「なりたい自分」に近づくための言葉を身近に置く
兼松佳宏氏(以下、兼松):じゃあ、2つ目のキーワードいかがでしょう?
(会場挙手)
じゃあ1、2でいきます。では最初、お願いします。
質問者2:「自分に言い聞かせ続ける」というキーワードが、すごく気になったんですけど。私も最近、自分に言い聞かせ続けていることがけっこう増えてきて。なりたい自分があって、今の自分があって、なりたい自分に自分がなれるような態度だったり、言葉だったりを使わなきゃって、わりと暗示をかけているんですけど。他にもそういうことを思う方がいるのかなと思って気になりました。
兼松:こちらは中村君が選んでくれました。その心は?
中村真広氏(以下、中村):これはbeの肩書きに限らず、まさにおっしゃるとおりだなと思っていて。自分の振る舞い方だったり、言葉遣いだったり、気を付けていかないと、そっちのトーンに観点がなかったりするじゃないですか。ですので、そういうふうになりたい自分のトーンの言葉を極力身近に置いておく。そういうのが僕は重要じゃないかなと思っています。
兼松:なりたい自分に近いトーンの言葉を身近に置いておく、というのはどういうことですか?
中村:なんていうんですかね(笑)。僕、今年、屋久島に行ったんですよ。屋久島に行って、自分のインナーの部分に触れられた気がしたんですね。
佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):屋久杉は見ました?
中村:屋久杉までは行かなかったんです。
佐渡島:僕、行きましたよ。
中村:屋久杉まで行ったんですか! 11キロくらいありますよね。
佐渡島:そう、大変でした。
兼松:縄文杉?
中村:そう。
佐渡島:土日じゃなくて、人がいないときに行ったから。そうしたら上に10人くらいしかいなくて。上で鍋をつつくのは最高でした。
(会場笑)
中村:最高じゃないですか! そこに鍋を持って行ったんですか?
佐渡島:ガイドの人が持っていて。
中村:ああ。僕は1歳になる娘と行ったんです。なので途中までで引き返したんですけれど、すごくよかったんですよ。そのとき心の開いていく感じが自分の中にあって。都心に来ると、心がまた閉じていく感じがあるんですけど。
もったいないから、その体験を言葉にして家の壁にぽんと貼ってるんです。それを毎朝出かけるときに見て、今日も心を開いていこうって出かけたりするんですけど。そういう言葉の力が重要だなと思って。
すぐに思い出せない言葉はよくないもの
兼松:それってどんな言葉かってシェアしにくいものですか?
中村:いえ、ぜんぜん大丈夫ですよ。「心開き繋がる」です。それを屋久島の写真の上に、自分で書いて貼っています。
兼松:いいですね。言い方にはちょっと気を付けたいんですけど、小学校とかで一方的に決められた、「健やかに楽しく」とかの標語って、正直ぜんぜん響かないじゃないですか。でも、中村さんのその短いシンプルな言葉は、自分にとって残っている体験なので、すごく響くわけなんですね。いつでも思い出せる。
中村:(気持ちが)屋久島にもう1回戻るんですよね。そんなことを思って書きました。
兼松:戻ってくる。すごいなあ。なにか言い聞かせ続けてる言葉ってありますか?
佐渡島:言い聞かせることはないですね。言い聞かせないといけないってことは、無理してる感じがあるわけじゃないですか。無理しないようにと考えているので。言い聞かせないとダメなことは、逆にやらないというか、忘れちゃうというか。僕はまったくメモを取らないんですよ。
兼松:まったくメモを取らない。
佐渡島:はい。字が汚すぎて書いたのが読めないっていうのもあるんですけど(笑)。
(会場笑)
だけど、それ以外にもメモを取らずに何を覚えるかというのをやってるんですよ。例えば、この3つが重要とか決めるじゃないですか。コルクの行動指針だと、「さらけだす」「やりすぎる」「まきこむ」という3つなんですが。これを決める時って、さらけ出し? とか、記憶の中で言葉がずれるじゃないですか。
そこでずれるということは、よくない言葉なんですよ。みんなに言ったときも記憶しづらいと。ずっとアイデアを考えているときに、思い出せるかどうなのかということで、自分のアイデアをチェックするようにしています。
それを1日に朝も昼も晩も思い出せるかどうかチェックしているようなものだから、結局は言い聞かせているような雰囲気になりますけど。
自分の心の中に「問い」を置いておく
兼松:ニュアンスの違いですね。大事なことを周りに置いておくようなところは、共通しているかもしれません。言い、聞かせ、続けるんですもんね。なかなか力があるけど、そういうトーンにした理由はなんですか? 離れていきやすいから?
中村:今自分で見ても重いですね(笑)。
(会場笑)
ちゃぶ台返ししました(笑)。
(一同笑)
兼松:自分に言うくらいですもんね(笑)。
中村:もう少しライトでもよかったかな。身の回りに置いておきたいと思って。たぶん、脳内のスクリーンに回すのに近いと思うんですけれど、そのくらいのトーンなんですね。
質問者2:1日1回見るくらいの感じ? 置いておいて。
中村:そうですね。朝と晩ですね。ちょうど鍵を置くところに書いたんで。それを日常化して、ぜんぜん違和感がなくなってきたんですね。
兼松:ふと立ち上がってくるといいのかな。僕の場合、問いを置いておくことが多くて。例えば、今いろいろな仕事の相談を受けたときに、「勉強家としてこれはやるべきことだろうか?」みたいな問いが頭というか心にあって、イエスorノーみたいな判断がしやすくなったりして。要は、再生しやすくしておく。
座右の銘って「これ!」って感じがあるから、それからエネルギーをもらえることもあるし。でも、問いというのはけっこうその時々によって答えが変わってくるので、より使いやすかったりするかもしれないし。
質問者2:それは問いかけ続けるという感じですか?
兼松:問いがスッと出てくるような準備をしているというか。これは、例えば僕が昔転職する時に、「この仕事はいつかもし子どもができた時に誇れることだろうか」ということを常に判断材料にしていたんです。
短いクレドのように言葉の引き出しの中に置いておいて、スッと出せるようにしておくというのは大切だと思います。ただ本来、言葉って伝えきれないし、移り変わっていくものだとも思うんです。
言いたいことのたぶん何割も言えないけど、言葉を仕事にしていればいるほど、その言えなさも愛おしい。beの肩書きもそのものもそうなんですけど、中村君の話からは響く言葉の見つけかたのヒントとなったような気がしました。質問していただいた方、いかがでしょう?
原体験につながる言葉が響くものになる
質問者2:素晴らしいことをいろいろ聞かせていただきました。ちょっと悩んでいたこともあったんですけど、佐渡島さんがおっしゃっていたことがすごく(ためになりました)。結局、書いておかないと忘れちゃうということ。あと、ずれている言葉は残らない、というのをおっしゃってたのが、私にとって必要な言葉でした。ありがとうございました。
兼松:よかったです。
質問者2:もう1ついいですか? 原体験があったから、書いたことが響くっておっしゃったじゃないですか。ただ言葉があるだけじゃダメなんだなっていう。その人の原体験に響く言葉を見つけてあげて、さっきの小学校の話もそうですけど、それが子どもたちの原体験に繋がる言葉で書いてあればいいわけですね。それをどうやって引き出してあげたらいいのかというのが、今すごくきちっとはまりました。ありがとうございます。
(会場拍手)
中村:ありがとうございます。
兼松:いいですね。よかったですね。
中村:こっちもすごく嬉しいです。
兼松:じゃあ、はい。
質問者3:(スライドを指して)「アンソロジーをつくる」というのが気になってですね。そこだけまったく想像ができなくて、どういう話なんだろうってちょっと考えてたんですけど。最近いろいろ自分の中で「これも好きなんだ」「あれも好きなんだ」「逆に好きだと思ったけど嫌いじゃん」という変換があって。そういうのを集めるということかなって思ったんですけど。そういうお話なんですかね?
兼松:申しわけないです。これは僕が出したキーワードですね。なんとなくスライドの配置を読んでくださいね、とか言って(笑)。
(会場笑)
自分の名前の意味を改めて考えてみる
兼松:最後はちゃんとみなさんに話してもらいますが、「アンソロジーをつくる」っていうのは僕で。要は、beの肩書きを言葉にするための詩集をつくっておくというか。具体的には、自分の好きな詩や言葉を集めるというくらいの意味ですけど。beの肩書きをやっていくと、今みなさんにこのリストから選んでもらったものって、軽やかなものだと思うんですね。
でも、その下に、僕にとって「沙門」という重要なbeの肩書きがあります。沙門というのは一修行僧という意味で、僕が大好きな空海が自分のことを名乗るときのものなんですけど、「勉強家」もふくめて、僕のいろんなbeの肩書きを統合するものなんですね。
それであえて、大文字のBEの肩書きとしています。そして、そういうものって、何だかポエティックな表現になることが多いなあというのが僕の感想で。
例えば、下の名前が緑さんという方がいて、ここの大文字のBEの肩書きに「みどり」と入れてくれました。それは「光を通して栄養を社会とシェアする人」という意味だったんです。そうやって自分の名前と再会するっていいなあと。僕って佳宏じゃないですか。よきを広める。グリーンズじゃん! みたいな(笑)。真実を広めるとか。なので庸平は……。
佐渡島:今聞いてほぼほぼ庸平だなって思えたのが、中庸で平らなんで、バランスをかたちにするっていう。
兼松:おおー!
佐渡島:編集って仕事自体もいろいろな人たちを集めて、最もいいバランスを探すっていう仕事だなって。
兼松:それ、いつ気付いたんですか?
佐渡島:それはけっこうずっと思ってました。
兼松:10歳くらいからですか?(笑)。
(会場笑)
佐渡島:それはさすがに(笑)。起業してからです。僕の名前は両親が中庸という言葉からつけてるんですけど。
兼松:そうなんですね。
佐渡島:経営をする上で、中庸っていうのは本当にすごく大事だなと思っていて。
兼松:中村さんは聞いたことありますか?
名前は親からもらった「beの肩書き」
中村:いや、ないですかね。ないですけど、確かに今言われてみると、親からもらったbeの肩書きだなって。
兼松:そうなんですよ。名前ってもともと願いがこもっているんですよね。もちろん、それがプレッシャーになっているという人もいるとは思いますが。アンソロジーの話に戻ると、例えばミヒャエル・エンデでもリルケでも、自分にしっくりくる言葉を意識的に探してほしいなと思っています。
アニメのキャラクターでもいいですよね。以前は「平和主義者ジャイアン」というbeの肩書きを選んだ人もいるんですけど。「なるほど! おれのものはみんなのもの」みたいな。そういうやつ(笑)。
(会場笑)
それにしても庸平のエピソードはしびれましたね。(質問者に向かって)ちなみにお名前はなんですか?
質問者3:ユウキっていうんですけど。裕福な貴族って書くんです。
兼松:裕福な貴族。そうなんですか?(笑)
質問者3:銀行の人に裕福な貴族って言うのが、すごく恥ずかしいんですけど(笑)。
(会場笑)
もともと、もちろん裕福な貴族になれっていう意味で付けられたわけじゃなくて、人を尊んで、自分が豊かな心を持ってという気持ちでつけてもらって。あまりに裕福な裕福なと言いすぎて、ちょっと好きになってきてるんですけど(笑)。
(一同笑)
豊かにっていうところで、親が「自分のやりたいことを勝手にやれ」という感じで、自由にやらせてもらっているので。それが逆に、いろいろなものから取り入れて豊かになっているな、というのは今聞いて思いました。
兼松:よかった。いい話を聞けました。僕が用意した肩書きリストからbeの肩書きを選ぼうとすると、どうしてもマインドというか、頭中心になってしまうときもあると思うんです。それはそれで1個目としては大事なんですけど、この部分は心の部分が大事になってくるので、そうやっていい言葉を集めてくださいね、という指針でした。ありがとうございます。拍手。
(会場拍手)
じゃあ、戻ります。佐渡島さんのキーワードが出てなくて申しわけないです。
中村:次の質問をされる方に期待です。