お客さんのことを本当に分かっているのは誰?

徳力基彦氏(以下、徳力):個人的に最近すごく興味のあるテーマなんですが、元P&Gの西口さんという、今スマートニュースの仕事をされている方と議論したときにおもしろかった話がありまして。実は創業したばかりの企業は、オーナーがマーケティング視点をそもそも持っているから、企業のマーケティングとユーザー視点がズレることが少ないと。

その後も、日清みたいに創業者の理念が生きている会社は、社長への帝王教育がうまく行けばマーケティング視点もずっと残っているので、比較的、間違えにくいと。一方で、大企業化してサラリーマン社長的な人が経営者になるようになると、企業側の視点と顧客の視点が乖離しやすくなる。

P&Gがおもしろいなと思ったのは、現場のマーケターが上司と議論したときに、上司の方は最終的には部下を信じるとおっしゃっている点です。現場の人間のほうがお客さんのことをぜんぶわかっているから、最後はそいつを信じると。

日本は逆になりがちですよね。上司のほうが偉いし、成功して(いて)良くわかっているはずだから、上司の言うことを聞きましょうと言うと。でも、実は上司が現場から乖離しちゃっていると。東芝さんのチャレンジのように、目標だけが一人歩きしがちという話なのかなと。

マ―ケティングセンスがないと陥りがちな根性論

徳力:今日会場におられるのは大企業の方が多いと思うんです。そういう組織になっていって、「社長がCMOだから大丈夫です」と言えない会社においては、どうすればいいでしょうか。

奥谷孝司氏(以下、奥谷):そこでいうと、小売りに強い逸見さんがお手伝いすると。問題は、売れたらすぐに「勝てば官軍」になることなんです。マーケティングをがんばったかもしれないのに、大した評価もされず、一方でマーケティング部門は「なんだよ、お前ら。KPIもないし」というような。

(会場笑)

奥谷:「がんばろー!」と言って終わるじゃないですか。僕からするとどっちもどっちだと思っていて、営業も販売も数字しか見ていないんですよ。「本当に心温まる接客とは何か」「その一致団結は何なのか」といったものも、どこかふわーっとやってしまって、ゴールとして数字が上がらないから、いろんなことを言ってしまって、お互いにわからない。

さっき岩井さんが言った縦割りにもまずいところがあって。売れたら勝ちで、マーケティングの良いスパイクもあるのに、良いスパイクも悪いスパイクもあまり見ないまま、売れたらどっちの売り場も、「雨の中チラシ配ってた何々さん、偉いね!」というような(評価で終わってしまっています)。

徳力:目に浮かぶやつですね。根性論ですね。

奥谷:そういう人が偉くなったりするわけです。マーケティングセンスがないから、気合と根性ですよ。そういうパターンは一番まずいですね。負けても、そこは議論しなければいけないんです。

モルモット精神で望む組織変革

徳力:組織の縦割りを何とかしましょうというのは、どちらかと言うとトップが動かないと変わらない問題だと思います。今日のこのテーマで、ここに来て(いる方は)、たぶん相当アンテナの高い方か、超悩んでいる方かのどちらかだと僕は勝手に思っています。

組織は縦割りです。マーケティング意識は低いです。あまり分かっている人はいません。でも、こうやって勉強をして何とかがんばろうと思っています。そういう方が組織のなかで、ちょっとずつ変えていこうというときに、何からやっていけばいいんですか。

井上大輔氏(以下、井上):僕は、マーティング部をなくそうという提案をしてしまったので、責任をとるわけではないですけれど……。

デジタルマーケティングをずっとやってきて、デジタルマーケティングを企業に根付かせようと思ったときに、いつも有効だと思ってやっていたことは、モルモットになるということ。デジタルマーケティングの良いところは、少予算でなんでもすぐに始められることですね。例えば営業の人に話を聞きに行くとか。

最初はすごく警戒しているわけなんですけれど、例えば「〇〇さん、今までマーケティングを見て、どうですか。満足いっていますか」と聞いてみる。「全然だめですよ」と言われたら、「うーん、ではどんなことをやったらいいと思いますか?」と。「俺はこう思うんだよ」というのを聞き出して、それをちょっとリスティング広告とかでクイックに試してみたりするんですね。それで、「この前○○さんにアイデアもらったやつ、すごくワークしましたよ」というふうにやる。

メインの目的は、営業を味方につけることです。でも同時にそういうアイデアの吸い上げをやっていくことによって、結果として彼らにもマーケティング視点を持ってもらえるようになる。それはけっこう、明日明後日の皆さんの機能の改善にもつながってくると思います。

関係部署への働きかけが功を奏する

徳力:モルモット精神というだけではなくて、実はほかの部署に聞きに行っているというのが、すごくポイントだなと思います。

逸見光次郎氏(以下、逸見):大企業にありがちだと思うんですが、やっぱり(人を)動かそうと思ってもなかなか動かないんですよね。事業部ごとに、部署ごとに予算があって、関係者がいる。今のモルモットの話をしたいんですけれど、たとえばネットスーパーを作るときに、1つの決裁にサインが20個以上必要なんですね。スタンプラリー状態ですよ。

徳力:僕も前職で相当スタンプラリーはやりましたが、20個はすごいですね。

逸見:なにが大事かと言うと、みんなのコンセンサスを作っているんですね。ハンコを押すのは上の人なんですけれど、だいたい言われるのが、その部署のキーマンと呼ばれる人がいて、「あいつは知っているのか」という話になっていて。

だから、大事なのは、面倒なんだけれど、関係する部署の人たちが常に働きかけをして、コミュニケーションをとっておくという話なんですよ。そのときにも、なんとなくの飲みの話ではなくて、「こういうことをやろうと思っているんだけれど、そっちはこういう資料をもっているよね。これを一緒にやったらこう変わるよね」と。

徳力:つらいスタンプ集めと考えずに、本当に楽しいスタンプラリーで、逆に社内にしゃべれる人が増えると思ってしまえば、それすら楽しくなると。

逸見:そうそう。それがやっぱりマーケティングだと思っていて。一個人だからできないのではなく、一個人だから、だんだん、ビジネス上のネットワークができていく。「EC事業部長なのに、いつもお店の話しかしないよね」というような。

徳力:「俺の部署はこれが目標だから、これをやってくれ」とぶつけるんじゃなくて、「あなたの部署のために私たちが何ができますか?」ということで、社内マーケティングと一緒にやるんですね。

逸見:社内マーケティングや社内広報が、すごく大事になってくると思いますね。

外部の力を積極的に使う

徳力:なるほどね。岩井さんはどうですか。

岩井琢磨氏(以下、岩井):事業会社にいたことがないので難しいですね(笑)。

徳力:逆に外から見てどう思いますか?

岩井:そうですね。すごくシンプルに、もっと外の力も使っていいんじゃないかと思っています。今回、奥谷さんとの本のあとがきに「我々はいつでもFacebook経由で連絡してもらってOKです」と書いたら、本当にすごく(連絡が)来て。

岩井:そういう連絡してこられる方は、「変えようとしている個人」なんですよね。そういう人たちは、もちろん組織の中でも一生懸命がんばっているんですけれど、それだけではなかなか変わらないということもわかっている。意識だけの問題ではなく、組織の縦割りごとにKPIがあるので、そのKPIの中でそれぞれが考えているだけでは、どうしようもないと。

そこに外の人間が入ってきて「本を書いている人を呼んでいるから、今度みんなで集まって話を聞かない?」などと言うと、みんな来てくれる。そこでいろいろとディスカッションが起こる。中の視点だけでは解決しないから、なにかしら異分子のようなものを持ち込んで変えていこうというのは、すごくシンプルなことですが、なかなか実行できることではない。でも、そういうことをやっている個人が、変えていこうとしている、もしくは変える力を持っているというのは、今回すごく思いました。

徳力:同じことを社員がずーっとやっていても誰も聞いてくれないけれど、それこそ、著者やお客さんといった違う人が同じ事を言ってくれると、俄然、社内の通りが早くなりますよね。

岩井:社内だと、周囲の第一声が「お前が言うな!」だったりする訳ですよね。

徳力:反抗している時点で、もう何を言っても耳に入らない、というような状況ですよね。奥谷さん、どうですか。

奥谷:(しみじみと)そうだねえ。

(会場笑)