前方画像センサーについて

小山内聡氏(以下、小山内):AD&ADAS技術1部の小山内です。私は、画像センサーの認識開発を担当しています。ここではADAS画像センサー認識開発、クラウド人材育成の有志活動についてお話しします。最初のパートでは、デンソーのAD&ADAS事業の紹介と、ADAS画像センサーの開発の流れを説明します。

AD&ADASという言葉は自動車業界の用語で、ADとはAutomated Drivingの略で自動運転。ADASとは、Advanced Driver Assistance Systemsの略で、先進運転支援システムのことです。

デンソーでは今、4つの注力している分野があります。電動化、コネクティッド、先進安全/自動運転、非車載事業です。私が所属するAD&ADAS事業は、先進安全/自動運転の分野で、交通事故のない安全な社会と、快適で自由な移動の実現を目指しています。

ここで、交通事故のない安全な社会を目指す、私たちの紹介映像を流させてください。

小山内:いかがでしたか? 私たちはこのような思いで開発に取り組んでいます。映像の中に出てきたのは前方画像センサーで、ADAS製品の1つです。

では具体的に、自動車の前方に取りつけたカメラ、前方画像センサーから得られる画像で認知する対象を紹介します。まず車両・障害物や歩行者、走行するスペース、テールランプやヘッドライトなどのランプ、白線や道路の境界、そして道路の交通標識などです。私の部署では、これらの対象ごとに開発チームを構成し、認知性能の向上に取り組んでいます。

前方画像センサーの認識開発

次に、前方画像センサーの認識開発をどうやっているかを説明します。まず世界各国の徹底した公道走行データを収集します。そして公道走行データ収集とは別に、テストコースで徹底した安全試験データを収集。これらの収集された公道走行データや安全試験データを使用して、性能評価テストを徹底して繰り返します。

この性能評価テストについて、概要を説明します。先ほどのスライドで説明した、公道やテストコースで収集された大量のデータは、(スライドを指して)左側にある共用ストレージ上に保管されています。そして、認識開発によって開発したアルゴリズムとその評価データを合わせて、演算ノード上で処理をして評価結果を出します。

評価結果を基にアルゴリズムを改善させ、再度評価を実施しています。この時、評価データは大量にあり処理に時間がかかるため、性能評価テストは複数の演算ノードで分散並列に処理を行います。

このプロセスは各チームで行われ、毎週・毎月といったスパンで継続的に繰り返しテストをします。そのため、効率的に短いスパンで性能評価ができるシステムの構築が重要となります。

先進安全・自動運転を実現する製品の1つである画像センサーは、高品質で高性能を確保しながら、お客さまへの納期や低コストを実現しなければなりません。

そのため、データ管理の簡素化、開発・評価プロセスの標準化、評価リソースの稼働率アップ、評価環境の初期立ち上げ自動化など、さらなる改善に向けて、新しい手法・仕組み・技術を取り入れる必要があります。私はその1つとしてクラウド活用を考えており、そのために、クラウド技術を知る人材確保が重要と思っています。

以上が、ADAS画像センサー認識開発についての紹介でした。次のパートでは、先ほどのクラウド技術を知る人材、つまりクラウド人材の育成の有志活動についてお話しします。

クラウド人材の育成の有志活動

最初に、有志活動を始めたきっかけをお話しします。3年ほど前、AD&ADAS事業部内のAI社内勉強会の一環で、AWSが主催する「AWS Summit Tokyo」に参加し、自動運転ラジコン(のレース大会)である「Deep Racer」に出場しました。

ここで、バーチャルで学習したモデルを実機にデプロイして、実際に走行しました。残念ながら入賞はできませんでしたが、自分が作成したモデルが実際に走る喜びを実感しました。その感動を、デンソーのみんなにも体験してもらいたいと強く思いました。

そこで、一緒にAI勉強会に参加していた仲間や協力者を集い、役員や関連部署に想いを伝えました。AWS Summitで実感した感動だけではなく、自動車とクラウドの両方がわかるエンジニアが育つことで、CASE(Connected、Autonomous、Shared & Service、Electric)時代に輝ける人材が社内から生まれることを伝え、協力を得られました。

そして、業界初となるAWS Deep Racer社内大会を実現しました。その時の社内大会の様子をご覧ください。

デンソー公式Facebookにて動画を公開

小山内:こちらは業務外で、モデルの作成にかかる費用も自費となるイベントでしたが、技術者だけではなく、事務も参加して、大変盛り上がりました。

この経験から、社内にもクラウドやAIに興味を持っている人がたくさんいることがわかりました。(スライドを指して)今表示されているものが、有志で考えている、クラウド人材育成のロードマップになります。

2019年に先ほどのDeep Racer社内大会を始め、2020年度には完全オンラインでの、デンソークラウドコンテストを開催しました。コロナ禍で参加者が集まるか不安でしたが、蓋を開けると200人以上の応募があり、うれしい悲鳴を上げました。

こちらもデンソーの役員やグループ会社の役員が参加するなど、役職に関係なく大変盛り上がる大会となりました。

自動車エンジニアがクラウド技術を学ぶことで、CASE時代に輝ける人材は社内にいる。この思いを胸に、現在も次の社内イベントを企画しています。

この活動をとおして、「熱い想いがあれば、協力者がどんどん増えてくる。そうした風土がデンソーにある」と私は感じています。

以上、ご清聴ありがとうございました。

技能五輪について

司会者:小山内さん、ありがとうございました。それでは続いて濵﨑さん、お願いします。

濵﨑智宏氏(以下、濵﨑):コアスキル開発部、卓越技能修練室の濵﨑です。よろしくお願いします。私からは、技能者育成の一環として行っている技能五輪の取り組みについての紹介と、私の体験談と有志活動についてお話しします。よろしくお願いします。

まずは技能五輪について紹介します。技能五輪、もしくはWorldSkillsを知っていますか? 認知度は低いですが、非常に盛大なイベントになっています。

日本全国の若き技能者が技能を競う競技大会です。目的は技能の重要性、必要性、可能性をアピールし、技能尊重機運の醸成を図ります。

偶数年度の大会は、翌年に開催される技能五輪国際大会の選考会を兼ねています。競技職種は全部で42職種。機械系、金属系、建設・建築系、情報通信系、サービス・ファッション系など、さまざまな職種があります。

ダイジェスト映像ではすごく迫力がある競技風景を見られるので、興味がある方はぜひご覧ください。

そして技能五輪国際大会、WorldSkillsを紹介します。大会の目的は、参加各国における職業訓練の振興と青年技能者の国際交流、親善を図ることにあります。

過去の実績についてです。2020年に開催された技能五輪全国大会では、デンソーからは11職種、27名の選手が参加し、金4個、銀9個、銅1個を獲得しました。技能五輪全国大会には、高校、専門学校、大学からの選手の参加もしますが、デンソーのような企業からはさまざまな職種に多くの選手が参加します。

国際大会では、中国、ロシアの成長が著しく、日本が金メダルを獲得することが難しくなってきています。

WorldSkills Kazanでの経験

WorldSkills Kazanでの経験について。私は技能職として入社後、デンソー工業学園の高専課程で1年間研修を受けた後に選抜試験を受け、技能五輪選手になりました。そこから技能五輪全国大会、国際大会に出場しました。現在は後輩の指導をしています。

もともと全国大会へは電子機器組立て職種の選手として参加し、電子回路設計や組み込み系プログラミングを学んでいました。

第45回国際大会からはAWSの提案により、クラウドコンピューティング職種が発足しました。

日本代表選手募集の公示があった時には、日本国内にはまったく情報がない、初開催となる競技への参加希望者が集まらない中、自ら志願し、弊社の将来のクラウドエンジニア育成につなげる施策として、参加させてもらえることになりました。

この時、すでに大会まで8ヶ月しかない中、初めはどんな競技課題が出題されるかもわからず、とにかく競技の基礎技術を獲得するため、有償のトレーニングを受けに何度も東京、大阪、名古屋を訪れました。また海外訓練では、アイルランド、オーストラリア、インドに行き、次第に協議のポイントを理解し、要素ごとにレベルアップできました。

あっという間に大会に参加するためのプログラムに入れました。現地へ出発する前は公式行事として、皇嗣同妃両殿下ご接見、首相官邸表敬訪問などが行われました。

現地ではエクスカーショと歓迎レセプションで市街をバスで回り、世界遺産であるグレムリンの散策。地域の子どもたちへの職業振興を目的とした1校1国サポートプログラムでは、学校を訪れ、伝統遊戯、工芸体験をさせてもらいました。

バタバタとワクワクと緊張が混ざってソワソワしていましたが、気を引き締めて4日間の競技に臨みました。競技課題は、海外合同訓練でも経験していた「AWS GameDay」と、初体験の「AWS Security Jam」が出題されました。この2つの競技課題は、ゲームのように楽しみながらスキルを評価できます。

結果として、自力が及ばないところもあって、AWS Security Jamでは平均的な得点率でしたが、想定・対策をしていたAWS GameDayではトップの得点率を取ることができ、3位・銅メダル獲得を果たせました。

クラウド技術はもちろん、複数回の海外訓練をつうじて、いろいろな国の選手とのコミュニケーションや大会までの訓練での課題形成、課題解決のサイクルで、たくさんの経験を得られました。挑戦を支援してくださった方に、本当に感謝しています。

WorldSkillsに向けた訓練

WorldSkillsに向けた訓練について紹介します。大会後、私の次のミッションは、2022年に開催される上海大会に向けて後輩を育成し、金メダルを獲得することです。

他国では第45回のカザン大会への選手選考会が開催されている状況で、すでに日本よりも一歩も二歩も進んでいます。そんな中、チームデンソーとして、金メダル獲得を目指したチャレンジをしています。

他国に追いつき追い越すために、自分自身の経験を圧縮し、後輩に伝承できるように、育成の方針を検討しました。複雑になり過ぎないよう、シンプルに3つのテーマを策定して、現在進めています。

選手自身が実装できるように、また技術の成長が速い分野ですが、訓練進捗を定量的に測れるように、社内での相乗効果が得られるように考え“ワクワク大作戦”と称して、進めています。

デンソー社内のクラウドコンテスト

続いて、クラウドコンテストについてです。そもそも私が有志活動に参加することになったきっかけは、訓練を開始した当初、支援者を求めてAWSというキーワードをヒントに追いかけた先、たどり着いたのがDeep Racerを企画されていた社内の技術会でした。

その方々の助けもあり、悲願のメダル獲得を果たせたので、その恩返しをしたい思いがありました。

また社内の仲間にも、楽しく学べるクラウドのイベントを経験してもらいたいと思っていました。第1回クラウドコンテストは、社内でのクラウドへの注目度が高まっていたこともあり、AWSからAWS検定をデリバリーしてもらい、開催を実現できました。

第2回クラウドコンテストでは、クラウド人材のロードマップの目指す姿の実現に近づくために、コンテストの課題環境の内製化に挑戦しています。

私自身、社内の有志活動に参加すること自体初めてでしたが、こんなにも多くの人が学習意欲を持って、自ら能動的にスキルアップを図っていることに驚きました。

最後に、私はこれまでの経験から、On-JT(On-The-Job Training)でもOff-JT(Off-The-Job Training)でも、自ら進んで挑戦することで、スキルアップをするチャンスがあると感じています。これからも私は有志活動に参加する側、また勉強する側、どちらの立場からも、その挑戦する風土に少しでも貢献できるように活動していきたいと思っています。

以上です。ありがとうございました。