2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
オハイオ州立大学 2022卒業式スピーチ パット・ゲルシンガー氏(全1記事)
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2022年ご卒業のみなさま、おめでとうございます。みなさんの努力の結果が出ましたね。卒業式とは、盛大にお祝いし、これまで犠牲にしてきたものや達成してきたもの、未来の可能性に思いを馳せるものです。
私の卒業式に至るまでの道のりは、平坦とは言えないものでした。私はアーミッシュ(ドイツ系移民を主とした宗教集団)で有名な、「ペンシルベニア・ダッチ・カントリー」と呼ばれるペンシルベニア州東部で生まれました。
私はよく「ペンシルベニア州で迷子になったら、それは迷子になったのではない。あと5マイル行けば目的地に着くだけだ(それほどまでに何もない田舎だ)」と人に言っています。
(会場笑い)
中学生の時に、偶然受けた奨学金給費試験に合格しました。しかし中学生にはまだ受給資格がないことがわかりました。すると進路担当の先生が「短大ならすぐに進学できるよ」と教えてくれたんですね。おそらくあの先生は、私を厄介払いしたかったのでしょうね。
(会場笑い)
こうして私は進学し、16歳にして大学生生活が始まりました(※ゲルジンガー氏は、高校の卒業資格と短期大学の準学士号を18歳でほぼ同時に取得し、サンタクララ大学を首席で卒業後、スタンフォード大学の大学院で修士号を取得)。リンカーンテック工業短期大学(Lincoln Tech)が私を受け入れてくれました。どの講義にも発見がありましたが、特に初めてコンピュータを触った時には夢中になりました。
2年後に準学士の学位を取った私は、インテルの入社面接を受けました。カリフォルニアまでの旅費をインテルに出してもらって、生まれて初めて飛行機に乗り、とても感動しました。面接担当者にはこう言われました。「君は頭が回って、傲慢で、エネルギッシュだ。すぐにインテルになじむだろう」と。
テクノロジーを信奉する社風に感化され、インテルは私の第二の家族となりました。イノベーションを生み出す仕事や、すべての人が有能である様子を目の当たりにして世界が変わり、わくわくしました。
勤労意欲は最高でした。なんと言っても、馬に蹴られたり、泥だらけの牝牛に嚙まれたり、干し草とほこりにまみれることなく、エアコンの利いた室内で仕事できるんですから、この上なく快適でした。
私はこうして社会人としての最初の30年をインテルで過ごし、初代CTO(最高技術責任者)に就任しました。14世代のマイクロプロセッサーや、今ではテクノロジーの柱となったwi-fiやUSBなどを開発しました。孫娘は、USBケーブルをパソコンに挿入する都度「おじいちゃんありがとう」と言うそうです。
夢はインテルのCEOになることでしたが、2009年、30年間勤務したインテルを去りました。たいへん落ち込み、将来の夢は砕かれました。
こうして私は、インテルの外で11年キャリアを積みました。おもしろいことに、これはスティーブ・ジョブスがAppleを放逐されていたのと同じ期間です。まずEMCに勤務し、次にVMwareのCEOを務めました。
インテル外にいた期間は、これまでにないほど大いなる学びの時期でした。私は大人として成熟し、学び、成長しました。1年半前にインテルからの招へいを受け、元からの夢であったCEOとして返り咲きました。私は夢をかなえたのです。
みなさんもそうです。2年余りの苦難の年月を経て、大学に戻ってきました。家族や友人、愛する人々の様子を思い出してください。過去3年間にくぐり抜けてきた苦難と学生生活を思い起こしてください。
みなさんもまた、世界規模のパンデミックという前例のない苦難を乗り越えてきたのです。そして今、みなさんはここにいます。どうか自分を誇ってください。
(会場拍手)
今日の人類の存在はすべての面でデジタルのテクノロジーに支えられています。テクノロジーそのものは、良くも悪くもありません。ほぼ中庸の存在です。テクノロジーを良い力として使うのが、私たち人間の役割です。良い目的で使われるテクノロジーは、ほぼ魔法と同等です。未来の魔法の多くがここオハイオ州で作られることになります。
今年の2月に、オハイオ州立大学学長(クリスティーナM.ジョンソン学長)並びにポートマン上院議員をはじめとする議員各位と席を共にする機会に恵まれて記者会見を開き、「ラストベルト(鉄鋼や繊維など斜陽産業が集中しているニューイングランドや中西部の都市部)」の終焉を宣言し、ここオハイオ州にテクノロジーの新たな中心地「シリコンハートランド」を設ける計画を発表しました。
(会場拍手)
初期投資は200億ドルで、約1,000エーカー(約4平方キロメートル)以上の敷地を予定しており、ディズニーランドの7倍の規模を誇ります。アメリカをそしてオハイオ州を、世界のどこよりも先進的な半導体生産拠点にします。ここオハイオ州にて、我が社もイノベーションにおけるアメリカのリーダーシップの奪還と、国内での生産拠点の確保に尽力します。
自動車や家電、コンピュータなどの半導体不足は、もはやどの消費者も痛感しています。半導体の「CHIPS for America Act」法案の早期可決も、議会に求めています。(注;米国で大幅に不足している自動車用チップを含む半導体の国内生産を促進し、国内サプライチェーンを強化することなどを目的とする法案)。ポートマン議員、私はこれを今日ここで言わなくてはいけないんでしたよね。
(会場笑い)
この夢を確実に実現するために、オハイオ州立大学や他の大学との連携の下、インテルは1億ドル規模のイノベーションファンドに参加し、才能と能力に優れた多様性の豊かな学生を集めるパイプラインを構築します。このプロジェクトにより、オハイオ州立大学の卒業生のみなさんにも、何千もの雇用が創出されるでしょう。
この変革は着手されたばかりです。みなさんの社会人生活も今まさに始まろうとしています。そこで、私のキャリアの始めに役立ったアドバイスをみなさんに伝えます。キャリアにおけるM.A.P.、つまりキャリアマップです。
「M」は「メンター」のMです。ぜひ自分のメンターを見つけて、その言葉によく耳を傾けてください。私には人生における良きメンターが5人いました。残念なことに存命なのは1人だけですが、彼とは今も毎週金曜日午前のミーティングで顔を合わせます。
社会人となって日が浅いころ、私は早熟な若いエンジニアでした。当時のキー製品、80386マイクロプロセッサを担当していましたが、この製品には継続的に問題が発生し、解決しない限りは製品として失敗することが判明しました。
そこで私は、業界の神でありシリコンバレーの重鎮であるインテル創立者メンバーの面々と話し合い、大々的にオペレーションを見直した上で、早急の対応を強く提言しました。
このミーティングの1週間ほど後で、アンディ・グルーブから電話を受けました。アンディ・グルーブは、後のインテルCEOにして半導体の天才、マネージメントの権威、そしてタイムマガジンの「パーソン・オブ・ザ・イヤー」として表紙を飾ることになる人物です。
「パット、君のプレゼンテーションには感心したよ。どんな本を読んでいる?何を勉強した?今の業務は何だ。キャリアの目標は?」と、いきなり彼からの質問攻めにあいました。
私はすっかり驚いてしまって、意味不明の答えをつぶやきました。すると彼はぴしゃりと言いました。「要領を得ないな。ちゃんとした答えを用意して、1週間以内に僕のオフィスに来たまえ」。これが、アンディの逝去まで35年間継続する師弟関係の始まりでした。
アンディとの師弟関係は、局所麻酔なしの歯科治療のようでした。しかし、向上心のある人には彼のような人物は必要であり、まちがいなく高みへと引き上げてくれます。私たちはみな、ダイアモンドの原石です。外殻を磨き落とすには、アンディのような人物が必要不可欠です。
私が知っている高名な人にはみな、それぞれにとってのアンディ・グローブがいます。ここでみなさんに問います。「みなさんには、人生において大きな影響を受けた人物はいますか?」
以上が「М」についてのお話です。
次は「A」です。「高い目標(Audacious goals)」についてお話しましょう。みなさんなりのミッションステートメント(企業の行動理念)を書き出して、実践してください。昨今はマニフェステ-ションという言葉が流行していますが、私は別段トレンドを牽引している自覚はありません。でも、みなさんは目標をマニフェストとして掲げることはできるはずです。
私には20代半ばに目標を失った時期がありました。当時の私は初めて特許を取得しました。『80386プログラミング』という処女作も出版し、ベストセラーになりました。読んだ人も多いのではないでしょうか。結婚して、2人目の子どもが生まれようとしていた時期でもありました。
しかし、私はその後のキャリアで何をするべきか、目標を見失っていました。ミッションステートメント、つまりこれからの人生で達成したい「高い目標」を書き出してみようと思いついたのはこの頃です。これは、達成が不可能に思えるが、達成のためには惜しみなく努力できるような夢を指します。
こうして25年間“安楽椅子CEO”を務めましたが、その間は「アンディ・グローブならどう言っただろうか」「私はちゃんとできたのだろうか」「私に技量があるだろうか」などの思いに日々追い立てられてきました。神は、人の子が願い求めるよりもはるかに大きな目標の達成を要求します。
自分にとって一番大切なものを見失わないでください。使命を達成するために、容赦なく時間の優先順位をつけてください。
では、M.A.P.の「P」についてお話ししましょう。「P」はPassion、つまり情熱です。得意分野を見つけてください。やっていて楽しく感じることを、一緒にいて楽しく感じる人と共にやってください。
キャリア40年目になる今でも、私にはインテルの社屋に初めて歩み入った18歳当時と変わらない情熱があります。この情熱を、イノベーションとしてシェアしたいと思っています。
自分を駆り立てる衝動を抑えてはなりません。常に正しいことを追い求めてください。妥協してはいけません。絶対的に正しいと思うことを追求してください。みなさんの持つ価値観が、みなさんの価値を定めます。みなさんの人となりや、みなさんを見る人の目が、それで定められます。
やるべきことが「仕事」と呼ばれるのには、それなりの理由があります。つらいこともあるでしょう。毎日が平和とは限りません。腹が立ったり、解雇されたり、失敗したり、契約を破棄されたり、当然あると思っていた昇進を見送られることもあるでしょう。
でも、前向きに受け止めましょう。それを転機としましょう。なぜなら失敗は、学びと成長のチャンスだからです。情熱をもって困難な時期を乗り越えましょう。その先には、今日のように称えられ賞賛される日がきっと来ます。
最後に一番大事な話をします。自分の意志を持ってください。向上心と学びの心を常に持ち続けてください。自分に自信を持ってください。仕事には全力を尽くしてください。
私は敬虔なクリスチャンです。私の信仰の篤さについてはいくらでもお話しできますが、その上でなお、ダイバーシティとインクルージョンを大切に思っています。
神は私の生に、崇高な使命を授けてくださったと日々信じています。場所や経験に応じて、偽りのペルソナを作る必要はありません。一つの場所で得た経験は、別の場所での支えや助けになります。いろいろな人が、それぞれ異なる思想、経験、育ち、文化を仕事に持ち寄ることで、どんなビジネスでも成功率が上昇します。
ダイバーシティは優秀なチームを強化し、能力を高め、イノベーションを起こす力となります。他者を受け入れ、自分自身も受け入れてください。
地球上に住むすべての人の生活は、テクノロジーによって豊かになります。私たちが住みたいと夢見る世界を作り出すことができるのです。立ち止まってはいられません。未来に向かって足早に歩き続けるのです。
未来を担うのは私たちでしょうか? いいえ違います。私たちの前にあるこの時代のあり方を定めるのは、今日卒業を迎えたみなさん、あなたたちです。
オハイオ州立大学のスタジアムから今日巣立つみなさんは、ぜひご自身のM.A.P.を実践してください。成長させてくれるメンターを見つけてください。不可能に思える高い目標を掲げ、実現してください。情熱をもって使命を追求してください。
2022年卒業のみなさんへ、謹んで未来を受け渡します。ぜひ、私と共にオハイオ州リッキング郡(シリコンハートランド予定地)へ来てください。わくわくすることが始まりますよ。発展を一緒に始めましょう。すべてはこれから始まります。ありがとうございました。
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