っていることがすごく大事で、多くの場合はそのチャンスを誰がくれるのかという選び方じゃないかなと。

重松:うちのCTOがMedia Technology Lab出身で……今OBがいっぱいいますもんね。

麻生:そうですね。良いのか悪いのかはあれですけど、いっぱい輩出させていただいていますね。

重松:素晴らしい経営者いっぱいいますもんね。