「やらない」「できない」と伝えることの難しさ

熊谷翔大氏:今日は、「『NO』を言う勇気を持とう」がテーマです。先週6月15日水曜日の放送で、「『YES』と言う姿勢を楽しもう」についてお話ししました。日々の仕事や仕事以外の場面で判断を迫られる時に、「YES」と「NO」どちらを言うかについて、「基本的に『YES』を言う姿勢を持てるといいですよ」というお話をいたしました。

放送を聴いてくださって、「人生、YESだけ言うのではやっていけないよ」と思われた方もいるはずですので、今日はその反対で「『NO』を言う勇気を持つ」ということをお伝えします。

まずあなたに質問ですが、何かの選択を迫られて「NO」を言うことは得意でしょうか? この「NO」というのは何かを「やらない」とか「できない」と言って相手に断るイメージを持ってください。どちらかと言うと「『NO』を言うのは得意じゃないよ」という人のほうが多いんじゃないかなと思います。

その理由はいろいろあるかと思うんですけれども、何かを断る時に「相手に悪いな」と思ってしまったり、「断ることで自分のチャンスを逃してしまうんじゃないか」と心配になったりと、それぞれあるかと思います。

ちなみに私自身は、正直なところ「NO」を言うのはめちゃくちゃ苦手です。断ることへの申し訳なさが出てきてしまったり、全部受け止めるキャパシティがない自分に嫌気が差しそうになったり、いろいろ考えてしまいます。

でも年を重ねていくごとに、そして仕事でリーダーの役割をやらせてもらうことが増えてくるようになってから、「もしかしたら、『NO』を言うことも『YES』を言うのと同じくらい重要なんじゃないかな」と思うようになりました。ということで、「NO」を言うことがなぜ重要なのかについて、ポイントを3つに絞ってお伝えしていきます。

「NO」を言うことの3つのメリット

まず1つ目ですが、物事の優先順位をつける最高のトレーニングになるからです。「YES」よりも「NO」を言うほうがよっぽど難しいと私は思っています。何かを断るというのは、他の何かを選ぶこととイコールだと思うんです。

わかりやすい例をイメージすると、上司からAの仕事とBの仕事をどっちもやってくれと言われるわけです。その状況で、「うーん、Aはやりますけど、Bはやりません」みたいな感じで説明するんですね。恐らく上司には、「いや、AもBもどちらもやりなさいよ」と返されてしまいそうなところをちゃんと説明する場面ですね。けっこう難しいかと思います。

そういった場面を乗り越えるためには、やはり自分の頭でしっかり考え抜かないと、相手に返せないかと思います。ですので、「NO」を言うことが頭を使って考える何よりのトレーニングになると思います。

続いて2つ目ですが、「NO」を言ってもらった周りの人にとって、非常に良い参考情報になるということです。特に誰かと一緒に仕事をする時、例えば上司・部下もそうですし、チームで働くところを想像してみてください。

その上で一番避けたいのは、「NO」を言わないことで誰かがキャパオーバーになってしまったり、仕事を抱え込んでしまって、結果としてチーム全体の仕事・動きが遅くなったりすることですよね。でも誰かが「できません」みたいな感じで「NO」を言えば、他の誰かが仕事を引き取ることができるかと思います。

特にリモートワークが増えた方にとっては、周りが察して気がついてくれる確率が、以前よりはぐっと下がっていますので、「NO」を言うことが非常に大切になってきていると思います。

「NO」を言うことで周りのプラスになると私が理解できたのは、やはりリーダーの立場をやらせてもらうようになってからです。特にチームメンバーが早めのタイミングで「できません」とか「今はちょっと余裕がないんです」と言ってくれる。「NO」と言ってくれることで、ある意味リーダーとして先手を打てるということで、本当に助けられる場面があります。

だからこそ、私自身は日頃からメンバーに対しては、「何かやばい状況になる2、3歩手前で教えてね」と言うように心がけています。

自分の成長につながる「YES」と「NO」の使い分け

そして最後の3つ目ですけれども、本当に大切なことに集中するための余白が生まれるからです。これも当たり前のことなんですけれども、忙しくなればなるほど、時間的にも精神的にも余裕がなくなってくるかと思います。だからこそ、時には「NO」を言って自分で余白を作る。そしてより大切なことに集中する必要があるのではないでしょうか。

以上、「『NO』を言うことがなぜ重要か」について、ポイントを3つお伝えしました。個人的には、特に2つ目の「周りの人のためにも『NO』をしっかり言う」。これが大事なんじゃないかなと思っています。

そして「NO」を言うのは、もちろんしっかり考えられる思考力も必要なんですけれども、最後はこのタイトルにも書かせてもらった「勇気」が必要かと思います。特に今回の放送は、仕事やプライベートでつらい状況が続いている方に伝わるとうれしいです。

もしあなたが「ここ最近しんどいな」という状況が続いているようであれば、失敗しても、周りから批判されてもいいので、勇気を持って「NO」を言うことにチャレンジしてみてほしいなと思います。

さて、先週は「『YES』と言うのが大事」、そして今週は「『NO』と言うのが大事」と、一見真逆のことを2週に分けてお話ししました。結論、やはりどっちも大切かと思うんですけれども、これは性格と時期にもよると考えています。もしあなたが「私はこっちが苦手だな」と思うものがあれば、あえて苦手なほうのスタンスを取ってみる時期があってもいいんじゃないかと思います。

ちなみに私にとっては、特に若手の頃はなるべく「YES」と言って、多くのものにチャレンジしていく、そして時には追い込まれて余裕がなくなる、そんな経験も良かったなと思いますし。立場がちょっとずつ変わってきた今では、時には勇気を持って「NO」を言うことも必要だなと日々感じています。みなさんもぜひ、「YES」と言う、「NO」と言う、どっちがご自身にとって大事かを考えてみてもらえるとうれしいなと思います。

それでは今回はここまでです。2回に分けて、「YES or NO」を判断する場面の心構えについてお話ししました。最後まで聴いてくださり、本当にありがとうございました。