「人間はそんなに単純じゃない」 米国EC界がアルゴリズムより"キュレーション"に注目するワケ

米国急成長のEコマースビジネス最前線 #2/2

IVS 2013 Winter Workshop
に開催

米国で話題のECサービス、男性向けスタイリングサービス「Trunk Club」のCEO ブライアン・スパリー氏と、まとめ買い・宅配を一貫して行なう「Boxed.com」のCEO チー・フアン氏 がAmazonとの差別化やECサービスの未来について語った。(IVS 2013 Winter Workshopより)

Amazon・ベゾスから声があれば、一緒に働きたい

湯川:スタイリストたちのことがあるから、AmazonがTrunk Clubを買収することはないだろうというのはわかりましたが、Boxed.comはどうなんでしょう? Amazonが同じことをしたかったら、買われちゃいますかね?

フアン:Amazonはいろいろな分野に興味をもっていると思います。スパリーのビジネスにもとても興味を持つでしょう。でも彼らがまだ私たちの分野にいないのには、いくつか理由があると思います。

Amazonから連絡が来たことはまだないですよ。私はAmazonの大ファンだし、今後、私たちのビジネスがどうなるかもわかっていません。いち企業のCEOとして私はいつだって目を見開いて聞き耳をたてています。誰とでも話してみたいですね。

湯川:彼らがアプローチしてきたら、ベゾスの元で働きたいですか?

スパリー:私だったらもちろん働きたいですね。ベゾスは本当に頭がいい人だと思います。あの会社のメンバーとして働けたら素晴らしいですよ、まだ連絡とかは来てないですけど。

仕事が楽しすぎて、イグジットは考えられない

フアン:起業家として、2つのことをバランスよく保たないといけないと思うんです。スパリーはTrunk Clubを楽しんでやっているし、私もBoxed.comの運営を楽しんでる。だから、その楽しみを、偉大なCEOやイノベイターから学ぶことと秤にかけて、バランスをとらないといけない。ベゾスに誘われたら私は何と答えるかわかりませんね。難しい質問だと思います。

スパリー:私たちはベンチャーキャピタルから資本を集めてきたので、これは今後私たちが直面する課題だと考えており、もし自分で起業するお金が十分にあったり、自分自身で資金調達することにしたとしたら、株主に対して同じような責任を持たないと思うんです。

でも私たちに投資してくれている方々には、投資した資金を取り戻すまでに3~7年くらいの時間軸がある。だから私たち自身も「どこかの時点で株式の部分的な売却機会を得られるようにしないといけない」と思っていなきゃいけないんです。

そして結果として、「誰が買ってくれるだろう?」と自問することになるんですね。それにしても、築きあげることが楽しすぎて、それを売りたいなんて想像するだけでも難しいことなんですよ。

それよりももっと、いつかどこかの会社がすごくいいオファーをくれて、誰かとパートナーを組むことを考える日が来るかもしれないです。ベンチャーキャピタルの助けで、より多くのことを達成できますよね。

ECはキュレーションがより重要になる

湯川:今から5年後、この分野はどのような産業になっていると思いますか? 巨大なAmazonと、あとは小さいけどクールな貴方がたのようなスタートアップがある、そういった感じですか?

フアン:私の予想と同じくらいいい線をいっていますね(笑)。でも私は、いろいろと革新が起こって、アルゴリズムにセールスが左右されないような分野になっていると思います。

キュレーションにはもっと人間的な側面があるんです。実際、これまで起業した多くの企業が生き残ってきて、eコマースの分野でうまくやっています。彼らは消費者のために、販売、コンテンツや商品のキュレーションを行っていて、それは単純なアルゴリズムが不得意とする点です。

それからモバイル端末もとても大きな要素だと思いますね。消費者の側面だけではなく、ビジネスのツールとしての側面で、です。スパリーから勧められた商品がトランクにパッキングされたり、出先でアイテムを選べるなんていう話が出ましたが、素晴らしいと思いました。そういったイノベーションが、これからたくさん見えてくると思います。

アシステッド・コマースにeコマースの未来がある

スパリー:eコマースの中での私のビジネスの立ち位置は「アシステッド・コマース」と呼ばれる新しい分野なんですが、今後にぎわってくると思いますね。必ずしもいろんなバーティカル市場において競争が激しくなっていくわけではなくて、ただより多くの人がアシステッド・コマースのビジネスを始めてくると思います。

例として出したいのがシアトルにあるRedfinという不動産会社です。検索とリスティングに関してとても素晴らしいウェブサイトをもっていて、家を買いたかったら彼らのサイトがおすすめですよ。

Redfinのために働くエージェントが各地域にいます。そしてRedfinはWebサイトで不動産の広告、リスティング、セールスを行うことによって、オフラインのビジネスである不動産アドバイス会社に対して見込顧客を紹介する役割を果たしているんです。

昔はこのような企業はありませんでしたし、Redfinは以前にあったZeroやTriadのような最終的に自分たちで不動産を売ったり、仲介をしたりするようなことはしていません。そのうちそんなビジネスは守っていきづらくなってくるでしょう。

完全に垂直統合して、さらに不動産のコミッションが高いという問題点に着眼したRedfinのように生き残ってはいけないと思いますね。彼らは全国各地にエージェントのネットワークを築いているし、素晴らしいデザインとユーザーインターフェースを提供するeコマースのプラットフォームも持っています。私としては、そんなRedfinのような企業がeコマースの未来だと考えています。

5年後成功している企業とは

スパリー:それはアシステッド・コマースでもあるし、驚異的なデザインでもあります。5年後の未来について今確実に私が断言できることといえば、ユーザーインターフェースとデザインはよりよくなり、そして経験の質も上がっているだろうということですね。

クラブの会員との交流、会員がいるという事実そのもの、それをクラブと呼んでいるだけで、eコマースがどういう方向へ向っているのかが示されていると思います。なかにはやり方をみつけてAmazonと競い合う大企業が出てくるかもしれません。

5年後成功している企業はきっと、私たちのようにまずモバイル・ファーストやアシステッド・コマース・ファーストによってうまく築き上げることができる新しい企業だと思いますね。

私たちはデパートからショッピングモールの店舗に変わるような変貌を遂げなくても、モバイル体験や信用できるスタイリストからの助けをどう提供することができるかを学べたんです。そのコンセプトを軸に起業し築き上げていったんですね。それが勝つためのコンセプトであるし、勝つ企業というのはそれを自分たちの本質としてきたのだと思います。

自分たちが価値を提供できる土俵に

フアン:5年後を考えるのは難しいですね、長いライフタイムですよ。きっと全く新しい世代、それも本当にさまざまな種類の企業から派生したようなものになるかもしれませんね。2013年から5年前に巻き戻したら、ゲームにお金を払うなんてものはまだ展開されていなかったですし、存在すらしていませんでした。

ソーシャルゲームやモバイルゲームはちょうど展開されようとしていたところだったんです。そしてその時から5年後に早送りしてみると、今やユビキタスです。でもそんな風になるなんて5年前は誰も予想できなかったんじゃないでしょうか。

それが、私たちのビジネスの面白いところですよね。未来への自分のビジョンを実現させようと、自分が未来を作ろうとしているんです。次に何が起こるかなんて誰にもわからないでしょう?

湯川:このままニッチな市場にいつづけますか? それともなんでも屋のようになりたいのでしょうか?

フアン:なんでも屋になりたいとは私たちの誰も思っていないと思いますね。だってなんでも屋になってしまうということはAmazonや楽天や他のeコマースが得意とするゲームにまさに首を突っ込んでしまうということですから。

消費者の好みをよくわかっていて、自分たちが価値を提供できる、そう思えるこの土俵でプレイしたいです。何でも売り出したとたん、あくまで私の意見ですが、会社にとってあまり良くない岐路に立つことになると思いますよ。

全世界の男性の課題解決をしたい

スパリー:Trunk Clubについては、カテゴリー拡大よりも地域拡大を考えています。私たちは最近、シカゴオフィスとは別にテキサス州ダラスにセールスオフィスをオープンしたんです。

2014年には、あともういくつかオープンするだろうし、今もこうやって京都で、日本への拡大、アジアへの拡大を模索しています。私はいろいろなタイプの消費者の課題よりも、どちらかというと全世界の男性陣の課題を解決したいと思っているんですよね。

7万人のメンバーがいて、そのうち5万人の男性陣は、奥様たちにもTrunk Clubをやってほしいと言ってくださっているんです。だから女性向けのサービスも考えているんですが……。少なくとも今年中にそれが起きることはないでしょう。来年になるかもしれませんが、とにかく今のところまだですね(笑)。

大金を持っていたらどこに使うか

湯川:大金を持っていたとしたら、何をしますか? 何らかの人を雇いますか?エンジニアやスタイリストは必要ですか?

フアン:テクノロジー企業は絶対エンジニアを必要としているでしょうが、私たちは今のところ少人数でうまくやってきています。今のチームとは、本当によくやってきたんですよ。何年も一緒に働いてきてモバイル分野で多くを経験してきましたし、沢山のノウハウを持っています。

優秀なエンジニアは歓迎しますが、最優先ではないですね。もし大金があったら、おそらくもっとマーチャンダイザーを雇うでしょうし、ターゲット客層に対して細分化したキュレーションをするためのキュレーターも雇いたいですね。

私たちは日用品と呼ばれるような商品をたくさん売っていますが、人々が日用品のブランドをどう見分けているのかという事はそれに深く関わっていて、紅茶ひとつにも人はブランドにこだわったりするんだということがわかります。

ですから、マーチャンダイザーとキュレーターをもっと雇いたいですね。それから、配送時間も縮めたい。例えばそれが靴などだったら、受け取るまでに3~5日かかったとしてもそこまで気にする人はいないでしょう。

でも私たちは毎日の必需品を売っているんです。多くの主要都市において一晩で配達を行っていますが、2日かかってしまう主要都市もあります。それを、どの主要都市でも一晩で配達できるようにしたい。お金があったら、そのためにロジスティクスとインフラにも投資したいですね。

成長するために何に投資するか

スパリー:今年度、私たちは損益分岐点に達することができて、出てきた利益をどこに再投資するか考えています。でもこれはベンチャーキャピタルからお金を投資してもらっていた頃とは全然違う感覚ですね。

ただ、逆説的に、私たちの利益が上がるほど、お金を出したいと言ってくれる人は増えるんですよ。ですから私にとって真の問いは、「何に投資するか」で、成長するために今私ができるようなことには、どんどん増えていく資本を使う必要はないんです。

私が一番よく聞かれる質問は、「ベンチャーキャピタルからもっと資金調達できるか? もしできたとしたら、ビジネスの成長、ポテンシャルを変換させるために何ができるか? 今はいらないとわかっていても、また新たに3000万ドルを調達するのか?」といったものです。

お客様が楽しめ、交流できる最高のクラブハウスを建てたい

スパリー:私としては、お客様との交流体験ができるクラブハウスのようなものを建てたいですね。世界の中でも素晴らしい都市に。シカゴにある私たちのオフィスは素晴らしいんですよ。来てくれた人にはよく「こんなに立派なオフィスは見たことがない」なんて言われるんです。

12メートルある長いバーカウンターがあったり、天井もすごく高かったり。マンハッタンに場所を探すのは難しいだろうし、できたとしても1000万ドルはかかるでしょう。でも私が投資するならそこですね。

10億ドルを銀行に持っていたとしてもニューヨークで何も証明できるものをもっていなかったりしたらとても難しいでしょう。でももし誰かが1500万ドル持っているなんて言ってきたら、いい実験走行になるんじゃないでしょうか。城を一つや二つ建ててみてもいいですね。

コンセプトは、来てみたら予想外にすごくクールな場所で、人とたむろするのに最高の場所、そういったところだね。ニューヨークじゃ莫大な金がかかるだろうね。

フアン:かかるね。でも私は、それはまさにサービスの一部になると思う。たぶんそこに行きたいがためにサービスに加入する人が多く現れるだろうなあ。

スパリー:たぶんニューヨーカーたちは仕事で忙しすぎて来ないかもしれないね、だったらものすごく無駄な出費になるなあ。でももし大金をもっていたら、それは私がやりたいテストみたいなものですね。

アイデアがあれば、とりあえず試してみる

湯川:これを見ている視聴者の方々、起業に興味を持っている人たちへ何かメッセージをお願いできますか?

スパリー:2つほどありますね。まず、もしあなたが日本人で、Trunk Clubを試してみたいと思ったなら、次にアメリカのホテルに滞在する際にトランクをお送りします。私たちはニューヨークやロサンゼルスに滞在中のビジネスマンの方々とも仕事をしています。

「今度このホテルに滞在する予定なので、Trunk Clubをやってみたい」と一言メールをくだされば、あなたがそのホテルにチェックインした時にはそこにトランクを準備させておきます。とても楽しいですよ。旅行先にいきなりかっこいい洋服が登場してくれるから、自分でたたむ必要もないし荷造りする必要もないんです。私たちはまだ日本に展開していないけれど、こんな感じで利用できます。これがまず一つ。

eコマースと起業に関しては、2つアドバイスがあります。まず、もしアイデアがあるなら、やりましょう。商品を作る道、自分のアイデアをテストする道を探すんです。

アメリカで私が学んだ場所、シリコンバレーのPalo Altoという場所ですが、それらの良いところはリスクをおかすことを褒める点ということです。失敗してもいいんです。これは広めていくべき教訓だと思っていて、特にこれはスタンフォード大学で学んだことです。

新しいアイデアを持っている人がいたら、進んで試してみることをお勧めします。ウェブサイトを作って、それに時間を注ぎましょう。思ったより楽しいと気づくと思います。

もう一つのアドバイスは、誰もしていないことをしよう、ということです。オリジナルでクリエイティブなアイデアというのは、追求すべき最も大切なことです。自分が大好きなことをやっていればより大きな成功を掴めます。

反対に、ただ有名になりたい、お金持ちになりたいというような気持ちで起業した人は、実際はそのようにはなっていないということを、少なくとも私はこの目で見てきましたね。

ひたすら自分が好きな仕事をしろ

フアン:この動画を見ている皆さん、もしあなたが起業家、特に日本人の起業家でIVSに来たことがないというのなら、絶対に来ないとだめです。招待制のイベントですが、少なくとも次の半年間の90%を招待状がもらえるよう集中して取り組むべきです。

人と出会うということで、ここより良い場は思い浮かびません。日本で最も優秀な起業家やすばらしい企業が集まります。そういった全てのことが一つの場で得られるなんて、すごいことです。

ブライアンの言ったポイントについてですが、ビジネスを始めようかどうか、何をしたらいいのか、そういったことで迷っているのなら、私が言える一番のアドバイスは「ただ自分が好きな事をしろ」ですね。

毎朝起きて、早くやりたくて仕方がない、そんなことです。ストレスレベルはおそらく常に高くなってしまうでしょうが、それは幸せのレベルと相互作用があって、きっとこれ以上ない程の幸福感を味わえるでしょう。自分が楽しいと思うことをやって、多くの人が抱えている課題を解決したら、結果は自然と出てきます。絶対成功します。私はそう感じますね。

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IVS(Infinity Ventures Summit)

IT業界の一流企業の経営者や経営幹部が一同に会し、ディスカッションやスピーチが行なわれる豪華イベント。普段は見ることのできないクローズドな経営者同士の会話や経営裏話など、日本のIT業界の最先端情報がここに集まっています。
IVSは、主に経営者向けに行なわれる通常のイベントのほか、学生向けに行なわれるワークショップも年に数回開催されています。ログミーでは、公式メディアパートナーとしてその中の人気セッションを全文書き起こし、全部で400記事以上のコンテンツをご覧いただけます。

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1 「Amazonは万能ではない」 特化型ECに見る、巨大企業とのたたかい方
2 「人間はそんなに単純じゃない」 米国EC界がアルゴリズムより"キュレーション"に注目するワケ

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