CLOSE

MARUNOUCHI TECH ACADEMY 「テクノロジー×ビジネスの未来」(全4記事)

今のAIには「あまり知能はない」村上臣氏が説く“シンギュラリティの誤解”

2018年2月、三菱地所とLife is Tech!が主催する「MARUNOUCHI TECH ACADEMY」が開校されました。第1回となる今回は、村上臣氏が、テクノロジーが私たちのライフスタイルやビジネスシーンにどのような影響を及ぼすのかをご紹介します。村上氏は、大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立し、2000年8月にヤフー株式会社に入社。一度退職した後、2012年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月にLinkedinの日本代表に就任し、複数のスタートアップの戦略・技術顧問を務めています。村上氏は、現代の社会人にとってテクノロジーとは、ほぼ国算社理と同じレベルの「教養」の一種であると解説。また、テクノロジーと生態系の共通点や、シンギュラリティへの誤解について語りました。

「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という考え方

村上臣氏(以下、村上):今の現象と課題解決についてですが、これはマーケティングやプロダクト、商品企画とかやられている方は聞いたことがあると思います。いわゆる「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という考え方があります。技術志向と市場志向と。

これは何が違うかというと、いわゆるボトムアップ型ともいいますが、特定の現象を利用して、技術が先にくるんですね。現象が先にきて、こういったものを利用すると、なんか人の役に立つんじゃないかなと。それから製品化にもっていくパターン、それがいわゆる「プロダクトアウト」の方法ですよね。

こういったものには例えばどんなものがありますかねと。例えば、沸騰して蒸気が出ているのを見た時に、その蒸気を利用して何か部屋を暖めようと、暖房機とかを作ってみるとか。こういうことが「プロダクトアウト」の発想です。

逆に、あるニーズがあると。市場には何かに困っている人がたくさんいるぞというのを見つけて、それを解決するためにはどういう技術が必要なのか、どういう現象が必要なのか。そういうものを組み合わせていくことが、いわゆる「マーケットイン」と呼ばれる手法です。

『テクニウム―テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房,2014)という、僕の好きなケヴィン・ケリーさんの本があるんですけれど、今まで言ったのは技術をどう使っていくかという話なんですが、テクノロジーをもう一歩俯瞰して、生物進化の発想から捉えることをまとめた、新しいテクニウムという本がありますので、もしご興味がある方は読んでいただければいいと思います。

これね、生物ってすごいんですよね。とくにバクテリアとかすごくて、太古から何十万年と生きているんです。土をパッと取ると、中には何万という微生物が生きているんですよね。我々の目には見えないですけれど。それぞれが単細胞なんですが、いろいろな能力を持っている。

例えば、土に還るプラスチックをご存知ですか? 生分解性プラスチックとかあるんですが、あれはこれ(生分解性プラスチック)を大好物のバクテリア、微生物に合わせて作ったプラスチックっぽいものなんです。なので、土にすると(バクテリア、微生物が)だいたいその辺にいるので、「わーいっ、エサだ!」と食っていくものもあり、非常に面白いと。

生物というのは相互に依存関係がありますので、こっちがあって、あっちがあって、生態系ができてきます。それで複数のテクノロジーによって成り立つシステムというのは生態系に似ているよねと、(それを)テクニウムと言っている。

これは何が似ているかという話なんですよね。これは、必然性が似ているという話なんです。不思議じゃないですか、生物もある機能を持つとだいたい似かよってくる。我々もそうですよね。人間という生物で、だいたいぱっと見、みんな人間ぽいですよね。なので、やはりヒューマンビーイング(human being)、ホモサピエンス(homo sapiense)はだいたい同じ形をしている。

犬であれば、だいたい見ると犬とわかりますよね。猫であれば猫であるとわかりますよね。なぜか似かよってくる。車もそうですよね。なんで車ってあんな似たような形をするのか。4つ車輪があって、なぜかみんなハンドルがあって。あれは、車が生まれた時から基本的に原型が変わっていない。まあ、不思議だと思います。

テクノロジーを社会にインプリメントするのは我々、社会が決めること

あと、電球があるじゃないですか。丸い豆電球や白熱電球を思い出してください。これはいわゆる(アメリカの)トーマス・エジソンが発明したと言われていて、みなさんもそのように信じていると思われますが、実は発明したのはエジソンではなく、イギリスの方だったんです。

これね、面白くて、実はエジソンが作る前に基本的な特許を取っていた人がいて、その人とジョイントベンチャーという形で作って、電球が世の中に流通しはじめた。他にも似たような発明者が23人いるそうです。ただ、原型のデザインというのは、ああいう丸っこい形をしていて、中でフィラメント(filament)が2つ入っている。だいたい似ているらしいです。それで、エジソンの発明というのは、あのフィラメントに竹(竹炭)を使うことだけで、当時としては長寿命を果たしたことで、実用化の道にどーんと向かった。

細菌でいうと、どんどんコピーを作っていく。実験室の中、ラボの中でこの4万世代繁殖を繰り返すことをやったら、結局、外見はだいたい同じだった。我々もそうですよね、先祖代々繁殖を繰り返していますけれども、あまり形が変わっていない。なので、ある目的を持って生まれているものはだいたい似たようなものがあると。

では、違う部分は何かというと、生物はだいたい1つの種類ですが、テクノロジーは我々が選べるところが一番違う。なので、このテクノロジーを社会にインプリメントするか否かについては、我々が決められますし、どういうふうに使いこなすかも我々が決めること、社会が決めることだと思います。

とくに影響の大きいものほど、メリット・デメリットのギャップが大きくなる。これはこの本の中では期待の第1要素と言っている。期待が大きければ大きいほど、デメリットもすごく大きくなる関係があると言われています。

最近ではビットコイン的なものがそうかもしれない。可能性的なものとしてはテクノロジーがあるんですけれども、やはり社会がうまくまだ使いこなせていない、という話になった時に事件が起こったりして、社会に与えるインパクトも大きくなっているという話です。

ソフトウェアが世界を飲み込んでいる

それで、そろそろこの話がどこまで行くか心配なさらないでください。何が言いたいかというと、テクノロジーは教養の一種になっている。ただし、「文系ですか?」、「理系ですか?」と聞きましたが、実は(テクノロジーは)ほぼ「国算社理」と同じレベルになっていく。なので僕の意見としては、英語とプログラミングはちょうど小学校で必修になりますが、これは大きなことで、やはりテクノロジーについて教養として知っている(ほうがいい)。

(テクノロジーが)共通言語、社会人の共通言語としてあるということが、これからみなさんが仕事をしていく上で絶対避けては通れないものになって行きます。

僕の大好きなマーク・アンドリーセンという、Netscapeというブラウザーを開発した人が2012年に言っているんですけれども。今、ソフトウェアが世界を飲み込んでるよね、すべてがソフトウェア化しています、という言い方をしています。

これは何を言っているかというと、例えば、iTunes。みなさんiPhoneをお持ちですよね。昔はラジカセだったりとかウォークマンだったりと、いろんなガジェットにまみれていて、10個ぐらいが今は(iTunes)1個ですよね。音楽を聴きたい、全部iPhoneです。じゃあ、映画観たい、YouTubeで観ようかみたいな。じゃあKindleで本を読みましょうかとか。

買い物も全部アプリでやるとなると、ほとんどiPhoneというハードウェアの中のソフトウェア、アプリによって、すべてが関与している。昔はこれをやろうとすると、いろんなものを持たなきゃいけないのが、そういったものがすべてソフトウェアで置き換えられている、書き換えられている。つまりは、世界がどんどんソフトウェア化しているんだよ、と彼は言っています。

これはなんでかと言うと、コンピュータの性能がものすごい勢いで進化しているからなんですよね。「ムーアの法則」という言葉を聞いたことがあるかもしれないんですが、いわゆるICのチップですよね。この中に無数のトランジスターがあって、CPUというものができているんですが、これって18ヶ月で集積路が2倍になるんです。18ヶ月経ったら、同じ大きさのものに2倍のチップが載っている。今までこのスピードが落ちてないんですよね。ですので、今では何億ものはずで、それが載せられている。

そして、「シンギュラリティ(singularity)」という言葉が流行りはじめました。私の元大ボスの孫正義という人が、むちゃくちゃシンギュラリティと言っていますが。「シンギラリティって何ですか」と言って、ちゃんと説明できる人は(たくさんは)いないと思うんですが、一応、今日は僕の理解を伝えておきます。

今流行りの「シンギュラリティ」って何ですか?

シンギュラリティとはいわゆるAI(artificial intelligence)、人工知能が人間と同じくらいの能力を持つこと。なので、人間より賢い何かが生まれることをシンギュラリティと言っています。これは実は、僕は懐疑派でして。なぜかと言うと、もうすぐ1つのチップに収まるトランジスターの数が脳細胞の数を超えるんですよ。この数が300億個ぐらい。正確にいうと、大脳の細胞が300億ぐらいなので、大脳の細胞の数を超えることになります。

これは単純にニューロンの数の話なので、それが実現したとしても人間の脳と同じようにできるわけではないのです。そこをもってシンギュラリティというのはちょっとミスリードかなと思うんですけれども。

ちょっと脳みその話をすると、すいません、マニアックな話になって。大脳と小脳ってあるじゃないですか。みなさん脳に詳しいですか? 大脳がいわゆる思考を司るパーツ、小脳は後ろについているもので、いわゆる運動を司ると言われている。ただ、どっちの方がいわゆる細胞、チップ、トランジスターの数が多いのかというと、小脳の方が多いらしいんですよね。小脳が1,000億ぐらいで、大脳が300から数百億ぐらい。

しかも、大脳で考えている、実際に使っている部分は表面の薄皮のところ、新皮質の部分だけなんですよね。脳は非常にミステリーに満ちている。我々が思考に使っている大脳の方がチップが少ないんですが、我々はこんなにもいろんなことができる、考えることができるのはすごいことです。

そのニューロンがチップだとすると、それがシナプスで全部繋がっているわけです。それが1個について数万個のシナプスがあり、それがかけるかけるで数百億になって、密集ネットワークみたいなものが頭にあるわけですよね。これによっていろんなことができる。

シナプス、ニューロン自体は0か1という電気信号なので、最終的に言えば、そういう意味だと半導体と同じ原理で動いています。実際、そこからネットワークでやりとりする情報はもっと多いので、そのまま半導体に置き換えられることはない。

実際そのインパクトはネットワーク側にあります。インターネットもネットワークですし、いわゆる、今あるAIは機械学習と呼ばれるマシンワークですけど、あんまり知能はないです。今、みんなが言っているAIというものは、僕はAIということは好きじゃないので、あえて機械学習と呼びますが、あのこれもネットワーク効果によって、今までと違う処理ができるようになったところなんですね。なのでネットワーク最適化によってインパクトが生まれているんだな、ということで、チップじゃないと言いたいわけです。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 今までとこれからで、エンジニアに求められる「スキル」の違い AI時代のエンジニアの未来と生存戦略のカギとは

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!