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Stanford Graduate School of Business MasterCard CEO Ajay Banga on Taking Risks in Your Life and Career(全4記事)

「現金取引にコストがかからないと考えるのはナンセンス」マスターカードCEOが語る「85%」の可能性

マスターカードCEOのAjay Banga(アジェイ・バンガ)氏がスタンフォードMBAで講演を行いました。一見、金融業は成熟産業だと思われがちですが、そうではありません、と語るバンガ氏。世界の既存の商取引において、85パーセントが現金と小切手で、わずか15パーセントが電子取引であることを述べた上で、その85パーセントのなかで、いかにイノベーションを起こしていくかについて語りました。バンガ氏によれば、現金取引には印刷費・セキュリティ・流通などでGDPの0.5%〜1.5%がコストとしてかかっているとのこと。現金取引を電子取引にすることで、それらのコストも削減できるのだと語ります。

金融業は成熟した業界ではない

司会:アメリカに来るにあたり、大手の競合他社、VISAとアメックスについてですが……。

アジェイ・バンガ氏(以下、バンガ):どちらも口にしてはいけない、4文字の悪い単語ですね。

(会場笑)

司会:その通りですね。マスターカードも、どちらもアメリカで古くから共存する企業ですね。そこでお聞きしたいのは、このように実績のある企業が成熟した市場に林立している中での、競争についてです。

バンガ:世界の既存の商取引は、85パーセントが現金と小切手で、わずか15パーセントが電子取引です。皆この15パーセントに目を奪われ、15パーセントのマーケットシェアを競っています。この15パーセントはもちろん重要で、注目すべき部分ですが、残り85パーセントを忘れてはいけません。

アメリカでは、現金と小切手は50パーセントです。ドイツでは78パーセントで、日本では80パーセントです。先進的ではない、発展途上の市場です。良くも悪くもいろいろな理由で、いまだに現金が1番強いのです。

私は、現金にかかるコストを考えると、良いことよりも悪いことのほうが多いと考えています。この話を始めるといくらでも語ることはありますが、要はこの業界には巨大な可能性が眠っていて、実は成熟した業界ではないのではないか、と言いたいのです。大きな可能性があるのです。

学長のナイジェリアがしていたお話をここでしようと思います。国の財政に参入し、改革に参加する一例です。世界には、銀行口座、身分証明書、カードなど、我々があって当然と思っているものを持たない人が25億人います。

私たちは、チンチャウであろうが何であろうが簡単にオンラインで注文し、届けてもらうことができます。しかしこれらの人々はそうではありません。この人たちの生活はまったく別物であり、変革が必要です。

なぜならこれらの人々を除いて経済が成長しても、私が話してきたような心情を壊してしまいますし、アメリカの豊かさと成長をも阻害します。

ちなみにアメリカには、きちんとした銀行口座を持たない人々が4,000万人います。繰り返しますが、発展途上国だけの問題とは言えないのです。先進国と言われるヨーロッパでも、銀行口座を持たない人が、9,300万人います。

人々に身分証明を持たせてあげれば、身分を証明できる自尊心をも持たせてあげることができる、大きな可能性があります。これらの機能を電子決済に加えて、電子決済の手段を持たない貧しい人々が持つ不満を取り除いてあげることもできます。

現金は富裕層の友であり、貧困層のそれではありません。なぜなら、現金を支払いに使うのは富裕層であり、どの国でも税金を納めることを怠る金持ちは、現金支払いでのみ手に入る楽しみに耽ります。既存の社会において、長く続いた誤解はここにあります。

私が、この業界には成長へ向かう巨大なランウェイが存在する、と考えているのは、こういう理由からです。

マスターカードのミッションは「現金のその先の世界に到達すること」

バンガ:ここで皆さんに質問です。皆さんはこの15パーセントだけに注目しますか。それとも15パーセントと同様に85パーセントにも着目しますか。

15パーセントにしか注目しないのなら、ここのような場所から飛び出す必要はありません。皆さんと同類の人たちとつきあい続けることもできます。しかし、85パーセントに注目しないのであれば、10年後には、皆さんの会社は優良企業とは言えないでしょう。

我が社のビジョンはシンプルで、それは現金のその先に広がる世界です。私、そして弊社はここに着目しています。弊社の社員1人に、誰でもよいので「御社の戦略とは何ですか?」と尋ねてみてください。「現金のその先の世界に到達することです」という答えが返ってくるでしょう。とてもシンプルです。

だとすれば、他社と競合することはあるのでしょうか。他社が同じ展望を持つとは思いません。ここに余裕が生まれます。

ということで、ナイジェリアの例を挙げます。貴学の学長は南アフリカのご出身ですが、弊社は実際に南アフリカに行き、社会保障給付金を給付されている南アフリカ人全員に、政府による、生体認証式カード付き身分証明書を発行してきました。毎週、直接の支払いが行われます。

政府から個人へ支払われる社会保障金のうち、実に42パーセントが不正に盗み取られている、と見なされています。42パーセントですよ。また、国際連合世界食糧計画の食料品のうち40パーセントが、アメリカの農家から難民に届けられる道中で失われています。うまく立ち回れば、こういったことが全て改善できるのです。

さて、15パーセントの中ではどのように競争するのでしょうか。テクノロジーで競争するのです。弊社もテクノロジーに多大な資金と労力を注いでいます。

データで競争するのです。差別化された良質な製品・分析で消費者を視野に入れつつ競争します。競争とはこのように行います。私はこの競争に心地よさすら覚えます。85パーセントには、可能性が満ちています。

現金が持つ隠れたコストとは?

司会:その85パーセントについては競合他社と手を組み、人々に銀行預金を作るのでしょうか。

バンガ:競合他社はいつでも存在します。皆さんのような若手も常に新たに参入してきます。彼らは明日にでも、ディスインターミディエーション(注:銀行などの金融機関を介さずに行われる融資)の手段を見つけ出すかもしれません。これはとても良いことです。なぜなら、新たなテクノロジーを生産しようとおもったら、ディスインターミディエーションばかりに焦点を絞ってはいられません。

15パーセントがまたここで出てきます。85パーセントは現金です。ディスインターミディエーションされた現金から歳入を得る、世界中に信じがたいほどの可能性があるのです。

これは公共の敵ナンバーワンです。その理由を説明しましょう。誰もが現金とは、無料だと思っています。ところが実は現金には、一国の中央銀行にとって、印刷費・セキュリティ・流通にGDPの0.5パーセントから1.5パーセントのコストがかかっています。

アメリカには、15兆ドルのGDPがあります。15兆ドルの1.5パーセントといえば、大金ですよね。

司会:はい。

バンガ:それだけのお金があれば、いろいろなことができるはずですが、できていませんね。さらにその先を見ると、そのコストを回しているのは、銀行のコストなのです。連邦準備銀行から現金を受け取り、流通させます。装甲トラックに積み、2人の係員がつきます。ATMに現金を輸送するブリンクス社の装甲トラックをご覧になれば、必ず警備員が2人ついていることがわかると思います。

ではなぜ2人なのでしょうか。なぜなら、1人であれば、現金は消えてしまうからです。本当ですよ。現金をまるまる自由にできるとなれば、どこかに運び去られて消え、隠されてしまいます。

さらには、先ほどお話した脱税です。長期間の脱税は、現金なしではできません。アメリカは、世界でも脱税率の低い国家です。それでもなお、国の経済の20パーセントがアンダーグラウンドに流れます。

インドでは、脱税は当たり前です。きちんと納税するのは、我々のようにサラリーをもらっている者だけです。これではインドのためになりません。政府は、インフラ、教育、医療、水など、インドが必要とするものすべてをまかなうために、歳入を必要とするからです。

必要なのは人口配当で、人口負債ではありません。しかしこの問題を解決しなくては、いずれ負債は現実になります。現金を無料扱いにするナンセンスのさらに先には、もっと悪いことが待っています。

この中には学部生の皆さんもいらっしゃいますが、アメリカのキャンパスで学ぶ者であれば誰にでも、ドラッグに触れる機会があったかと思います。この国に流入するドラッグは、特定の国から来ています。

さてこの中に、ドラッグ購入にクレジットカードを使った人は、いるでしょうか。当然、現金支払いですよね。

そのような現金支払いをするのは、あなただけではありません。ドラッグがこの国に流入する際もそうですし、銃がメキシコに流出する際もそうで、これらはギャングの抗争に利用されます。銃器は全てアメリカ製です。

これらがスコシアバンク経由で為替取引されると思いますか。つまり匿名で現金を使用する者に対し社会が負担する、現金の隠れたコストがあるわけです。正当なコストとは到底言えません。

私は、見えざる悪意の他者に対して現金をどう扱うべきか、という新たな対話がなされるべきだと思います。繰り返しますが85パーセントは現金なのです。これはぜひとも追及するべき問題です。

「マスターカード・ラボ」によるイノベーション創出

司会:しかしこの85パーセントに手を広げるには、イノベーションが必要ですよね。僕は以前に、あなたが別のスピーチで、イノベーションとは業務上枢要である、と話すのを聞いたことがあります。

マスターカードのような大企業で、どうやって確実にイノベーションの推進を行うのでしょうか。

バンガ:実践は大変ですが、イノベーションは枢要です。もし我々が、テクノロジー改革が急速に行われている業界にいたとしたら、どうでしょうか。ペースについて行く必要があるでしょう。もしくは、斬新なアイデアの推進者になる必要性があります。

弊社が成し遂げたことが、2、3あります。1つは、社内に「マスターカード・ラボ」というグループを創設したことです。本部はダブリンにあり、アメリカとシンガポール、今はブラジルにも拠点があります。

世界中からイノベーションを募り、弊社の業務に生かします。メンバーは、ハッカーなどの危険人物や、マスターカード内部からも手厚く守られています。私のみが変更できる予算を、私から受け取っています。

CFOも含め、社内の誰もこれを変えることができません。私個人の予算であり、私がメンバーに給付します。メンバーは、それを元に働いています。メンバーは、どんなプロジェクトにおいても私に表計算ソフトを提出する必要はありません。

なぜなら、表計算ソフトを実際に見たいと思うとこうなります。スプレッドシートを1つ展開すると、24のサブ・スプレッドシートが出て来ます。23番目の数字を0、7の行を14にすると……最初のページのエントリが、本来は3.5パーセントの所が35パーセントと表示されてしまいます。

(会場笑)

私にはわけがわからず、数字を途中で見失ってしまい、時間の無駄です。ですから、メンバーには「ここにお金があるから、君たちでプロジェクトを選んでくれ」とだけ伝えてあります。

私が必要なのは、2年後に、商業ベースで実現可能な製品だけです。もしできなければ、全員をクビにして、最初から始めます。この方式はうまく行くのです。

今では4つの製品が発表待ちで、そのうち3つの製品の開発者は女性たちです。「女性はテクノロジーでは成功できない」だなんて、とんでもありません。

現金を不要とする銀行のようなシステムで、このうち3つは女性が管轄しています。彼女たちはすばらしい仕事をし、導入に向け日夜頑張っています。私が実現を試みているのがまさにこれで、イノベーションの1つです。

このように(イノベーションを)血管の中へ行きわたらせなければなりません。世の中に浸透させるのです。我々が見たことのないような新しいテクノロジーの数々をプレゼンしてくれるベンチャーキャピタル企業に投資します。

弊社では、新しいことにトライしてうまく行かなくても、まったく構わないとされています。リスクを取り、お金を失ったとしても、さらに前進すれば良いだけです。

皆さんは、そういったカルチャーを作るべきです。ラボを作り、お金を出しておしまいにしてはいけません。我々が努力しその上で作ろうとしているのは、カルチャーなのです。

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