起業か、社内で新規事業か--それぞれのメリットとは? リクルートの場合

塩見直輔氏インタビュー #1/2

塩見直輔氏インタビュー
に開催

独立する人が目立つ印象のリクルートだが、実際に起業前の修行先として選ぶ人も多いそうだ。リクルートライフスタイル執行役員の塩見直輔氏も「3年で辞めて起業しよう」と考えて、8年前に転職してきた1人だ。ただ、結局はリクルート社内で新規事業を立ち上げるというかたちで残った。いちから起業するか、それとも社内で事業を立ち上げるかーー。迷ったときにどんなことを検討したのか、かつては辞める気満々だったという塩見さんに語ってもらった。

提供:リクルートライフスタイル

ウェブの修行をしにリクルートへ

——塩見さんはもともと出版社で雑誌の編集者をやられていたんですね。

塩見:はい、3年半やって2007年にリクルートに転職しました。もともとちゃんと就職活動をしていなくて。マガジンハウスに憧れていたんですけど、僕の新卒の年には募集をしていなかった。「じゃあ、来年を待つか」ぐらいのゆるい学生だったんですが、ふらふらしてたら別の出版社に拾ってもらって入社しました。それがIT系の出版社でした。

インターネットやITの話題を取り扱ってる中で、自分でメディアを作るなら、これからはウェブが面白いだろうなあと思うようになりました。

それで「ウェブの修業」をしに行こうと。編集とかライティングっていうのは、仕事でもやっていましたし、学生時代からフリーライターをやったりとか、フリーエディターをやっていたりしてたので、ウェブサービスの運営に関して学べる会社として選んだのがリクルートでした。

——修業というのは具体的に、どういうことなんですか。

塩見:自分でサイトを作って個人サイトを運営するっていうのはやっていたんですけど、企業として運営して、何百万、何千万という人が利用して、そこで何十億、何百億っていうお金が動くサービスというのは個人じゃできない。

取材するだけじゃなくて、実際に中でやってみないとわからないだろうなと思って、そこをやりたかったということです。

——今でこそリクルートってテクノロジーとかウェブの会社ってイメージですけど2007年頃って今とは違いましたか。

塩見:どうだったかなあ。あまりそういう目で見ていなかったので…。もともと居た雑誌が、結構アングラな雑誌といいますか(笑) ネットのダークサイドは深く知ることができたんですけど、その逆の、品行方正に、青臭くフェアにビジネスをしていくというのがリクルートだという印象だったんです。

メディア業としてのビジネスに確固たる基盤があって、ウェブメディアとしても当時「リクナビ」とかがしっかりあったので。そういうところに行ったほうが一番足りない部分が補完できるかなと。

面接で「一番に儲かってるところに入れて欲しい」

——実際、ウェブをひと通り学ぶのに適してる会社でしたか。

塩見:時代性もあったとは思うんですけど、本当に修業がしたかったので、面接の時に「一番に儲かってるところに入れて欲しい」って言ったんですよ(笑)

やりたかったのが、何百億ってお金を稼ぐとか、何百人月で開発をするとか。何千万人を動かすみたいな規模の大きさが欲しかったので、「一番に儲かっていて、一番元気の良いところに入れてくれて」って言ったら、当時はリクナビNEXTに配属されました。

でも、まだまだ今みたいなIT化は進んでいなかったので、営業、商品開発、サービス開発の部署があって、サービス開発の部署が、システム開発から編集から運用からカスタマーサポートまでも全部をやるんで、1つの部署でウェブサービスの全部を学べるっていうのは、たまたまですけど良かったです。

——いまはどんなお仕事をされているんですか?

塩見:3つ顔がありまして、1つはリクルートライフスタイル。「じゃらん」とか「ホットペッパー」などをやっている日常消費領域を担っている会社なんですけど、そこのマーケティング担当の執行役員をやっております。

2つ目がリクルートホールディングスで全社集客戦略部という部署がありまして、そこでリクルートグループとしてのアライアンスだったりとか、プラットフォーマーとの交渉とか、あとはID、ポイント、データ、全社の基盤となるようなリクルートのアセットを、どう集客、マーケティングに使っていくかを考える責任者をやっていると。

それで、3つ目が、リクルートライフスタイルの新規事業として「TABROOM」(タブルーム)というインテリアのサイトをやっていまして、そこのプロデューサーです。

——かなりお忙しそうですね。

塩見:たぶんお給料をいただいてるのは、メインがライフスタイルの執行役員で、次が全社の集客戦略だと思っていて。TABROOMの方は新規事業なので、チャレンジさせてもらっているっていう度合いが強いですね。

本当は27歳で入社したときに、「3年やって、30歳くらいで独立しよう」みたいなつもりでした。そもそもそういう…もらうものもらったら独立しようっていう考えで(笑)

採用面接の時点で、3年間修行させて欲しいっていうのと、副業もやっているからそれも続けさせて欲しいと。あと、修業を短期でやりたいから一番に儲かってる所に入れて欲しいっていうのは言っていました。

「起業する前に3年リクルートで過ごすのはありかも」

——そういうのはアリなんですか。会社的には。

塩見:あり……なんじゃないですか(笑) 社内外のいろいろな所で言っていますし、採用活動で学生と会う時も言っていて、別に会社から怒られない。良いんじゃないかと。

周りにもけっこういますよ。この3年ぐらいで身近なところでも4人ぐらいは独立していきましたけど、彼らもそういうふうに明確に言ってくれる。目的がシンプルだから、上司や同僚であるこちらもお願いすることがシンプルにできるし、そこは関係性としてはやりやすいです。

起業する前に3年間リクルートに入るっていうのは、結構ありかもしれないですね。

——でも塩見さんは結局、3年で辞めなかったわけですよね?

塩見:そうですね。リーマン・ショックが間に挟まった関係で、ちょっと修行に時間がかかりまして……。「マーケティングを経験したら出よう」と思ったら、マーケティングをやる手前でリーマン・ショックが起きて、マーケティング予算がゼロになったんですね。

なのでリクナビNEXTでは無理だと思って、当時『HOT PEPPER』がフリーペーパーから、ウェブに比重を移そうと「ウェブのマーケティング頑張るぞ」と言っていたので、社内の制度を使って異動してマーケティングを学んだんですね。

そこでマーケティングもひと通りやって、31歳でしたかね。その時に独立しようと思って、事業計画書を書いて、投資家を回ったら、何人か出してくれるっていう話もあったので、独立しようと思ったんです。

でも同じ企画書を会社にも出してみたら、「うちでやれば良いじゃん」って言ってもらえたんで。どっちでやろうかな、と悩んで会社でやることを選んだという感じですね。

リクルート社内で新規事業を立ち上げた理由

——そこで会社を選ばれた理由というのは?

塩見:当時、マネージャーの1個上のシニアマネージャーという役職にいました。今とやっていることは大差ないんですけど、マーケティングを全部見させてもらっていたんですね。

実際すごく悩みましたが、「なぜ起業するんだろう?」と考えたとき、「一発あててお金持ちになってやろう」っていうのはなかった。ぶっちゃけ当時のお給料で欲しいものも買えるし、何も困らないので。そういうマインドはそもそもなかったです。

あと成功確率はどっちでやるのが高いかなと思った時に、マーケティングの責任者をやっているので、30とか40のサイトで起きていることが、すべてレポートされてくる。だから自分のサイトには、そこでインプットした内容の正解だけを注入すればいいんです。

マーケティングに限らず、システム開発でこんなことがあったとか、営業現場でこんなことがあったとか、社内の情報が取りやすい立場にあったので、自分のサイトの運営の効率がめちゃくちゃ高いっていうのがありましたね。

あとは、例えばシリコンバレーに行って、テック企業のプロダクトを作られている方と協議をするとか。日本の企業のトップ層の人たちと日常的にお話をさせていただけるとか。

そういう情報網も、今のポジションであれば容易に手に入るけれども、いちベンチャーの社長になってしまった瞬間に、今とはだいぶ違うだろう、っていうのも理由の1つです。

そもそも自分のサイトの成功確率を上げるには、いちベンチャーの社長としてよりも、リクルートの執行役員も兼務してるほうが都合がいいんじゃないかと思ったんですね。

筋が通っていたら何でもやらせてもらえる環境だった

塩見:それと、入った当初はわからなかったんですけど、リクルートの中では、基本的には自分がやりたいと思ったことを「これくらいお金をくれたら、これぐらいは儲かりますよ」って企画書を書いて、上司に見せて、筋が通っていたら、基本的には何でもやらせてもらえるんです。

「やれば儲かるのにやらない理由がないじゃん」とか、「やれば便利になるのにやらない理由がないじゃん」っていう感じなので、それって投資家さんと向き合っているのと、ほぼ同じコミュニケーションなんです。

どうせ外に出て、投資家さんに説明をしてお金を出してもらうって作業をするんだったら、社内でやっても同じじゃんと思って。社内の決裁が面倒くさいみたいな話も、少なくとも自分が起案した当時で言えばなかったので。

あえて外でやるメリットをあまり感じず、逆に中でやるデメリットがなかったので、中でやろうと思いましたね。

——中でやる方が成功確率が高いっていう仮説を持ったと思うんですけど、新規事業について実際にそうだったんですか?

塩見:まだ成功してないのと、外の方をやっていないんで、何ともわからないんですけど……。時間がやっぱり3つやるより1つやる方が当然かけられると思うんで。時間が減っちゃってるっていうこと以外では後悔してることはないです。

でも時間が減ってる部分も、さっき言ったように効率がだいぶ良くなってるはずなので、そこでだいぶカバーができてるんじゃないかなって思っています。

——ちなみにそういう条件が揃っている企業さんって他に思い浮かびますか?

塩見:大手企業の役員の方と話をしてると、新規事業を生み出したいっていうのは皆さん思われているので、ちゃんとそこにアプローチできれば、なくはないのかなと思いますけどね。リクルートはアプローチしやすい方ってのはあるかもしれません。

8年前に入社して、そこから少しずつリクルートもIT化してきました。ウェブの現場一筋でリーダーとかマネージャーとかをやってアラサーになったら、ITが会社の戦略のど真ん中に来るタイミングに当たり、執行役員をやってみろみたいなチャンスが回ってきたのって、たまたまでしかないと思うんですよね。

僕のキャリアとリクルートがIT化するのが重なって、チャンスがもらえた。ネットネイティブじゃない会社がこれからどう進化していくのかっていうのがチャンスと引き換えに課されたテーマだと思うんですが、これはこれでとても面白いと思うんです。リクルートだけじゃなく日本の社会にとって大きなテーマだなって思います。なので、両方やりたい、と思っちゃったんです。

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1 起業か、社内で新規事業か--それぞれのメリットとは? リクルートの場合
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