400ほどの自治体と契約し、オープンガバメントに取り組む
佐々木俊尚氏(以下、佐々木):では、最後に深山さん。よろしくお願いいたします。
深山周作氏(以下、深山):こんにちは。株式会社スマートバリューの深山と申します。今日はよろしくお願いいたします。15分という時間ですけれども、きちんとみなさんにいろいろお伝えできたらなと思っています。
僕は株式会社スマートバリューという会社で働いています。だいたい自治体関連の情報化という分野のビジネスをしているというと、すごく分かりにくいですけれども。超ベタベタなことを言うと、自治体さんの公式サイトや、メールマガジンの配信システムなどです。
深山:Jアラート(全国瞬時警報システム)という災害(通知)システムが、わりと知名度が上がったなという感じで、最近すごく災害が多いと思います。それと連携させて、自治体さんの公式サイトやメールマガジンに直接配信するということをベタにやってきた結果、最近では400くらいの自治体さんにご契約をいただいています。
そのほかにIoT関連の事業もやっています。今、車にたくさんのIoTデバイスを差していて、そのIoTデバイスから、だいたい1日で地球何周分ものデータが溜まるという、テレマティクスにも取り組んでいます。自治体とモビリティ関連のITをやっています。
僕自身は、この4名の中で1番凡人だなと思いながら話を聞いていたので、親近感を持って話を聞いてもらえたらすごく嬉しいなと思っています(笑)。
僕は今28歳なんですけれども、主に新規事業の企画や開拓をやっています。「オープンガバメント」って、聞いたことのある方はいらっしゃいますか。
(会場挙手)
深山:ちょっといますね。だいたい0人だったりするんですけど、ありがとうございます(笑)。そういう取り組みや「シビックエコノミー」と言って、市民が地域をよくするために自立的に活動することだったり。あとは最近内閣府がよく言う「Society 5.0」や、コミュニティ関連のこと。
僕は食品系の大学にずっと通っていて、ポリフェノールの研究をしていたので、栄養士の資格を持っています。食品関係もいろいろやっていて、最近は「健康管理アプリ」もやっていたりします。
政府の取り組みを見える化する「オープンガバメント」とは
深山:うちの会社の説明は端折って、普段やっていることをざっくりご説明させていただきたいなと思います。オープンガバメントを知っている方が少なかったので、ちょっとお話しさせてもらいます。
「オープンガバメント」は、ガバメントという言葉が入っているだけあって、行政関連の言葉なんです。「行政って何やってるのかが、ぶっちゃけよくわかんないですよね」というところを、もっとオープンにしよう、と。(行政は)勝手なことをやってるんじゃないよ、と。
もっと透明化して、もっと市民のほうに降りてこいよと。そういう取り組みをWebで実現することが「オープンガバメント」と呼ばれています。「透明性」「参加」「連携」という3つの要素があります。まずは「実際に行政が何をやっているのか」を吸い上げて、住民にちゃんと届けることから始まります。
地域も「こうやったらよくなるんじゃないかな」と参加してくれて、徐々にその(行政との)連携が始まって、地域をアジャイル的に良くしていこうという取り組みだと、ざっくり思ってもらえればなと思っています。
僕は、今までそこを(取り組みとして)強くやっていたんですけれども。透明化ということでは、まず情報が市民に届いていない、情報の非対称性といった課題があります。
これはものすごく問題で、実は地域に資源があるのに、ちゃんと届いていないから、その資源が全く稼働しておらず、遊休資産になってしまっているんです。もっと使われたら(役に立つし)、もっといろいろなところに使われるべきなんです。
待機児童の入園規定点数の透明化や情報開示の最適化
深山:もう1つ、待機児童数の問題もよく出てきますよね。待機児童数の入園規定は得点式になっていたりして、その条件を明かしている自治体と明かしていない自治体はバラバラに存在しています。
品川区は最初から明かしていて、それに連動して、港区のお母さん方が「なんで品川区は明かしているのに港区は明かしてないの」と怒って、Facebookのアカウントに何百名というグループのアカウントが集まって、港区も開示を始めたという話があったり。
地域の資源が「足りてない」という話がよくあるんですけれど、実は(資源自体はあるのに)「ちゃんと使ってない」「最適化されていない」という情報が透明化されていなかったり、届いてない問題があります。
さっきの林さんは(共同体を)新しく作るというお話だったんですけど、僕の場合は自治体に深く入っていたので、自治体のベーシックな部分(を作るということ)ですね。
たいていの場合、僕たちが地域に関わろうとするときのインターフェイスになっているのが、行政・自治体だと思います。これらをもっと効率化させたり、もっと市民にわかるようにしたり、参加を促すというところをやっています。
今日話すブロックチェーンに関しては、最近「ブロックチェーン都市宣言」というのを加賀市役所さんであげさせていただきました。僕が言うのはちょっとおこがましいんですが、林さんも加賀市でその取り組みをいろいろとやっていらっしゃって、地域通貨などの取り組みもやってらっしゃるんです。
なので、昔は温泉でとても栄えた加賀市という場所で、実は今、いろいろな企業がブロックチェーンの取り組みをしているという。加賀市はすごくおもしろくて、ロボットの世界大会を誘致して開いたりもしているんですよ。
IoT・ロボット・AI・ブロックチェーンなどの真ん中にいるのが宮元市長という、すごくイケイケの市長なんですけど。この人が起点になって、そういうものをどんどん誘致されて、僕も誘致されて、こういう包括連携協定を結んで、地域を先進化していこうとしています。
トレーサビリティによって無農薬野菜が2倍の価格で売れた
深山:僕のところでは、行政の情報をきちんと届けたり、行政を効率化するためにどんなやり方があるのかといったことに取り組んでいます。この中で、黒くて顔がよくわからない、こっち側(左端)の人がうちの社長で、こっち側のメガネをかけている人が、シビラ(株式会社)というパートナー企業の社長さんです。
彼はトレーサビリティに取り組んでいるので、軽くご紹介させていただきます。実は日本でもブロックチェーン界隈で、トレーサビリティに取り組んでいる会社があって、ISID(株式会社電通国際情報サービス)さんとシビラさんが提携してやっている取り組みです。
IoTセンサーのデバイスやジャイロなどのセンサーを使って、野菜が消費者のもとに運ばれてくるまでを、ブロックチェーンで直接記録するという取り組みを、宮城県の綾町という自治体で行った事例があります。
これだけ聞くとそんなにおもしろくないんですけど、実はめっちゃおもしろい事例で(笑)。六本木で野菜を売ったんですね。綾町はすごく(一生懸命に)無農薬野菜をやっている自治体なんです。無農薬野菜は、ある一定のランクを超えると、もうそれ以上ランクは上がらないらしいんですね。でも、そのランクを超えても、クオリティにはばらつきがある。
(クオリティは)ピンキリだという中で、綾町はめっちゃこだわっているので、そのこだわりをトレーサビリティでわかるようにして届けた。その結果、通常の2倍の価格で売れました。
これは、ヨーロッパなどで最近流行っているエシカルという思想なんですけれども、綾町は、地球にも人にも優しい方法で野菜を作っています。でも、経済的にはそれが理解されないから、データとして記録に残した。
今の時点では、結果的に(日本)円で評価されたことが、その価値の証明になってしまってはいるんですけど。ただ、それによって人が2倍の値段を払う。人はやっぱり、ただの経済合理性以外の理由でもお金を払うんだなぁということがわかる、ちょっとおもしろい実証だったので、ご紹介させていただきました。
金融以外でのブロックチェーンの使い道と実用化の難しさ
深山:そのあとに、うちのモビリティの話にいっちゃうんですけど。1日で地球10周分の走行距離(のデータ)が溜まっていたり、1ヶ月でだいたい月に32回も往復するくらいのデータが溜まっている。
僕はこの(モビリティの)分野でブロックチェーンをやっているんですけれども。モビリティのデータは今、保険などにもめちゃくちゃ活用され始めている中で、データの真正性が担保できるのかという話があるんですね。
保険ってけっこう重要なのに、そのデータが証明されない中で、例えばテレマティクス保険(注:自動車と通信システムを組み合わせて、走行距離や運転の仕方などの情報を取得・分析する)というかたちで、保険料に反映させようという話があるんです。
そういうときに、やっぱりデータの真正性が必要になってくるので、誰かに改ざんされないように情報をブロックチェーン上に溜めて、保険料というシビアなものに対しても、データの真正性を担保する。金融とはちょっと違う切り口でやってたりします。
ただ、これをやった結果すごくわかったことは、「ブロックチェーンなかなか使いにくい」ということだったんですね(笑)。ブロックチェーンは、データをみんなで共有し合うということなので、例えば100ギガバイトのデータを1ヶ所に溜めておくなら、地球上に100ギガバイトのサーバーを置いておけばいいんです。
でも、みんなでこれを持ちあったら、10人いたら10×100ギガバイト分のサーバーの容量や電気代がかかるんですよね。さらに合意も必要だと。なかなか実用化が難しいなというところがあるんですけれども(笑)。今はそこにいろいろとチャレンジをしているという感じです。
どんなところに使えるのかを考えたときは、Social Goodという、あるべき姿を追求するような部分の文脈では、きっと使っていけるんだろうなというものがあるものの、さっき言ったようになかなか実用化が進まないと思っています。
我々はブロックチェーンであるべき姿を追求する中で、最初はベタベタな使い方から入っています。あとで紹介する事例はまさにベタな使い方で、ブロックチェーンじゃなくてもいけそうな取り組みなんですけれども。
そこから始めて、自治体という地域のベーシックなインターフェースをどんどん最適化していく。まず、オープンにしながらセキュアさを担保するという文脈でブロックチェーンを使っていくことで、徐々に広げていこうかなと思っています。
ブロックチェーンは儲かるか?
深山:「なんで加賀市でこんなことをやってるの?」というのもけっこう聞かれるんです。これが1番おもしろいんですけど、市長から直接、@ezweb.……という、auのメールアドレスから僕にメールが送られて来て(笑)。
「これ本人か!?」という感じで直接行ってドキドキしていたら、まあ本人でよかったなと。そこから話が進んで、加賀市で取り組みをやることになっています。
今さらいろいろ話があった中でするのもあれなんですけど、まずブロックチェーンはわりと定義がない。誰も答えを持ってないのが本当の答えかなと思っていて。
「ビットコイン以外のブロックチェーンはブロックチェーンじゃないよ。DLT(分散台帳技術)と言うんだよ」という人がいたり。ちなみに、「エストニアはブロックチェーンで支えられている国」と言われているのを聞いたことのある人はいますか?
(会場挙手)
それは嘘だと言っている人もいるんですね。ブロックチェーンの定義があいまいなので、本当とも言えるし、嘘とも言えるんですね。つまり、誰も答えを持っていないので、自分なりの答えをきちんと見つけましょうという話が正直なところです。そこはバラバラだなというのが僕の感想です。
「ブロックチェーンは儲かりますか?」というのもよく聞かれるのですが、やってて正直、儲からないかなと思っています(笑)。R&D的な側面がすごく強くて、ブロックチェーンといったら人が集まるしバズるし、株とか上がるんですね(笑)。なかなか本当に必要かということにはたどり着いていないところがあって、だからこそ、まずはやっていくことがすごく重要かなと思っています。
「なんでスマートバリューが(ブロックチェーンに)取り組んでるの?」というところでいくと、うちはオープンガバメントにすごく取り組んでいます。サスティナブルや持続性にすごくコミットしたいと思っていて、そうなったときに中央集権的な取り組みは、そこ(中央)が倒れたら終わりだよね、という話になってくると。
本当にビットコインってすごいなと思っているのは、中央がいないのにその中で価値がどんどん回っている。さっき「ビットコイン終わったよね」という話もあったんですけれども、まだ終わっていないかなと。すみません、価値があるかどうかはともかくとして、続いているという感じではあるかなと思っています(笑)。
400自治体に眠る資源を有効活用できる環境をつくる
深山:僕らも、中央がいなくても持続するシステムを作るのに、ブロックチェーンが基礎の要素になり得るなと思って使っています。ここはちょっと重要なので説明します。ブロックチェーンの使い方は3つくらいあると言われています。まずは中央管理者が不要になってくることと、資産管理の可能性がすごく高いところと、あと改ざん耐性が高いと言われています。
それを使うと何ができるのかが3つ並べられています。一般的なデータベースの代わりとして使えるということ。仮想通貨やトークンの機能を中心に使うというのが地域通貨の取り組みです。僕はけっこう注目しているんですけれども、自律的なサービス稼動の仕組みとして(地域通貨を)使うというところがあって。
それぞれにメリットとデメリット、課題みたいなことがあります。これを使ったら何ができるのかは、さっきも事例がすごくたくさんあったので、その通りかなぁと思っているんですけれども。
うち(スマートバリュー)としては、社会的にそれが何に影響するのかというところで、まず分断されたサービスの横断的な連携に使えないかなということから、ちょっとずつ始めていっています。ようやく加賀市でやろうとしてること(の話)なんですけど、時間けっこう使っちゃったので巻きます(笑)。
地域で情報がうまくマッチングしていない状況があるので、バラバラになった地域の情報をラッピングして、その情報のUIとしてのポータルがあって、ユーザーと地域の情報をきちんとマッチングさせる。そして、その中で動くコンテンツ類がきちんと1つのデータの基盤に乗っていて、横断的に利用できる環境を加賀市では用意しようと思っています。
さっきのID2020(ブロックチェーンで公的なIDを発行するプロジェクト)のような話なんですけれども、ブロックチェーンを横断的なIDとして活用しようかなと思っています。
うちは今400自治体と提携してシステムを納品しているので、そこでIDを柔軟に活用しながら、IDに紐付いたクオリファイを用いてパーソナライズして、データや情報をきちんと届けて地域にある資源を完全に有効活用する環境を作りたいなと思っています。
まずいったんは、この地域の共通認証のような基盤を作り、その中で人にまつわる属性やクオリファイ(資格)を与える行為を、たぶん外部認証の人がやるんですけど、誰が認証したのかわからないと怖いよね、ということがあるので。
それをオープンセキュアなブロックチェーンのほうに、誰が資格情報を認証したのかをきちんと溜めるとともに、その人に基づくデータを1つのデータ連携基盤に溜めていきます。溜めていった結果、そのデータを誰が活用しているのかわからないと困るので、誰が活用したのかという履歴、データコントロールの許可の履歴などを全部ブロックチェーンに溜めて、あとから全部検証できるようにします。
ただ、これは正直ブロックチェーンじゃなくてもできるんですけど、まずそこから試していって、構造的にはこんな全体構造をもとにやっていこうと思っています。僕は、この地域の共通の認証基盤とポータルによって、地域の情報やリソースを住民の方々とマッチングさせて活用して、地域の政策を完全に浸透させていきたいと思っています。
そういった取り組みの中で、市民の協力を得るのが1番大事だと。対話をしながらいろいろなことをやっていかなきゃいけないので、実際にラボラトリを開いて、コワーキングやイベントやワークショップをしながら住民の人に理解してもらって、この取り組みに参加してもらう。
まずは加賀市を起点に、IDを持ってもらって、その中のサービスをいろいろと使ってもらってデータを溜めて、その人のためにパーソナライズしてサービスを提供する環境を作ってみようかなと。その中のすごく小さなところでブロックチェーンを使ってみようと。でも正直、現時点のリアルでいくと、これくらいしか使えないなというのが、いろいろチャレンジした結果、僕たちの行き着いた答えということもあって。そういう現実感と戦いながら、今後も加賀市でいろいろな挑戦をしていきたいなと思っています。以上です。
(会場拍手)
佐々木:ありがとうございます。