天才とは「やり続ける人」のことである
木村:この漫画を読んでいて感じるのは、名言が非常に多いなということです。そこでですね、お二人に自分のお気に入りの名言みたいなものを1つずつおうかがいできたらと思います。では先に工藤さんからお願いします。
工藤:いろいろ考えてたんですけど、投資部に神代さんっていう「自分はそこまで天才じゃない」っていうことで悩んでいるカリスマ部長がいるんですね。あと、ゼンさんという投資部をヘルプしてくださっているおじいさんみたいな人がいるんですけど、その2人が天才の定義について話してるシーンがあります。
天才というのは結局「やり続ける人」で、100人いたとして、アイデアがあっても、その中でやり続ける人はたったの1人。結局、1万分の1くらいの人が天才と呼ばれる人なんだよっていう話をするところがあったんです。
テレビ東京には佐久間という『ゴッドタン』を作っている天才と呼ばれる人がいます。本人もスーパーポジティブシンカーで、お隣の席にいて「やっぱすごいな」と思っています。でも、天才じゃなくても噛み砕いていけばすごいものを作れるんだっていう、ものすごいエールをもらった感じがして。そのゼンさんの名言が、私のインベスターZの格言です。
投資に失敗したところで、「たかが金」
木村:なるほど。三田さんはいかがでしょうか。
三田:そうですね。なんかこういうこと聞かれるたびに、ころころ変わるんですけど(笑)。最終的にあの漫画ってどういうもので総括されるのかなって考えると、先ほど話に出た神代くんが、渡辺くんっていう次のキャプテンに「たかが金だ。」って言うんですね。
要するに、もし仮に投資に失敗してゼロになっても、彼らにはなんの責任もないっていうことですよ。なぜかというと、強制的に投資部に入れられて、強制的にやらされてるから。自分が自発的にやっていないものであって、それに全責任を負うことはないと。
自分で全部背負いこんで、全部自分でやらなくちゃならないって考える必要はないんだって。世の中ってそういうもんだっていうことを、最終的に言いたかったんですよね。
世の中が人に対して責任という名の重い十字架を背負わせたりするじゃないですか。でも人生ってそんなもの背負って生きていくことになんの幸せがあるのかなと思うわけですよ。いいんですよ、学園に「投資に失敗しました。ゼロになりました」って言っても。あの子たちが責任を負う必要はないんですよね。
それをリーダーが代々伝えてきてるんですよ。代替わりするときに必ず次のキャプテンにはこういうことを言って渡せってしきたりがあるんです。「たかが金だ」「ゼロになったっておまえのせいじゃない」と。
だからこそいろんなことにチャレンジできるし、いろんなことを夢見れるじゃないですか。責任やらなんやらを全部被されて、それで生きてくっていうのは、きっと人生1つもおもしろくない。
いいじゃないですか、0円になったって。どうってことないんですよ。そういう気持ちでいろんなことにチャレンジしていけば、けっこうおもしろい人生築けるんじゃないかなと思うんですよね。それもなんか1つの格言っていうか、1つの言葉としてあの漫画を総括してるような気もするんですけどね。
木村:あの言葉、深いなあと思ってました。漫画の中でどっちがお金稼げるか勝負みたいなことをやったりとか、本当にこうお金お金お金……の話ばかりの中で、最後の最後で「いや、たかがお金だから」みたいな。そういったところで深いなあと思ってました。やっぱりそういった深いメッセージ性が込められてたんですね。
工藤:日めくりカレンダーが作れるくらい、本当に格言だらけで。毎日読んで「よし!」 って言う感じ。
金融教育をやっている国なんてない
木村:そうですよね。ちなみに僕が好きだったのは「欲を出したら努力しなきゃダメだ」。すごく序盤にあるんですけど、最初ビギナーズラックで財前くんが投資を当てちゃうんですけど、それでちょっと目が眩んで欲を出そうとするともう上手くいかないと。
欲を出すなら努力して勉強しないといけないっていうのが、けっこうグサッと刺さったみたいな。自分が欲に溢れてるのかどうだかわからないんですけど、努力しなきゃなと思いましたね。
作品を読んでいて、資産運用だったりファイナンスの知識だったり世の中のお金の流れだったり、勉強になるなと思ってまして。日本の金融教育というか、そういったところでちょっと課題視されてるところ多いと思うんですけども、漫画を通じてそのアプローチができるんじゃないかなと個人的に思ってるんですが、そういった金融教育みたいなテーマについてはどういった考えがありますか?
三田:よく子ども達に「若い人たちに金融についてもっと学んでもらわなくては」みたいなことを国がいろいろ言うんですよ。これ、調べてみるとですね、そもそも金融教育なんてやってる国なんてないんですよ。世界、どこ見ても。
アメリカなんかやってそうとかってみなさんイメージするかもしれないけど、金融について若い人たちに教育するっていうシステムもノウハウも教材もないんですよね。だいたいなにから教えていいかなんてわからないじゃないですか、金融経済なんて。
そもそも金融をなんとかしなきゃみたいなこと長いこと言ってるんですけど、これはもうやろうと思った人にしか身につかないものであって、全国民的に金融リテラシーを身につけなきゃって、僕は不可能だと思うし、そもそもそんなことを目指してもなにもいい社会にならないと思うんですよね。
これはもう、好きか嫌いか、向き不向きの世界なんで、僕はそれで十分だと思うんですよね。ただ唯一言えるのは、経済の1つのサイクルとして、世の中のお金がどうやって回ってるかくらいは学校でちゃんと教えた方がいいとは思うんですけど。
よくそういう「金融教育をなんとかするには」みたいなことを聞かれるんですけど、手っ取り早いのは『インベスターZ』を読むということですね(笑)。もう漫画で読むと。これが一番だと僕は思うので。みなさんが勧めてくれればそれで金融教育は十分なので、全巻読んでいただければいいんじゃないかと。
木村:漫画で読む、もしくはテレビドラマで見ると。
三田:そうですね。
戦略はスタートしてから考える
木村:ありがとうございました。それではですね、ここで会場からの質問に答えていければなというふうに思います。質疑応答に移りますので、質問がある方は挙手にてお願いしたいと思います。いかがでしょうか。(会場を指して)あ、ではそちらの方。
質問者1:お話ありがとうございます。三田先生に質問です。先ほどランキングを独占するっていうお話あったと思うんですが、それ以外に三田先生の中で勝ちパターンというか、漫画を流行らせるための方法っていうのがなにかありましたら、教えていただきたいです。
三田:そうですね。そもそも漫画って、とりあえずスタートするっていう感じなんですよ。「必ず連載を続けます」なんて雑誌は保証してくれないので、評判よくなきゃもうすぐ終わっちゃうわけです。
構想を練って先々のことまで考えても、それをちゃんと描き切れるかなんて保証はない。だからとりあえず3話分くらい考えておくと。3話考えてとりあえずスタートする。
スタートして、なんとなく世の中の評判を見て、「あ、なんかイケそう」と思ったらやる、ダメならもうさっさと店仕舞いみたいな。そういう感じなんですよね。まずはある一定の評価が得られてから、じゃあこれをどうしようか考える、という流れです。
そういった、わりかしルーズな進め方になるんですよね。ああしようこうしようとか、こうしたら上手くいくとか、こうやったらヒットするんじゃないかとか、そういうことを考えてしまうとあんまり上手くいかないような気がします。
とにかく、1話1話おもしろいものを作ると。1話1話丁寧に作っていくってことを重ねていって、一定の単行本の巻数が出て、そこから「じゃあこうしてみよう」「こういう仕掛けをしてみよう」「こういうマーケットがあるから集中的になにかメッセージを発しよう」とか。
最初からあんまりこざかしく戦略を立ててっていうことをすると、逆に上手くいかないような気がしますね。商売の鉄則ってそうじゃないですか。
いきなりラーメンチェーン50店舗作るぞ!と思って始める人なんて、あんまりいないんですよね。1杯1杯丁寧に作って、行列ができたら「あ、なんか俺のラーメンいけるかも」ってなるわけです。そこから「じゃあ資金を入れていろいろやってみよう」ってなると思うので、最初っから組み立ててやろうとしたものは、あんまり上手くいかないんじゃないかな。
質問者1:ありがとうございます。
反対されて自分の意志が変わることはない
木村:ありがとうございます。他にはいらっしゃいますか? (会場を指して)ではそちらの方。
質問者2:今日は貴重なお話をありがとうございます。三田先生と工藤さんとそれぞれにおうかがいしたいんですけども、三田先生に関しましては、漫画を生きる糧にしていくぞと思われたとき、そして工藤さんは『インベスターZ』やりたいぞっていうふうに表明されたときに、協力してくれる声と反対の声があったと思います。
それぞれどんな賛成、協力、反対の声があったかということと、あとその反対の声に対してそれをどう捉えて、どう対処されたかっていうのをおうかがいしたいと思います。
三田:そうですね。漫画の新人賞に応募しようということをまず1つ、目的として持つじゃないですか。それをじゃあ誰かにしゃべるかっていったら、誰にもしゃべらないですね。
そんなの誰かに相談してもどうにもなるものでもないし、「これから漫画描きます」なんて誰にも言った記憶はないですね。まず描いてみる。で、送る。送って結果が出て、周りがびっくりするみたいな(笑)。「え、なにやってんの」みたいな感じですよね。
僕はとにかく相談はしませんし、反対されても無視。やめとけとか言ったって、別に「あなたに関係ないし」ということですから。反対されてなにか自分の意思が変わるということはないと思うしね。もう反対は無視(笑)。知らんぷりですね。僕の答えとしてはそうですね、もう無視するということです(笑)。
ワクワクに乗ってくれる人を巻き込んでいく
木村:工藤さんはいかがですか。
工藤:賛成の人で、原作を読んだことがある人はだいたいおもしろいと思ってくれている。問題は反対ではなくて、企画書をオープンしてくれない人っていうのが大問題ですね。まず『インベスターZ』っていうネーミングで「インベスト……投資……難しそう。深夜に帰ってきてからで、しかも25時台から見るにはちょっとなあ……あと、固いからなんか他の感じの方がいいんじゃない」ってなるのが一番の問題でした。
それを覆すためにはどうするか。原作の内容の企画書もそうなんですけれども、賛同者をどんどん募っていって、半分ハッタリですごそうな企画書を作りました。本当に殴り込みみたいな勢いのものを作っていって。
制作費についての生々しい話をすると、いろんなところで配信したりしてコンテンツを回していくんですけれども、わりとコンテンツを重視してる枠で流すのでお金も集められますって言いました。この番組にお金を投資してくれるところをゲットしたっていうのが、反対派というか無関心層を覆した一番大きなところです。
テレビ東京の予算だけだとドラマを作るのはなかなか難しい中で、いろいろと配信していくことで、「あ、これおもしろい」「うちも出してやりたい」っていう出資者を見つけて制作にこぎつけました。1人でもそのリアルなみんな知ってる人を引っ張り込むところから「え、ドラマ? WBSの取材じゃないんですか?」みたいなテンションをひっくり返していきました。
でもその人は俳優じゃないんで、利益でもなんでもなく「なにそれ、俺ドラマ出るの? おもしろそう!」っていうそのワクワク感に共感してもらえるリアルな人を引っ張り込んだら、「え? ◯◯さん出るんですか? ちょっとおもしろそう。僕も出てみます」ってなっていって。
広報の人も「いや、ちょっと社長なんて言うかわかりませんけど、企画書一応見せておきます」となるところから少しずつ広がっていくっていうことですね。
だから、無関心をひっくり返すために、ワクワクに乗ってくれる人を、利益とかじゃなくてどう連れ込むかで対応しました。
質問者2:なるほど。わかりました。ありがとうございます。お二方に共通だなと思ったのが、先にプラスの要素をまず持っておいて、それからこうだってやることで、反対であったりとか波風を打ち消していくんだなっていうのがわかりました。どうもありがとうございました。
三田:いえいえ。
工藤:ありがとうございます。
「お金とはなにか」を考え直す時期にきている
木村:それでは、先ほどそちらで手を挙げていただいた方。ちょっとお時間がきてしまいましたので、こちらの質問を最後とさせていただきます。
質問者3:今日は貴重なお話ありがとうございました。少しテーマと被るかもしれないんですけども、投資というので最近仮想通貨が注目されていると思っていて、三田先生にちょっとおうかがいしたいのは、題材にでもいいんですけども、仮想通貨に対して投資というかたちでどう考えるかとか、そういったことをちょっと興味本位ではあるんですけども、おうかがいしたいなと思っております。
三田:仮想通貨のシステムそのものにはちょっと今日は触れないんですけども、みなさん『インベスターZ』っていう作品をちょっと読んでいただくとわかるんですけど、まず最初に「お金ってなに?」みたいなところから始まるんですよ。
そもそもお金っていったい誰が作ったのとか、要するに物とお金を交換するっていうシステムをいったい誰が始めたのとか、それはいつからやったのかというところから始まるんですよ。
いろんな説がありますが、4千年ぐらい前の物々交換してた時代に「いやこれちょっと面倒くさくねえか」って言い出した人がいるわけですよ。物と物って交換するの大変だし、なんか別のものに置き換えてやり取りすると便利になるんじゃないのって始めた人が必ずいるんですよ。
そういう時代と同じことを、ちょうど今我々は体験してるって考えた方がいいと思うんです。つまりお金、日本だと円で物と交換できるわけですけども、その時代から円以外のものに価値があって、それで経済が成り立つという、今まさにその時代を我々は生きてるというふうに考えていただければいいと思うんですよね。
つまりお金と言われる価値は、小麦とか骨とかいろいろあったんですよ。そういう物を交換したときに、やっぱりいろいろ不具合があったわけですよ。きっと最初から上手くはいってないんですね。
何度も何度もいろんな改良を重ねて、それでだんだん100年、200年、300年……1,000年くらい経って、やっと今のシステムに近付いたはずなんですよね。
仮想通貨ってものが出てきて、世の中にそれで価値を交換してる人たちがごく一部に出始めました。我々は、それを今見てる状況だって考えればいいと思うんです。これから人が知恵を使ってそれを改良し、もっともっと使いやすくしていくわけですよ。
そのスピードは、今のテクノロジーでなら1,000年という単位よりも、もっともっと短くなる。今かなり浮き沈みがあるので、リスキーなものって捉えられてるんですけども、今まさにその時代に我々がいるんだって意識でいれば、冷静にどう見たらいいか、どう見るかっていうことを自分で自分を置き換えてみるっていうかね。
そういう気持ちでいれば、仮想通貨ってものは必ずこれから先、1つの価値として世の中に定着していくはずなんですよね。
やっぱり便利じゃないですか、あれ。だからきっとそういう時代がくる。そう言えるんじゃないかなと思います。
質問者3:ありがとうございます。
木村:ありがとうございました。それではお時間となりましたので、こちらにてセッション2スペシャルトークセッションを終わりたいと思います。三田さん、工藤さんありがとうございました。
三田:どうもありがとうございました。
工藤:ありがとうございました。
(会場拍手)