定時制高校が時代の最先端になる

小幡和輝氏(以下、小幡):(高校は原則アルバイト禁止のため)社会とかなり隔離されていると思います。定時制高校では、「むしろ免許は在学中に取りなさい」「出てから必要だから取りなさい」と言われます。もちろん「アルバイトもしなさい」と。

うちの定時制高校では、アルバイトをしている子にだけ給食が出ました。夜の学校なので、アルバイトが終わってからそのまま来ることが前提なんです。むしろ、「アルバイトをしなさい」と言われる。意外とこのスタイルがこれからの最先端になってくるのではないかなと。

中川和彦氏(以下、中川):なるほど、おもしろいな。知らないこと多すぎるわ、俺。

今井紀明氏(以下、今井):定時制高校は今、本当におもしろいと思います。ただ今は、昔のように正社員の子はほとんどいません。逆に言うと、今はアルバイトや非正規労働で働いている子たちが、地方と学校にもよりますが5〜7割くらいです。

定時制高校がすごくおもしろいのが、最近ではデザイン系をやっている子が自分でいろいろと販売したりもしています。Tシャツなどの販売をしたりしている。そうした才能を持っている子に関しては、自分でやっている子たちもかなりいるんです。この間、起業したいという子から相談を受けましたし。

中川:そうだけど。普通の先生に言っても、相談に乗れないよね。

小幡:僕の友人では、高校生で起業することを学校が認めてくれなかったので転校していましたね。

今井:定時制は、基本的にめちゃくちゃしんどいパターンが多いです。すごく貧困家庭が多いんです。大阪の生活保護率は非常に高く、先生方のヒアリングでわかるんですが2割くらいいます。そうした意味で言うと、しんどいのはしんどいです。あと、働かざるをえなかったせいか、すごくもったいないのが働く経験に対してめちゃくちゃイメージが悪いんですよ。働く経験がいいイメージなったことがない。

親が働いている姿もそんなにいいイメージがないし、そもそも親が正社員雇用でなかったりするパターンが多いです。そうした意味では、すごく人生経験を積んでいる子がいるのですが、なんだかもったいないというか。おもしろい子がめちゃくちゃ多いのに。

高校生の職業選びがめちゃくちゃ限られている問題

小幡:僕自身も、高卒で就職しようと思っても選択肢がほぼなかったです。スーパーや飲食店、建築のようなほぼほぼ3〜4社しか働く先がなくて、これがかなり問題だと思ってます。ここの専門は今井さんだと思うのですが。

今井:高校では、ハローワーク系の情報しかなかったんですね。あとは学校にくる求人とか、そのぐらいの感じです。みなさん、ハローワークの求人はご存知ですか? 学校にどういう情報がどれぐらい入っているのか、わかります?

中川:いやー。

今井:業種がめちゃくちゃ限られているのと、かなり選びづらい問題があります。例えば今で言うと、多いのは建設業と運搬業、あとはサービス業、飲食店です。

中川:え、なに。高校に紹介するのに?

今井:高校の生徒が選べる職業です。高校生から求人として行ける職業。

中川:それはどうしてでしたっけ?

今井:青田買いをするためでしょうね。大卒などではリクルートがやっているじゃないですか。それでいろいろな企業さんがけっこう開拓できるような。高校にはまずそういうのがないです。

小幡:高校生にはめちゃくちゃ厳しいんですよね。

今井:慣習でダメなんですよ。それはルールというか、法律ではなくて、慣習でダメ。

中川:自主規制みたいなもんだな。

今井:そう自主規制。それを今、僕らが変えようという動きになってきてはいるのですが、基本的にそういうところなんですよ。

「一人一社制」と言って、一人一社しか就職の試験を最初に受けることができないというものが原則としてあります。今はだいぶ緩和されてきましたが、先生方のなかにもこれを問題だと思っている方は増えてきている感触はありますね。

高校生がハローワークで選べるのは給料と職種、場所のみ

小幡:確か面接の回数もあれですよね、たぶん、1人が何回もいろんなところ受けたらダメとか。

今井:ハローワークに書いてあることはおもしろくて。本当に給料と職種、場所しか生徒が選べるものがないんですよ。例えば、普通の大学生であれば「その会社がどういう想いでやっているのか」など、今はいろいろと選べるじゃないですか。でも、その権利は一切通せていない。そういう意味ではすごくもったいないと思いますよ。マッチングもその影響でうまくいかないので、1年で辞める率がかなり高いです。

そこの部分をうちは今、先生方と一緒にやるためにいろいろとしているところなのですが……そうしたもったいなさを感じるよね。

小幡:すごく思います。結局、そこでその子の選択肢が狭まっているじゃないですか。「検索したら出てくる」って言いますけど、そもそもそれ自体を教えなければやり方もわからないじゃないですか。結局、その高校生が周りの大人からそうしたサポートをしてもらわなかったときの視野はすごく狭いじゃないですか。

僕だってハローワークから先輩たちが就職しているのを見て、「僕たちもやらなくちゃいけない」と思ってましたから。「みんながそう言うからそれが当たり前だ」と。学校の先生たちもここを基本的に推薦してくれましたし。そうなると「自分が就ける仕事はこれだけしかない」と、絶対に思いますから。

今井:前提として1つあるのは、先生方や学校も、今まではそれを避ける理由もあったと思うんですよ。だから、全部否定するのは最初はすごくどうかなと思う部分もありますが。でも、高校生側から見るとすごくしんどいよね。今の時代に本当に即しているのかというところは、議論しがいがあると思います。

中川:そうなんだ。

今井:小幡くんの場合は、自分でそれを開拓する力があったのことがすごくて。なかなかこんなことができる人はいないから。

小幡:それは、本当にいろいろなご縁があったので。だからこそ伝えたいんですよね。

中川:その中学校の校長先生だっけ、君に話をしてと言ったのは。

小幡:そうですね。僕が通っていたところではないのですが、隣の中学で。

中川:隣の中学だけど、ある意味、不登校の子の話を自分のところの生徒に聞かせるというのは勇気がいることだよね。

小幡:「学校行かなくていいじゃん」ということにもなりかねないですからね。今振り返ると本当にありがたいです。

子どもはうまく言葉にできないけれど、いろいろ考えている

中川:ちょっとこの辺りで、なにか質問がある人がいるかどうか聞いてみる? このままいくと絶対、俺らの話だけで終わってしまう。

小幡:あはは。インタラクティブだと言っているのに。

中川:そう! 言っているのに。うん、なにかないですか? この辺りでも聞いてみたいなということが。

あれですよ、誰か1人手を上げてくれたら……はい! ありがとうございます。

質問者1:はい、すみません。昨日、今井さんとお会いして「来て」ということで参加させていただきました(笑)。今のお話から質問を考えたのですが、今、不登校の話題として、学校とその生徒といった話題が多いように感じています。

僕は会社を経営しているのですが、近い社員の「子どもが不登校になりかけている」という話をふと思い出しました。先生がすべきことなどもいろいろと考えるのですが、親側の気持ちと言いますか……その社員の子どもは不登校になったときに「なんとなく行きたくない」とやっぱり言っていたそうです。そうなると、親が「自分の責任じゃないか」とすごく思っているように感じています。

不登校になった子どもたちは親になにを求めているのか? 求めていることがないのであれば、それはそれでわかるのですが、どういった気持ちの子が多いのかということがすごく聞きたくて。難しいと思っているので。

小幡:子どもは、かなり意外と考えています。

実は、僕の父親は学校の先生なんです。そこで僕が学校へ行かないことは親の迷惑になるとすごく考えていました。(子どもということで)親の仕事で生きているじゃないですか。だから僕が学校へ行かないということは言えないというか、相当気を使いました。それもあってがんばっていたということもあるのですが。

でも、やはり僕的には無理でした。本当に無理だから親にいったんです。最初は、親は考えていなかったと思いますね、子どもがそこまで考えていっているとは……。

子どもが意外に考えています。「なんとなく行きたくない」も、うまく言葉にできないけれどいろいろ考えた上で親に相談している前提があります。だから、一度向き合ってちゃんと話したほうがいいと思います。

一番辛いのは「不登校になる直前」

今井:「親に認めてほしい」という感じがすごく強いですよね。その状態をとにかく「今は落ちつかせて」という。

不登校の場合は原因にもよるから、正直はっきりとは言えませんが、ただ、例えばいじめだったりして「学校に行きたくない」という状態のときには「認めてほしい」感情はかなりあると思う。「そっとしておいて」など。経験上、そうしたものはかなりあるなと思いますね。

質問者1:その「認められてない」という感覚が理解できなかったというか。親にも認められていないという感覚がある子が多いということはあるんですね。

小幡:不登校になっているということは、親はある程度、寛容だと思うんです。「まあいいじゃん、今は行かなくていいよ」みたいな。一番辛いのは不登校になる直前なんですよ。行きたくないけれど、親は「行きなさい」という。親と口論しても、説得するのは無理じゃないですか。納得するしかない。

社会人であれば「じゃあ、仕事辞めます」など、ある程度の意思決定権が自分にありますよね。子どもの場合、もいはや最終意思決定権はないから、親が「行きなさい」と言えば、もう行くしかないじゃないですか。そうした力関係があった上で、本当にいろいろ考えるんです。でも、無理なものは無理です。

前提として「学校へ行かなきゃいけない」と、みんなわかっている。その上で親に相談するというのは、よっぽどのことだと僕は思っています。だから、やはりいったん向き合うことが大事かなと思いますね。

質問者1:なるほど、そうですね。やはりこれは難しいですね、そのケースケースで。わかりました。ありがとうございました。

小幡・今井:ありがとうございます。

高校生の就活にリクルートは入るべきか?

中川:ほかになにかあれば。

質問者2:就職のことで思ったのですが。先ほど今井さんがリクルートも大学のほうが入っているから、そうしたものが入ったほうがいいのではないかという。

今井:入ったほうがいいということではないですね。

質問者2:高校側は、援護するわけではありませんが、民間が入らないからこそということもあります。結局、リクルートや民間では、例えばブラック臭くても、ある程度のマージンなどで。

今井:当然です、当然です。

質問者2:そうした広告収入などが高いところを勧めるというか、勧めざるを得ない状況になってしまうと思います。学校がそこをあえて高校では書いていないというのが、いい面もあるのではないかと。

今井:極めてその意見は同感で、すごく難しい議論だと思っています。僕自身も、現状はやめたほうがいいと思っています。それは本当にそう思いますね。

ただ、すごく難しいのが、高校生から見ると職業選択がなかなか難しい。しかも高卒という学歴に縛られて動いているということがすごく課題だなと思っています。

でも最近変化があるのが、人手不足という部分があって、かなり企業さんが高校に対して関心を持ち始めている。そこでうまい仕組みができないかと思って、僕らは今、動いているという感じですね。

だから本当に民間企業だけで動いてくると、先ほどおっしゃったとおりの問題が起きてくる可能性もあるし、それが避けられない問題だと思います。しかし、僕らはほかの新しい仕組みを作ろうと思って今動いています。だから極めて同感です。