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ドローンの安全な利活用から始まる、産業イノベーション(全2記事)

2015年、ドローン関連法の整備が急激に進んだ背景で何があったのか

昨今、急速に普及しているドローン。新しい産業として大きく成長していく展開が期待される一方、墜落や危険飛行による事故なども心配されています。その中で、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は「無人航空機の安全に関する指針」を発表し、操縦者や安全運航管理者の養成スクールを認定しています。デジタルハリウッドは、国内初の認定スクールとなり、JUIDAとともにドローンの安全運行管理者の養成を開始しました。ドローンの安全運行管理の重要性を考えるにあたって、JUIDAの事務局長の熊田知之氏と、副理事長の千田泰弘氏が、最新のドローン産業の動向について、解説しました。

首相官邸に落ちたドローンが影響

高橋伸太郎氏(以下、高橋):本日は、近未来教育フォーラムにご来場いただきまして、ありがとうございます。このセッションのモデレーター役を務めさせていただきます、デジタルハリウッドロボティクスアカデミー主席研究員の高橋伸太郎です。これから40分間、よろしくお願いいたします。

(拍手)

本日のセッションですが、タイトルが「ドローンの安全な利活用から始まる、 産業イノベーション」となっています。ゲストパネリストとして、日本UAS産業振興協議会、通称JUIDAの千田副理事長、そして熊田事務局長をお迎えしました。

ここから一連の流れに関してですが、今日の主なトピックは3つあります。1つ目は、2015年の無人航空機産業の動向に関すること。2つ目は、安全運航ガイドラインの必要性。そして3つ目は、なぜ安全教育が必要なのか。というかたちで進めていきます。

今回、なぜこのタイトルになって、なぜこのような構成で進んでいくかというと、デジタルハリウッドがドローン教育を始めたかというところにも、深く関係してきます。私自身、杉山(知之・デジタルハリウッド大学)学長とも数年前から無人航空機の可能性については様々な議論をしてきましたが、もし何か大きな事件や事故があったときに、一気にそれに対してネガティブな論調になるんじゃないか、規制を強化する声が強くなるんじゃないか、ということを危惧していました。

今年度から本格的に教育プログラムや研究プログラムをやろうとした矢先に、首相官邸の事件が残念ながら起きてしまいました(注:2015年4月22日に総理大臣官邸屋上でドローンが発見された事件のこと)。

その後、教育活動や研究活動についてどうしたらいいのかということは学内でも議論があり、JUIDAの千田副理事長、熊田事務局長と継続的に議論させていただいた上で、7月に飛行機イベントとして、公開シンポジウムを開催し、そのときに、キーノートとして、JUIDAの理事長である東京大学の鈴木(真二)先生をお迎えしました。

そして11月からJUIDAの認定スクールというかたちで、ドローン運用ベーシックコースを始めて、今に至っているようなかたちです。

その上で、今日、これからの議論としては、ここからは千田副理事長と熊田事務局長とお話ししながら進めていくことになりますけれども。最初にJUIDAについて少しご紹介していただいてから議論に入ったほうがいいですかね。

日本のドローン産業を盛りたてるJUIDA

熊田知之氏(以下、熊田):皆さん、こんにちは。事務局長をしております熊田でございます。JUIDAの話は、一番最後にしようと思っています。あまり宣伝色になってもいけないと思いまして(笑)。

実は、JUIDAは昨年7月31日に発足いたしまして、まだ1年半ぐらいしか経ってないんです。なぜこれが作られたかというと、皆さんご存知のように、後ほどいろいろお話が出てきますけれども、アメリカにおいては、Google、Facebook、Amazon、非常に大きな構想のドローンビジネスを立ち上げ、ヨーロッパにおいてもそうですけど、続々と新しいベンチャーが生まれています。

そして中国では、まさに世界市場の7割を席巻するDJIという企業が生まれてきている。これも、わずか7年ぐらいで、昨年の売り上げが500億(円)から、今年は1000億(円)になるような、とんでもない急成長をしている。

そういう中で、国際民間航空機関(ICAO)という国連の機関ですけれども、そのICAOでも、将来性が非常に大きいことと、市場規模も大変なものになっていくであろうという見通しを持っている。そういう中で、日本だけが1人ぽつんと寂しくおとなしくしているっていう状況が、ここのところ、ずっとあったわけですね。

これではいかんと。日本に何とか産業を振興しなければ、このドローン産業を盛り立てなければいけないという旗振り役として、我々は発足したわけです。

それは、単にメーカーの利益団体とか、1ユーザーの集まりとか、そういうものではありません。ドローンに関しましては、産業の裾野が広いです。あらゆる産業に目配りをし、かつ研究開発をする大学とか、自治体とか、あるいは国の機関にもお入りいただいて、とにかくオールジャパンで少し元気を取り戻そうということで発足しております。

我々も粛々とやっていくつもりだったんですけれども、にわかに急膨張してしまいまして、今、ほぼ毎日のように入会が来ている状況で、しかも、その内容は様々です。

敷居を低くするために個人会員の制度も設けまして、学生さんでも入ってこられるような仕組みを作っているということです。詳細は後ほどいろいろお話しします。出だしはこういうことでございました。

2015年はドローン元年

高橋:ありがとうございます。今、熊田事務局長からJUIDAの設立経緯であるとか、今の活動展開についてお話しいただきましたけど、ここで千田さんにお伺いしたいのが、今年、2015年は首相官邸の事件があって、様々な出来事がありましたけども、この1年間の中で主に注目すること、年末が近づいてきましたので、どのように振り返られますでしょうか。

千田泰弘氏(以下、千田):今年のハイライトは12月10日、航空法が改正されまして、小型無人航空機が、日本の空を自由に安心して飛べるようになった。これは非常に大きいことでございます。

今年のお話をする前に、実は、今年はドローンという言葉が生まれて、ちょうど80年になります。ドローンは、最近生まれた言葉ではないんですね。ドローンが生まれて80年になります。それからここにある、空の産業イノベーション、あるいは空の産業革命という言葉が生まれてから約10年目にあたります。

この間に何が起こっているかと言いますと、2004年から本格的に始まったと私は認識しておりまして、2004年以降、特許の出願数は毎年1.5倍、今日でもその率は変わっておりません。

それから、新規にドローンを製造される方。この数も日本を除いて、海外では1.5倍。それから使われる方、団体の数、これも1.5倍で伸びているんですね。

日本は12月に法律ができまして、安心して飛べるようになりますと、やや遅れていますけれども、これ以上の伸びがあるんではないかと思っています。

ちょうど、この伸びは、皆さんご経験があるかと思いますが、インターネットが1990年の当初に、初めて民間で使えるようになったときと同じ状況でございます。インターネットのスピードで今、動いています。

ということは、来年の今日の様子が今は想像できない。まして2年後には、すっかりプレイヤーも何も全部変わっているのがこの世界だと、私は見ています。それぐらい大きな変化が起こる年でございまして、日本は今年、ドローン元年ですね。そういうふうに見ています。

高橋:ありがとうございます。今、千田副理事長から、インターネット黎明期というお話がありましたけれども、私自身デジタルハリウッドロボティクスアカデミーとしても、今年はパソコン産業でいう1995年なのではないかと考えています。

1995年が何だったかというと、Windows95であったり、日本においてインターネットが商用化されてから数年だったり、パソコンやインターネットが社会に溶け込んでいく過渡期だったと思うんです。

そういった過渡期の始まりの段階が、無人航空機産業においても起きているのではないかと考えております。

その上で、熊田事務局長におうかがいしたいのが、先ほどJUIDAの設立経緯であったり、活動展開のお話をしていただきましたけれども、2015年中心にフォーカスした場合、今年印象的だった出来事であったりとか、今後の可能性を感じる出来事として、どういったことがありましたでしょうか?

法整備されて大きな市場となる日本のドローン

熊田:それは先ほど千田副理事長からお話がありましたけれども、航空法が改正されて、無人航空機が、いわゆる航空法の中できちんと定義されたことが、すごく大きなことなんですね。画期的なことです。

今まで「無人航空機」とか「ドローン」とか様々な呼び方をしていますけれども、まったく法的には根拠がなかったんですね。せいぜい、ひと言「模型飛行機」というのが(航空法)施行規則の中に花火と同じような扱いで出てきているようなレベルだったのが、きちっと航空法の中で定義されたということが、すごく大きいことです。

何が起こるかというと、実は海外がものすごく注目しています。今お話がありましたように、日本が相当遅れていたんです。世界の2周遅れぐらいだったんですけれども。この法整備ができたことによって、まだ十分ではないですが、一躍、世界のトップランナーのグループに躍り出たと、私は言えると思っています。

今、何が起こっているかというと、JUIDAにも海外からのアプローチがものすごく多いです。アメリカから、あるいはヨーロッパ各国から、さらには韓国とか、そういうところから続々とこちらのほうにアプローチが来ている。

それはなぜかというと、日本は法整備がされた。じゃあ、ここは大きな市場が生まれるという期待があるわけですね。これは画期的なことだと思います。

官邸ドローン事件で進展したドローン法整備

熊田:その航空法が生まれる過程を、ご紹介しておきます。

実は、先ほど申し上げたように航空法でまったく定義がされていないので、まさに模型飛行機、しかも花火と同じ扱いのものを、どうやって我々は扱ったらいいだろうと。産業を発展させるためには、きちっと健全なルールを作らないといけないよねっていう話が内部でありまして。それこそ、お正月が明けた1月早々、5日ぐらいですか、何名かが昨年から練っていて、国土交通省さんとか、経済産業省さん、それから総務省さん、非公式に個別に呼び出しまして。

実はこういう問題があるけれども、国としてはどうかという話をしたんですね。やっぱり、国としては法律を改正するなんていうのは(簡単ではない)。アメリカでも、本当は今年の9月に改正する予定だったのが、遅れに遅れてようやく11月25日、昨日1つの運用方針が出ましたけども。それでも、法改正に至るまでは、来年までかかるだろうと。

おそらく、日本はそれからさらに2、3年、ひょっとしたら10年くらい遅れるんじゃないかというのが、我々の危惧であったんですね。国とお話をすると、だいたいそんな認識だったんです。

それで、焦ってすぐにはできないだろうと思っていたところ、皆さんご存知のように、4.22事件という首相官邸でドローンが発見される事件がきっかけになって、上から強力なプッシュがあって。

このときに、関係府省庁連絡会が何回か持たれまして、そこでいくつか答申が出たんです。それを受けたかたちで、1つは議員立法ができたんですよ。要するに、国会とか皇居とか、重要施設の上空は飛ばしてはいかんと。罰金をつけるようなことが出てきまして。

これはこれで当たり前のことだよねということだったんですけれども、残念ながら衆議院は通過したのですが、参議院は安保法案の関係で間に合わなかったと。

JUIDAが大きな役割を果たした改正航空法

熊田:ところが航空法に関しては、我々がおそらく遅れる前提で、安全ガイドラインをJUIDAで作りまして。これはうちのホームページを見ていただければわかりますが、その中に出てきます。そこでルールを作って、それは国ともいろいろ調整してやったんですけれども、それが出るか出ないかのうちに、航空法が実はできちゃったんですね。改正航空法が。

それで、ほぼ我々のルールがそのまま法律になったような感じを持っていまして。一番重要なポイントは何かというと、アメリカのようにホビーと商用とを分けなかったこと。アメリカの議論で紛糾しているのは、商用とホビーを分けてしまったところに最大の問題がありまして、この定義論争が延々と続いています。

それが今回、国交省のほうも我々もそういう認識だったんですけれども、それを分けるべきではないということで成立されているということかなと思います。

この大きな2つのポイントですかね。

みなさんはあまりドローンに関係ないでしょうが、実は産業分野での振興っていうのがものすごい勢いで進んでいます。

新聞は結構「ダメだダメだ」とネガティブな情報を取り上げていますが、実は水面下でものすごい勢いで産業分野での利用が広がってきていることは、皆さんの想像以上だと思います。

それなりの研究開発、あるいは製品化商品化っていうのも進んでいる状況でございますので、おそらく今年はそういう意味で、先ほどお話がありましたとおり、ドローン元年と言っても過言ではないと思っています。

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