高度成長期の夢から醒めない日本

樋口泰行氏:日本の生産性は、少し過去のデータですが19年連続最下位ということで、生産性が全然上がらない状態です。昔は、コストが非常に安かったんです。品質が良くて安いということで、世界中を席巻しました。自動車も電化製品もいろいろなものを……という状況でしたけれども、どんどん賃金も上がってくる。少子化で労働生産人口も減る。

そうすると、オフショアということで、台湾や中国にどんどん生産を移管するわけです。昔は、働けば働くほど会社は繁栄しました。作れば作るほど売れる。ですから、働いた時間で「こいつは偉い」とか、早く帰ったら「こいつはアカン」とか。時間比例で、だいたいアウトプットが決まる勝負だったわけです。

日本がそういうアプローチをしていたから、欧米企業は「これはたまらん。もう日本とは、真っ向勝負はできません」ということで、B2Bにシフトしたり、いろいろと知恵を絞ってトランスフォーメーションをやったりしているわけです。

日本はいま、新興国が出てきて、その競争が「これはたまらん」となって、トランスフォーメーションしなければいけない。そういう状況になっているのに、「いやいやいやいや、まだ大丈夫だ」と。なんとかこれでずっと成功してきたという感覚が、まだ残っているかもしれないです。

この人口ボーナス期から、(人口が)減っていく状態を人口オーナス期というらしいんですけど、人口ボーナス期は「働けば働くほどいい」ということで、フィジカルに強い男のほうが長時間無理して働けたりするので、男が働く。そして、単純労働・長時間労働・時間指向。別に戦略を変える必要がないですから、1つの戦略の寿命が非常に長い。改善、改善でやっていけばいいと。大胆に舵を切る必要があまりない。

これが人口オーナス期によって、「男も女もなく、アウトプット勝負ですね」と。長時間働いた人が偉いのではなくて、「付加価値を生んだもの勝ち」になっています。さっきの生産性は、単位時間あたりにどれだけモノを作れるかではなくて、単位時間あたりにどれだけ付加価値や創造性の高いモノを生み出しているかです。今の日本はその生産性が低い。

ヘトヘトになるまで働いて、その生産性が上がるかというとそうでもない。クリアヘッドでクリエイティブに考えて、付加価値の高いモノを生み出したら、それは生産性が上がるということです。そういう付加価値を生み出せる人に働いてもらわないと困る。

「男だ」「女だ」ではないんです。男女が頭を使って働く。頭脳労働で、短時間でアウトプットを出す。もともとの改善ではなくて、イノベーションです。新しいものを生んでいかないといけない。

多様性のあるチームのほうが生産性が高い

他の先進国は、かなり前にこの転換を経験しているのですが、日本のボーナス期からオーナス期への転換は、まだなかなか転換できない。且つ終身雇用で、ずっと同じ考え方でやっている人の集団になると、なかなか変わらない。日本経営は、ものすごくチャレンジングな状況にあるわけです。

しかしながら、これを乗り越えないとどうでしょう? オリンピックが終わったら、もう大変なことになると思っています。今は働き方改革と言って、方法論や制度改正が中心になっていますけれども、本当の意味ではこういった働き方を改革しましょう、ということだと思います。

これは「多様性が企業を強くする」ことを示したMckinsey(マッキンゼー)が作ったグラフですが、生産性とイノベーションがどれだけ生み出されるかは、多様性のあるチームかどうかに関わっています。チームをごちゃまぜにすると、最初はコンフリクト(衝突や対立)などがいろいろ起きて、多様性のないチームよりも生産性が下がる。しかしながら、あるところを起点にして、多様性のあるチームのほうが強くなるということです。

私もいろいろな合併やM&Aを経験しましたけれども、最初は内部でいがみあってしまって、もう大変です。「制度をどうするか」や「どちらに合わせろ」とか。私の感覚では、だいたい1年半くらいは内部で衝突があります。だけど、そのあと非常に強いチームになります。そういうことを経験したことがあります。

ということで、同質な文化、同一の生態系、同じ生態系でしか生きたことがない人は、「違う生態系があるのだ」ということをなかなか理解できない。

そして、成功体験です。これに対して、今はキーワードが全部漢字からカタカナになっていますけど、根本的には変わらないです。「ステークホルダープレッシャー」。それから会社的には、「オープン&アジャイル」。「ビッグピクチャー」は、世界の景色が見えているか見えていないかで、戦略ができるかできないか、ということになります。それから「ダイバーシティ」。こういうものがキーワードになるかと思います。

売上・利益・顧客満足につながらない仕事は、全て見直すべき

振り返って考えてみますと、パナソニックの従来の価値観としては、製品開発して、スペックをどんどん上げて売っていく。でも、今はもう「スペック、スペック」といっても「そんなスペック、もう要らんよ」と。パソコンなんか十分速いし、8Kといっても、「もうそんなの要らんわ」ということです。要る人もいるかもしれませんけれど。

それから、全部なかで対応してしまう。長時間労働の美徳・改善・同質。こういうことがあります。けれども、やはりもっと顧客起点、外の知見、外部の人材も入れて、その知見を取り入れる(ことが必要です)。パートナーシップもやる、ベンチャーとも組む。それから、成果を出すことが大事です。今言っていることは、我々の給料は全部お客さまから出ていて、天から降ってくるんじゃないと。

したがって、お客さまに買ってもらえるか、売上が上がるか、それによって利益が上がるか、あるいは顧客満足度が上がるか。これにつながる仕事以外は、全部見直すべきだと。

そして、最短距離で仕事をするべきです。いつもやっているミーティングは売上増加につながっているのか、利益増加につながっているのか、顧客満足向上につながっているのか。直接的・間接的ということですね。それがなかったら、もうカットするべきという考え方が大事かなと思っています。

あとは、変化への対応です。過去の成功体験から、新たな成功体験を作らないといけないということです。そして、我々コネクティッドソリューションズ社は、顧客接点のために、本社の場所を変えました。B2Bのお客さまは、もうほとんど東京です。意思決定者は東京にいるので、我々が大阪にいてはだ駄目だということで、B2Bのカンパニーの本社をこの浜離宮に移動しております。

働き方を変え、人の構成も変える。同じ構成のまま変わるのはなかなか難しい。したがって、違う人たちが会社の中でも入り交じります。そして、外部の方々とも、もっともっと入り交じります。そして、人材的にも多様化を図る。こういうものを推進しています。

そして、このダイバーシティというものも、「ダイバーシティによって企業競争力を上げる」という意味だけではありません。例えば、そもそも職を求める人の男女比が5対5だったとしましょうか。そうすると、同じ比率で社員がいないとフェアじゃない。同じ比率で管理職がいないとフェアじゃない。同じ比率で役員がいないとフェアじゃない。そういうフェアネスの考え方です。

カルチャー改革の目的は、社員と経営者の想いを合致させること

それから、先ほどの労働力。日本全体の競争力は、労働力が下がっていたら、絶対に復活しません。そういう意味で、女性やシニアの皆さまの社会参画を増やしていくことが大事だと思っています。

実は、このコネクティッドソリューションズ社は、カルチャー改革によって、社員の思いと経営者の思いを合致させることが第一になっています。

会社もこういうカルチャーによって、競争力が高まるのみならず、働く皆さまが、オープンに楽しくイキイキと働ける環境になります。そして世の中に対して感度を高めて、お客さまへの付加価値提供を最短距離で、CROSS VALUEにする。組織やオーナーがつながりながら、お客さまにサービスをお届けして、生きがいや働きがいを大事にする。目指すカンパニーの姿を、こう定義しています。

全体の変革は、カルチャーとマインド改革が一番大事なベースにあります。これが改革の1階の部分になります。

そして2階がビジネスモデルということで、ハードウェアを売るだけではなくて、ハードウェアを組み合わせる。それをソリューションとしてソフトとも組み合わせ、なるべく上位レイヤーを組み合わせて、お客さまに横断提案ができる、ソリューション提案ができるカンパニーになろうと。

それから、3階は選択と集中です。もっとやるところとやらないところのメリハリをつけていきましょう、ということです。先ほども言いましたように、国際競争や中国との競争が激しくなってきます。逆立ちしてもパワーゲームで勝てないところは、賢く競争するところを選んでいきましょうということです。

東京に本社を移転いたしまして、技術もデザインも事業部も、本社スタッフだけではなく、いろいろなファンクションの人間がここに集中しております。全ジャンルからそれぞれ一部ずつ移ってきて、お客さまに近いところで考えたり、お互いに入り交じろうとしたりしております。

社長も役員も全てフリーアドレス

組織間連携という意味では、働き方改革も含めて、フリーアドレスを採用しています。時間があれば見ていただきたいのですけれど、我々はこんな雰囲気でやっています。

パッと座って、パっとミーティング。こういうことをやっている会社は多いと思うのですけれども、人数が増えてもクイックミーティングです。ブレストや立ち話がどんどん増えてきています。

私の部屋はなく、役員の誰にも部屋がありません。全部オープンスペースで「ちょっといいですか?」という感じです。

かつては私も「ここが樋口さんの部屋でございます」と言われて、部屋に案内されて、すごく広い部屋にポツンと1人でいました。その部屋を出たところには秘書がいて、バリケードみたいなものがバーッとあって、テーブルがあって、「簡単には入れないぞ」という感じでやっていました。でも、今やものすごいスピードですり合わせをしています。Face to Faceを最大化するという目的があるんです。

しかも、こういう感じでパッパッパと相談して。資料を作り始める前に、だいたいこの資料を作ろうと決めてからやると、全然違うんです。あとはICTもフルに活用して、会議などもSkypeでやっております。

Surface Hubというものも使っております。

ここはデザインセンターのフロアなのですけれども、こういったリラックスした形でやっています。

会議室も全部ガラス張りにして、オープンな雰囲気でやっています。

立ち話も増えて、これがなんと……なんとといったらあれですけれど、人事責任者と法務責任者がいます。そこへパッと経理責任者も来て。

(会場笑)

こうやって集まって、いろいろなことをちょちょっと話したら、何かが決まったり、すり合わせできたりしますよね。ということで、会議も3分の1に減っています。

オープンでスピード感のあるカルチャーへ

ドレスコードも廃止しました。スーツって、鎧みたいなんです。例えばスーツを着た10人くらいに囲まれたら、ものすごい威圧感ですよね。お客さまのところに行くときは、ちゃんとしてるんですけど。オープンさやフェアさを1つ上げようと思うと、非常に効果があると思うんです。

ですので、TPOはきっちりやるんだけれども、それ以外はもうなんでもありだということで、服装の議論をすることすら時間がもったいないという考え方です。

あと、ビジネスチャットも最初は利用率が低かったのですけれども、今は使うべき人は、ほとんど使っているという状況です。

人事制度も充実させてきております。きっちりと360度アセスメント、1on1ミーティングもしております。それからスマートワークも導入しておりますし、テレワークも導入しております。

あと、ダイバーシティ推進のための制度も充実させてきています。

それから、人の構成を変えるという意味では、特に女性の採用に力を入れてきています。リケジョの(採用の)方も力を入れていまして、特に新卒ではこの2年で(人数が)2.2倍になっております。そのあとの登用・育成、それから後進のお手本になるべく、活動も行っております。各事業所を回るキャラバンやダイバーシティフォーラムもやっています。

オフィスの状態を変え、それから朝礼はもうやめて、もっとオープンでスピード感のあるカルチャーへとどんどん変えてきております。

外資と日本型経営のいいところ取りを目指す

それから、1年経ちました。(スライドを指して)これは本当の社員の声なんですけれども、今まで変わろう、変わろうとずっと言っていたけれど、全然変わらなかった。

それが「変わろうと思ったら変われるんだ」ということで、「全く別の会社になった」とか「月曜日になって会社に来るのが楽しい」とか。それから、スピードとしては「1.5倍とか2倍くらいのスピードで働けるようになった気がする」というようなことで、非常に活性化している状態です。

ただ、こういうものは復元力が働きますので、まだまだこれか頑張らないといけない。常にドライブをかけていかないといけないと思います。

この日本企業に共通した課題に対して、ある種チャレンジしている。私は外資も経験していますけれども、いわば外資と日本経営のいいところ取りを目指しております。

このコネクティッドソリューションズ社からパナソニックを変えて、ひいては日本全体の競争力が上がっていけばいいかなと思っております。以上です。なにかの参考になれば幸いです。

この後、もしご質問があればどうぞ。パネルディスカッションもありますので、最後まで楽しんで帰ってください。ご清聴、どうもありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:それではお時間が押しておりますが、ご質問を受けたいと思います。挙手をしていただければ係の者がお伺いしますので、どうぞよろしくお願いします。 

(会場挙手)

司会者:ありがとうございます。

改革に乗り気でない社員をどう巻き込むか?

質問者:会社の中で、変革やダイバーシティに興味があったり、変えたいと思ったりしている人たちは、わりとよく社外のセミナーや自主的な活動に参加してきてくれるんですけれど、興味がない人もたくさんいると思うんです。

徐々に減っていくことはあると思うのですけれども、全く興味がなさそうにしている人たちも含めて、1年かけてうまく社員全員を巻き込むことはできたのでしょうか? もしくは、苦労された点や工夫された点をおうかがいしたいと思います。

樋口:ご質問ありがとうございます。(スライドを指して)この写真、実は役員なんです。こんな雰囲気でやっているのですけれども、確かに反発はありました。最初にやろうとした時に、「そんなことをやって、何になるんだ?」と。

オフィスのフリーアドレスにしても、ICTの利活用でも、とにかくやったんですけれども。ですので、腹落ちをしていただいて、それでだんだん改革をすべきものと、ある種強制的にやらないと(いけないものがあります)。

ちょっと雰囲気を見ながら2つ進めていったんですけれども、こういったオフィスで、「役員は全員、部屋から出ろ」とか、フリーアドレスやペーパーレスで「全員ICTを使え」と言うのは、強制的にやりました。先ほどもありましたけれども、例えば会議をやるのも「チャットでどんどん進行しましょう」ということで、全員が使わないと全然意味がないんです。

どうしたかというと、4月で(取り組みがスムーズにいかずに)引っかかったので、5月から部署別利用率ランキングを出して、それを私から全社員にメールで送ったんです。

そうすると、最低になった部署は、「次は最低にならないぞ」ということで、どんどんドライブがかかって、なんと3ヶ月くらいでほぼ100パーセントになりました。最初はこのランキングを気にして、皆で「使え使え」とやっていたと思うんですけど。その後、「なんで(いままで)こんな便利なものを使わなかったのか」と。あるいは、「今はもう、これがなくなったら仕事ができません」という状況になったんです。

改革を進めていくなかで、社員も利点を理解してくれる

したがって、(社員は)後でわかってくれると。フリーアドレスも、固定の席がどうしても必要なセクションもありますけれども、これでコミュニケーションを良くしています。もともと、ものすごく縦割りの傾向があったので、これを一旦、潰さないといけないということです。コミュニケーションが活性化して、組織全体の生産性が上がる。この部分を重視してやりました。

それをやってみると(社員の)皆さんも、もうほとんどが「よかったね」ということになりました。後でわかってくれるというのがあります。やはり、きっちりと理解してもらって進めなければいけないこともあるかと思います。

ダイバーシティも含めて、「強制しようにも、どうやっていいかわからない」という部分がありますけれども、これはもう(社内の)皆さまのマインドを根本から変えていかないといけないと思っています。

1つは、カルチャー改革の貢献度を評価のなかに入れることを始めました。それから、一番よくないのはハラスメント。これは撲滅します。ホットラインを作って、それでどんどん上げてもらって、しらみつぶしに全部つぶしていきます。上げてもらった人を会社が徹底的に守るということを、地道にずっと続けております。

全体的にそういったダイバーシティマインドの低い人は、ホットラインに上げられてしまう状況を作っていくことを地道にやっております。ダイバーシティに関しては、後で(パネルディスカッションに登壇する)山中(雅恵氏)や少徳(彩子氏)も含めて、パネルでいろいろご紹介できるかと思います。ご質問ありがとうございました。

司会者:ありがとうございました。以上をもちまして、樋口の特別講演を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)