本当に「マーケティングは死んだ」のか?

徳力基彦氏(以下、徳力):アジャイルメディア・ネットワークの徳力と申します。本日はよろしくお願いします。

今日は「『マーケティングは死んだ』のか?」というテーマでセッションさせていただきたいと思います。先にアンケートをとったほうがいいですかね。「マーケティングは死んだと思っています」という方は? 

(会場笑)

徳力:手を挙げにくいですかね(笑)。もちろん、マーケティングは死んでないぞ、と思ってる方はたくさんいると思うんですが、今日は、「マーケティングは死んだ」という前提で、日和らずに議論をしていただければと思っております。

タイトルが過激ですが、話の内容はオープンです。ツイッターのハッシュタグもご用意しております。「#マーケティングは死んだ」です。日和った議論にならないようにあえて「死んだ」で止めておきました。

余裕があったら、質問はハッシュタグから拾うかもしれませんが、たぶん余裕がないので、あとで質問の時間を作ります。質問がある方は考えておいていただいて、ぜひ手を挙げていただければと思います。

登壇者は5名の有力マーケター

徳力:では、ご存知の方が多いかもしれませんが、ここでパネリストの方々のご紹介を簡単にお願いしたいと思います。まず、お1人目は井上さんです。よろしくお願いします。

井上大輔氏(以下、井上):アウディジャパンの井上大輔と申します。

アウディジャパンでのポジションは、メディア&クリエイティブマネージャーということでメディアとクリエイティブをスルー・ザ・ラインで見ています。その前はユニリーバにいたり、ニュージーランド航空にいたりと、ずっと外資のマーケティング畑でやってきています。よろしくお願いします。

徳力:2人目は奥谷さんです。

奥谷孝司氏(以下、奥谷):みなさん、こんにちは。Engagement Commerce Labという会社もやっています。

(スライドを指して)「オイシックスドット大地」と書いてありますけれども、ここも7月1日から会社名が変わって、「オイシックス・ラ・大地」。通称、オイラ大地です。

(会場笑)

奥谷:ちょっと変わっている会社なんですけれども、今日は「マーケティングは死んだのか」ということについて語りたいと思います。よろしくお願いします。

徳力:3人目は岩井さんです。

岩井琢磨氏(以下、岩井):こんにちは、岩井と申します。さっき、奥谷さんが言ったEngagement Commerce Labという奥谷さんの会社で、(奥谷さんと)一緒にやっています。

奥谷:無給です!

岩井:無給社員です。いわゆるボランティアというやつです。

(会場笑)

岩井:変わった立場ですが、本来の所属先は広告会社の大広です。プロジェクトプランナーをやっています。広告会社にいますが、広告は作っていません。チャネル開発や企業ブランディング構築などのプロジェクトを支援しています。縦割りの組織に横串を通して、1つのプロジェクトとしてやろうというときに、プロジェクトプランナーとしてプロジェクトの設計、ファシリテーションといった支援をさせて頂いています。。広告会社にいる人間が、「マーケティングは死んだ」なんて言うと、「あなたのところにマーケティング活動を頼んでいるのに、何を言っているのか」と怒られると思うんですが。

(会場笑)

岩井:でも、従来のマーケティングが変わってきているのは確かです。そんな話をできるだけ柔らかく話したいなと思います。よろしくお願いします。

徳力:最後に逸見さん、お願いします。

逸見光次郎氏(以下、逸見):逸見光次郎と申します。本日はよろしくお願いします。

ABCさん(青山ブックセンター)で喋るとは思わなかったです。もともとは三省堂書店という本屋にいて、20年前の1999年にネットの世界で(仕事を)始めて以来、6社くらいにいて、お店とネットをどうやって一緒にするか、どうやって仲の悪いところと仕事をするか(ということに取り組んできました)。

直近でマーケティングの本も書かせていただいたんですけれども、私自身がマーケターとはぜんぜん思っていません。どうやって物売りをしていくのか、どうやってお客さんとつながるかということしか考えずにずっと来たので、今日はそんな話ができればと思っております。よろしくお願いします。

徳力:さっき買った本はここに持ってこなかったんですか? 逸見さんは、(会場の)青山ブックセンターで、さっき10冊くらい本を買っていたんですよ。打ち合わせにも来ず、本屋の棚を見ているから、何を見ているのかなと。

逸見:この店に来て本を買わないほうがおかしいじゃないですか(笑)。

徳力:(笑)。セッションが終わってからでも、ちゃんと店は開いています。ぜひ、皆さんも書店を見て帰ってください。良いものがたくさんありますから。なお、僕はアジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦と申します。今日はモデレーターとして、4名の方に突っ込んでいきたいと思います。

76%以上が1年以内に棚落ちするヨーロッパの消費財

徳力:それにしても、今日のテーマはデカすぎますよね。「マーケティングは死んだのか」ですよ。一応、先に言い訳をしておきます。このタイトルとパネリストが決まった状態で、私のところにモデレーターの依頼が来たので、僕はこのタイトルに一切関わっていないということを強調しておきます。

(会場笑)

どちらかというと私は、日本ではマーケティングは死ぬも何も、まだちゃんと始まってないんじゃないかという立場ですが。

まずは、「マーケティングは死んだ」という議論の前提のところから始めたいと思います。まず、このタイトルを決めた4人に、どこが死んだのかという話からしていただきたいと思います。1人目の井上さんから。

井上「マーケティングは死んだのか?」ということですが、いくつかデータがあるんです。一番上のデータはヨーロッパのマーケットを対象にした2014年のリサーチで、76%以上のFMCG商品が、1年以内に棚落ちすると。最近マーケティングと言うと、消費財企業のマーケティングが一番進んでいると思われていたりしますよね。

徳力:P&Gとか。

井上:P&Gだったりユニリーバだったり。確かに進んでいると思うんです。その消費財の商品開発って、ゲートシステムというのがあって、何重にもリサーチをかけて、慎重に商品を開発して世の中出すんです。それでも76パーセント以上が、1年以内に棚落ちしてしまっている事実がある。。

徳力:これは海外の数値ですか?

井上:ヨーロッパです。

徳力:日本だったら下手したらもっと多いかもしれないですよね。

ブランド体験の95%以上は、企業がコントロールできない

井上:かもしれないですよね。あるいは別のもので、ハーバードビジネスレビューの、アメリカを対象とした調査では、一般にFMCGで成功の定義と言われている、5000万ドルを超える商品というのは、年間でなんと3パーセント以下です。

それだけ、しっかりマーケティングをやって、リサーチして入念に計画をして計画を進める進めるわけなんですけれども、それでも3パーセントくらいしか成功しないんです。これは成功の定義であるだけなので、いわゆるブロックバスター、大ヒットになる商品はもっともっと少ないです。本当にしっかりやっても、おそらく1パーセントくらいしか大成功しない。

この記事にも、あのP&Gですら繰り返し空振りしている、と書かれているわけですね。ということで、すごく優秀な人たちが一生懸命にマーケティングをやっても、結局成功する確率は、これ数字を覚えておいていただきたいんですが、3パーセントくらいというのが現状です。

これを「マーケティングは死んでいる」と言わずして、何と言うかというところが1つの問題意識です。さっきの3パーセントという数字を頭に入れていただいた上で、我々が実際、日々生活をしていて、何かしらの形でブランドを感じる瞬間を全てブランド体験だとすると、1日に起こるブランド体験は無数にあります。

例えば、朝起きてNIKEの靴を履くなんていうのも、NIKEのブランド体験です。誰かがスタバ(の商品)を飲んでいるのを見たら、それもスタバのブランド体験。無数にありますよね。

私が作ったフレームワークに「カスタマイズエクスペリエンスダイアリー」というのがあるのですが、これは一言で言うと、消費者が1日に体験するブランド体験を日記形式で記録していくというものです。 そうして調べて見ると、1日に起こるブランド体験の実に95%以上は、企業がコントロールできないタッチポイントによるものなんです。

既存のマーケティングは、ほぼ死んでいる

井上:例えばアウディの例で言うと、街中でアウディを見る、誰かがアウディの時計をしているのを見る、アウディのディーラーさんの前を通りかかる、あるいは自動車雑誌の記事でアウディのことを読む、ソーシャルメディアで誰かがアウディのことをしゃべっているのを聞くといった、タッチポイントは企業がコントロールできない法としてカウントしています。

逆にいうと、TVCMとかそういう企業が制御できるタッチポイントで起こっているブランド体験は5%くらいということです。5%という数字とさっきの3%という数字は、近いですよね。

企業がコントロールできるタッチポイントで起こるブランド体験は全体の5%しかない。それにもかかわらず、その5%にほぼすべてのマーケティング予算と努力をつぎ込んでいる、というのが今の現状なのではないかと。3パーセントくらいしか成功しないというのは、まあそうだろうなという気もしてきませんか?

最後に、マーケティングは死んだのか、というところで、ハッシュタグ上では、「マーケティングは死んだ」と記載されてしまったんですけれど、オリジナルのタイトルは、「マーケティングは死んだのか?」とさせていただいていて。

心としては、「マーケティングは死んだ」と言い切ると、正直ちょっと誇張しているかなと。それは2つあって、今までのマーケティングは……さっきの図で言うと、例の5パーセントにとどまっているマーケティングは死んだというのが1つ目の誇張ポイントです。

もう1つは、死んではいないのかなと。One Foot in the Gray(棺桶に片足を突っ込んでいる状態)というか、限りなく、ほぼ死んでいる状態。全体の5パーセントしかないので、そこで仕事をすること自体が間違っているよね、ということです。既存のマーケティングは、ほぼ死んだと言い換えさせていただくと、正確かなと思います。