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Hardware Startupに取り組む意義と、その未来(全2記事)

2016.04.21

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日本の“ものづくり”進化中 メーカームーブメントが作り出す未来は?

提供:株式会社リクルートホールディングス

リクルートが運営するコミュニティスペース「TECH LAB PAAK」が第3期生の成果発表会「OPEN PAAK DAY#3」を開催。各人の発表に先立って「Hardware Startupに取り組む意義と、その未来」と題し、トークセッションが行われました。ロボット、アロマ、盆栽という分野で新しい市場創造に挑戦する3者が集い、それぞれのフェーズにおける課題やハードウエアでスタートアップを立ち上げることのむずかしさについて話しました。

ハードウェアスタートアップを語り尽くす

笠井一貴氏(以下、笠井):みなさん、よろしくお願いいたします。僕は今、リクルートのMedia Technology Labというところで「BRAIN PORTAL」というサービスをやっています。ハードウェアスタートアップに関する新規事業で、ハードウェアスタートアップがものづくりをするための工場や、いろんな技術者の方と出会えるマッチングサービスです。今日はいろいろな話を僕も楽しみにしながら来たので、よろしくお願いいたします。

本日はハードウェアスタートアップをテーマに話すんですが、ハードウェアってすごく難しいところがたくさんあるので、スタートアップだけではなく、いろいろな角度で今ハードウェアを作っているみなさんをお呼びしました。今日の3名は、ソフトバンクロボティクスの縄田さん。ソニーの藤田さん。それから「Air Bonsai」というKickstarterですごく流行ったプロダクトを開発されている、星さんになります。

(会場拍手)

今日はこの4名で進めてまいります。よろしくお願いいたします。まず最初に自己紹介を兼ねて、それぞれの方がどういうプロダクトを作っているのかを紹介させていただきます。では、縄田さんからよろしくお願いいたします。

「一家に一台ロボットを」Pepperが目指す先

縄田昇司氏(以下、縄田):よろしくお願いします。ソフトバンクロボティクスの縄田と申します。

私はソフトバンクロボティクスで、コンシューマー向けのPepperの商品企画とか、そこにアプリを作ってくれるデベロッパーさんのサポートに取り組んでいます。ここにいらっしゃる方は、比較的アンテナが高い方が多いと思うので「PepperはITのスキルが少しあれば自分でいろいろいじって開発ができる」ということをご存知の方も多いと思います。

例えば、店頭で使ったり、家で使われたりするんですが。ロボット工学の知識はなくて、ITの知識しかない人でもロボットのアプリ、実際のゲームやコンテンツ、会話、最終的には知能や感情というところまで作っていったりすることができるようになるプラットフォーム作りを目指しています。

日本だと最近よくソフトバンクショップで見かけたりされていると思うので、見慣れてる感じがするかもしれないんですが、サービスロボットって、日本は漫画とかアニメのおかげですごくロボット自体が身近に感じるかもしれないですけど、実際にはやっと少しずつ市場が立ち上がってきたかなという状況です。

これ身長が120センチぐらいあるので、遠くから見るとそんなに意識しないかもしれないですが、ガジェットとして一般的なスタートアップ企業が扱うモノとしてはけっこう巨大です。

実際にビジネスを展開する上では、ロジスティックスだとか、アフターサポートだとか、一見表からは見えにくいところにけっこう負荷がかかります。すでにビジネスを始めておられる方には共感して頂けるかもしれませんが、そういう部分がけっこう大事だったりします。

(会場拍手)

香りで「ワクワクを提供する」プロダクト

笠井:ありがとうございます。後ほど詳しくうかがってまいります。では2人目。ソニーでAROMASTICというプロダクトを作っている藤田さんになります。ソニーさんのなかでも、コンセプトが僕は「新しいな」と思ったんですけど、そういったことも踏まえてご紹介していただけるとありがたいです。

藤田修二氏(以下、藤田):ソニーの藤田です。よろしくお願いいたします。今回、私が率いているのが、AROMASTICという香りのプロダクトになります。

ソニーは映像や音などを軸にエンタテインメントをお届けしていますが、私は、どうやったらエンタテインメントを拡張できるのか、というところを自分なりずっと考えていました。特にソニーという会社は「ワクワクを提供して欲しい」という要望を、これはすごく光栄なんですけれど、たくさん頂いています。

そんななかで「じゃあ、ワクワクってなんだろう?」というと、きっと人がどう感じるか、というインターフェースのところだと思うんです。なので原点に戻って、インターフェースを拡張する意味で、映像と音という視覚や聴覚以外の感性に視野を広げて香り、嗅覚というインターフェイスに着目しました。

じゃあどうやったら、香りでエンタテインメントが提供できるのか。いろいろ我々が考えたなかで、ぐるりと回って、非常にシンプルなんですけれど、アロマというのは、コンテンツとして完成されてるんですね。香り単体で、コンテンツとして完成されている。ただ、その利用方法は、もっと広げられるんじゃないかというのが私がAROMASTICを発想した源です。

ウォークマンと根底のコンセプトは同じ

実際にこのぐらいのサイズのものなんですけれど。非常にコンセプトがシンプルで、いつでもどこでも香りを楽しむというコンセプトになっています。

これは4つの特長を持っていて。1つはポータビリティですね。どこでも持ち運べる。それから香りを切り替えられるというのが1つあります。そして、いかに簡単に手間なくに使えるかというところ。それからもう1つは、パーソナルに香りを楽しむことができる。この4つの特長は、これまでの香りの楽しみ方にはなかったものなんです。

例えば、(これまでの商品は)香りで空間を満たして楽しむものだったりするんです。そうすると、もちろん香りを切り替えることもできないですし、いつでもどこでもっていうわけにもいかないし、周りをいやがおうにも巻き込んでしまう。

こういったパーソナルに楽しむ方向で体験の可能性を広げるのは、実は昔ウォークマンが音楽で実現した機能そのものになるんですね。ソニーがウォークマンで実現したのは、大きな言い方をすると、パーソナルに音楽を楽しむという文化を新しく作り出すというところではないかと思います。

目指すのは新しい習慣の提案

AROMASTICを説明しても、すぐに想像できないもの、なじみのないものというところがまさに新習慣の提案なんだと思います。たぶん今、聞いただけでは正直どんなプロダクトかよくわからないって方が多いと思うんです。

香りのおもしろいところって、ここでどれだけ説明しても、実際に体験していただかないとよくわからないところなんです。「香りが切り替わるって、どういうことなんだ?」。これが伝わらないのは、単純にそういうデバイスやプロダクトがないから、これは鶏と卵みたいな話になるんですけれど。

そういったかたちで我々は、新習慣を提案するっていうところを、この1つのハードウェアでやりたいと思っています。

この根底にもう1つお話すると、映像と音楽って光や振動で伝わるで物理シグナルなんですよね。一方で香りは香りの成分が届く物質的なシグナル、化学シグナルなんです。そういったシグナル自体のパラダイムシフトで新しい世界が開けるんじゃないかな、とも考えています。以上になります。よろしくお願いします。

(会場拍手)

笠井:これはソニーさんの独自のクラウドファインティングの「ファーストフライト(First Flight)」に出されていると思うんですが。こういったプロダクトは本流といったらアレなんですけど、事業部などとは別で作られているんですか?

藤田:我々、AROMASTICチームは社長直轄の新規事業創出プログラム「Seed Acceleration program(SAP)」のなかのスタートアッププロジェクトです。SAPを推進している新規事業創出部では既存の事業領域外の案件を育成しており、我々はそのなかでも事業化に向けて準備している「事業準備室」となります。

AROMASTICの開発には、事業部でエレクトロニクス製品を手がけたエンジニアが加わっています。ただソニーのなかで、香りの分野は今までやったことがないので手探りな感じでやっているところがありますね。

「ユーザーニーズはこうだろうから」というのも、わからないことが多い。なぜかというと、この製品と簡単に比較できるものがないんですよね。そういう意味でも完全に手探りのところはありますね。

笠井:何名ぐらいのチームで?

藤田:けっこう区切るのが難しいんですけれども。クラウドファインティングの写真では6名というかたちでチームメンバーを出しているんですけれど。実際は、社内外含めてたくさんの方が関わっています。

Kickstarterで話題沸騰、浮遊する盆栽

笠井:ありがとうございます。最後になりますが、ムービーがあるのでこちらを見ていただきながら。

星ヒカル氏(以下、星):星人(ホシンチュ)という、星に人と書いて、ホシンチュと読みます。正式には、星人空中盆栽園ですが、昔、Apple Computerも通称Appleと呼ばれていて、最終的にAppleだけになったと思いますが、成長して同じようになれるように願いを込めて作った感じです。ちょっとわかりにくいですかね。僕は、「Air Bonsai」というプロダクトを、この前Kickstarterで発表させていただいて、ちょっと反響いただいた星人の星ヒカルと言います。

喋りが苦手なので、映像でお願いします。

(Air Bonsaiのイメージ映像が流れる)

:簡単に紹介すると、陶器の中に浮遊装置が入っていて浮く仕組みとなっています。量産する陶器は九州の有田焼で作っています。今回のプロダクトのちょっと珍しいところというか、難しいところは、天然の素材と工業製品を組み合わせるところで、そこに苦労しました。

Air Bonsaiは、2015年の春ぐらいから、こそこそとつくり始めていて、プロダクトから映像までDIYで数名のチームでつくり、Kickstarterで発表させていただいたという感じです。いろいろみなさん、突っ込みどころがあると思うので、気軽に突っ込んでください。

(会場笑)

星人は「星ごと」という大切にしていることがあります。この話は、ハードウェアスタートアップのイベントで言うべきことかわからないのですが、僕たちは、星を輝かせようという活動をしており、Air Bonsaiは、空中に浮く盆栽を、地球に見立てています。盆栽は育てるのにとても手間と時間がかかります。それは地球も同じだと思います。今、世界中でややこしい問題が多くありますが、Air Bonsaiを通じて、私たちが住む星を大切にしていき、一緒に星を育てて輝かせていきませんかと願っています。それがこのプロジェクトです。突っ込んでいただいて、全然けっこうですので(笑)。

笠井:めっちゃ欲しくないですか? 僕がこれを見たとき、リクルート内では全員がめっちゃ湧いて、大人気でした。

Air Bonsaiが今、抱えている課題は?

今日はこういったかたちで、いろいろなコンセプトが尖ったプロダクトを作られているお三方で進めていきます。しかもまさに今、作り中だったり、もう公開されているPepper君だったり、いろいろな立場の方がいらっしゃるので、僕からいろいろ聞きたいというのもあるんですけれど、せっかくなので、適宜みなさんにもどんどん手を挙げていただいて。気になることとか、どんどんその場で聞いていただける会にできたらと思っています。

後はあそこに書いてある、Twitterの「#paak_jp」をつけてツイートしていただけたら、質問などもそこで拾って、僕が代わりに聞いたりもできるので、どんどん手を挙げて楽しんでいただけたらと思います。

今、いろいろとプロダクトのご紹介をいただいたんですが、ここから具体的な質問に入っていきます。まず1つ目が、今、作ってるプロダクトがどんな感じなのかを踏まえて、現状だったり、作ってるなかでのおもしろさだったり、やはり課題もあると思いますので、具体的なエピソードを聞けたらと思っています。では、逆順で星さんからお願いできますか。

:はい。自分たちのつくっているモノから見た、Hardwareビジネス……?

笠井:そうですね。クラウドファンディングで公開されて、今まさに作り中ですね?

:そうですね。Kickstarterで80万ドルぐらい。1月21日から40日間にわたって、資金調達をしてきました。

見た目のクオリティはかなりこだわり12個ほど完成することができ、その甲斐もあって、お陰様で反響をいただき、たくさん支援をいただきました。そんななか、課題点も見つかってきました。それは、量産することです。僕たちは、量産のプロフェッショナルではないですから。

8月末と10月末に、世界66ヶ国、3,000人以上の方々に支援していただいたので、それをお届けしなければいけない。Kickstarterを始める前のリサーチ段階で、資金調達はしたが、最終的な製品にたどり着けないプロダクトもあるとも聞いていたので、始める前から製造ラインも含めて、綿密に打ち合わせはしていたのですが……。

少ない数であれば、つくる方法もあったりするのですが、冒頭にも述べたように、天然素材と工業製品を組み合わせるところがすごくハードルが高くて、量産するのに今すごく手こずっている最中でございます。

世界66ヶ国の基準に対応することが難しい

笠井:星さんのチームは、そういうもの作りは全員初めてなんですか?

:僕はプロデューサーなんですけれども。ものづくりというか、アーティストが1人入ってます。彼は造形は強いのですが、いわゆる量産のメーカー出身の人とかがいるわけではありません。いろいろとお知恵を、藤田さんに教えてもらって(笑)。

笠井:これすごいなと思うのが、ハードウェアスタートアップで、いわゆる家電だったりを作ったことがない人が、コンセプトを磨いて作って、実現していくっていうのが、今まさにメイカームーブメントが見えて来てるなぁという感じなんですけれども。そのなかで今、具体的にこれが一番やばいというか、想定していなかった課題ってありますか?

:そうですね、66ヶ国、遠くは南アフリカの方であったりとか、いろんな方に買っていただいて……。色々と実験するなかで、電気の問題が出てきました。

上に載せる植物は規定の重さであれば2センチ浮きます。Kickstarterでは、その内容で記載したのですが、こればかりは、実際に国ごとでに浮かせてみないとわからないことも多くて。そこが不安視しているところですね。浮かないと話にならないものですから。

笠井:その辺、ソニーさんとかって世界中に商品を売られていると思うんですが、南アフリカとかも行ってたりするんですか?

藤田:行ってます。アフリカも。

笠井:そういった知見はぜひ知りたいところですね。

:最終製品として、どこでつくるかという基準があまりわかっていないものですから。なにを持ってテストしていくかというところ、そういう部分の知見も不足しているんじゃないかなという部分は、今の僕らの課題だと思っています。

笠井:ありがとうございます。僕もすごい欲しいので、8月ぜひ無事に届くと(笑)。

:がんばります。

品質の保証基準をいかに担保するか

笠井:改めて次に藤田さんのところのAROMASTICは、今どんな感じの状況ですか?

藤田:海外展開の点では、我々の場合はまずは国内と考えています。もちろん海外展開も視野に入れていますが、まさに今おっしゃったように、レギュレーションとかの確認に時間を要すると思っています。例えばリチウムイオン電池1つとっても、各国や地域の基準を確認しなければなりません。

ソフトウェアの場合も、たぶんセキュリティの基準の確認が必要になります。例えば、アップルストアに載せようと思ったら、やらないといけないことがいろいろあるかと思います。ハードウェアになると、例えば材料1つとっても「じゃあ、この材料は家庭に置くんだったら、アルデヒドとか出ませんよね?」というアウトガスみたいな問題などから始まって、環境や健康の安全に対して確認することがいっぱい出てくるため社内の知見を集めて一つひとつ解決していっています。

クラウドファンディングに出すことで起こる問題も

我々もクラウドファンディングをやったんですけれど、もの作り的なところで1つ難しいなと思ったのが、開発段階で事業アイディアを世の中に問うわけですが、クラウドファンディングでサクセスした以上、約束した製品をきちんとお客様に届けないといけないという責任が出てくると。そこでなにが起きるかというと、結局のところ、ものを作るための材料を調達しないといけないんですけれど、その調達交渉のときに、不利になる場合もあるんですよね。「作って届けないといけない」というのが、クラウドファンディングの場合オープンになっているので。

かと言って、ハードウェアで、リーンに、簡単に変更するというのはすごく大掛かりになるケースもあるので、そこら辺は非プロトタイプの先の段階になってもどこの部分でフレキシブルさを担保できるかということを、最初に想定しながら設計できると非常にいいのかなと思うんですけれど。

笠井:それすごいおもしろいなと思うのが、今のお話ってクラウドファインティングに出すと、「いついつに出荷します」というお約束をしている状態で。それをしかもソニーさんが出すと言ってるっていうことは、絶対に出すんだ、と。そういう状態での交渉だと部品屋さんから「出すんでしょ? いるんでしょ?」みたいになるってことですよね。

藤田:現実問題として、そういうことが起きる場合もありますね。

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