南極やヒマラヤ、模擬火星実験施設で活躍する極地建築家

安藤健氏(以下、安藤):それでは、お2人目のパネラーの方のご紹介に移りたいと思います。続いてご紹介させていただくのは極地建築家、この肩書き自体が珍しいかなと思いますけど、村上祐資さんよりお話いただければと思います。

簡単にご紹介させていただきますと、村上さんは南極やヒマラヤなどさまざまな極地の生活を踏査されております。2017年には史上最も過酷な模擬火星実験と呼ばれるMars160計画の副隊長に選ばれ、計160日間の実験環境を完遂されております。

その翌年には、火星生活実験MDRS Crew191 TEAM ASIAの隊長に就任されております。最近では退役した元南極観測船を活用して、日本初の閉鎖居住実験空間SHIRASE EXP.を実施された極地建築家の第一人者とも言える方かなと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

村上祐資氏(以下、村上):改めまして村上と言います。よろしくお願いいたします。僕は今ご紹介いただいたように極地という場所で暮らしてきたんですけれども。暮らすことをしてない人とか、生活をしてない人なんて世の中にいないんですけれども。それでも、こういうステイホームの状況になると僕らはあたふたしてしまうんですよね。

「暮らすということはいったい何なんだろう」というのを、僕はずっと追い求めていて。そのために、極地といういろいろなものが削ぎ落とされた場所に暮らしてきました。(スライドを指して)今、写真が映っていますけれども、こういったところに長くいましたね。

今映っていた写真、極地というのは南極や北極、そしてヒマラヤ、火星を模した模擬実践生活の場で集団生活をするんですね。そこにはたくさんの選考を経て、人種も職種もいろいろな人が集まってきます。

そして閉鎖空間であることと、旅行でちょっと滞在するのではなくて、かなり長期的に隔離された生活というところですね。冒険家と違ってその極地と戦うわけではないんです。ただ、逃げられもしない。帰りの船などが来ない限り、その場所にただただ留まる。僕はトータル1000日くらい留まっているんですけれども、そこで暮らしてきたということですね。

極地の生活にも「日常」が必要

村上:今はフィールドアシスタントという組織の代表をしているんですが、このフィールドアシスタントでは、退役した元南極観測船SHIRASEという船を使って、地球から火星に向かう宇宙船の中なんだぞという設定のもと、4人のクルーが16日間の閉鎖生活を送ります。

これも生活をしながら、例えば食べ物や服、スケジュール、チームのバランス、いろいろなところが、そこで実証検証をするわけですね。僕らが忘れ物をして火星に行ってしまうと取りに戻れないので、最後にここでいろいろ検証して、本当にこれで大丈夫だろうかと。結局大丈夫じゃないということがわかるんですけど(笑)。そういった実験を日本で初めてプラットフォームとして作りました。

みなさんは極地の生活と言うと、(スライドを指して)「非日常・生命維持・VUCA・計画・意志の力」と書いてありますけれども、このような非日常であるとか、生命の維持、あるいはVUCAワールドという不確定な世界に抗うために計画的に日常を送る。そして、ものすごく強い意志の力でもって生活をしているイメージがあるんじゃないかなと思いますけれども。

長期の閉鎖生活は決してそうではなくて、その中に必ず日常が必要なんですね。日常がないと、やっぱり人間は生きていけない。日常であるということは、生命維持ではなくて生活である。VUCAワールドじゃなくて安寧秩序がある。そして、計画というより暇な時間がほしい。意志の力というよりも気分の力がないと、SFみたいなドラマチックな非日常ではいけないなということ。

ただ難しいのは、壁1枚の外は地獄というか、サバイバルな世界があるので、そこを見るのか見ないのか。その間にどういった区切りを使うのかということが、ものすごく人間の心理に影響を与えますね。その壁の中に、今日のテーマでもありますけど、テクノロジーといったものがすごく含まれてくるのかなと思います。僕からの自己紹介は以上です。よろしくお願いします。

安藤:ありがとうございました。本当に村上さんの話は何度聞いても、体験したことがなくておもしろい話をいつも聞かせていただいておりまして。またのちほどぜひよろしくお願いいたします。

さまざまな素材を用いて“現象的な空間”を創り出す

安藤:3人目のパネラーの方のご紹介をさせていただきます。3人目は永山祐子建築設計主宰の永山祐子さんです。永山さんは昭和女子大学生活美学科を卒業後、青木淳建築計画事務所勤務を経て、2002年に独立。

「LOUIS VUITTON京都大丸店」や「丘のある家」を手掛けられまして。JIA新人賞をはじめとして数々の賞を受賞されております。現在はドバイ万博の日本館や新宿歌舞伎町に作られる高層ビルなどの計画を推進されております。それでは永山さん、どうぞよろしくお願いいたします。

永山祐子氏(以下、永山):よろしくお願いいたします。今まで作ってきたものをお見せしながら、いつも考えていることをお話できたらなと思います。こちらは瀬戸内海の豊島にある横尾忠則さんの美術館になります。

ここではこのような赤いフィルムを使って、すごく現象的な空間を作るということで。建築に現象を取り込むことをやっていることが多いんですけれども。赤いフィルムを通して見ると周りがモノクロに見えて、横尾さんの特徴である色が一度消えて、また新たに出会うという、すごく体験的な美術館として設計をしました。

もう1つ現象的なもので言うと、先ほどもご紹介いただきました京都の大丸のLOUIS VUITTONのお店なんですけれども。光学フィルムである偏光板を使いまして、実際は存在していない格子模様でファサードを作ったんですけれども。このように建築を物質で作るのではなくて、現象で作るということにすごく興味を持っていまして、いろいろなかたちでそれを表現しています。

幕でできた未来型の住宅やドバイ万博の日本館を手がける

永山:あとは住宅です。住まう空間ということもお話にあったので、(スライドを指して)こういった住宅を作っています。こちらは半分ガラス張りの空間になっているんですけれども。そうするとちょっと熱負荷が高いという問題があるんですが、天井に調光ガラスを設けていまして99パーセント遮光できるようになっています。新しい技術によって、このような空間も住まいとして快適にできるようになりました。

次は下がお菓子屋さんで上が住宅ということで、パブリックとプライベートをどう分けるかということをテーマに住宅を作りました。住宅と店舗の間に少し空間を設けまして、その隙間から街が見えるようになっています。人間の生活の中で、プライベートとパブリックが同居したときにどういう構成がいいか、というようなことをこの住宅の設計を通して考えました。

こちらは2016年のHOUSE VISIONにパナソニックさんと一緒に発表させていただいた「の家」という未来の家です。すべて幕でできた柔らかい家になります。すごく軽くてどこにでも持ち運べるような家。小さくてコンパクトな空間なんですけれども、ここに新しい技術がすごく盛り込まれていて。そういう軽くて柔らかくて、でも技術的な堅牢さを持っているという新しい未来型の住宅です。

こちらはドバイ万博の日本館です。このファサードが日本の伝統的な幾何学文様とアラベスクを組み合わせたような立体格子を作りまして。これが構造であり、設備的な、日を守ったり……日陰を作る。そういった役割を持っています。これが風で少し揺らぐんですね。そういった小さな揺らぎを表現したいなと思って、あえて小さなピースに幕を割っていて、常に風に揺れ動いているような建築になっています。

水のゆらぎを表現した波のような建物

永山:こちらは歌舞伎町のミラノ座という建物で、超高層としてはめずらしくオフィスが入らない、すべてエンターテインメント施設として、ホテルとか商業施設や劇場が入っているんですけれども。

そういうちょっと特殊なプログラムということもあり、変化し続ける噴水のような水の表現を考えました。一般的な材料を使いながらも水のゆらぎみたいなものをどう表現するかということで、ガラスの反射などのいろいろな効果によって表現しようと思っています。

こちらは最近できて、7月14日にオープンしたんですけれども、高輪ゲートウェイ前のTakanawa Gateway Festというイベント会場になります。品川のこのあたりは昔は埋立地だったので、その海の記憶ということで「しらなみ」という名前で全体的に波のようなかたちをしています。

これはパナソニックさんと取り組んだ「の家」の大きい版のようなかたちで、それがたくさん寄せ集まって大きな波を作っているような場所になっています。今会期中なのでぜひいらしていただければなと思います。以上になります。

安藤:最新の事例からご丁寧にパナソニックの事例まで混ぜていただきまして(笑)。ありがとうございました。