日本と海外では、テレビCM効果は違う

滝澤琢人氏(以下、滝澤):では、同じような側面から似たような質問なんですけれども、石田さんにうかがいます。とくに海外と日本の違いで見えてきた知見や経験、データの側面など、お話しいただけますか?

石田晃敬氏(以下、石田):私、実は以前にロンドンで勤務をしていたことがあります。その経験から、やはり日本はすごいと思うのは、みなさん同じような考え方、価値観を持っている方が多い。

自分の個性を出していくのが、最近の若者のなかでは主流になりつつあります。しかし、今まではどちらかというと、画一的なところがあるなかでは、テレビやマスメディアの影響が大きかったんです。

一方で、ロンドンやイギリスにはいろんな国々の人がいて、価値観はぜんぜん違ったりします。そうすると、テレビで商品の良さなどを訴えようとしても、コミュニケーションしようとしても、届く範囲と理解される範囲には限界が出てくるんです。

それよりも、デジタルのメディアを使って、個をいろいろ押さえていったほうが届くんじゃないかという違いが、日本とイギリスの比較から見えてくるかと思います。

そうしたときに、さっきの広告費もそうですけれど、「意外にまだテレビに力がある」は、海外と比べての違いがあると思います。

ただ一方で、先ほどの話のとおり、テレビだけでは届かない人たちが出てきているのも事実です。やはり、広告とデジタルをある程度うまく使い分けていくために、バランスをどうしていくのかは重要ですし、考えないといけない課題だと思います。

滝澤:わかりました。ありがとうございます。

具体的にCMを出稿したい側の立場からするとやる・やらないが、まず1つあると思うんですよね。そして「やりましょう」となったときに、どういったタイミングで、どれくらいの予算でやればいいのでしょうか。また、いろんな過去の知見から、成功パターンがあると思うんですけど、いかがですか?

石田:まず、テレビを使うタイミングから考えますと……。例えば、ゲームがローンチします。そして最初に、デジタル広告をうまく使いながらダウンロード数を稼いでいくのが、今までほとんどのタイトルのローンチで行われてきたプロモーションです。

このデジタル広告がすごくいいんです。効果と効率をしっかり測れるので、どんどんPDCAを回していきながら、効率性を追求し、規模も取っていく方が多いと思います。

私どもの過去のテレビ出稿と、App Annieさんのデータ、あとは公表されたIRのデータを使いながら、「何万ダウンロードくらいからテレビの広告を使われる方が多いのか、タイトルが多いのか」を見ていきましたところ、だいたい200万ダウンロードくらいから……。

滝澤:200万?

石田:はい。200万ダウンロードから、テレビCMを使われるお客さまのタイトルが多い傾向がありました。

週次や月次でその動きをローンチから見ていくのですが、最初のプロモーションをデジタルで仕掛けてから、だんだんダウンロードを取れる伸びが鈍化してくる。

当然、効率性は追求できるけれど、デジタルのプロモーション経由でダウンロードしていただける方々も限界がくる。そこで「いよいよテレビを使うことも考えなきゃいけない」ということで使われ始めるのだと思います。

国内でも、素材や時間帯、地域の違いによって効果が異なる

滝澤:GRP(Gross Rating Point、延べ視聴率)という単位で出していくと思うんですけど、そのあたりには「最低これくらい出さなきゃいけないよね」が、やはりあるんですか?

石田:最低というわけではないですけれども、先ほどお話ししたとおり、「埋もれないようにする」が重要です。

滝澤:埋もれない。そこは重要なんですね。

石田:例えば、先ほどお話した、需要が多い8月や12月だと……。

滝澤:高騰しているわけですよね。

石田:量が大きくなっちゃうので、シェアしても埋没しかねない。そこで仕掛けるときは、量もすごくたくさん必要になったりします。そうではないものもあるんですけれど。

テレビの視聴率は、みなさんもよく「何パーセント」「10パーセントを切る」「月9が20パーセントだ」「最近1桁しかなかった」など、いろいろ出てくると思うんですけれど。1パーセントの積み重ねでいったとき、だいたい2,000GRPが1つの単位になります。

滝澤:200回ということですか?

石田:200回……まあ、そうですね。

滝澤:最低200回は打てと(笑)。

石田:(笑)。10パーセントを目指すなら、20回ですね。

滝澤:20回。

石田:そうですね。そこが、キャンペーンでの1つ目安となる数字です。

これに関して、実はゲームアプリに限った話ではないです。例えば、飲料や食品、家電など、新たな商品やサービスをローンチするときに、だいたい新商品をローンチしてから1週間〜1ヶ月くらい、その間に大きくCMを「こんな新商品が出ました」と打つことがあります。そのボリューム感と同じものだと、ご理解いただければと思います。

滝澤:なるほど。わかりました。それぞれプランニングが違う。石田さんからもお話を聞いていると、やはりテレビCMはより綿密なプランニングの上で打てるようになっている、という話だったと思うんですけれど。

石田:そうですね。そういう意味だと、私はお客さまからデータをお預かりしたり、App Annieさんも含めて、他社からデータをお預かりして、デジタル広告だけではなく、テレビ広告でも実際に効率化の効果検証できないか、というようなことを進めています。

デジタルの単位、スピード感では、超高速PDCAが求められますけど、ちょっと難しい部分はありつつ、テレビでもかなり回せるようにはなってきています。

滝澤:どういったコントロールの仕方があるんですか?

石田:実際にCMを打ったタイミングでどれだけのダウンロードを得られたかを、「何時何分に何件のダウンロードがあった」もしくは「実際入ったか」のデータをお預かりして、CM出稿のデータとひも付けます。そのCM出稿が効果的だったのか、効率が良かったのか、悪かったのか。

CMを打つタイミングとともに、例えば、どういうジャンルの番組……お笑い番組で打っているのか、報道で打っているのかなど、ジャンルを見たりもします。

さらに、CMの素材ごとに、すごくいい時間帯とそうでない時間帯があります。エリアによっても、東、阪、名で効果がある時間帯が違ったりする。

滝澤:地域別に。

石田:そこまで含めて、よりよい素材をどういう時間にどう流していくかを検証、PDCAを回しながら、次のプランニングに活かすということを始めています。

滝澤:「テレビなんか博打だ」みたいな言われ方もしますけど(笑)。そういった細かいコントロール、地域や効果を見ながら調整しているんですね。ありがとうございます。

インパクト要素として効果的なのは、タレントとキーワード

ちょっと時間がなくなってきたので、会場のみなさまからご質問があれば、お答えする時間を取っています。ご質問のある方はいらっしゃいますでしょうか? では1つ、別の質問を天野さんにさせていただきます。ぜんぜん想定されていた質問じゃないと思うんですけど(笑)。

消費者動向を見ているなかで、スマホアプリユーザーは、いわゆる「それほどスマホに傾注していないユーザー」と何が違うんでしょうか?

天野彬氏(以下、天野):スマホアプリユーザーの特性ということですか?

滝澤:ええ。

天野:年代的な話は1つあると思いますね。若い人のほうが頻繁にダウンロードしていて、アクティブであることは1つ言えるとは思います。

滝澤:生活の中では、どう使われているのでしょうか。すでに年代を問わず使われているとは思うのですが、「テレビとスマホをどう使っているのか?」では、クラスターの違いは出てくるのでしょうか?

例えば、ずっとテレビを見ている人のグループがいる。そうではなく、常にスマホをしているが、暇つぶしでテレビを見ているグループがいる。そういった分類はされているんですか?

天野:そうですね。ちょうど今、そういったリサーチをしています。テレビ、タブレット、スマートフォンのような、いわゆるスクリーンメディアとどう接しているのか。今おっしゃられていたように、スマホだけの人もいれば、バランスよく使っている人もいる。そのあたりを「クラスタリングしたら、どういう結果が出るか?」を、今やっています。今年後半か来年くらいに、電通総研としてレポートが出るかもしれないです。

滝澤:そうなんですね。かもしれないんですね(笑)。

天野:はい。かもしれないです(笑)。

滝澤:ありがとうございました。みなさんご期待いただければと思います。ご質問、なにかございますか?

では、最後に外山さんに締めの質問をお願いしたいと思います。テレビ広告をやるタイミングは、ある程度、デジタルで手を尽くしたところがあると思うんです。外山さんとしては、その得体の知れない力を使うにあたり、タイトルを見たり、プロジェクトや相談された案件に対して、まずどういったアプローチをしているのでしょうか。いくつか具体例があれば教えていただきたいです。

外山遊己氏(以下、外山):具体例は少し難しいですが、最初にゲームのタイトルをやらせていただいたときから、似ているものはなにか、それに対する「新しい」はどこなのかが、やはり大事だと思いますね。必ずしも、お客さまの言っていることと同じとは限らないので、まずはそこを見ます。

どんなに似たゲームがあっても、依頼をいただいたゲームには個性があります。そこが誰に刺さるのかを、まず見ます。ゲームありきでユーザーを見ることが一番多いです。

逆に、オーダーとして「今この人たちは取れているから、新しくこの人たちを取ってください」となると、基本的には我々ができる範囲では、いわゆる表現や手法の部分になります。ゲーム内容の表現より、どこで見せて、どういう表現をすれば、その人たちにインパクトを落とせるか、という見方をします。

そのため、我々がやっている内容では考えることが多く、それなりの経験値が求められると思います。

滝澤:そうですよね。とがらせる方法としては、例えばどういったものがありますか。

外山:一番わかりやすいのは、タレントさんを使う、タレント広告です。日本の広告の特徴でもあるのですが。これは単純に、「このタレントが出ていれば、この年代向けである」が一瞬でわかったり、インパクトを作れるのが1つ方法論。

あとは、まさに広告的な手法論でいうと、「グラブってる?」みたいなキーワードを作って、「このキーワードがあるなら、このゲームのこと」となるのは、やはりリーチを早めると思います。「ひっぱりハンティング」という言葉も新しい言葉ですよね。そういったものを作ったりしますね。

滝澤:とがらせ方には、タレントもあれば、キーワードを作ることもある。とくに「これがイケる」といった成功パターンは……。

外山: 一概にはないですね。そのゲームごとに合わせて、弊社を含めて、クリエイターが一生懸命考えて、複数の案のなかから選んでいただくという。

滝澤:わかりました。ちょっとお時間もなくなってきたので、もし質問がなければ、ここで……。あ、お願いします。

テレビCMによる、去ったユーザーを再訪させる効果

質問者1:ありがとうございました。ちょっと特殊な事例なんですけれども、我々はパチンコ・パチスロのインターネット上のオンラインゲームとして、PCとスマホで12年間やっています。

その間、オンライン広告しかやっていません。そのため、認知を調査すると80パーセント弱あるんですよね。そんなゲームでもテレビCMをやると、まだリーチできてない人たちに届くのでしょうか?

石田:おそらく届くものだと思います。というのも、関心が高い方々は、自発的に、能動的に情報を取りにいくことをされると思います。

とくにデジタル広告であたる方々は、そういう通過点でターゲティングもされていくことが多い。能動的な方々は、おそらく取れると思うんですけれども。

当然、まだまだ受動的に「あ、こういうのがあるんだったらやってみようか」といったお客さまもいると思います。もしかすると、そういう方々を取っていくことが、テレビの広告でできるのではないかなと、今話をうかがって思った次第です。

外山:今、メディア観点での話がありましたが、商材やターゲット、ユーザーのことを考えると、『北斗の拳』シリーズなど長いシリーズの場合、リテンションやユーザーを戻すための効果を考えることがいい方針だと思うんですよね。

パチンコ・スロット業界は今、規制が変わるなど、目まぐるしく変わっています。また、かつてはパチンコを楽しんでいたけれど、ぜんぜんホールへ行かなくなり、辞める人も、非常にたくさんいます。

そういった人がテレビで「そういうものがあるんだ」と改めて見ることで、……パチンコなので勝ち負けという表現はあれですけども、リスクや大きな喜び、大きな落胆はないかもしれないけど、あのころをもう1度楽しめるのではと感じる。そういった流れもあり、テレビCMをする意味はすごくあると思います。

質問者1:すみません。もう1歩踏み込むと、そういうことを電通さんにお願いすると、どれくらい取れそうだという予測は出していただけるんでしょうか(笑)。

外山:通常、我々がご提供している予測は、ゲームの場合「過去にどれくらいの認知がとれた」という、平均値を出しているんですね。そこから直接どれくらいダウンロードが取れたかを出すのは難しかったりします。

まさに今おっしゃられましたが、パチンコ・パチスロアプリだと、過去実績がおそらくほとんどないので、予測数値を出すのが非常に難しいですね。

質問者1:ありがとうございました。

滝澤:ありがとうございました。時間もちょっと押してしまったので、いったんここで終わらせていただきたいと思います。

本日はお三方、本当にありがとうございました。みなさま、ご清聴いただきありがとうございました。