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「楽しく登り続けること – 実践と科学から見た努力論」(全2記事)

2016.08.16

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ビジネスの世界で勝ち続ける人の特徴は? 楽天成功の方程式は“ラスト2%での粘り”

提供:楽天株式会社

2016年7月20日、楽天市場の出店者をはじめ、ECに携わるビジネスパーソンが会する一大イベント「楽天EXPO2016」が開催されました。Fringe81・尾原和啓氏と予防医学研究者・石川善樹氏、登山家・栗城史多氏の3名は、「楽しく登り続けること – 実践と科学から見た努力論」をテーマにトークセッションを行いました。

プロフェッショナルの“諦めの悪さ”のポイント

石川善樹氏(以下、石川):栗城さんのお話を聞いていて思い出したんですけど。先ほどの話で、NHKの『プロフェッショナル』の有吉さんという方がおっしゃっていた、プロフェッショナルの共通点があって。

もう1個思い出したんですけれども。「とんでもない高い目標を立てる」ことと、「不安と戦うため」。もう1個が「プロフェッショナルはとにかく諦めが悪い」と。同じことをしつこくやる諦めの悪さではなくて、ありとあらゆる方法で試してると言うんですね。

1個の方法を試してうまくいったとしても、「ほかに方法があるんじゃないか?」というふうに、とにかく目標に到達するまでの方法を試しまくるらしいんですね。

それでありとあらゆる失敗を経験して……だから、一見効率は悪いと。でも、ありとあらゆる失敗をしていて残ったものだから本質に近いと言っていて。

栗城史多氏(以下、栗城):『巨人の星』みたいですね(笑)。

石川:『巨人の星』(笑)。なにを言いたいかというと、傍からは同じ山の頂上を目指してるように見えるんだけれども、毎日の取り組みがぜんぜん違うルートで行ってるということなんですね。

登山家に必要な身体トレーニング

そういう意味では、栗城さんは毎年チャレンジされていて、山の登り方というのはやっぱり違ったりするんですか?

栗城:やっぱり変わりますね。

石川:違うんですか。

栗城:そもそも無酸素で8,000メートル登るというのは、医学的に「こうやったら登れるんじゃないか?」というのはあまり解明されてないんですよね。そもそも行く人もあまりいないですし。一応、高所・登山医学という領域もあるんですけれども。トレーニング方法や体の作り方は本当にみんなバラバラです。

例えば、僕らはどんな筋肉が必要かというと、あまり筋トレをやらないんですよ。なぜかというと、筋肉をつけ過ぎると今度は逆に酸素を使っちゃうので、重荷になっちゃうんですよ。なので、どちらかというと、体幹を鍛えるバランス系のトレーニングを徹底してやっていたりとか。

あとは昔……これは間違ってたんですけれども、一時期マグロになりたい時期があったんですよ。

石川:はい? マグロ?

栗城:マグロって少ない酸素で長時間動くじゃないですか。ああいう筋肉がほしいと思って、マグロの赤身ばっかり食べてた時期がある。

(会場笑)

栗城:そしたらちょっと調子悪くなっちゃって、知り合いのお医者さんに相談したら、「君の理論は完全に間違ってる」「バランスよく食べなさい」と(笑)。

石川:一応いろいろ試してるんですね。

尾原和啓氏(以下、尾原):そういう意味で、ありとあらゆる方法をやるということなんですね。

栗城:そうですね。今はその体幹だったり、あとは日本に低酸素室がありますので、そこでトレーニングをしたり。

僕のなかの最先端は、まさにそのマインドフルネスな感じなんですね。脳の酸素の消費が激しいものですから、脳の使い方が一番重要じゃないかな思ってますね。

石原:そうなんですね。

楽天の成功の方程式を描く「三木谷カーブ」

尾原:ちなみに、今言った「諦めが悪い」というのは、ビジネスでめちゃめちゃ重要になってきてるんですよ。

楽天の成功の方程式のなかに「三木谷カーブ」というのがあって。

(会場笑)

石川:そうですか(笑)。

尾原:これはなにかというと、圧倒的な成果というのは、努力する最後の2パーセントか3パーセントで、どれだけそこに時間と努力を注ぎ込めるかというので、圧倒的に他者と差が起こるというのを、三木谷カーブと言うんですけど。

世の中的には、2:8の法則ってあるじゃないですか。だから8割の成果というのは、世の中的にはだいたい2割の努力ぐらいでできちゃって。

逆に、残りの20パーセントを埋めようとすると、どんどんどんどん効率が悪くなってきて。差をつけようと思うと、最後は人の10倍、100倍やらないと差がつかないという世界になるんですよね。

これがなんで重要かというと、インターネットってパクるの簡単なんですよ。だから、今までは2:8の法則だったのが、先人のやってることを聞くと、もう5パーセントの力で8割までこれちゃうんですよね。

下手すると、9割とか95パーセントまでいってるものも、パクれば10パーセントとか20パーセントの労力でこれちゃうかもしれないんですよね。

そうすると、このパクリ上等の世界のなかで、他社に対して差をつけようと思うと、最後の最後、ものすごい非効率なもがき苦しみというのをやり続けないと差ができない。

変な話なんですけど、そこで出たものって出た瞬間にまたパクられるので。そうすると、もがき続けるって、よく三木谷曲線の一番効率の悪い最後の2パーセントをずーっと続けなきゃいけないというのがビジネスの状態です。

そういう意味で、今言ったように効率は悪いんだけど、ありとあらゆることをやって、楽しめるとすごくおもしろいなと。

日本のアスリートがオリンピックで勝てない理由

石川:僕はアスリートとか、いろんな分野の人々の研究をしていて。最初は積み重ねで成長できるフェーズがあるんですよね。まあパクるのに近いと思うんですけれども、これをやれば成長できるというフェーズがあって。

例えば日本のアスリートはジュニアオリンピックとかになると、まあ金メダルをいっぱい取るんですよ。若い時期というのは、積み重ねれば積み重ねるほど成長するので。

尾原:結果が出てくる。

石川:ただ、ジュニアの頃は活躍してた日本人選手が、その後大人になって成人したときに外国人選手にボコボコ抜かれていくんですね。

これがなぜなのかという話をこの間、為末(大)さんに聞いたんですけれども。積み重ねの成長、要はパクって成長できるフェーズが終わったとき、限界にぶつかったときに、今度はゆらぎによる成長をしなきゃいけないんだって言ってましたね。

尾原:ああ。ゆらぎ。

石川:ふだんとはぜんぜん違うことをやってみるというか、ものすごく単純に言うと、これまでの自分の型とかフォームを1回忘れるってことですね。「これができないんだ」と言ってましたね。

尾原:これまでうまくいった成功体験があるから執着しちゃうんですよね。

石川:そこから違うフォームになったときに、最初は当然成績が下がると。それが怖くて元のフォームに固執しちゃうから、日本人の選手はなかなか成長できないと言ってたんですね。

逆にいうと、そこの差の、うまくゆらいだ人、その……。積み重ねを超えてくると、あとなにしたらいいかわからないわけですよ。だから、ありとあらゆることを試すしかないんですけれども。

過去の成功体験を忘れられる人の強み

石川:今は、パクる時代からゆらぎ時代になってくると思うんですね。

尾原:ゆらぎをするためには、1回過去の成功体験をちょっと脇においておかないといけないという。いわゆるアンラーニングと呼ばれるやつですよね。

石川:そうですよね。

尾原:あえて執着をしない。だけどゆらぎには限界があるから、ありとあらゆることを遊びとしてやらなきゃいけないということですかね。

石川:そのときになにが大事になるのかということを研究したんですけれども。結論としては、そのときにあまりほかのことを見すぎてもよくないんですね。

やっぱり最終的に見つめるべきなのは、今まで身につけた型から順々に引いていくんですけれども。最終的に残る自分の本質ってなんだろうかというのを見つめられた人が、やっぱり強いなという発見なんですね。

尾原:「いろんな型を外していって、最後に残る型ってなんなんだ?」と。

石川:例えば、為末さんの場合でいうと、「なんで自分は早く走りたいんだっけ?」とか。

栗城:根本なんですね。

石川:根本なんですよ。「自分にとって一番になるってどういう意味を持つんだっけ?」とか。そういう根本のところまで遡る、そこまで考えるというよりも、そこから考えを始めたときにブレークするというか。

為末さんが1回目にメダル取ったあとに、しばらくスランプに陥ったんですけれども。それまではがむしゃらに練習をして、メダルを取れたんですね。だから、「がむしゃらに練習することがいいんだ」という思い込みがしばらく抜けなかったというんですよ。

年を取ってくるとつらくなってくるので、練習量を減らさなきゃいけないんですね。それに気づいていろいろ減らしていったときに、「そもそも足が早いってなんだ?」「なんで2本足で走ってるんだっけ?」とか。

尾原:2本までいく?

石原:そこから考え始めて、また1個1個作っていったんですね。

凍傷で9本の指を失って気づいたこと

尾原:栗城さんの場合、さっき言われたように、そもそも山って極限状況だから、常に原点回帰して、一番危険に対応しなきゃいけない環境だから、必然的に捨てて目の前にあるものに集中して、新しい型を作るというふうになれたのか。今の話を聞いて、実は自分のなかにもそういう経験があったんですか?

栗城:やっぱり僕も似たような経験があって。山の場合に危険なのは、死に直結するという点なんですよね。

一番事故率が高い年齢層は、だいたい20代後半から30代前半だと言われていて。この世代はやっぱり体力もあるし、極めようという感じでいくんですね。

ちょうど30歳のときに凍傷になって、実は手だけじゃなくて、両足も鼻もなって。鼻は残ったんですけれども。9本の指の第2関節先を失って、実は無酸素で8,000メートル行く人たちって凍傷で指を失う人がけっこういるんですけれども。

日本に帰ってきて入院しているときに先輩に言われたアドバイスが、「山を見るんじゃなくて自分を見ろ」と言われて。

それまでは、「エベレストってどうやって登れるのか?」というのに集中して、ありとあらゆるトレーニングをやっていくんですけれども。

やっぱり「大切な部分を見失ってた部分があったんだな」というのがありました。そこから先、もっと自分というのをよく見るようにしましたね。そのなかで出てきたのが、「楽しむ」ということだったり。

石川:それはものすごい深いメッセージですよね。そういう「楽しもう」と思ったときというのは、日々の取り組みは変わったんですか? これまでのとにかくつらい努力をすることが大事だというのが。

栗城:そうですね。やっぱりトレーニングにしても、いかに自分に負荷をかけて苦しんでやるかということがあったと思うんですけれども。ぜんぜんそうじゃなくて、苦しいことも含めて全部楽しもうみたいな。

ちょっとでも自分の心が向かないときはやめようとか。昔は風邪を引いていても山を登るときがあったんですけど、そういうのはもうぜんぜんしないですね。無理をしないです。

勝ち続けている人は無理をしない

石川:無理はしなくなったんですね。これもいろいろ、「1回だけ勝った人と勝ち続けてる人の違いはなんだ?」というのを研究したことがあるんですね。

勝ち続けている人のメンタリティの特徴の1つとして、「自分が飽きたときはすぐやめる、その日はやめる」というのがあって。

それはどういうことかというと、日々やってることに対して、自分が飽きたりつまらなく感じたり、面倒くさいと思ったら、無理をせずやめてるんですよね。

「なんでですか?」って聞くと、明日もやろうと思う気持ちが生まれるために、飽きたままの状態で続けるのはむしろ危険であると。飽きている自分に気づくというのは、相当高度だなって思ったんですね。

栗城:ああ、すごいですね。

尾原:それってさっきの、(栗城さんの)「楽しくなくなったらもう下山する」というのに近いですよね。

石川:(普通思うのは)「飽きてる場合じゃないだろう」と。いろんな応援をしてもらってるから。

栗城:そうですね(笑)。

石川:「歩まないといかんだろう」と思うんですよ。「飽きたからといって、今日頑張らなくていいのか?」って思うんですけれども。勝ち続けてる人はそういう意味でメンタリティがぜんぜん違うんだなって思ったことがあります。

尾原:でも結局、実はビジネスよりもそういう勝負事をやってらっしゃる、棋士とかアスリートの方のほうが、結果にシビアなわけですよね。

勝ち続けないとスポンサーがいなくなる。ある意味ビジネスは自分が飽きたとしても、自分の心が離れたとしても、ある程度は惰性でいけちゃうので。

そういう意味では、たぶんそういった方々が飽き始めてる自分に気づいたらやめるというのは、勝ち続けるためのものすごい大事な要素だと思うんですよね。

石川:だからそう考えていくと、今日いろいろお話うかがってると、やっぱり自分の感情に敏感でいられるかというのがポイントとして重要だということがわかってきたんですよね。ビジネスの文脈ではどうなんですか? 店舗さんはどういう感情が多いんですかね。

1年間の大ヒットよりも、10年間のロングセラー

尾原:なぜこのテーマを選んだかという話なんですけど。前回の春に「新春カンファレンス」をやったときに、『ダウンタウンDX』という番組のプロデューサーの方と対談をやったんですよね。

彼はすごくて、『ダウンタウンDX』は絶対に視聴率20パーセントにしないと決めているんですね。

なぜかというと、15パーセント取る世界と20パーセント取る世界は違って。やっぱり20パーセントは偶然の要素が必要になるらしいんですよ。20パーセントを1回取っちゃうと、その偶然の要素に期待されちゃうから、やがて15パーセントも取れなくなると。

だから、「15パーセント取り続けることを10年やるためにはどうすればいいんだ?」みたいなお話をして。

あとは、同じようにこだわりを持たないということとか、あえてむちゃなことをやるというような話があって。

石川:その目標設定の仕方っておもしろいですね。15パーセントを10年間取り続けるというのはものすごい高い目標ですよね。

尾原:そうなんです。彼は「20パーセントを取るやつは天才が取れる」と。でも20パーセントを1年ってかけ算だと20じゃないですか。でも15パーセントの10年は150なので。「影響を与えたユーザーの数、お客様の数では俺は誰よりも多い」と。

結局ビジネスってそういうことだと思うんですよね。1年間のなかで大ヒット商品を出して、ものすごく売れたとしても、結局それは一過性のものじゃないですか。

石川:ベストセラーかロングセラーかみたいな感じですね。

尾原:そうですね。やっぱり商売ってロングセラーなので、「それを続けることってどうなんだろう?」と考えたときに、さっき言った、「登山という一番激しく厳しいことをずっと続けてこられる方ってどうなんだろう?」ということと、さらに「それにチャンレンジし続けることはどうなんだろう?」というお話をしていったということなんです。あとは石川さん、まとめてください(笑)。

人生における「ミッション」のとらえ方

石川:「酸素があればなんでもできる」という名言が今日はありましたけれども(笑)。ありがたいと思うことの前提はなにかなと思ったときに、基本的にいろんなことがないんだという前提に生きてる人は、あること(自体)がありがたいと。

尾原:そうですね。「酸素があればなんでもできる」という話にちなんだエピソードとして、Googleとかを産んだ投資家のベン・ホロウィッツという人が、「利益は会社にとっては酸素みたいなものだ」と言っていて。「ないと死んじゃうんだけれども、僕たちは酸素を意識してずっと生きてるわけじゃないよね」ということを言っていて。それってすごいビジネスに近いと思うんですよね。

ビジネスをやってると、どうしてもお金のことばかり考えちゃうんだけれども、別に僕たちはお金のために生きてるわけじゃなくて。いかに酸素みたいな状態とつきあっていくというのが大事みたいな話があって。

石川:それはおもしろいですね。そういう意味でいうと、たぶん酸素のためじゃない。じゃあなんなんだというと……。

尾原:自分のため。

石川:それってたぶん、やっぱり楽しくて意味があることじゃないと人って続けれないので。だからそこが自分にとって楽しくて意味があるってなんなんだろうってことをよく考えるということだと思うんですね。

尾原:アメリカの会社ではそのことを「ミッション」って言うんですよね。天から与えられた使命。でも日本の場合は「事業」って言うんですよね。

これって業を事とするってことなんですよね。要は業ってカルマですよね。魂のなかにあって、それを燃やし尽くさせねば生きられない、そういう自分があるみたいな。僕が話をかき混ぜるとわけがわからなくなりますけど(笑)。

石川:でも、それがあるのかもしれないですね。要はミッションって伝道をすることじゃないですか。キリスト教はすぐ伝道したがるんですね。

尾原:そうですね(笑)。

石川:東洋に長く確かな経営をしてる会社が多いというのは、たぶん伝道的な感じというよりも、たぶん求道的な感じだと思うんですね。道をずっと求めていくというか。その先になにがあるかわからないと。たぶんエベレストに登頂したからといって、それがゴールじゃないですよね?

栗城:そうですね。

石川:それをミッションとする人生じゃなくて、ずっと道を追い求めてるわけですよね。

「否定の壁」を乗り越えた先にあるもの

栗城:僕のもともとのミッションというのは……今、生中継登山をやってるんですよね。これも世界で初めての試みなんですけれども。インターネットで生中継登山をずっとやってきまして。「冒険の共有」と呼んでるんですけれども。

なんのためにやっているかというと、僕はふだん全国のいろんな学校とか企業を講演で回るんですけれども。

子供たちに「将来の夢なんですか?」「なにやりたいですか?」と聞いてみたら、けっこう「こういうことやりたい」とか「こういう学校行きたい」とか言うんですけれども。

大人の人が「お前の成績では無理だよ」と言ってしまったり、「バカなこと言ってないで、やめておきなさい」みたいな。

僕自身がなんでチャレンジ続けてこれたかというと、すごいマイナスな体験なんですけれども、否定されたことがすごくあったんですね。

最初に北米最高峰のマッキンリーという山に向かうと言ったときに、一番つらかったのが全員に否定されたということがあったんですよ。友達とか山の先輩、大学からも。実家に退学届が届いていて、そのときに……。

石川:実家に?(笑)。

栗城:実家に退学届が届いたんです。僕はそれにサインしなかったんですけれども。それぐらい全員に「お前はバカだからやめておきなさい」みたいに言われてて。

すごくうれしかったのが、出発直前に父親から電話がかかってきて、そこで「信じてるよ」って言ってくれたんですね。その言葉が今も支えになっていて。

学校とかを回ってると、どうしても否定という壁がたくさんあるなと。やっぱり本当のチャレンジというのは、失敗と挫折の連続なんですよね。「冒険の共有」がなにをするかというと、失敗や挫折を全部リアルタイムで共有していこうみたいな。

「それでもやっぱり頂上に行くんだ」みたいなムードを少しでも伝えないとと思って、中継登山をやっています。

僕が本当に向かいたい先というのは実は山じゃなくて、意外と人の心だったりとか、「これから人間はどういうふうになっていくんだろう?」みたいなところにすごく興味がありますね。

石川:否定という壁を乗り越えたという。

栗城:山は本当に1つの道かもしれないですけれども、そこじゃないなというのはあるんですね。

石川:ああ。

尾原:といういい話で、いったんまとめましょうかね。

栗城:そうですね。

逃れられない「死」を生きる力に変える

尾原:せっかくの機会ですので、質問はいかがでしょうか? はい、どうぞ。

質問者1:死ぬということに対してどう思われてますか?

栗城:すごい質問ですね。死ぬということに関しては、例えば死んでしまったら、まさにそれはもう終わってしまうわけなんですけれども。

ただ、我々は死というものに対して、決してネガティブには思っていないですね。だからといって死にたいわけじゃないですよ。

ただ、死というものがもしなくなってしまった場合にどうなるかというと、逆に生きる力が出てこなくなると思ってます。

すごくリスクも高いですし、死がすごく間近に迫ってくることがいっぱいあるんですけれども。逆に言うと、その分ちゃんと生きようとする力が出てくるというのがありますので。

死というものは誰も逃れられないものですし、ともに生きていくものだと思いますので。山で死んでしまったらやっぱり多くの人を悲しませてしまいますし、それはやっちゃいけないことなんですけれども。同時に死というものといかに向き合いながら生きていくかというのはすごく意識してますね。

質問者2:山のコンディションが悪くて行けないときが何日か続くときは登るモチベーションをどうキープし続けるんでしょうか? 天気が悪かったりとか。

栗城:天気が悪いときは、それは山の神様のご機嫌なので、従うしかないかなと思っていますね。行けると思ったときに一気に力を出すというかたちでいますね。

尾原:何日待てるとか、限界の日数は?

栗城:限界の日数はもちろんありますね。どんどん後半にくればくるほど焦ってくるというのはありますけれども。かといって、焦りすぎて行ってしまえば、帰ってこないということになりますので。

山の先輩がよく言うのは、「生きていればまた必ずチャンレンジできる」と言いますので、まずちゃんと生きて帰ってくること。次に登頂するという順番でやってますね。

質問者2:ありがとうございます。

尾原:ちょうどお時間になりました。今日は貴重な対談ありがとうございました。

(会場拍手)

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