IT企業じゃなくてもできる! ジワジワスクラム

蜂須賀大貴 氏:よろしくお願いします。「IT企業じゃなくてもできる! ジワジワスクラム」についてお話しさせていただこうと思います。株式会社IMAGICAというところで働いているんですけど、ご存知の方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

ありがとうございます。ご存知じゃない方は、こんど映画を観たときにエンドロールを最後まで見てみてください。映像の会社なので、たぶん載っています。

僕は何をやっているかですが、プロジェクトマネージャーやプロダクトオーナーをやりながら、インフラエンジニアをやってます。先に言っておくのですが、今日はすごくエモーショナルな話をします。技術的な話はなにもないんですけど。

僕は映像業界の働き方を変えたいと思っています。映像業界って、基本的に個人のスキルやセンス、職人芸みたいなところで仕事をしていく業界になっているので、それをチームで働ける業界にしたいと思っております。

この会社って、社員が1,000人いるうちに、エンジニアは10人しかいないという状況でございます。なので、「エンジニアってどういうことやってんの?」といった質問に対して、「魔法を使っている人たちでしょ」みたいなこと言われる業界です。なので、「スクラム」とか「アジャイル」とか言っても通じないような業界です。

大きく変えるのではなく、明日をちょっとだけ良くしたい

そういったときに、「逆にどうしますか?」っていうのが僕の一番の問いだったんですね。その話をしようと思います。ウォーターフォールでこう開発しますよとか、アジャイルとかSPとか、スクラムとかいろいろあるんですけど、そういったことを、会社で誰かに話して適用させようとしても、正直無理ですと。簡単にいうと「何をしてんの? その人たち」みたいな。「カタカナの言葉を言われても僕たちわかりません」みたいな状況なんですね。

それは「手段であって目的ではないよ」ということを念頭に置きながら、活動するのが重要かなって常に思っています。これはたぶん、映像業界だからってことではなくて、IT業界以外で開発をやっている方々には、とくにこういう側面があるんじゃないかと思っています。

それで僕たちが何をやりたいかっていうと、別にスクラムをやりたいっていうことではないです。明日をちょっとよくしたいだけなんですね。具体的にいうと、「自分たちが困っているところをどう解決したいか」であったり、お客さまが困っていることをどう解決したいとかです。まあ、「ちょっとよくしたい」だけなのかなと思っています。

ここにいる達人の方々に対してこんなことをお話しするのはどうかと思うんですけど、僕のやってきたことをお話ししようと思っています。今日の僕の話を聞いて思ってほしいのが、新しくいろいろもがいてやろうとしている人たちは、こうやって変えようとしているんだなっていう感覚をつかんでもらえればいいなということです。

その気持ちや期待はちゃんと伝わっているか?

では、まずケース1ですね。「キーマンが忙しい」。これはどこにでもあることだと思うんですけど、キーマンが忙しくてプロジェクトになかなか来れないということです。

「なんで来ないの?」「これが仕事じゃん」「そんなのほかの人に任せれば?」みたいことがあって、プロジェクトチームの中でいざこざが起こります。だんだんピリピリしてくるんですね。そういったときに、なにをやっていければいいのかなって今までいろいろ考えてきました。

そんな中で僕が今回やったのが何かっていうと。まず1つ、「問いを与えてみよう」ということです。そもそも、その忙しい人と、「来ないじゃん」って文句言っている人の間で、気持ちは伝わっていますかねってことです。

例えばプロジェクトをやっていく中で、「あの人さえいればいいんだけど、なかなか来られないよね」みたいなことに、その部下の人が「すいません、いつも忙しくて来られなくて」って返すことってよくあることだと思っていて。

ただ、そういうのって気持ちや期待がちゃんと伝わってないんじゃないかなと思うんです。共有できてないんじゃないかなっていうが根本にあるのかと思っています。そういったところで、先ほどからいった通り、スクラムとかアジャイルとか、こういうやり方がありますよ、こういうプラクティスがありますよ、みたいなこといっても通じません。

そこで僕らが何をしようとしているのかと言うと、「スクラムの手法で、アジャイルでこういうのがあって……」とかではなくて、「ドラッカー風エクササイズっていうのがあってね、これをやってみましょうか?」って、それだけを言うみたいなことをやってきています。

最初はこれが何のためにやっているのかよくわからないんですが、「みんなの期待をそろえるためには、こういうやり方もあるんだな」ってことが1つ伝わったかなと思っています。

そもそも、みんな同じ方向を向いているか?

続いてケース2です。プロジェクトを進めていく中で、ステークホルダーも含めて新メンバーがどんどん入ってきます。例えばこの時期だと、新人が入ってきますといったこともあると思うんですけど、そのメンバーが遠慮してしまうケースがありました。

とくに「後から入ってきたから、僕は今までの事情よくわかんないんです」とか「このプロジェクトって、そもそもどういう理由ではじめたのかもわかんないし、なんか遠慮しちゃうよ」みたいなことですね。新しく入ってきた側の意見としては、こういったものがあります。

一方で、もともとやってた人たちは、それに対して「責任感あるの?」とか「なんか意見ないの?」みたいなことを言っちゃったり、雰囲気に出てしまったりでなんとなくピリピリしちゃうことがありました。それをどう解決していくのかってところで、例えば「みんな同じ方向を向いていますか?」みたいな話をするというのが、僕のやってきたことです。

例えばスクラムでいうと、「こういうチームビルディングで、このタイミングでインセプションで一気にやりましょう」なんて考えると思うんですけど、そうではなくて「そもそも現在はどういう状態で、こういうことに困っているからそれをやりましょう」というとことに立ち返ってやってみるのが1つです。

それが、スクラムとかアジャイルってことを考えなくても、今より良くすることを考えたときにできることなんじゃないかなと思っています。

スクラムやアジャイルは「目的」じゃなくて「手段」

最後にケース3です。しゃべる人もいれば、しゃべらない人もいますよね、といったことです。例えばプロジェクトの中でも、発信することが得意な人と、ひたすら手を動かすことが得意な人がいます。そのやり方もいろいろあると思うんですけど、そもそもその人が発言をしないこと、発信をしないことが、すべてマイナスだと捉えられがちだと思っています。

その人はその分野が苦手なだけで、他に得意なことがあるんですよ、この分野を習得したくてがんばっているんですよ、だからちゃんと見守ってあげてね、ということがあると思うんです。開発だとか、アジャイルだとかスクラムだとかは関係なく、人のマネジメントとしてそれが必要なんじゃないかと思っています。

そんなときにどうするかですが、「補習表をつくってみましょう」っていう話をしました。で、こういうことをやっていくと、困っているときにいつもこっちを向いてくれるようになるんですね。「今困っているから、なんか出してよ」みたいに、いい感じにドラえもんみたいなポジションになってくるんですね。そうすると、だんだんやりたいことが増えてきます。そうすることで「じゃあ、スクラムってのがあってね」「アジャイルってやり方があってね」っていう話をする入り口にもっていけるのかなと思ってます。

なので、スクラムとかアジャイルって、目的じゃなくてあくまで手段だよってところを常にもっていたいなと思っています。

僕たちが映像業界の働き方を変える

僕らが何をやりたいかっていうと、「明日をちょっと良くしたい」だけなんじゃないかと思っていて。それを忘れないようにしたいなっていうのが、僕の今思っていることです。

ウォーターフォールじゃなくてアジャイルでやろうとなったときに、北風を吹かせて「いいからやるぞ!」って思いっきり引っ張ることが大事なのか。それとも太陽みたいに、日差しを注ぐことによって自然とコートを脱いでくれるようにするのかの違いだと思います。

僕のポジションで言うと、スクラムマスター的なところやプロダクトオーナー的なところなど、チームで一緒に動いている人たちがどういうかたちでチームに接するのがいいのかを考えるのが、1つポイントだと思っています。

そもそも、一人で見ることができる景色には限界があると思っています。なので、北風を吹かせたり、日差しを注いだりしてもなかなか動かない人は放っておくとか、いろいろなやり方があると思うんです。まぁ、そもそも僕の会社の場合はリソースが少ないんで放っておけないということもあるんですが。

つまり、一人じゃできないことがあるから、どうやって一緒にやっていくかを常に考える必要があるんじゃないかってことですね。支え合うために伸ばした手を掴んでもらって、それで仲間になってくれたら、自分にも相手にとっても明るい明日が待っているんじゃないのかと思っています。

つまりそれって、「明日をちょっと良くすること」です。やり方とか、どう進めるかってこと以前に、自分たちが目指している方向に向かう方法って、こういった積み重ねだと思うんです。サーバント・リーダーシップみたいな話に近いかもしれないですけど。

こうすることで、自分が創りたい未来とか、みんながやりたい未来の実現に近づける。僕の場合は、「映像業界でより良い働き方ができる」ってところに近づけるんじゃないかなと思ってます。

以上です。ありがとうございました。

(会場拍手)