日本のゲームアプリ市場におけるテレビ広告活用のポイント
滝澤琢人氏(以下、滝澤):みなさん、こんにちは。App Annieの滝澤と申します。本日はお忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。「日本のゲームアプリ市場におけるテレビ広告活用のポイント」ということで、データからどういったことが言えるのかを、少しお話しさせていただければと思っております。
まずはじめに、ここにいらっしゃっている方で、ゲームアプリのテレビ広告を出稿したことがあるという方は、どれくらいいらっしゃいますか?
(会場挙手)
なるほど、7名くらいですね。ありがとうございます。これからご紹介するデータからは、おそらく今後(テレビ広告を)出される可能性のある方々も含めて、いろんなインサイトを提供したいと思っております。すでにテレビ広告を出したご経験がある方も含めて、ぜひ聞いていただければと思っております。
今日のセッションテーマは「テレビ広告の効果ってどうなんだろう?」ですので、データから裏付けをお話しさせていただきます。
その前に、App Annieの会社紹介をさせてください。弊社は「よりよいアプリビジネスの構築を支援します」として、みなさま方にアプリビジネスで必要なデータを提供することをミッションに、会社を運営しております。
お取引させていただいている会社さまには、こういったアプリビジネスをやられているゲーム会社さんをはじめ、ソーシャル系、モバイルプラットフォーム、メディア・エンターテイメント、最近ではリテールさんにもデータを活用いただいている現状でございます。
今、主に4つのプロダクトがございます。スライドの左側が、アプリ単位のダウンロードと収益を提供している「Store Intelligence」と、アクティブユーザーの推計データを提供する「Usage & Audience Intelligence」です。
最近、右側の2つをリリースしました。収益とダウンロードの予測情報を出す「Forecast Intelligence」と、出稿情報を出す「Marketing Intelligence」というプロダクトをローンチしました。
「Marketing Intelligence」に関して、少し触れさせてください。「クリエイティブギャラリー」というものがございまして、全世界のスマホに配信されている広告のクリエイティブを、毎日5万個収集しています。どんな画面かというと、こういったかたちで、すべての広告主のクリエイティブ出稿状況のデータを見ることができます。
出稿先や出稿量をどう調整しているのか、出向先とクリエイティブとの相関関係がどうなっているのかなど、そういったデータインサイトを提供しているプロダクトでございます。とくにグローバルで展開している会社さんに関しては、ローカルマーケティングがどう行われているのかを見ることができます。
競合アプリのマーケティング施策を、どうローカライズしているのか
競合アプリのマーケティング施策を、どうやってローカライズしているのか。ゲームアプリはローカライズされていますけど、広告のクリエイティブはどうローカライズされているのか。
これは1つの例ですが、Supercellさんの中国で展開している動画広告が、今どうなっているのかを知ることができます。
「ASO(エイソー)」は、自社や競合のゲームが、どんなキーワードで検索されているかを、このような画面で知ることができます。
こういった「Marketing Intelligence」をリリースさせていただきました。みなさまのお役に立てるよう、我々もプロダクトのラインナップを強化しているところでございます。
客単価は高いが、ダウンロード数は横ばい
さて、今日の本題です。まずは「日本のゲームアプリ広告の全体像がどうなっているのか」について、簡単にマクロトレンドのお話をさせていただきます。
ゲームアプリ市場全体の収益はどう変化しているのか、顧客単価はどれくらいなのか、どう変化しているのか、総ダウンロード数はどう変化しているのか……を、簡単にデータからお話ししたいと思います。
2013年の日本のゲームアプリ市場を「100」とした場合、2015年の収益規模は2.5倍になった「250」です。「アメリカを抜いて、世界のアプリゲーム大国に成長した」というのが弊社から発表しているデータから読み取れます。
なぜこんなに大きくなっているのか。客単価を見ていきますと、ARPU(ユーザー1人あたりの平均売上金額)がほかの国より、はるかに大きいことがわかります。
UKの1ユーザーあたりの消費額を100とすると、日本は今650〜660くらいです。つまり、6.6倍くらいの消費が行われている。アメリカと比較しても、2倍以上です。韓国・アメリカも非常に高いARPUを持っている国ですが、日本はそれ以上に伸びています。
では、これがどう伸びてきたのか。もともと「ARPUって高いよね」といった話があるのかもしれないですが、実は最近急増しているのが、データから見えてきております。
これは、2014年の第2四半期〜2016年の第2四半期のARPUの伸びを示しているチャートです。グリーンの日本は、2年前の250から今は500。先ほどイギリスの数値と比較して「6.5倍」という数字が見えましたが、この図を見ると、2年間で約2倍に増えていることがわかります。ARPUはどんどん上がっている、という傾向が出ています。
そして、同じ動きをしているのが中国です。成熟国と言われるアメリカやイギリス、韓国といった国々は若干上がっていますが、日本と中国ほどは伸びてはおりません。
一方、ダウンロード数はどうなっているのか。これは、アメリカと日本の総ダウンロー数を比較した、非常に興味深い資料です。
アメリカは2013年から2015年にかけて、日本の約5倍くらいのダウンロード数になっています。先ほど、収益額では日本のほうが上回っていたとお伝えしました。アメリカが日本の収益額に対して5倍のダウンロード数を持っている一方、日本は5分の1の状態で横ばいに推移している状況です。
つまり、ダウンロードが稼ぎにくくなってきているというトレンドが、マクロ視点から見てとれます。
これが、今のまとめになります。日本ゲームアプリ市場は非常に大きな収益を持っていて、ARPUが非常に高い。一方、ダウンロード数は横ばいで推移しております。このあたりは、これからお話しする広告の部分と紐付いてきます。
日本のゲーム市場の柱とも言える「RPG」
では、どうやってユーザー獲得すればいいのか。それが、ここからのテーマになります。今、ゲームジャンル別に見たときのエンゲージメントとマネタイズがどうなっているのかを、少しお話しさせていただきます。
具体的には、どのジャンルが1番ダウンロードされているのか。ダウンロードの上位アプリはどういったジャンルなのか。収益をあげているジャンルは、ダウンロード数を上げているジャンルとどう違うのかを、簡単にデータからお話しさせていただきます。
こちらのチャートは、今日共催させていただく電通さんと一緒にリリースする資料の中にあるものです。電通さん独自のカテゴリー分類で、「カジュアル」「RPG」「ストラテジー」「シミュレーション」「それ以外」の5つに分かれています。赤でハイライトしている部分がカジュアルとRPGです。これが75パーセントを占めているということですね。日本ではカジュアルとRPGがほとんどのダウンロードを占めているのが、データから読み取れます。
ここでのカジュアルとは、「ディスニーツムツム」「キャンディークラッシュ」といったものを対象としています。RPGは「パズル&ドラゴンズ」「モンスターストライク」を含めています。「パズル&ドラゴンズ」「モンスターストライク」はパズルゲームですが、中身はRPGというゲームスタイルなので、このように分類しています。
では、これを(ダウンロードチャートの)トップ10だけで見たらどうなるのか。上のチャートは、トップ200のゲームを全部調べて、それをカジュアルとRPGに分類しました。上がカジュアルで、下がRPGです。
そして、トップ10、もしくはトップ20に入るアプリがいくつあるのか、個数をカウントした結果のチャートです。
なにが言いたいかというと、先ほどの1つ前のチャートで、RPGとカジュアルがそれぞれ同じくらいの比率で、大きなボリュームを占めていました。しかし、この2つを分類してみると、カジュアルのほうがトップ10に多く入っていることがわかります。ダウンロードトップ10に入りやすいアプリは、カジュアル。ただし、全体的にはだいたい同じくらいの比率になっています。
一方で、さっきの分類を収益で見てみると、ぜんぜん違うものが見えてきます。RPGが全体の約7割を占める収益規模になっています。カジュアルは、ダウンロード数は多いけれど、マネタイズでそこまでうまくいってない。海外ではストラジーも非常に大きな収益の柱になっていますが、日本ではRPGが強いです。これは、日本の特徴を示していると思っております。
今のセクションのまとめです。大衆向けの訴求で、カジュアルゲームはチャートのトップに躍り出やすく、トップ200の35パーセント以上を占めています。ただし、RPGのマネタイズ力はカジュアルよりも強いです。2015年では、日本のゲーム市場の75パーセントをRPGの収益が占めている現状でございます。
過去2年で、テレビ広告支出額が1.7倍に
ここから先は「今、テレビ広告がどのように変化しているのか」を、全体的な観点からお話しさせていただきたいと思います。
このあと電通さんのセッションがあり、そこでかなり具体的な事例に踏み込んだ内容を、専門家の方に解説していただきます。そのため、私からは「今、テレビ広告の支出が、ほかのメディアに比べてどうなっているのか」を、少しマクロ視点でお話します。
ゲームアプリの広告支出は、日本にお住まいの方には「増えている」と感じているかもしれないです。ではこのあたり、この2年でどう変化しているのか。また、ゲームアプリの広告は「新作で広告を出すのが通常だよね」という共通認識があるかもしれないですが、「本当にそうなのか?」をデータから検証させていただきます。
まず、日本の広告支出です。これは全体の広告支出のうち、テレビの占めるもの、インターネット+モバイルが占めるものの比率を年単位で追っかけていっているものです。
これをみると、インターネットの赤い線の伸びが著しいことがわかります。私は(データを)見て、「インターネット・モバイルって、もうここまできてるのか」と意外でした。同時に、「テレビ広告ってぜんぜん減っていないんだな」という2つ目の驚きがありました。つまり、テレビ広告は、まだ日本おいては支配的な広告の出稿先として、非常に大きな規模を維持している。新聞や雑誌、ラジオといったほかのメディアへの出稿はどんどん減っている現状があります。
では、モバイルゲームの出稿はどうなっているのか。これは弊社が電通さんと共同でリサーチした、最新の資料になります。テレビの広告支出は、この過去2年間で1.7倍に増えております。
この1.7倍は、非常に驚異的な数字だと思っています。直近だともう少し鈍化していますが、ゲーム全体の収益の伸びは、この2年で2.5倍なんですね。広告の支出がここまで伸びている、ということがデータから見えます。
テレビ広告を出稿しているモバイルゲームの、ローンチからの平均日数を毎年集計したものがこちらになります。
2013年、モバイル広告を出していたゲームのリリースからの経過日数(どれくらい運営しているかという日数)が約200日だったのに対して、2016年の第1四半期では400を超える。つまり、1年以上で長期的に運用されているタイトルがテレビの出稿を支えていることが、データからわかります。
それから「ジャンル別に見たときにどういう傾向が見られるか」です。まず、支出が多いジャンルと少ないジャンルがあるのかどうか。多いジャンルがほかと比べてどれくらい多いのか、というところですね。
広告の支出の額に合わせて、収益がダウンロードよりも向上する
CM出稿量とダウンロードの相関関係。これはみなさんが一番気になっているところだと思います。もう1つが「CMの出稿量ってどれぐらい収益に貢献されるの?」の相関関係あるのかどうかです。このあたりをお話しさせていただきたいと思います。
まず、ジャンル別のお話です。左が「non-RPGゲーム」の広告支出、右側がRPGゲームの広告支出です。1.7倍くらいRPGに寄っているということが、こちらのグラフからわかります。先ほどデータで見ていただいたとおり、収益性の高いRPGは、より広告を出稿しやすいタイトルになっているということですね。
次のスライドですが、その広告費を出したときにどれくらいダウンロードが増加したのかを分析したものです。散らばっている各点が、それぞれ1つのゲームアプリです。
横軸が広告の支出(USドル)です。100ドルからスタートして、1,000ドル、1万ドル、10万ドル、100万ドル……というスケールになっております。
点の色分けですが、青がRPG、赤がnon-RPGです。電通さんからいただいた資料と一緒にデータをかけ合わせて分析しました。膨大なデータを分析した結果、これを全部プロットして、「広告費をどれくらいかければ、どれくらいダウンロード伸びるの?」を1つのチャートで表したのが、こちらのチャートです。
これを見ると、けっこう分布がまばらになっていますね。「広告費が上がれば上がるほど、ダウンロードが上がるよね」を期待していたのですが、実際にはそれほど相関関係は見て取れませんでした。
この次のデータがすごくおもしろいデータなんですけれど。「収益で見たときにどうなんだろう?」がわかるものが、こちらです。
横軸は先ほどと同じく、広告の支出。縦軸は「収益がどれくらいアップしたか」を表しています。散らばっている各点も先ほどと同じく、それぞれ1つのタイトルです。タイトル名は明かせませんが、右上のタイトルはほぼみなさんが知っていて、CMもバンバン流しているタイトルです。
これを見てなにが言えるかというと、logのグラフの線では広告支出が少ないものに収益の上昇は見られないのですが、ある一定以上のところにいくと跳ね上がるということがわかると思います。先ほどのダウンロードのチャートに比べると、テレビCMは収益に対してのインパクトが強いことがデータからわかります。
まとめですが、日本のゲームアプリのテレビ広告が今どうなっているかは、先ほど申し上げたとおり、テレビ広告支出は急増しております。
新作に寄っているわけではなくて、従来から運営されているような古参のタイトルも、新規の獲得だけではなくて、リエンゲージメントにも広く使われている。
それから、ジャンル別に見るとRPGが非常に高いテレビ広告支出を行う傾向があります。
最後に、先ほど見ていただいたチャートのとおり、「広告の支出の額に合わせて、収益がダウンロードよりも向上する」が、データから見て取れます。
私からはここまでです。このあと、電通さんから「広告の実際どうなのか?」というお話をしていただきます。とくにリエンゲージメントの部分が、おそらく今までみなさまに伝わってないところだと思いますので、ぜひそちらも聞いていただければと思います。ありがとうございました。
(会場拍手)