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サイレント・マイノリティ(全2記事)

2015.12.22

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「ユーザーをわかったつもり症候群」からどう抜け出すか 勝つサービスを作るために必要なこと

提供:株式会社リクルートテクノロジーズ

11月、福岡で開催された「UX Japan Forum」に、リクルートテクノロジーズのUX デザイナー坂田一倫氏が登壇。「サイレント・マイノリティ」と題して、サービス改善のためには、ユーザーの声に耳を傾けること以上に、「声なき声」を見つけ出すことが大事であるということを話しました。では、その声なき声を探すためには、どうすればいいのか。5つのステップについて解説されています。

鞄の中身にその人の人となりが出る

3つ目のステップ、いよいよインタビューに入っていきます。よく聞くことは基本的な姿勢ですが、オープンな質問、つまり「イエス」か「ノー」、「はい」か「いいえ」で答えられるものではなく、そのユーザーの意見を促すような質問が望ましいです。

イメージとしては60分インタビューするとすれば、最初は広く浅く質問していきます。そこからさっきのステップ2でやったみたいに「初期仮説分析」、サービスのどのステージにフィットするユーザー層なのかを把握し、どのようなインタビューにしていくかを見極めます。そこから深く狭くなっていくようなイメージです。

あとはユーザーとの信頼関係を構築し、ギャップに注意するということ。

ギャップとは何か、をこの次にご紹介したいと思います。例えばこのような人にインタビューしたとします。

実際にインタビューしても、表面的な内容、ニーズしかわからないことが多いです。その人の性格や人となりがわかるものは何か。携帯や鞄の中身を見ることをお勧めします。

例えばこの方の場合、鞄の中身を見せてもらいました。『目標達成の技術』の本を持っていて、意識がとても高いんですね。あと、ホッカイロを持っているのは寒がりなのかなとか、ノートがたくさん見られるのでマメに絵を描いたりメモするのかなとか。

写真では切れちゃっていますけど、意外だったのは、のど飴的なもの、のどを大切にする薬を持ってて、「これ何?」と聞いてみました。そしたら「私、声優目指してるんです」と。それは通常のインタビューからはあまり見えてこない回答です。

このような取り組みから質問の幅は更に広がります。「何で声優になりたいの?」というきっかけから話が広がっていく。まさにギャップです。声なき声に耳を傾けると、実はその人の本当のニーズだったり、抱えてる課題だったり、欲してるニーズ、優先度の高いものは何かということが見えてきます。

携帯もそうですね。もしかしたら浅野先生の携帯開けたら壁紙がディズニーとか。「えっ?」みたいな。

(会場笑)

違いますよ。実際は違うんですけれど、とはいえ、ギャップを見極めることで真実へと近づきやすくなるじゃないですか。「ディズニーお好きなんですか?」とか。

このような取り組みは信頼関係を築くためには大事ですし、もしかしたら声からは見えてこないような、その人のニーズが見えてくるかもしれない。こんなことを実際にやっていたりします。

想像するだけではなく、実際に体験してみよう

4つ目のステップですが、聞くだけでは駄目だということです。実際に自分で体験しよう、五感を開放しよう、というのがステップ4です。

その方法としては、視点をまず変えてみる、自身にハンディキャップを与える、DIYは自分でやってみる、アナログな体験をする。諸々あります。

例えば先ほどより僕は IDEO Uで駅の改札を題材に取り組んだとお話しました。その対象は高齢者の方がほとんどだったんです。高齢者の方って視界が狭いということが大体わかってきて、その大変さを知るためにはどうすればいいのか。

グリースをメガネに塗ってかけて歩いてみたり。昔ユニバーサルデザインの勉強をしたことがあって、そのときはマタニティの体を体験するために、3キロぐらいの錘を付けてみたり。

膝が曲らないように、スポーツで使うサポーターを付けて歩いてみるとか。このように実際に自らが体験することで、これまで見えてこなかった世界が見えてきたりするんですね。

実際にやってみることが大事だと思います。あの人はなぜこんなことを言ったのか、体験してみることによって自然とその背景が理解できたりします。なので実際に体験するって大事なんですね。

パターンを見極めてストーリーを作れ

5つ目のステップは、個々人で何名ものユーザーに対してインタビューをした際に個票データを収集し、統合と分散を繰り返していくという流れです。

つまりパターンを見るということです。そのなかで、なぜそのようなパターンにまとまったのか、自分の洞察を加えて、その視点を展開すると。それがストーリーテリングと呼ばれている手法です。

例えばこれは僕が実際に提出したビデオなんですが駅の改札の前に張って撮影をしました。あんまり長く撮影して怪しい人に思われると困るので手短にしたのですが、実際に複数のデータを収集し、先ほどのような発言の裏にある行動がどのように表に出てるのかを分析します。

先ほどの話で、まず観察をします。何人といるか、誰といるか、友達かなとか。あ、視線を動かした。地図を見て隣の人に声かけようとしてるのかな、とか。頭をくしゃくしゃしたりする仕草を見ると癖として理解し、この人は多分むしゃくしゃしてるのかなとか。そういったことがわかるんです。

実際にこのように事情の背景に自身の洞察を加えます。つまり、ユーザーが求めているのはこういうことではないかと。IDEO Uでは実際にストーリー形式に変換し提出しました。

3分クッキングから学べること

このストーリーにまとめるということは非常に大事なポイントです。目的としては下にあるモチベーションを与えよということでもあるんですけど。皆さんも経験があるような、身近な例でご紹介します。

「キューピーの3分クッキング」があると思うんですけれど、料理が作られていく様子ってずっと見ていると、食べたくなりませんか?

料理されているプロセスをずっと見ていると、でき上がりが楽しみになりませんか? どういう料理、どんな味なのかと思うがあまりに、食べたい気持ちになる。

そのようにインタビューや、データを展開する際にも同じようなことが言えます。実際に先ほどのステップ1から5までをストーリーとして見せると、ステークホルダーやほかの人も関心を持ってくれて、やがて共感を生むんです。

「ユーザーってこういう行動してるんだ」とか「こういうところが困ってるんだね」「結果どうなったのかな」と、関心を持つんです。なぜ、がわかる。僕も詳しく知りたいな。ちょっと調べてみよう。このように周囲を動かすドライバーとして前に進む力をストーリーは持っており、一連の流れを、プロセスを見せることは大事です。

「これがユーザーの声です」という結論だけではなく、その声の裏にあるものは何なのかという補足がないと、読み解く力も読み解く人の才能に左右されてしまうんです。そこが結構カギかなと思っています。

あなたはユーザーのことをどこまで知っているのか

そろそろまとめに入りたいと思いますが、1つだけ質問させてください。

「最後にユーザーに会ったのはいつですか?」

結構ドキッとする人がいるのではないでしょうか。自社サービスをやってる人は特に。我々は、ユーザーに対して価値を提供している身だと思うんですけれど、そのユーザーに会ったのはいつですか? ユーザーとの距離は遠いですか? 近いですか?

これを問われると、結構ドキッとすると思います。僕は常にこれを意識しています。やっぱりユーザーをわかったつもりでいる。「ユーザーのために」と「ユーザー視点」は違うと思うんです。

ユーザーのためにと言うものの、あなたはユーザーをどこまで知っているんですか、という話になります。もちろんユーザーになりきることは不可能なので、いかにユーザーと近い状態を作り出すことができるかが大事です。

なので、ユーザーに会うということがまず第1ステップであることは間違いない。

今、僕がいるリクルートテクノロジーズという会社は、リクルートという非常に大きなグループに属しています。日々の仕事が結構忙しいので、どう社員の人とユーザーを近づけるべきかを考えたときに、やったことがあります。

30。僕が10月にインタビューしたユーザーの数です。これを今、仕組み化に向けて試行錯誤をしているんですが、月に1回ユーザーと対話する機会を半強制的に設け、アジェンダを募集するオペレーションを設計しています。

つまりどういうことかというと、「今月下旬に、これぐらいのユーザーがうちに来ます。インタビューしたい人はいますか?インタビューしたい内容を教えてください」と社員に募集をかけます。

「ちょうど新しいサービスや企画を考えているんです」とか、先ほどお話したような、「このような仮説があるので検証したい」とか結構トピックが集まるんです。いろんな思惑があるので。

集まった質問に対して、ユーザーと質問起案者のグループを複数作る設計を私たちが用意して月1で回しています。

そうすると半強制的なので、ユーザーが来る前提にはなってしまうものの、「次回はこういうトピックで聞いてみようかな」という関心が少しずつ湧いてくるんです。

僕ももちろんそこに入ってインタビューをしています。

情報を蓄積しアップデートせよ

もう1つの目的として「カスタマージャーニーマップを基軸とした定期モニタリングを実施」とスライドに書きました。ユーザーインタビュー時に、もちろんサービスを体験として捉える話なので、ユーザーに実際に感情曲線を描いてもらうことをやってもらったりします。インタビューの最初の10分くらいをかけて、主要な出来事を書き出してもらう。

それに対してインタビューをします。ユーザーが書いたシートをデジタル化して、ジャーニーマップとして型化していきます。

事例は出せないんですが、例えばこういうものです。マックに行く体験を書きだしたものです。

フォーマットは設けずに、実質ゼロから全部作ります。例えばこういう課題がありました。ファクトがこれです。多分影響因子はこれです。このような粒感で1枚にまとめます。セグメントごとに作ります。

ジャーニーマップはどのような目的で作るか。いくつかあると思うんですが、「現状のサービスを知るため。そこから課題を抽出し、問題の再発防止に努めて施策を出す」ということが目的であるものの、1回それをやると、以降使われなくなることが多いんです。それが僕は、嫌だなと思っていて。

せっかくまとめたものなので、常にアップデートしていくべきだということで、さきほど紹介した会を利用して、ジャーニーマップをアップデートする、モニタリングする仕組みも今進めようとしています。

例えば、インタビューの際にジャーニーマップに記載の内容を参考に「いまはこの利用ステージにいるはずだ」という仮説を僕は持っているわけです。

そして事実を確認します。もし、そこで行動上のズレが発生したら、そのズレは何なのかということを明確にし、ジャーニーマップをアップデートするという流れです。

なぜやるのかというと、お客さんのニーズや感情曲線は多様化していて、日々変化しているものなので、我々もそれについていかなければならない、把握しなければならないからです。

このようなスキームを今、実際にモニタリングする基盤として検討しています。

なので、後ほどジャーニーマップの詳細な説明があると思うんですけれど、実際このような活用方法もあるよということで、ご参考にしていただければと思っています。

わかったつもりからの脱却はできたのか

まとめに入ります。今回のユーザーの声なき声を聞くということの目的と、そこからどんな結果が得られるのかについて。

まず、目的は先ほどもお話しした通り、「ユーザーをわかったつもり症候群」からの脱却です。わかったつもりでいることが一番危険だ、と。そこをまず脱却したいと。

次に、初期仮説の進化を促すため。仮説はいくらでもあります。日々、会議室で会議をしたり、ミーティングをしているなかでも「多分お客さんってこういう人じゃないの?」とか「多分こういうこと困ってるよね」と。サービスに携わっていると、ある程度は仮説がありますよね。感覚的にでも持っている。だからこそ、それをその場に留めずに進化させる、させたい、事実に近づけたいということがありました。

あと、視点を変えるっていうことです。やはりサービスに携わっていると、いろいろな職種の方がいます。サービスに携わっている方は多種多様です。そうなってくるともちろんユーザーを捉える目線も違うわけですよね。

僕が見るユーザーと、あなたが見るユーザーは違うかもしれない。それをまず実際に、自分もそういう立場に変えてみて、最後は「洞察 × n」の学びを蓄積していくと。その分の学びが得られる。それを統合し、効率的な学習を促すことが目的としてありました。

結果どうなったのか。やはり関心を通じて表立った表面的な課題を疑うことで、行動の背景になる影響因子を抽出することができました。

なぜユーザーがそのような行動に移ったのかという背景がわかると、「次にこういう課題にぶつかりそうだね」とか、「多分これが課題になっているんじゃないかな」と、前後の因子を見ることによって真の課題を特定することができます。ユーザーへの理解をより強めることによって、影響因子を抽出しやすい環境をつくるということです。

あとはユーザーへの共感が組織的に強化される。つまり、「あのユーザーのことだよね。あのユーザーってこういうことを言ってなかった?」とか、先ほどの関心の話に非常に近いと思うんですけども。みんなが同じ関心を、同じユーザーに持つことによって、共感度合いが統一されて、会話がすごくスムーズになりました。

そしてセグメントごとに人格を割り当てて、理解を促進する。セグメントは定量的な情報になりがちです。セグメントA、B、C、D、Eとかになってくると、「セグメントBとCの違いは何だっけ?」という具合に。そのために、人格を割り当てます。人格っていうのはペルソナですね。人格を割り当てて、あくまでもそのユーザーが実在しているかのようなかたちを作り出すことによって理解を促進する。

最終的にこのようなことが結果として得られ、メンバー間の会話が非常にスムーズになり、かつ何のための施策なのか、どういうところを目指してレベルを上げていきたいのか、非常に会話しやすくなりました。

なので、皆さんもすでにやられている方もいらっしゃれば、こういう課題に直面している方もいらっしゃると思うので、参考までにこういう結果が得られるとイメージを持っていただければうれしいです。

一過性の施策に終わらせないために

最後に、3つのことをお話ししました。

まず1つは、ユーザーの声を聞くということは、当たり前かもしれませんが、それはサービスの改善に繋がる大事なファクトであることに変わりはありません。これが前提としてあります。

ただ冒頭お話しさせていただいた通り、「声のみに耳を傾けていては、本質的なニーズの抽出が困難です」というのが問題提起としてありました。根本的な解決には至らずに、部分的なものになってしまう。一過性のものにしかならないということです。

なので、問題は再発し、そのたびに同じようなことを繰り返しやってしまう。これは非常に効率が悪いということが背景としてあると。

そのような状態から脱却するためには、今日お話しさせていただいたように、ユーザーの「声なき声」にこそ価値があるということを持ち帰っていただければと思います。

僕が思うのは、ユーザーの声は確かに大切なんですけど、声なき声にこそ価値があると思っているので、それを少数派として認識するのではなく、声なき声を大事にしようとする組織こそ勝つと思ってます。

これらはスタートアップ界隈でもよく言われています。彼らは、非常にユーザーとの距離が近いんです。彼らは「未開拓なマーケットを開拓しに行こう」と、イノベーションを起こすことを必死でやっていて、非常にこういったことにシビアなので。以上のことを大切にしてるサービスやスタートアップが事実伸びていると僕は思ってます。

ユーザー理解が勝負を決める

今日一番伝えたかったこと。これだけ持ち帰っていただければと思います。

「UXにおける競合優位性は、同じ業界の誰よりもユーザーのことを理解できているかで決まる」。

これは先ほどの「ユーザーに会ったのはいつですか?」という質問の延長なんですけど、やっぱり自分自身がほかの業界とかほかの会社の誰よりもユーザーのことを理解していないと、サービスへの価値反映は難しいと思っていますし、かつそれが組織レベルで行えてないと競合優位性が図れないと思っています。

なので、いかにUXの進化を促すかとか、検討を進めるかっていうところはイコール、どれほどユーザーのことを理解しているかということだというのを、常に問いてほしいと思っています。自分自身のユーザー理解度はどれぐらいかをぜひ自問していただいて、それに対してできることは何か。そのための5つのステップです。

早速観察してみるとか。自分自身そのユーザーの気持ちになってみるとか。共感してみるとかあったと思います。

先日別の場所でお話しさせていただいたのですが、共感、エンパシーという言葉があります。これからも、共感が1つ、カギになってくるかなと思っています。

ユーザーへの共感はつまり、自分も多種多様な体験をしていく必要があると思うんです。

例えば新しい技術に触ってみるとか。ちょっとオフラインの生活で行けなかった道を行ってみるとか。新しいプロダクトに触ってみるとか。

自分自身がそういうアンテナを張って、五感を開放しないと、ユーザーへの共感は薄れていき、ユーザー自体に追いつかないという状態になるので。結局UXデザインで提供する施策を担保するのは、ユーザー視点じゃないですか。

そのユーザー視点を担保するのは誰かというと、自分ですよね。その自分がユーザーを理解しているか、どれくらい共感しているか。結局、そこに立ち戻るのだと思います。

今日は、実際にサービスデザインの事例とかを細かくお話しできなかったんですけれど、スライドでいくつかアップしているので、ぜひ参考にしていただければと思います。

では、どうもありがとうございました。

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