「Amazonは万能ではない」 特化型ECに見る、巨大企業とのたたかい方

米国急成長のEコマースビジネス最前線 #1/2

IVS 2013 Winter Workshop
に開催

米国で話題のECサービス、男性向けスタイリングサービス「Trunk Club」のCEO ブライアン・スパリー氏と、まとめ買い・宅配を一貫して行なう「Boxed.com」のCEO チー・フアン氏 がAmazonとの差別化やECサービスの未来について語った。(IVS 2013 Winter Workshopより)

めんどうくさがりのメンズ向けファッションECサービス「Trunk」

湯川鶴章氏(以下、湯川):自己紹介をお願いします。

ブライアン・スパリー氏(以下、スパリー)Trunk Clubという会社のCEOをやっています。シカゴを拠点にした、男性向けのスタイリングサービスです。

チー・フアン氏(以下、フアン):私はBoxed.comという会社の共同創業者兼CEOをやっています。モバイル端末専用のホールセールクラブをしています。

湯川:スパレーさん、御社のサービスを詳しくお聞かせいただけますか?

スパリー:買い物嫌いの男性がかっこよくなるための、シンプルなサービスです。会員に、衣類の詰まった箱を送ります。「トランク(Trunk)」と呼んでいるのですが、普通の郵便で送って、だいたい10アイテムくらい入っている箱です。ジーンズ、シャツ、セーター、靴、それに高級品の部類に入るメンズのファッショングッズが入っています。

受け取ったお客さんは、気に入ったらそのまま持っていていいし、気に入らなかったら送り返してもいいんです。何度でも使えるサービスで、シカゴオフィスにいるスタイリストと直接やりとりします。我が社の基本的な方針は、「面倒くさがりでお店に行きたくない男性の方が、かっこ良くなるのを願っています」というところです。

湯川:いろんなタイプの男性がいるなかで、洋服をどうやって選ぶのですか?

スパリー:会話です。メール、電話、時にはスカイプなどを使って彼らと実際に話すんです。職場、年齢、どんなスタイルに憧れているのか、何が必要なのか。

そういったことを確認してから、必要なものをお送りします。こういうサービスだから、私たちのスタイリストはフルタイムで働いています。毎日、一日中、男性陣のスタイリングを助けているから、サイズ感や洋服の相性などすべてに長けているんです。

会話とアルゴリズムで最適なファッションを

湯川:顧客の写真とか動画を使ったりするんですか?

スパリー:使いますね。彼らが好むスタイルを表現するためにいろいろな方法を駆使しています。スタイリストのためのウェブサイトもありますし、トレーニングもしています。

お客様にはお見せしていませんが、スタイリストがきちんとお客様に見合ったものを送れるようにするためのテクノロジーやアルゴリズムなんかもあるんです。アルゴリズムはお客様の身長、体重、ブランドなどによって変わってきます。

湯川:カスタマーの生活スタイルについてはどう考えていますか?

スパリー:とても大切です。ただ、何が必要なのか教えていただく必要があります。例えば、あなたがウォールストリートの銀行員だったとして、ゴルフをするための洋服を探している。銀行員だからといってスーツとネクタイを送るわけではありません。

私たちはあなたに電話をして、何が欲しいのか訊ねます。一番よくあるリクエストは、奥様とのデートで着ていく服ですね。アメリカで最近起こっている現象ですが、昔は単純にスーツとネクタイを着ていけばよかったものが、今ではブレザーやジーンズなんかも着るようになって、オシャレになってきていますし、人々はファッションにより気をつけるようになっています。

複雑になってきているんです。だから、ファッションアドバイザーの存在はとても役に立つのではないでしょうか。

ファッションに考える時間をアウトソース

湯川:自己流にするのは難しそうですね?

スパリー:そうですね。男性はよりファッションに気を遣うようになってきたと思います。そして彼らは往々にして、ショッピングに興じる時間をもっていない。だからそこをアウトソースしたらいいと思ったんです。

湯川:何人くらいのスタイリストがいらっしゃるんですか?

スパリー:フルタイムで150人います。

湯川:顧客の数は?

スパリー:だいたい75,000人です。

湯川:どうやって収入を得ているんですか?

スパリー:卸売りで買って、小売りとして売るんです。大型デパートと同じビジネスモデルですね。

湯川:店舗と比べて価格は競争的なのですか?

スパリー:価格は基本的に同じです。そしてサービス自体は無料です。サービスの売上はないんです。

湯川:いつ起業されたんですか?

スパリー:2009年の12月にシカゴで立ち上げしました。

湯川:今どんな感じですか?

スパリー:とてもうまくいっていますよ。この夏には黒字化しましたし、300人以上の社員がいます。来年は売上高1億ドル(約100億円)を目指しています。

湯川:海外進出は?

スパリー:考えています。アジア市場、特に日本と中国をみています。

湯川:なぜ日本と中国?

スパリー:とても興味深い国ですし、男性がアメリカの男性と同様の問題を抱えていると思うからです。よく働いていて、家に帰れば家族との時間があって買い物なんて行く時間がないのです。

めんどうくさがりな人のために

湯川:ありがとうございます。フアンさんはどうですか?

フアン:そうですね、私たちはコストコ、BJ、サムズクラブなどのホールセール市場をターゲットにしています。私たちは時間がなかったりめんどくさかったりして、地域のホールセールクラブ(卸売り営業をしている会員制の倉庫型店舗)に行けない人のためのホールセールクラブです。

近くにあるけど、午後まるまる使って行くのは無駄だなぁと思っている人や、例えばマンハッタンに住んでいて車を持ってなくて、大きな商品などをアパートまで運べないなんていう人が対象です。便利なホールセールクラブなんです。

湯川:まとめ買いに特化してますよね? なぜですか?

フアン:私自身がマンハッタンに住んでいるときに感じていた問題だったんです。私はニュージャージーで育ち、週末は両親とコストコによく買い物に行っていました。それでマンハッタンに引っ越したときに、なんだか全てのものに無駄に払いすぎているように思っていたんです。

掃除道具だったり、トイレットペーパーだったり、朝ごはんのアイテムだったりといったものは、毎日使うものですよね。Duanereade(アメリカの大手ドラッグストアのチェーン店)とか近くのお店に行って何かを買うときでも、常に多く払いすぎているような気がしていた。

私はニューヨークに住んでいた頃は車も持っていなかったですし、単純に午後をまるまる使って最寄りのホールセールクラブに行く時間もなかった。だからこうやって、今やってるビジネスでこの問題を再確認したときに、これまで誰も問題を解決しなかったということに気づいて、とてもショックを受けました。私と同じような問題を抱えている人が何百万人といるのに、です。

どの小売業者よりも先を行きたかった

スパリー:一つ気になるのは、ニューヨークに住んでいたときに私のアパートにはまとめ買いの量で配送された荷物を置くスペースがなかったんだけど、そんな問題はあるの?

フアン:それは課題ですね。ちゃんとしたサイズを見つけなくちゃいけない。中には90オンスの容器で運んでいるものもある。特に都会に住んでいる人にとってはよくないんです。でも同時に、レギュラーサイズのアイテムをマルチパックで運んだりもしています。いろいろな種類の形式のものを調整、確認していくこと、それに尽きますね。

湯川:同じことをやっている競合がいないというのはちょっと想像し難いんですが、どうでしょう?

フアン:当初、私も全く同じことを感じました。私自身が抱えていた課題でしたしね。マンハッタンに何年住んでも、代わりになるものは何も見つからなかった。ウェアハウスクラブはすごく革新的な産業というわけではないんですよ。ここ20年で入ってきた新参者というところでしょうか。

湯川:モバイル分野を選んだのはなぜですか?

フアン:私はこの前にモバイルゲームの会社をやっていたんです。そこでものすごい成長を見たんですよね。プラットフォームの成長です。最初に私たちがモバイルゲームに参入したときには、ほとんど誰もモバイル端末でゲームなんてしていなかったんですよ。

早送りして3年、そうすると今度はほとんどの人がモバイル端末でゲームをしている。そのシフトには気付いていました。波が打ち返そうとしている、だから私たちは他のどの小売業者よりも先を行きたかった。よく知っている分野ですしね。

私たちにとって、モバイル専用にすることはとても自然なことでしたし、消費者にとっても意味のあることでした。多くの方が家でソファに座って、テレビを見ながら買い物をします。ユーザー体験が鍵だというのがわかります。それは仕事から帰って、ウェアハウスにもどこにも行きたくないという人たちのためのものなんです。彼らは、家のソファでリラックスしながら買い物ができるんです。

ウォルマートは、実は何できるわけではない

湯川:海外進出は?

フアン:信じられないかもしれませんが、業績の素晴らしいウェアハウスクラブはアジアにもいくつかあるんです。でもアジアの国の中には、一般消費者がウェアハウスクラブでなぜ買い物をしなければならないのか、そういう概念自体がない国もあるんです。

節約するということを理解できない人たちもいるんです。でも日本や韓国の一般消費者はウェアハウスクラブの存在を知っている人もいるんです。私たちの会社はまだできたばかりなのですが、そういった点は調査している段階ですね。

湯川:ECビジネスにはAmazonという強者がいますね。どう対抗していくのでしょう?

フアン:Amazon利用者は多いですね。私自身、Amazonのことを尊敬しています。いつも言うのですが、あんな大企業なのに常にいろいろな方向から変革し続けている。普通、大企業は変革しませんからね。

一方で、Amazonのオフラインは何かというと、ウォルマート(世界最大のスーパーマーケットチェーン)です。ウォルマートはおそらく地球上最も巨大な小売業者だと思います。でも、ウォルマートと一緒に他の小売業者たちも共存している。なぜなら、ウォルマートは何でもできると言っていて、実はできていないからなんです。

なんでもやっているのでしょうが、全てうまくやっているわけではないんです。ですから、市場には大企業が参入してこない、ニッチ市場や一定の業種に特化したバーティカル市場がおそらくあると思うんです。

フアン:前回の会話でも言いましたが、もしTrunk Clubがオフライン事業に参入したら、ウォルマートはそこに入ってこれないんです。それと同じように、私たちの事業がオンラインになったとき、Amazonは入ってこれないんじゃないでしょうか。

ホールセールクラブに関していうと、ホールセールやウェアハウスで買い物をしている消費者は、ウォルマートで買い物をする人達と全然違うんです。ウォルマートは実際、コストコと駐車場をシェアしていることがあるんです。まさに共存ですが。

そして買い物客の中には、ウォルマートに行く人もいるし、コストコに行く人もいて、それぞれの店には同じようなものが、しかし別々の形態で売られている。ECビジネスはさまざまな企業が共存できる場所なんだと思います。

Amazonと潰しあうことにはならない

スパリー:Amazonは、やろうと思えばどんな会社もつぶせると思いますね。ただ、彼らがそれらをしない理由はいくつかあると思っていて、一つは、彼らは起業家たちが好きで、フアンや私のビジネスをつぶしたいなんて思っていないということ。

彼らはTrunk Clubを大きな脅威だとは思っていないと思うし、私たちは、J.CrewやRalph Laurenといったようなショッピング業界の古いパラダイムで長年うまくやってきていたような企業からビジネスを奪っていると思います。それに、Amazonは私たちのことを尊重してくれていて、応援すらしてくれているんじゃないかな。

スパリー:私たちが自問しているのは、Amazonがもっている才能とリソースを、私たちがやっていることと組み合わせたらどんなに効果的なのだろうかということだと思います。いつか彼らと一緒に商売ができて、彼らのシッピング能力やロジスティクスのスケーラビリティを活用できる日がくればいいと願っていますよ。

スパリー:彼らは本当に革新的だし影響力のある企業だから、フアンが言ったように私たちは彼らから多くを学んでいるんです。それから、Amazonは高級ファッションはやってないし、強みとしていないんですよね。

女性サイドではShopbopを買収しましたが、私が知る限りではShopbopとうまくやっていると思います。彼らはなろうと思えば手強い強敵になるのでしょうが、もし私たちの分野に入ってくるなんてことがあったとして、私たちがやってることを正当化したら、とても注目を集められると思うし、それでもマーケットの大部分でまだまだ発展する余地はあると思うんです。

既存の大企業とは共存できる

フアン:成長する市場についてブライアンが言っていることはとても興味深いと思いますね。初期の顧客にユーザーテストをするとき、うち70%は現在のウェアハウスクラブのメンバーじゃなかったということがありました。

パイの奪い合いということではなくて、単純にこれは拡大している市場ということで、「会員にならなくてもいいしお店に行かなくてもいいんなら、試してみようかな」というような消費者が生まれてきているのです。

スパリー:Amazonに勤めている友人と話したときに言われました。「Trunk Clubで君がしていること、僕たちはちゃんと見てるよ。なんでかって、僕たちがしないことをしているからね。僕たちが機械とアルゴリズムで仕事をしている一方で、君たちは人を巻き込んでる。だから僕たちはすごく興味津々なんだよ、それで成り立つの? 成功するの?」ってね。

彼らは私たちのやっていることを応援してくれているような気がしますね。私たちのことをかっこいいと思ってくれていると思うし、彼らのチームメイトの中には私たちのサービスを使ってくれている人がたくさんいる。

一方で、eコマースの高原を彼らはこれからもずっと独占し続けると思いますけどね。でも他のところにはニッチな部分もあって、そこで私たちは私たちの分野のイノベーターとして、成功できると思うんです。

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