「育自分休暇制度」と「副業の自由化」

青野慶久氏(以下、青野):それから、辞めないのはいいのですが、ただ、生ぬるい会社になってもいけないし、適切に人が出たり入ったりするほうがいいと思っています。

これはそういう意味では辞めやすくする制度なのですが、育自分休暇制度というものを作りました。“育児”ではなくて“育自分”になります。子供ではなくて、自分を育てるために「6年間は他の会社に行ってもいいですよ」という制度。戻ってこなくてもいいのですが、「辞めても戻ってきてもいいよ」という制度を作っています。

そうすると、海外青年協力隊などで、アフリカで事業を3年間やって、今年の3月に戻ってきてくれた長山という女性社員ですが、こうした人が今、出てきています。こうした人が出てくると頼もしいですよね。アフリカ展開するときには、おそらく彼女はすごい才能を発揮してくれるのではないかと思います。ノウハウを持っていますからね。こうした人も出てきています。

副業を自由化しておりますから、基本的には会社の承認なく副業をしていいということになっています。これも僕的にはちょっと許しがたいというか、副業するというとなにか……嫌じゃないですか? なんか「コソコソ裏で働きやがって」というような。僕がパナソニックにいたときは禁止でしたからね。

しかし、これもメンバーで「そんなことを言ったって、最近はブログを書いて、ブログのアクセスだけで広告費がちょっともらえたりするんですよ。あれもダメなんですか?」と言われて「そこまでは言ってないけどね」。すると「青野さんだって、家に帰ったら家事育児をやっているじゃないですか。あれは副業じゃないですか」。(首をかしげて)「……」。

副業家の社員がサービスの付加価値を広げる

そこで、まあ、よく考えてみると、人は会社だけで働いているわけじゃないなと思いまして。いろんなところでいろんな活動をしていて、それをダメと言うのもどうかなと。「じゃあ、1回枠を外してみましょう。それで何が起きるかを見てみましょう」ということでオープンにしたところ、またこう、副業家が社内にたくさん現れています。

一番有名なのが中村龍太といいます。

彼はMicrosoftから転職してきてくれたのですが、どうして転職してきたかというと、サイボウズが副業していいということだったからです(笑)。副業していい会社に彼は行きたかった、ということなのですね。

彼は何をしているかというと、農業をしています。週4日サイボウズで働いて、残りの週3日は千葉県の実家でかなり大きな農業をしているのです。これがどんな結果になるのかを見ていたところ、彼はサイボウズのクラウドサービス「kintone」を使って、ハイテク農業を始めました。

センサーを農場に付けて、データをクラウドに集めて、それらのデータをもとに高機能野菜の出荷時期を予測して、それをさらに流通のところまでつなげて、一番適切な価格で適切なところに売るという仕組みを作ったのですよ。

そうすると、いろんな人が注目して「龍太さん、これはどうやっているのですか?」と農業法人が来たり、総務省のプロジェクトに呼ばれたりなどしているうちに、なんと私たちのサービスが農業法人に売れ始めたのです。

「おっ!?」「おいしい!」といったような(笑)。私なんかは農業についてまったく知らないのですが、副業で農業をする人が現れたので、彼のノウハウによって私たちのサービス側で付加価値が増し、そして、彼の人脈をもって売れていくようになった。「これ、おいしい。みんな、副業やれ。おまえは小売りや。おまえは飲食行け」、こんな状況になっておりましたら、なんとサイボウズから飲食業に転身する奴まで出ました。

これは、アンドビールといって、社内では「カレー屋の安藤くん」と言われているのですが、彼は飲食が好きで、副業でカレー屋さんをやっていたのですが、独立して飲食業を始めました。もしよろしければ、応援してあげてください。……どこでやっているんだっけ? 高円寺で店を開きました。彼のような人が出てくると、また、私たちのソフトが今後飲食業にもっと出ていくのではと期待したりもしています。

経営戦略としての「働き方の多様化」

そうなると、みんなの給料をどのように決めるのかという次の問題が出てきます。みんなバラバラすぎて、給料が決められない。「なんであの人は僕より給料が高いんですか? 会社に来ないのに」と、そういうことになっちゃうわけです。

そこで給与テーブルを廃止して、社員同士を比較するということをやめました。比較するのは社内ではなくて社外であると。それで、この社外において、どんな市場性があるのか。スキルや実績、そうしたものを見て給料を決めますよ。プラス、チームでの貢献度、こういうもので決めますよと。転職市場などを参考にしながら、給料を提示しています。

もう市場性というぐらいなので、新卒の初任給も一律じゃなくていいだろうということで、例えば、学生でプログラマーとしてめっちゃ鳴らしている子を採っていたりわけですよ。有名な人で、初年度の年収ベースで100万円ぐらい他と金額が開いていたりもするので、こうしたことも起き始めています。

それがいいかどうかはわかりませんが、多様化するということはこんな感じのマネジメントに変わっていくものだなと思って見ています。その他にもいろいろな成果がありますね。産休で辞める社員がいなくなりました、女性社員比率が4割に上がった、ワーママで執行役員になる人が出てきたなど。今、こんなことが起きています。

一番本当にありがたいのは、採用力が強化されていることです。サイボウズに来ると、自分の働きたい働き方で働けるということで、中途社員の応募が倍増以上になっています。以前と比較して3倍近くになっていますが、厳しく採っています。誰でもいいというのではなく、たぶん応募の100人に1人ぐらいしか採用していないと思うのですが、これぐらい採れると、非常にこう。中途でも人気の企業になってきました。非常にありがたいことが起きております。

ですから、この働き方の多様化を進めるというのは、単に従業員の満足度を上げるという話ではなくて、この採用力だったり、定着してもらう力だったり、そういうところがまさに経営戦略として、働き方の多様化というのは見ていただきたいなと思っています。

バーチャル出社を可能にするツール

ただ、これをやるには制度を作ればいいという話ではない、ということも理解してほしい。制度とともに道具が必要です。その多様な働き方を支える道具、クラウド、パソコン、セキュリティなど。そして、一番大事なのは、最後はやっぱり風土です。「そういう自由な働き方、多様な働き方をしていいんだよ」というところの価値観の風土。

私みたいに、「残業したくないです」と言われたら、「え、おまえ何しに来たの?」「ITベンチャーに何しに来たの?」などと言っているとダメですね。これは風土がない状態。「それはそれでOKだよね」「それはそれであなたの生き方、働き方なので、それはそれであり」という、多様性を認めていくような風土に変えていかないと、なかなか変わらないだろうと思います。

ツールについては、バーチャルオフィスを作るという、こうしたイメージになるかと思います。ITを使って、ここじゃないとできない、ここにある紙をみないとわからない、ここにある人に話しかけないとわからないなど、そういうやり方ではなく。

このバーチャルオフィスにログインすれば、データもある、人もいる、ここで会話ができる。こうしたバーチャルオフィスを作ることで、時間・場所といった制限を外した多様な働き方ができるようになります。

私も(iPhoneを手に取って)iPhoneがありますが、ここから出社できるわけですね。ここからパスワードを入れて、もう10秒以内に出社できます。そこにログインすれば、一緒に働いているメンバーがここにいて、仕事に必要な情報がここにある。これを論理出社と呼んでいます。物理出社、体はこっち。論理出社。

私も子育てをしていますからよく早く帰るのですが、早く帰って子供を寝かした後、お風呂に入って、(iPhoneを指して)これも持ち込んで、最近のiPhoneは防水ですからね。お風呂に入って、ワークフローを眺めながら、「却下しちゃおっかなあ」などと言いながら、ポチポチ押す、といったような。

これが、論理出社の働いてるイメージです。こういうことができるようになります。このように仕事の情報をバーチャルオフィスでどんどん共有するようになると、みんな働ける。まあ、できれば、サイボウズ製品をおすすめします。

……あ、ちょっとすいません。1ページ、宣伝を混ぜさせていただきましたが、私たちのこのkintoneのサービスコンテンツで、パートナーのロケットスタートホールディングスさんが、なんと飲食店パックを作ってくださいました。

これ、もしよかったら写真を撮ってください。

(会場笑)

いっぱい機能がありまして、タイムカードなど、今だにアナログでやっていたりはしませんか? 店舗を回ってかき集めていたりしませんか? ああしたものを全部、クラウドでデータを入れさせれば終了といったような。

コミュニケーションもこれでできますし、それから日々の売上の情報や、人件費の情報などもデータ化してみんなで見ることができるように共有して、チームで働けるようにする。こうしたインフラになります。

今日、展示ブースのほうでも出展させていただいておりますので、もしよろしければ後ほど覗いてみてください。うまくやったところは、6店舗の飲食店さんが、年間で200万円も浮かしたと言っていましたね。200万円あったら、けっこういろいろできますね。

あとは、ビデオ会議も見ることができるようにしています。こういうものがあると、遠隔で会議もスムーズにできるようになりますし、在宅勤務をしたときも、普通に会社の中で行われている本部の会議に参加できるようになったりします。

「公明正大」で「自立と議論」の風土をつくる

そうはいっても最後は風土です。風土が面倒くさいのですよね。風土をどう変えるかということなのですが、ここは本当に深い話になるので、ちょっとポイントだけお話しますと。会社の中の風土は、この2つだけは作っておかないと、多様化したときに崩壊するということがわかりました。

ひとつが公明正大になります。絶対に嘘をつかないチームにするということです。嘘をつくと、もう「血祭の刑だ、コラ」というような、そうしたカルチャーを作っていく。嘘だけはダメなのだ、と。アホはいいけど、嘘はダメという、そうしたカルチャーを作っていく必要があります。

なぜかといいますと、例えば、Aくんが今日こういう理由で早く帰るとする。「それ、本当?」といったような疑いを持つと不信感が現れてくる。それで、Aくんが「明日、在宅勤務したい」と言うと「本当?」といったような、「おまえ、本当に家で働くの?」「嘘くさい。ちょっと監視するために、家にカメラ付けさせろ」などと、こういうことなってきますと、余計なコストがかかってしょうがない。

ところが、Aくんは絶対に嘘をつかない、信じられるのであれば「どうぞ、どうぞ」と、「いろいろ都合もあるだろうから、じゃあ、明日は家からがんばって」と「一番働きやすいところでがんばって」と言ったら終わりの話が、公明正大に疑いがある組織だと、多様化したときに訳がわからなくなって崩壊するわけですね。

これがいかに大事か。今の日本企業は、これがダメなところから消えていっていますよね。本当に嘘をつく会社は消えていく。ですから、本当に嘘をつかない組織を作る。これがすごく大事。

これはサイボウズも、日々戦い続けています。ちっちゃな嘘も絶対に許さない。ちっちゃな嘘を見つけるたびに叩く。「ダメだぞ! 絶対ダメだ!」と。もし、マネージャークラスでそんなことをやろうもんなら、もうマネージャー権を取り上げちゃう。それぐらい厳しい対処をしていかないと、なかなかこの組織は作れないと思います。

もう1つは、自立と議論の風土なのです。なぜかといいますと、これだけ多様化が進んできますと、みんな望んでいるものがバラバラなわけです。このバラバラなものを把握して、対処するのが難しい。自分たちで声をあげてくれないといけない。

「僕はこんな制度がほしいのです」、「僕はいくら給料ほしいのです」、「この人とこんな働き方がしたい」。それを一人ひとりが自立して発言して議論してくれないと、残念ながらこの人の幸せな働き方というのは実現できない。だから、自立してくださいということです。

これをサイボウズでは義務化しています。質問責任といいます。問題を感じたら、それについて声をあげて言わないといけない。酒場で愚痴るのは卑怯者のすることです、というのがサイボウズのルールです。

ですから、サイボウズのメンバー同士の飲み会などは、すごく殺伐とするらしいですね。誰かが愚痴ると、「おまえ、それは質問責任を果たしていないじゃないか!」などと厳しく言いますからね。でも、こうした風土ができていると、みんなが言ってくれます。疑問に感じたら教えてくれます。それがまた次の改善につながるといったような。

これが2つ、多様化を進めるときにやらないといけない風土。そして、日本人は意外とこの2つが苦手だなというのが、思うところです。

サイボウズの問題解決メソッド

では、みんなが言いたいことを言ってくれるようになったのはいいですが、そこで悪いシナリオは、感情的な議論になっちゃうことですね。「なんでおまえはそんなことを言うんだ! 俺はこうだ!」などと言い出すと、水掛け論になって話が進まない。そうしたときに、もうちょっとこうかみ合う議論をしてもらうためにメソッドを作ろうというのが、この問題解決メソッドになります。

例えば、自分の座っている席が暑いとします。夏、暑い。これを「暑い!」と言うとダメなんですね、サイボウズでは。

「暑い。そうですか。それはあなたの解釈ですね。事実は何ですか?」と、「え、あ……、事実はですね、私の席の温度が26度だということが事実です」。「なるほど、わかりました。では、その26度という事実、それが引き起こされている原因は何ですか?」「クーラーがここに付いておりまして、設定温度が、羽の角度が……」「なるほど。では、あなたの理想は何度なのですか?」「25度ぐらいが僕の理想です」。

「そうですか。そのためにはどんな課題を設定すればいいですか?」「温度を1度下げて、風向きがこっちに来るようにしてください」「わかりました。あなたが考えている問題はそういう問題ですね」。

これが私たちの社内の議論のやり方なのです。

面倒くさいでしょ? 面倒くさいのですが、ちゃんと論理的に考えられるようにすると、他の人と議論しやすいのですね。お互いにもしかすると、見ている現実が違うのかもしれない。お互いに思っている理想が違うのかもしれない。お互いに見ている原因が違うのかもしれない。その差分を把握しながら、どうすればいいのかを建設的に議論していく。

それが「いや、俺は寒いねん!」、「俺は暑いねん!」などと言い始めると、話が進まない。それをポンポンと紐解くように、時間はかかるのですが建設的に議論できるようにすると、前に進む。これが自立を促したときに必要となるインフラになります。

サイボウズでは、入社して最初の研修からこれを教え込むということをします。このようにしておくと、多様な人がいても、多様な意見が出てきたとしても、ちゃんと建設的に議論ができるようになるのです。