お客様が要望しているものだけでは最適ではない

岩田彰一郎氏(以下、岩田):たぶんアスクルもそうだと思います。アスクルのような会社だと、大企業のオジサンは決めないわけじゃないですか。でもパソコンがどんどん発展したようにオフコン使うよりも、このパソコンの方が便利だねと、勝手に拡がって、仕方がないから企業でまとめて口座を作りましょうとか、そういう流れになって来る。現場の人たちが先にわかって、作り込んで拡がっていくんでしょうね。

松本大氏(以下、松本):金融・証券もなかなか難しくて、お客様がほしいものだけを提供していればいいかというと、そうじゃないんですよね。お客様が欲しいものは結果として最適ではない場合もあるわけです。

また、誰よりも我々はプロじゃなきゃいけない。実際に当社のサービスから考えると、大ヒットしたものというのは基本的にお客様がほしがったものよりも、我々がプロとしてこういうものがあったらいいだろうと独自に考えたものが多いです。もともとはなかったものを出したら、それがわーっと広がっていく感じですね。そういう意味ではほかのBtoCの会社と違うのかなとは思います。

川上昌直氏(以下、川上):だからと言って、完全なプロダクターでもなく、一歩先よりも感覚的には半歩先ぐらいの感じなんですかね?

松本:マネックスという名前は、moneyのyを一歩進めてxにしていて。マネーフォワードとなんか似てるんですけども(笑)。

辻 庸介氏(以下、辻):(うなづく)

松本:これはもともと『2001年宇宙の旅』というスタンリー・キューブリックの映画で主人公である宇宙船をつかさどっているコンピューターが「HAL9000」という名前で。これはIBMのアルファベットを1個ずつ前に出すとHALになるので、未来のコンピューターという含みがあったというふうに言われているんですけど。

IBMがHALになるように、moneyのyをxに変えて、新しい時代のお金との付き合い方をデザインして提供していこうという我々の企業理念というか、想いがあってそうしたんです。

そう考えると「新しい時代の」「未来の」ことはお客様は知らなかったりする。我々がそれを提供して始めて知るサービスだったりする。それができたときに成功したものが多くて、ただ単に要望を聞いているだけだと、そこそこにしかならないのだと思います。

川上:今、みなさんにお聞きしたなかで、セグメント、お客さまを分けるという作業は非常に大切でそこに向けて徹底的に喜ばせていくというようなお話が今、あったかと思います。

1つ、大きなヒントとしては、さっき松本さんが自分の親がそれを買ったらどうか、恋人が買ったら、奥さんが買ったら、旦那さんが買ったらどうか、身内に勧めたいか。身内というのがひとつのセグメンテーションというか、お客さんを分ける基準かなと思います。ありがとうございました。

勝負をしているところには「絶対に負けない」

では、Twitterのほうに戻りたいと思います。いくつか質問をいただいておりますが、逆にみなさん気になった質問等ありますか? 例えば「No.1になったとして、ライバルやビジネスモデルを真似しようとする企業にシェアを獲られないようにするための手段を、できるだけたくさん教えていただけますか?」

(会場笑)

川上:これ、いかがでしょう?

松本:でも、あれですよ。先ほど岩田さんがおっしゃっていた「アドバンテージを与えない」ということですよね。ヨットのレースで前を走っていて後ろのヨットがラインを変えたら、それに合わせてラインを変えれば絶対に抜かれない。

岩田:(大きくうなづく)

松本:いったん、前に向かえば、そういうのはあると思いますけどもね。

川上:具体的にそういうエピソードは、みなさんなにかありますか?

森川亮氏(以下、森川):僕はよく部下と「高いクオリティのものを早く出すようにする」ということを話すんです。だいたい、どっちかじゃないですか。早くやるとクオリティが下がる、クオリティを高めると時間がかかる。だけどどっちかだとやっぱりアドバンテージを与えるリスクがあるので、いかにその両方を実現するかというのを考えますね。

岩田:エピソードで言いますと、ちょうどアスクルができ始めて3年ぐらい経ったときに、アメリカのオフィス・デポという、アメリカのオフィスサプライNo.1の会社が日本に出てきたんです。彼らにはすでに1兆円あり、うちは50億円くらいだったんですね。

だけど日本のなかでは我々は先行しているので、オフィス・デポが日本向けの新しいカタログを作り、それを金曜日に配布したんですけれど、うちは月曜日には負けてるプライスを全部勝てるように刷り直した。そういう当初のファイティングスピリットというか、それを放置してたら、たぶん今はないんでしょうね。

川上:チープな言葉ですけども、マメさというか、そういうところが。

岩田:勝負をしているところには「絶対に負けない」みたいなところがありますね。

「競争は不毛だと思っているんです」

川上:Twitterにも、No.1とか競争、ライバルの話とか出て来てますが。みなさんにお聞きしたいんですが、まずはとっかかりとして、辻さんに。いつも辻さんとお話をしていると、競争という匂いがまったくしない方だなと。意図的に意識されてないというか。

例えば今日も朝、フィンテックのご説明のなかでも既存のサービスに取って代わるとか、取って食うとかという話ではなくて、「お客さまに選択肢を与えようと思うんです」という言い方をされました。

既存のたくさんのサービスがあるなかで、うまく手を組みながらひとつの共同体を作っていこうという考え方がすごく強い方でいらっしゃるな、と。最近はスタートアップというか、そういうものをオープンにしているところがあって、その代表的なコメントだったかなとも思ったんですが、この点いかがですか?

:それが正しいかどうかは本当にわからなくて。これだけ世の中の流れが激しいときに全部自分ではできないということがあると思うので。そういうことを考えたときに、繋がるとか、一緒にとか、新しいプロダクトを作らせてもらうとか、そういうほうがいいんじゃないかなということも思うんです。

経営をしていて思うのは、会社は経営者の性格が出るというか。僕はあまり競争は好きじゃないんですよ。ものすごく不毛だなと思っていて。あまり好きじゃなくて。もちろん競合さんがやられていてよいことはお客様のためにしっかりやらなきゃいけないですし、しっかり見なきゃいけないと思ってるんですけども。

本質的にあまり興味がないというか、よいものがあれば、いいんじゃないかみたいな。性格だと思うんですよね。それがよいかどうかは経営者としてはわからないですし、それで勝てるのかどうかわからないですけども、今はそんな感じでやっています。

川上:けっこう、隣とかを見ずに、ボールだけ投げるみたいな?

:僕はこれを、お聞きしたかったんですけど。テニスとかやると相手を倒さないといけないじゃないですか、ゲームなので。孫子の『兵法』を経営者は読むじゃないですか。孫子の『兵法』には相手と戦ってどう勝つかとかがいっぱい書いてあるんですけれど、別にビジネスは相手と戦って勝つじゃなくて、お客さん、なので。そこが孫子の『兵法』には、いっぱい違和感がある。それは岩田さん、どうですか?

売上はお客様の支持率である

岩田:たぶん性格的には似てるところが多いと思うんですけれど。僕は、会社モデルっていう話のなかで、会社で上司に怒鳴られて怒られて、大の大人が会社で泣いて帰んなきゃいけない、そういう厳しい会社が成績が伸びると言われますけれど。

みんながニコニコしてワイワイしている、そういう会社になりたいなと、すごく思っているんです。だから会社のなかに怒鳴り声もなければ、そういう雰囲気はまったくないんですよね。そうしなくても、みんながそれを意識するようになりたいなというのもベースにありますし、競争というのも、お客様が選ばれるわけですからね。

うちのなかで言っているのは、売上はお客様の支持率だと。だから買う・買わないというボタンを押す、それは売上で、お客様の支持率で、利益は自分たちの知恵だと言ってるんです。お客様の支持がないとなにも始まらないので、ライバルとか競争とか、そういうものではないと私も思ってます。

松本:当業界は理不尽な業界なので、戦わなければいけないことがいっぱいあったし、今でもあります。私はそんなに好戦的でもないのですが、案外、相手が誰でも喧嘩しちゃったりするタイプなんです。曲がったものをそのままに放っておくのが嫌いなタイプで。理不尽な業界だから、私の場合は、喧嘩をたくさんしてきちゃいましたね。

川上:いろんなかたちで騒動があったときに乗り越えるメンタリティというか、それはけっこう厭わない感じなんですか?

松本:ぜんぜん、平気ですね。

川上:世の中のサービスを良くしようという気持ちが勝る?

松本:サービスを良くしようという気持ちと、繰り返しになりますけども、この業界には曲がっているものがあるのでそれは直さなければいけないという気持ちとでしょうか。私は金融とか資本市場というところで自分のキャリアも育ててもらいましたが、社会にとっても、一人ひとりにとっても資本市場とか金融って本当に大切なものなんです。

けれど、日本ではそれが必ずしもそのようになっていないことがある。行政も業界も含めてね。だとしたらそれは自分としてはできる限りぶつかって、直さないといけない。普通にそう思ってしまうんです。

「使命感はないんだけれども、許せない」

川上:使命感として?

松本:使命感はないんだけれども、許せない。

川上:許せない(笑)。

森川:正義感?

松本:どうなんですかね。正義感……。普通にそうなってるんですね。昔から。幼稚園のころから。

川上:森川さんが言葉を変換してくれようとしてるんですけども。我々がそれをインストールしようと思ったときに、なんというふうにすれば、使命感? 美意識? 美学?

松本:……境地。

川上:境地。

松本:境地、ですかね。

川上:ありがとうございます。森川さん、いかがですか? お二方ともお客さまの話になっていますが。

森川:そうですね。僕もあまり喧嘩が好きなほうじゃないので、ただ一方で喧嘩を売られる場合も以前はありましたね。LINE時代は叩かれてサンドバック状態だったんですけれど。

今回事業をやって思ったのが、LINEのように大きな人たちの足場を崩すようなものは、みなさん真剣に潰しに掛かってくるなと。そういうことを強く感じまして。

今回、女子向けにやってみたら誰もそういう人がいなくて(笑)、気が楽になったというか。「女子向けのサービスやってます」と言うと、みんなうれしそうな顔をしていたので、戦わずにすんでるということですね。