データを活用して、ユーザーとコミュニティーする

滝澤琢人氏(以下、滝澤):石田さんはマネージャー、Chief Data Scientistとのことですが、どういったお仕事をされているんですか?

石田晃敬氏(以下、石田):データサイエンティスト、アナリストとして、ここ10年くらいやってきております。

もともとメディアプランニングのようなものを行ってきたんですけれど、お客さまのデータや外部のデータを使って、プランニングにどう活かしていくのかを行っておりまして。どちらかというと、アナリストのような役割です。

滝澤:ふだん、お仕事は具体的にどう進められているんですか? いろんな案件がいろんなところから入って、データを全部集めてきて、日々格闘するみたいなイメージですか?(笑)。

石田:そうですね。ここ3〜5年くらいは、ビッグデータやビジネスインテリジェンス……データというかたちで情報を。

お客さま(クライアント)も、データを持っている。けれど、どう活用するのか……例えばゲームやアプリケーションだけではなく、一般的なものを包括するような領域の会社、自動車やファッション、食品医療なども、課題を抱えている。

そのような方に対して、お客さまの持っているデータと我々が持っているデータ、あとは第3者が持っているデータを活用して、お客さまのビジネスに対する課題を解決するようなことを行っております。

滝澤:ありがとうございます。隣、外山さまはマーケティングプランナーで、今回新しく設立された「電通デジタル」に籍を置かれているということですが、実際に今どういうお仕事をされているのかを、自己紹介を兼ねてお話しいただければと。

外山遊己氏(以下、外山):私は、会社ではずっとコミュニケーションプランナー、戦略プランナー ということで、実際に、CM、それ以外にも、いわゆるお客さんになにか発信をする、コミュニケーションをするときに、「誰に向かって」「どんなことを言えばいいか」という戦略を主に担当してきました。

最近は、スマートフォンゲームもですが、それ以外のデジタル広告や、広告だけじゃなくて、デジタルツールや、石田のほうが申し上げましたが、データをどう活用すれば、お客さんとよりよいコミュニケーションができるのか、コンサルティング業務的なものも増えてまいりました。

滝澤:ちなみに、今まで携わったCMの数は、どれくらいになるんですか?

外山:なかなか我々の仕事の分け方は難しいんですが、私自身がCMを考えたり、コピーを考えたりすることはないですね。クリエイターに、「この人にはこういった趣味がある」「そのために、こういったメッセージを発信してくれ」と決めて、渡すまでが我々の仕事なんです。

それでいうと、もう15年近くやらせていただいているので、それなりの数になります。

滝澤:なるほど、超ベテランという。全体のコミュニケーション設計をしていて、そのあと具体的になにを作るかは、実際にクリエイターが入ってくる。その前段階をメインにお仕事されています。ありがとうございます。

そのお隣、一番左側の天野さま。電通総研メディアイノベーション研究員ということで、右側のお二方とはまた違う立場の方です。天野さん、自己紹介をお願いできればと思います。

天野彬氏(以下、天野):私は、電通社内のシンクタンクである電通総研に所属しています。電通総研自体は、今の生活者の価値観やインサイトを掘り起こしていくチームです。そのなかの、メディア部門です。今、どのようにメディアに接触しているかを研究するチームにおります。とくにスマートフォンを使っているユーザーの情報行動に関して私がリサーチをして、さまざまなところにレポートを書くという仕事をしています。

滝澤:わかりました。ありがとうございます。

みなさんはご存じかもしれないですけど、天野さんは(ウェブで)検索すれば、すごくいっぱい記事が出てきます。最近、私が読んだ記事で印象的だったのは、「スマホユーザーのことを深く知るためのログ分析~なぜ年を重ねた女性ほどゲームアプリをよく利用しているのか~」です。すごくおもしろい記事なので、ぜひみなさん、あとでご覧になって読んでいただければと思います。

若い世代で半分、50歳以上で9割に届くメディア

このあと、みなさまに質問をさせていただきたいと思うんですが、まず「テレビCMってそもそもなんなのか?」を、改めてご専門の方々、実際にそれに携わっている立場の方々が、どう理解されているのかをお話しいただければと思っております。

私も素人ですが、テレビ広告を出したことない者からすると、なんだか得体の知れない大きいもののイメージです。予算はすごくかかるんですが、とにかく大きなパワーを秘めているものと思っています。

実際にそれを売る側、作る側、プロデュースする側として、どう見ているのかをお話しいただければと思います。天野さん、お願いします。

天野:前半、けっこう具体的にテレビ広告のお話があったと思うんですが。後半では、まず議論の土壌を整えるという意味で、日本におけるテレビが、今どういったパワーがあるのか、どういうコンディションなのかを、私のリサーチも携わったデータなどをご紹介しつつ、お話しできればと思っています。

ビデオリサーチ社の「メディアコンタクトレポート」というデータからの抜粋したものをもとに話を進めます。

(スライド)左から、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネットのPC・モバイル。それから交通広告、トランジットですね。それが週平均でどれくらい接触しているのかを、時間で表したものです。

青が男性で、グラフの左から10代。それから20〜34、……いわゆるM1、M2。赤いバーが女性のF1、F2。そういったテレビ階層で切ったデータになっています。これを見ると、やはりテレビがいかに触れられているかがわかるかと思います。

滝澤:これを見ると、もうインターネット、モバイル・PCをはるかに上回るのがテレビ。時間がテレビに使われているということですよね?

天野:そうですね。そして、次のシートも切り方は同じで、これは週平均のリーチになります。これを見ても、テレビがいかに強いか、見てわかるかなと思っております。

滝澤:最近、とくに若い世代は、いわゆるテレビ離れしている話があり、「テレビに接触してないんじゃないの?」とも思うんですが、このデータはおもしろいですね。

一番若い世代でも、その半分にリーチできるメディアである。とくに50歳以上の場合だと、9割には届く。こう見ると、本当に大きなリーチの力であり、パーセンテージはまだまだ大きい。

天野:そうですね。次は、改めて「では、テレビはなぜ強いのか?」を、文化的な側面から考えつつ、まとめてみました。「日本は、テレビがどうして強いのか?」を3つの視点でいきます。

1つ目は、やはり放送局に集まる豊富な人材によるコンテンツ開発力。これが非常に優れています。

今でもテレビコンテンツは、さまざまなメディアに展開されています。パッケージビジネスや、配信などです。それくらい、今でもさまざまな年代の生活者を引きつけるメディアの力を誇っていると思います。

そして2つ目です。日本だと、ある種の政策的な推進の結果として、地上波放送を社会的な情報インフラとして位置づけるというような力もあると思っています。

これが今でも、テレビが、それこそ全国へ一斉に情報を知らせる強い機能を持っている1つの要因であり、社会的な背景としてあると思っています。

そして、最後3つ目です。やはり圧倒的なリーチ力にも後押しされた、文化創造力がある。今だと、テレビとSNS、あるいはキュレーションサービスの組み合わせで、一気に情報が拡散するということが起こっています。

例えば、「テレビでこんなことやったよ」と言って、次の日のLINE NEWSになるなど。みなさんも見たことがあると思うんですが、そういうかたちで若年層にもリーチしています。先ほど「グラブる」というキーワードがありましたが、それもSNS上で広がってみんなが真似したり。

そういった組み合わせで、今はテレビのコンテンツや、情報が広がるところが非常におもしろいところと思っております。

滝澤:そうすると、やはり人材とインフラ、そして文化創造力というところに、けっこう大きな力があるということになります。予測しえない力になっていく、変化になっていくということなのかと、非常に興味深く聞かせていただきました。ありがとうございます。

オンライン広告を動かしながら、テレビで底をかさ上げする

一方で、テレビです。モバイルアプリ、ゲームアプリにとって、テレビを活用する意義はどういうところにあるのかをお伺いしたいんですけど。どうでしょう? 外山さん。

外山:モバイルゲームの場合、大抵において、最初にデジタル広告……いわゆるバナーなどで、事前広告をみなさんされますよね。

それである程度、届く人、取れる人はいるわけですが、テレビで取れる人はまた別です。それを含めて、もっと大きな人に短時間で圧倒的に届くことがあります。そのため、ビジネス上で、「短期間で事業を黒字化したい」「今まで取れなかった人にターゲットを広げたい」が可能です。

リーチの問題だけでなく、バナーの1枚絵に比べると、CMには表現力があり、メッセージをいっぱい入れられる。それによって取れる人が増えるところが大きいと思います。

滝澤:そのなかで、モバイルアプリ、ゲームアプリなど、外山さんがコミュニケーション設計をされるときに、いくつかのポイントがあると思います。

とくにテレビという、これだけ大きな力を持っているメディアを活用するにあたって、なにかいくつかポイントがあると思っています。そのあたりはいかがですか?

外山:手法的なところだと、今テレビはリーチがすごいというお話をしましたが、長い目で相対的に見れば、テレビの力は昔に比べて下がってきている。

ただし、短時間に伝える力は強いので、(広告業界では)往々にしてみなさん、我々もそうですが、テレビとデジタル運用広告の組み合わせでオススメすることが多いです。

やはり「ちゃんとテレビでリーチを取って、あとは押すだけというバナーを見せてあげて、刈り取りをする」という組み合わせがとても重要かなと思います。

滝澤:では、通常のオンライン広告を常に動かしながら、テレビで底のかさ上げをしていく。その組み合わせが、重要ということですね。

外山:そうですね。あとはすでに既存のゲームのクライアントさんですと、OOH(Out of Home)。例えば、電車やビルごと広告みたいなものを使って、ユーザーのリテンションを図るなど、ネット上の話題をつくるために、そういうことをしたりもします。

最近ですと、タレントさんを起用したPRイベントで話題をつくるというのもあります。これについては、例えば、ITにコアファンがいる、アニメ・ゲームファンが多いゲームさんでよく見られます。

一番いけないのは「オールターゲットへの訴求」

滝澤:コアファンがいるものの、広告の作り方として、それから全体的に満遍なくユーザーを取ってくるというところがあります。その違いはあるんですか?

外山:その違いは大きいです。前半の話でもありましたが、テレビだからといって、今一番やってはいけないことは「オールターゲットへ訴求すること」だと思っています。

滝澤:あ、オールターゲットはダメなんですか?

外山:はい。テレビCMはすごい量が流れています。1日生活しているなかで、テレビを1時間以上見る人だと、何本かゲームのCMにあたると思うんです。でも、どれがなんのCMかは、なかなか覚えきらないと思うんですね。

そのために、アニメ、ゲームファン含めてですけれど、「誰に向かって言うか」を絞り込むことがポイントになっています。例えば、ターゲットがたくさんいるとしても、このターゲットにCM「A」、このターゲットにCM「B」、このターゲットにCM「C」みたいに、専用のものをたくさん作ったり。いわゆる「絞り込んで表現をとがらせる」が非常に重要だと思います。

滝澤:例えば、具体的になにか「このCMで、こういうターゲットに、これ出した」には、どういったものがありますか?

外山:先ほど、「グランブルーファンタジー」の例が出てきました。それ以外だと、カードゲームのアプリCMでは、若者が実際にカフェで対戦をしていて、心の声が聞こえる……といった、ユーザーの日常生活をそのまま切り取って描いているようなものがあると思うんです。

滝澤:それは最近伸びている、あの例のカードゲームですか?

外山:そうですね(笑)。

滝澤:なるほど。

外山:自分がそのゲームのターゲットだと見た人がわかり、どうに楽しむかが、わかりやすく描いてくれているんですよね。

滝澤:そうすると、その人たちの心に入ると、よりその効果は上がりやすい。

外山:上がりやすいですね。あとは、埋もれないことが大事です。「自分向けだ」と思って覚えてもらうという意味では、インパクトやターゲットを絞り込んで、わかりやすく見せることが非常に重要です。

滝澤:なるほど、わかりました。

日本と欧米の、ゲームの好みは違う

一方で、今の話は日本向けに開発されたタイトルだと思うのですが、とくに海外から入ってくるタイトルのプランニングを任せられるというケースもあると思うんです。そのときのポイントは、日本のタイトルとはだいぶ違うんですか?

外山:だいぶ違いますね。例えば、キャラクターやアニメーションの絵柄の好み1つとっても、日本……アジア圏、とくに日本と欧米のゲームの好みは違うんですね。

欧米だと、例えばFPS(ファースト・パーソン・シューティング)や対戦格闘ゲームに大きな市場があり、プロ化もしています。けれど、日本では、そんなに大きくない。

海外のゲームがきた場合、「ヨーロッパ、欧米でこういう要素が入っているから、これを伝えたいんだ」というご依頼をよくいただくんですけど、「それは日本でやってもたぶんダメだろうな」と思うことがよくあります。

そういった点でも、「このゲームの場合、日本では逆に、別の要素がいいんじゃないか」とフラットに考えさせていただいたほうが成功しやすいと思います。

それは表現においても同じです。ちょっと先ほども出ましたけど、本国のものをそのまま持ってきて機能させるには、例えば、起用するタレントが日本人にとってなじみが深かったり、非常にわかりやすいストーリーだったり……であればいいんです。しかし、そうじゃないものもいっぱいあるので、そこは直したほうがいい、変えたほうがいいと思います。