会社を変えるにはまず、企業文化とマインドから

司会者:こんにちは。本日は、「次の100年は女性が作る『パナソニックのカルチャー&マインド改革』」セミナーにお越しいただき、誠にありがとうございます。本日は特別講演・トークセッションに加え、交流会も予定しております。

長時間となりますが、ぜひ皆さまには弊社の「カルチャー&マインド改革」をご理解いただき、ご自身の新たなキャリアの可能性も見つけていただければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

それではさっそく、第一部の特別講演に移りたいと思います。第一部は「パナソニックのカルチャー&マインド変革について」をテーマに、パナソニック株式会社代表取締役専務執行役員(兼)コネクティッドソリューションズ社の社長の樋口より、お話をさせていただきます。では樋口さん、よろしくお願いします。

(会場拍手)

樋口泰行氏(以下、樋口):皆さま、こんにちは。お休みにも関わらず、今日はパナソニックのセミナーにお越しいただきまして、大変ありがとうございます。

今日は我々のやっている変革について、何か勉強していただいてお役に立てればという意味と、もし何かご縁があって、ご一緒に働けることがあったらいいなという意味も込めて、このセミナーを開催させていただいております。

「会社は変わらなければいけない」ということで、特に今、日本企業は本当に変わらなければいけないと思っています。会社を変えるには、まずは根底にある企業文化とマインドを変えていかないと、本当には変わらないと思っています。

会社が腐るときは頭から腐る

例えば会社によっては、「『カルチャー改革本部長』を任命しました。はい、改革は終わり」という風土改革だったり。(誰かに)全部任せてしまって、その人はすごく頑張ってやるんだけれども、各組織長には全然響かないことがほとんどだと思うんです。(本当は)頭から変えないといけないと認識をしています。

会社が腐る時は、頭から腐ります。頭から腐ると全部が腐っていくということで、トップが、「コンプライアンスなんてどうでもいい」「ダイバーシティなんてどうでもいい」とは言っていなくても、その雰囲気を醸し出すだけで、組織全体がそのトーンに包まれてしまいます。ボトムアップでいくら頑張っても、限界があると思います。

その意味で、ちょっと自己紹介させていただきたいのですけれども、私もずっとパナソニックにいたわけではありません。実は最初はパナソニックに技術者として入社をいたしました。溶接機などの設計業務に就いていたのですが、12年勤めて辞めることになりまして、今は企業変革をやっています。よく考えると、今は「その時に自分が辞めた理由」を、1つずつ潰しているような気もいたします。

そのあと、コンサルティングをやったり、あるいは、元々は技術者でしたので、テクノロジーの世界でAppleに入ったり。それから、合併前のコンパック(合併後はヒューレット・パッカード)に入りました。

それから、企業再生ということで、ダイエーの代表取締役をやらせていただいて、マイクロソフトに入りました。ヒューレット・パッカード、ダイエー、マイクロソフトの3社では、一応社長として経営の経験をさせていただきました。そんなバックグラウンドがあります。

創業101年を迎えたパナソニックの挑戦

今は「Make Panasonic Great Again(メイク・パナソニック・グレート・アゲイン)」ということで、変革のチャレンジをしております。日本企業はこのままではいけない、パナソニックも変わらなきゃいけない。その変革にチャレンジするのが、私が今担当しているカンパニーです。そこからリードして変わっていこうという気持ちでやっておりますので、その内容を紹介したいと思います。

パナソニックは、昨年(創業)100年を迎えました。皆さまの勤めている会社にも、古い会社もあれば新しい会社もいろいろあると思うのですが、会社が長くなればなるほど、あるいは大きくなればなるほど、やっぱりだんだんと硬直化していきます。

内向きの仕事も増えてきますし、過去に成功した会社であればあるほど、成功体験から抜け出せずに、なかなかチャレンジできないことがあります。パナソニックも正に100年を迎えて、今年101年目になりますけれども、チャレンジとしては大変大きいという状況にあります。

ビジネスを通じて社会に貢献するんだという創業者の精神を今風に焼き直して、「A Better Life,A Better World」というビジョンでやっております。パナソニックには4つのカンパニーがあります。皆さまもお馴染みの「家電」「住宅」「車載」、それから私が担当しております「B2B」……法人向けのビジネスです。

それぞれ、ご覧のようなリーダーが担当しております。全体の社長は津賀(一宏氏)ですけれども、私の担当はコネクティッドソリューションズになります。

インターネットやクラウドにつながっている状態を「コネクティッド」というのですけれども、そういったコネクティッドの状態で付き合う人たちが、今後、法人向けビジネスの象徴的な付加価値になります。日本だとなかなかわかりにくい名前なのですが、わりと欧米だとパッとわかってもらえて、「コネクティッドソリューションズ社」という名前になっております。

そして、B2Bのいろいろなビジネスをソリューション仕立てにして、お客さまとのインターフェースとして、実際に販売をしている会社がパナソニック システムソリューションズ ジャパンです。ここは一体で運営をされております。

日本企業が一番得意な分野

こちらが、どんな仕事をやっているのかという組織図です。下に製品が写真で並んでおりますけれども、面白いところは一番左の飛行機の中のフライトエンターテインメントシステム、「In-Flight Entertainment System」です。これは、グローバルシェアが7割~8割あります。ほとんど社名は出ていないのですけれども、裏ではパナソニックのシステムが動いています。

あとは溶接機・作業ロボット・部品実装機・プロジェクター・パソコン・携帯端末・決済端末・セキュリティカメラですとか、FAX・PBX(Private Branch Exchange:構内交換機)、あるいはストレージのシステムなどのハードウェアを持っています。ビジョンとしては、お客さまの現場や、現場のプロセスを支えることを掲げています。

ここでビデオがありますので、少し紹介させていただきたいなと思います。ご覧ください。

(動画再生)

樋口:ビデオでご紹介させていただきましたけれども、我々の100年のモノづくりのDNAが生きるかたちで、お客さまの現場……すなわち製造工程だけではなく、物流・交通・小売、それからレストランに至るまで、自動化あるいは現場のプロセス全体をお支えすることがビジョンなんです。

GAFAですとか、中国のAlibaba、Tencent、百度(Baidu)などのテックジャイアントがとても強いので、デジタルだけの分野では真っ向から勝負するのはあまり得策ではない。日本が一番得意なところとする、モノが動く時のすり合わせに活路を見出していくという戦略的な意図もあります。

ですから、この現場のお役立ちのインテグレートを目指すわけです。フルにデジタルでコンピュータをベースとしたインテグレーターは、他の会社でもやっていますが、そこはクラウドを始めとして非常に競争が激しいんです。そこで、パナソニックのビジョンとしては、その一段下のところを攻めていこうと。長期的には、それが力を持てる領域だと思っています。

戦略的にはそういう方向性でいこうということなのですけれども、やはり企業文化が大事だということです。これ(スライド)は、マイクロソフトの現在のCEOのサティア・ナデラのプレゼン資料です。

マイクロソフトのナデラ氏が説く、企業にとって一番大事なもの

彼(ナデラ氏)は、素晴らしいCEOです。会社を本当に蘇らせたといいますか、Windowsが一番だというところからクラウドの会社に切り替えて、AppleやAndroidとも共存できるような戦略に切り替えたわけです。

彼は、企業は戦略が一番大事だと思っていたと。「この戦略でいこう」と思い、それを実行するために必要な企業文化や組織能力を作ることが大事だと思っていたんですが、経験者として経営を積むうちに「そうじゃない」ということがわかってきたそうです。

それは何かというと、企業文化が一番大事だと。一人ひとりのマインド・モチベーションも含めて、それ(企業文化)が一番企業をドライブする。正しいことを正しくやろうという文化を目指せば、自然と正しい戦略ができてくるんだと。自然と正しい組織能力に持っていこうと組織全体が努力する、と言っていたんです。

社長一人がなんでも全部指示をするわけにはいかないですし、皆さんが指示どおりに動くようになると、思考停止になってしまって何も考えられなくなる。そういうことではなく、皆が知恵を絞って正しいことをしよう、と。それを概念にするのがCEOであったり社長であったりします。したがって、カルチャーが一番大事だと気が付きました。

これは自分もピーンときまして、ここで紹介させていただいています。この「文化」という意味で、日本企業はいったいどうなっているのかを、プロのイラストレーターに頼んで描いてもらいました。

「日本企業丸」とありますが、特に大企業になると大きな船になります。甲板に社員がいますけれども、社員がほとんど船内にいて、外がどんなに荒波になっているかがわからないんです。船が大きいから、あまり揺れないんですね。

ボートなどに乗るともう揺れて、「うわー、大変だ」と必死になるわけですが、(こういう大きな船に乗っていると)必死にならない。外が見えない、世の中がどうなっているかわからないと。(イラストでは)パソコンに向かって必死で仕事をしていますけれども、外を見ていないわけです。

一方では船に穴が開いたり、だんだん沈んでいったりしているにも関わらず、内向きな仕事ばかりやっている。それで、トップは今だと「オリンピックまでもてばいいや。オリンピックの後は知らん」という感じです。その横には(いつでも脱出できるように)「どうぞ、ヘリコプターに乗ってください」と言う人もいると。

そういう感じになっているのではないかと。本当に今のアメリカや中国は、ものすごいことになってきているわけです。わかっているのか、わかっていないのかはわかりませんけれども、非常にサラリーマン的になっていると強く感じています。カルチャー的には、大変不健全になっていると思っています。

不健全な企業文化とはどんなものか

では、「不健全な企業文化」とはどんな文化でしょうか? 言うまでもないのですけれども、成功体験に固執していたり、イエスマンばかりになってしまったり、外が見えていない。中のロジックだけで仕事をする。全体的に白けている。あるいは、いろいろと楽しいことを進言しても全然響かない。社員は、もう会社に寄りかかっていると。

こういう非活性化状態で、「なんとか会社がもってくれて、終身雇用で勤められればいいや」ということだとは思うのですけれども、それが面白いのかと。生まれてきて、起きている時間のほとんどを会社で過ごすとしたら、会社でハッピーにならないとハッピーになれないですよね。その上でのライフワークバランスだと思います。

あるべき姿としては、皆がやる気に満ちて、チャレンジ精神があって、危機感もちゃんとシェアできていて、ポジティブシンキングで、アクション思考で、世界の景色が見えていて……。いろいろあると思うのですけれども、こういった活性化状況でないといけないと思っています。

何故、こういうふうにならないのか。自分の経験なりに考えたことがあるのですけれども、まず日本は危機感を持とうにも海に囲まれていて、物理的に遮断されている。それから、言語的にも文化的にも特殊性があるので、ちょっと遮断感がある。だから、直接なにかの脅威が来ない。朝鮮半島と陸続きだったら、だいぶ違ってくると思うのですけれども。

それから市場顧客の特殊性があって、なかなか外資が入ってこられない部分も多い。とくに、顧客サービスなどはそうかもしれないです。日本のお客さまは大変にディマンディングというか、要求が高い。

B2BよりもB2Cのほうが市場は破壊されやすい

そういった特殊性があり、他にもガラパゴス的な要素がたくさんあるため、(外敵が)なかなか入ってこない。それをいいことに、国外では競争が激しくて駄目だけど、日本国内ではなんとかもってしまう。「いけるんちゃうか?」となってしまう。そういうことで、より危機感がなくなって、そういった特殊性がなんらかの拍子に崩れた場合、ガタっとディスラプトされてしまう状況にあるんです。

B2BとB2Cを比べた場合に、B2Cのほうがディスラプトされやすいんです。B2Bはリレーションやいろいろなサービスなどで、ぴったりとお客さまに寄り添ってやっています。時々ありますよね、営業マンが気に入られるために、お客さまと飲んだりなんだりして、「君、気に入った! 君からもの買うわ! 何を買ってほしいか言ってくれ」と。そういう世界もあるわけです。

ですから、B2Bには、参入障壁の1つとして非常に効果的なものもあるということです。B2Cでもホームランは打てるけど、下方打撃性は強いものがあると言えるかと思います。

あとは、競争です。アメリカだと、本当に生きるか死ぬかで「叩きのめしてやる」という感じですけれども、日本だとそこまでやったらあとあと(に響く)……と。村が小さいところがあるので、超熾烈な競争は回避する傾向もあるかなと思います。そういうことで、なかなか危機感が醸成されにくい。

もう一つは、ベンチマーキングです。昔、同じ業種にいる欧米の企業から学んでいましたよね。それがこの20年くらい、学ぶことをちょっと怠っている。ベンチマーキングを怠っているかなという気もします。

更には、ステークホルダーからのプレッシャーです。今でこそ社外役員などが増えてきていますけれども、昔は社長は誰からも何も言われない状況でした。株主総会さえ乗り切ったら、あとは1年間何も言われないという感じです。この点は、アメリカやロンドンの経営者ではものすごいプレッシャーです。ちょっとでも成績が悪いと、すぐに首になってしまうケースもあります。

ミレニアル世代は入社5年で3割が辞めていく

そして、経営者のスキルやマインドです。ビジネススクールみたいなところが多く発達しているからかもしれませんが、経営者の頭の中を円グラフにしてみますと、欧米では、わりと経営・マーケティング・オペレーション・IT戦略と、薄くはあるけれども、全部まんべんなく基本的な知識を持っているので、感覚的にも聞けばわかる状況にあるんです。

聞けばわかるだけでも、その部署はドライブするわけです。(社長が)「私はわからん」「ITはわからん」と言っただけでも、もう(社員の)やる気がなくなるということです。なので、「聞いてわかってくれた」というだけで、メンバーが盛り上がっていくんです。

それが日本は、「ずっと営業一本でやってきました」とか「ずっと技術一本ですわ」という人がポンと社長になる感じで、やはりスキルなどという意味では、ちょっと偏っているケースがあるかなと。

「構造改革」と言われても、「キャッシュフローが、もう足りなくなります」と言われても、あまりピンとこないことがあるかもしれないです。その結果として、今やミレニアルの方々は、5年経ったら30パーセントくらいが辞めます。

やる気のある人材、市場価値の高い人材になればなるほど、モチベーションも低下して辞めていかれると。モチベーションが低下した状態や、そういう自分を容認できる人間だけが残ることになっているかと思います。

もう少しマクロで見た場合には、2000年の直前くらいまで転換期があるらしいのですが、(かつて)日本の人口がどんどん伸びている(時期がありました)。したがって、生産人口もどんどん伸びている状況。これは人口ボーナス期というらしいのですが、人口が伸びるだけで内需が伸びます。内需が伸びると、いろいろなものが売れます。したがって、「普通にやっていれば市場は広がる」という状況が高度成長期です。

そこから内需が縮むと、しかも高齢化するから、食べる量も飲む量も減るということで、内需がどんどん縮む方向です。労働人口・生産年齢人口も減少してくる。高齢者が増えて、若年者が減ることになるわけです。