長野へのこだわりは?
山本海鈴氏(以下、山本):実は、このあと質問タイムを設けております。せっかくの機会ですので、東京と福岡のみなさまにも。今、おつなぎしますね。
まず東京から、この機会にぜひご質問いただければと思いますので、挙手制でどうぞ。では、前の方お願いします。
井手直行氏(以下、井手):今日は一番に並んでいただいて、ありがとうございます。
質問者1:いえいえ。〇〇と言います。よろしくお願いします。
今日、うかがいたかったのが、長野という土地に対するこだわりはどうなのかな、と。たぶん今の力からすれば、ほかのところに醸造所を作って、ビールをもっともっと造るということもできると思うんですけど、ずっと長野で。
もちろん長野で造られたからというのはあると思うんですけど、その土地に対するこだわりがなにかあるんでしょうか?
井手:こだわりがある面と、ない面、両方あるんですよ。
こだわりがある面は、もともとの創業者の星野は、大正時代から代々続く旅館の家系なんですね。そこに根を下ろして100年以上経つわけです。そのお膝元を創業地として選んだ。
あと軽井沢というところは、日本でもすごくめずらしい土地なんですよね。人口1万人ちょっとくらいの街なんですけど、年間800万人くらいの観光客の方がいらっしゃって、別荘もたくさんあるんです。そこにいて、いろんな方が訪れてくれるので、そこでビールを広めるというのもすごくいい。
星野リゾートの創業の地であり、僕らの創業の地でもあり、そういう特異な街であるというところから、大切にしたいなという想いがあるのと同時に、僕らはその地域だけで飲まれるというところじゃなくて、全国の消費者の方に手軽にこういうビールを飲んでもらって、ビールの文化を新しくして、ファンに幸せになってもらいたいというのがあるので。
その僕らのミッションのためだったら、別に軽井沢の今の醸造所もそのままでずっと操業していきたいと思っているんです。それ以外で拠点ができるのは、まったくなんとも思ってない。
だんだん大きくなっていったら、地域に近いところで造っていくというのはふつうにやっていこうかなと思ってます。
そんなこだわりがある面とこだわってない面と両方あります。よろしいでしょうか。
質問者1:ありがとうございます。
チームメンバーの能力をどう引き出す?
山本:では、福岡の方と順々にいきましょうか。福岡の方、ご質問ある方いらっしゃいますか?
質問者2:どうもありがとうございます。大変おもしろかったです。
チームを率いているときに、バーンと前に拓いていきたいと思うんですけど、社員さんはそういうタイプばかりじゃないと思うんですね。そのときに、チームのメンバーを気遣いながら見られてると思うんですけど、どんなふうにチームを率いられてたのかなと、おうかがいしたくて質問しました。
井手:社員全員に資質テストというものをやっていまして。
三浦崇典氏(以下、三浦):資質テスト?
井手:ある本によると、人間には34の強みがあって、それの上位5つがテストでわかるんですね(「ストレングスファインダー」テスト)。
僕の資質は、1位が「戦略性」なんです。2位が「着想」というアイデアマン。3位が「責任感」がある。4位が「指令性」で、5位が「自我」という、わがままみたいな。それに本当にぴったりなリーダー像でやってるんです。
ただ、スタッフによってはぜんぜん違う。例えば、「調和性」というのがあったら、人と争いを起こさずに丸く収めようとことにすごく注意を払う人間がいたり。「ポジティブ」という人がいたら、とっても前向きに考える。
個性を理解し、メンバーの強みを活かす
僕らはチームを大切にするので、そういういろんな個性を理解した上で、「この人はこんなのが得意だからこういうのをお願いしよう」「この人はこういうのが苦手だから、ほかの人でカバーしよう」と、チームで強みを活かして、苦手をみんなで補っていく経営をしてるんです。
だから、僕はこんなタイプなんですけど、ユニットという部署が今12、13あるんですけど、そこのディレクターというのは僕みたいなタイプはあまりいなくて、いろんなタイプがいるわけなんです。
例えば、「包含」と言われるのは、仲間をすごく大事にする。そういうのが上位に来てるディレクターのチームは、僕にはなかなかできないような、輪を大切にする。仲間を大事にしていて、戦略は苦手なのかもしれないけど、人とすごく仲良くなって守っていくのが、とても真似できないくらい得意な人がいたり。
そういうリーダーによって、得意なところを発揮させる。タイプの違うリーダーがいっぱいいるんです。それをチーム編成で補って、課題を解決する。
そんなテストをやったり、そういう研修をしょっちゅうやったりしてて、同じ方向を向いて、チームでやるということの大切さを理解して。そのおかげでとてつもなく大きい結果が出るわけなんです。
1人でやると1の仕事が、2人でやると1+1で2なんですけど、こういうチーム編成をすると、1+1が3とか5になるんです。そういう結果が今まで数多く出てるので、うちの社員は、いろんなタイプのリーダーがいながら、チームでやってそれを補いながら、結果をすごく出していく。
こんな組織運営をしております。
質問者2:ありがとうございます。
チームビルディング研修を受けて生まれ変わった
井手:これも、最初はそんなの気づかずに、「右向け右!」なんてやってたら、みんなから反感買って、やめていっちゃったり(笑)。
(会場笑)
どうしようもなくなって、これも本にも書いてあるんですけど、チームビルディング研修を受けて、生まれ変わった。それが7年前か8年前。
三浦:なるほど。井手さんが生まれ変わったということですか?
井手:僕が生まれ変わった。
僕は、「お前これやれ!」「お前なんでこれできないんだ!」と命令してたんです。だけどそれは違って、僕が変わらないといけなかった。僕がみんなの個性を受け入れて、みんなのことを理解して、みんなの強みを伸ばしてあげないといけなかったのに、「俺ができるからお前もできるだろう!」「俺がこんなにハキハキしてるのに、お前なんでモジモジしてんだ!」とかね(笑)。
だけど、「慎重さ」というのがある人は、慎重なんですよ。僕みたいにパッパッと言わないんですよ。慎重さがある人は、けっしてリスクを冒さないんです。だから、この人がいたら確実に思いとどまらせてくれるというか。
いろんなリーダー像があっていいと思ってるんです。こんな感じです!
スタッフは20代中心で約140人
三浦:ちなみに若い社員さん多いんですか?
井手:はい、若い社員が多いです。というのは、急拡大しているので、毎年スタッフを大量に採用してるので、必然的に20代中心の若いスタッフが多くなってます。
三浦:20代中心。
井手:僕みたいな40代は本当数人しかいない(笑)。
三浦:今、社員さんは何名くらい?
井手:140人くらいですね。
三浦:そんないるんだ。そのなかで20代がけっこういるんですね。
井手:20代と30代真ん中くらいのミドル層と、40代のおじさん連中。こんな感じです。
個性的なパッケージはどう決めていますか?
山本:ありがとうございました。次、東京の方で質問はございますか?
(会場多数挙手)
三浦:いっぱいいる!
山本:いっぱいいらっしゃる。少々お待ちくださいね。ちなみに福岡、ご質問されたい方何名様いらっしゃいますか? そしたら、東京のほうから、質問されたい方?
井手:いっぱい出てきたぞ!(笑)。
山本:では、順々にいきましょうか。こちらから順番にいきましょう。
質問者3:よろしくお願いします。私、職業はデザイナーをしているんですけれども、たまにパッケージの仕事もあるんですが、いろいろ多数決をとると、だんだん変なものになっていくんです(笑)。
ヤッホーさんのビールのパッケージはすごく衝撃的なものも多くて、どういった雰囲気でデザインをみなさんで会議されているのかなというのが気になっています。
井手:当然みんなが納得するものにしていきたいんですけど、基本方針があって、みんながいいって言うものはダメなんです。とくに僕らは、消費者の意見をよく聞くので、消費者にこういうデザインどうですかって言ったときに、多くの人が支持するのはダメだと思っています。
それよりも2割とか3割くらいの人が熱狂的に好きというデザインを選んでいます。
三浦:ほ~!
少数派の熱狂的支持があるものを選ぶ
井手:賛否両論あるのは、ふつうはよしとしないんですが、僕らは、賛否両論あるのが当たり前で、2割3割くらいの人が熱狂的に、「この猫の絵好き!」「これだったら私、絶対買って友達に広めちゃうわ!」みたいのが2割3割いたらもうグッドという割合です。
「これツンとしてるから気に入らない」なんて人が7割いたり、「私は犬が好きだから、嫌い」という人がいても、それはオッケー。
そうすると、そういうアンケート結果があったにもかかわらず、多くの人が支持するんですよ! 結果的に。
これおもしろいことで。だけど、みんながいいと丸く収まって、通知表でいくと、10点満点で6とか7くらいのものを作ったら、結果出してみたら誰も支持しないんですよね。
もともと僕ら小さな会社なので、本当に少数から熱狂的支持があればいいと思って。突き抜けてやったら、結果的には広い人が支持してくれるので、それが今、経験値となって、誰がなんと言おうと、少数の意見で熱狂的な支持があるのを選んでやっています。
その前提としたときに、僕のクリエイティブのセンスに合わないと、そのガイドラインから外れちゃうとそもそも採用しないですけど、僕のクリエイティブのセンスでオッケーが出たなかで、とくに少数派の熱狂的支持があるのを選んでいます。
勇気がいることですけど、勇気がいるからこそ誰もできないんですよ。誰もできないから、それを本当にやった人はうまくいくと今、思っています。いろんな講演でそういう話をするんですけど、やっぱり怖いから、誰も実践しない。
だから、ますます僕らが注目されるという好循環が起きるんですね!(笑)。
(会場笑)
井手:そんな感じです。
質問者3:ありがとうございます。
三浦:大手だとやりにくいもんね。
井手:大手は絶対やらないと言ってましたよ。
細かな設定まで楽しみながら作りこむ
山本:そうですよね。ありがとうございます。では、次の方。
質問者4:ヤッホーブルーイングさんの大ファンで。
井手:ありがとうございます。
質問者4:「よなよなBEER KITCHEN(現在:「YONA YONA BEER WORKS」に店名変更)」のころからけっこうお邪魔してまして。
井手:本当にありがとうございます。
質問者4:「僕ビール、君ビール。」のエピソード、この本のなかにもあったんですけど、新しい「僕ビール、君ビール。よりみち」が出たので、そちらのエピソードもうかがいたいなと。
井手:よりみちね! よりみちもローソンさんにもう1個ビール作って欲しいと言われたので、「ターゲットはどこですか?」と言ったら、「僕ビール、君ビール。」で若者にウケたから、もう1個若者にウケるビールを造って欲しいと言われて。
まったく新しいブランドよりも、これの姉妹製品として、さらに若者に広げていくパターンにしようと思って、そこからスタートしました。ただ味はかなり違う。
カエルは使うけど、どういうのが若者にウケるかね、なんて言ってたときに、キャラクター設定を「僕ビール、君ビール。」のカエルの弟にしちゃおうと。しかも兄貴はアクティブに活動っぽいんですけど、弟はどちらかというとインドア派で、キャラを分けようと。だから、(パッケージで)カエルが本を読んでるんです。
実はみんなにあまり公表してないんですけど、細かな設定を楽しみながらやるわけですよ。
ここのサブタイトルも、何百という案を作ったんです。「僕ビール、君ビール。ナンチャラ」とかいろいろな案があって、だんだん僕らの感性で絞っていって、最後の絞られた10案くらいになったら、やっぱり消費者に聞かないといけないと思って。
30代前後くらいの若い男性がターゲットなので、日頃あまりビールを飲まない30代前後くらいの男性にアンケートをとったら、この「よりみち」というのがよかったんですね。「よりみち」と、もう1個なんだっけ?
会場の社員:「ちょっと冒険」。
井手:「僕ビール、君ビール。ちょっと冒険」。
最後に残ったのが、「僕ビール、君ビール。ちょっと冒険」と「僕ビール、君ビール。よりみち」だったんですね! これで最後迷ったんですけど、お客さんのインタビューのコメントを聞くと、「よりみち」のほうがよりポジティブな意味で採用してたので、こっちを選んだ。
やっぱり出したら、爆発的に売れて! というエピソードでございます。
質問者4:「YONA YONA BEER WORKS」で、「弟」って最初に言ったら通じなかったです。
井手:そうなんですよ! YONA YONA BEER WORKSのスタッフまでは浸透してない。ごめんなさい(笑)。
そんな経緯でございます。
質問者4:ありがとうございます。
今後の海外展開について
山本:では、お次、後ろの方。
質問者5:こんばんは。今後の海外展開についてです。今アメリカで2種類出したと思うんですけど、それからほかに狙っている国、例えばイギリスだったりとか、ドイツとかフランスとか、もしくはクラフトビールの本場アメリカで、まだまだ自分たちを浸透させていくのか、今後の海外展開の戦略について教えてください。
井手:今、十数カ国に輸出していて、そのなかでアメリカが売り上げの半分以上を占めてるんです。圧倒的に売れてるんですけど。もうアメリカに1本集中していこうと思ってたら、なんと今年、営業もしてないのに台湾から引き合いがいっぱい来まして。台湾のセブンイレブン全店にスポット配架したんですよね。
「よなよなエール」と「水曜日のネコ」と「インドの青鬼」の3種類だっけ? 台湾の5,000店のセブンイレブン全店に並んでるんです。そしたら、爆発的に売れて! あと台湾のカルフールにもイベント棚に並んで、それがすぐ売れたんです。
という状況で、急遽うちの海外担当が台湾に飛ぶと言ってて、「台湾熱くなるかもな」なんてすごく思ってます。
アメリカを一生懸命やっていくんですけど、次は台湾が熱そうだなと。あとは、十数カ国輸出してるところは、今まで通りやるんですけど、とりあえずアメリカと台湾、ここを1、2年は重視していこうかなと、今は思っています。
アメリカは広いし、まだまだやりたいことはたくさんあって、ちょうどアメリカ専用の製品も作ったので、本格的にテコ入れしようかなと思っています。よろしいですか。
ブレない方針を掲げ、理念に共感できる人を集める
山本:ありがとうございます。では、お隣の方。
質問者6:ありがとうございます。最初に、あまりうまくいかなったころに、営業は製造が悪い、製造は営業が悪いという話で、社内の雰囲気が悪いという話がありましたが、やはり今は資質テストをやって、誰がどこに向いているかとか、どういうふうに人を活かすかみたいなことをやっているから、そういうことが起こらないようになっていると考えられているのか、どうかというところと。
あとこれから、ピンチというのは失礼なのかもしれないですけど、新しい市場に出て行くときに、慎重な方もいれば、挑戦的な方もいらっしゃるなかで、社内が2つに分かれるとか、反対意見が出たときに、どういう思いで井手さんの方向に導いていくのかをおうかがいできればなと思います。
井手:まず、最初の質問の、いろんな資質とか個性を活かすから仲良くなってきているというのは、それは当然あります。ほかにもいろいろ、そんなに人間の感情は簡単じゃなくて、いろんなことを積み重ねて、ここ数年でよくなってきてて。
例えば、そもそもうちはこんな会社ですよというのを明確にしてなかったから、いろんな人が入ってきてたんですよ。こっちに行こうと言ってたのに、そもそもこっちに行こうと思ってない人も入ってきてた。
頑としてここを諦めずに、僕らは、ミッションや経営理念を明確にしていって。エベレストを登る会社なんだという人と、その辺の200メートルの山を登ろうという人と、楽しめればいいやという人とぜんぜん目的が違うわけなんですよ。
だけど、僕らは高い山を登る。日本のビール文化を変える。チャレンジングな会社なんだというのを定めていったら、ボロボロとやめていっちゃったんですけど。
入ってくる人たちはそこに共感する人たちが入ってくるから、一時期混乱したときには、こんな会社イヤだと思って諦めてやめていった人もいて、残念なんですけど、その旗を掲げた瞬間に、それに共感してくれる人がブレずに入ってきた。
あとは、それがどんなにうまくいっても、売り上げが下がっている会社は、なかなかそうはいかないと思います。この下支えは、成長してるからみんなが信じてくれて、前を向けるんです。
こんなこと言ってても売り上げが毎年10パーセント下がっていってたら、そんな絵に描いた餅ってなるので、大事なのは、会社はボランティア団体じゃないので、利益を出して社員を生活させて、ファンを喜ばせてという成長は欠かせない要素だと思いますね。
もう1個の質問はなんでしたっけ?(笑)。
40%成長するための引き算経営
質問者6:方向性。例えば新しいことを始めるとなったときに……。
井手:方向性ですね。そのときも、僕らはこんな会社だというのを明確にしているから。具体的に言うと、売り上げってわかりやすいので、売り上げが毎年どんな状況でも40パーセント成長するのが、僕らのふつうなんでって。
ふつうの発想は、売り上げ1パーセントとか3パーセントくらいの成長を望むんですけど、そうしようと思うと、今あるふつうのことの積み上げでしかいけないんですよ。
だけど「40パーセント成長させるぞ」と言った途端に、力技だけではこなせない壁があるわけですよ。そうすると、知恵を絞って、新しいことをやろうとか、誰もやってない発想をしようとか、引き算経営になるんです。
そうすると誰も発想していないようなビールの味だったり、デザインだったり、ネーミングだったり、プロモーションだったり、組織改革だったり、思い切ったことをやっていかないといけないなっていう発想に切り替わるわけです。
これが5パーセントとか10パーセントくらいの中途半端なのじゃだめなんです。40パーセント成長を目標とするなら、もう発想変えなきゃダメだってみんなが思うわけですよ。
みんな「うちの計画、来年どうしますか?」とは聞かないです。だって毎年40パーセント成長するんだもん(笑)。そのように決めてると、それに共感をした人が入ってくるし、そういう文化になってるから。
最初、10年前は「40パーセント成長させる」とか言ったら、みんな「ふ~ん」みたいな。誰も信じてないんですよ(笑)。
(会場笑)
誰も信じてないけど、本当にだんだんその通り成長していくと、うちの会社は、そういくんだなと思うわけです。
今は、価値観が合っているので、まったく一枚岩で。なかには新しい人が、40パーセント成長は厳しいって言うんですけど、40パーセントの成長分働けと言ってるんじゃないです。発想を変えて、40パーセントのチャレンジをして、うまくいかなくても怒らないわけです。
僕、失敗しても怒らないですもん。「あ~、残念だったね。またやろうか」みたいな。「なにがいけなかったんだろうね。じゃあ俺も入るから、こんなことやったほうがいいんじゃないか」みたいな盛り上げをしていって、今は常に前を向いていこうという文化なので。
質問者6:ありがとうございます。