男女ペアでの共同創業のエピソード

西川順氏(以下、西川):役割分担というところで言うと話がずれるのですが、お二人(塚原氏と石亀氏)にお伺いします。男女ペアですよね。私も赤坂と会社をやっていて、男女のペアでNo.1No.2をやっていたのですが。

私は個人的に性差による向き・不向きもあるのでは、となんとなく思っています。そのへんの男女ペアだからいいことや、逆に性差を感じたり、性別によってなにかを感じることはありますか?

石亀一郎氏(以下、石亀):私の場合は、最初の会社は男性、次の会社は女性というかたちでした。共同創業したのは女性のほうでしたから、私の場合で言うと1番それを痛感したのは、シリーズAのファイナンスのタイミングとお子さんが産まれるタイミングが重なってしまった時です。

本当に生まれてすぐのときはどうしようもなく時間がお子さんのために取られていくので、自動的に会社にはいなくなる時間がとても増えちゃうんですよね。でも、僕としてはチャレンジだと思ってポジティブに経営と向き合いました。

この経験を通して、女性と共同創業をすることの意味を改めて考えさせられました。逆に、共同創業者が女性だった場合は、そういうことを受け入れられない状態で起業するのはなかなか難しいなという気づきもありました。

グローバルアプローチは女性の方が効果的

石亀:男性の場合はもう少しフレキシビリティがあるので、ある意味、アーリーステージのときのそうしたプライベートのやむを得ない事情も生じる可能性は初めから織り込んでおくべきかなと思います。ただ男性と女性双方いると、大変な時期も分担しやすく、助け合いやすいということは強調できると思います。

トップが女性であるメリットは実はかなりあって。グローバルに発信するときにも、女性のリーダーはかなり強く響きます。Diversity、Diversityと言いながら経営陣に女性がいない会社というのはグローバルに見てもとても多い。これを初めからクリアできているのはかなり希少です。

女性を採用するときに安心されるんですよね。ちゃんと経営層に女性がいるというのは一種の安心感になるので、そういったイメージはありますが、経営という意味においては個人のパーソナリティという意味で、相手が男性か女性かを(意識)したことはあまりありません。

西川:なるほど。塚原さんはどうですか?

塚原:性差を感じてマイナスになっていることはあまりありませんが、男女のペアで会社をやっていくのは、私はメリットが大きいと思っています。

1番大きいのは、一緒に働くメンバーとのコミュニケーションの方法が、男女いるとめちゃくちゃ手法が広がるというか、戦法が広がると言えば言葉が悪いのですが(笑)。コミュニケーションを取ってちゃんと相手と向き合えるソリューションが増えるので、それはすごくいいと思いますね。

例えば人によっては、女性ならではのだいたい28、29歳になるとブレるようなところがけっこうあります。そういうところも「あ~わかる、わかる」というようなかたちで気持ちが入りやすいので、わかってくれる人がいるかどうかがかなり重要な局面なので、大事なことだと思います。

経営層に女性がいることで、いいソリューションが増える

塚原:私から男性に強いことを言うときは、男性から男性にすごく強いことを言うよりは、女性が言ったほうがニュアンス的に柔らかくなるということも。逆も然りですね。そうしたことがいろいろありますので、一緒に働くメンバーにとっていいソリューションが性差によってたくさん増えることは、すごくメリットだと思っていますね。

西川:今の取締役の方は男性ですか?

塚原:今、ストアーズ・ドット・ジェーピーは取締役はいないんですよ。私が代表で、あとCTOはいるのですが、執行役員というかたちで、男性がいますね。

西川:ヘイの構造はおもしろいと思います。佐藤裕介さんがいて、今佐俣さんと塚原さんの2人が取締役で、光本さんも取締役ですよね。その男女混合ペアのようになると、どのような感じでものごとを意思決定していくのですか?

塚原:上下はまったくないかたちです。みんな自分たちで事業をやったことがある人たちなので、あまりそこで男女がどうこうということはありません。意思決定をするときも、本当に意見が合わないということは今のところまだありません。期間も短いですし。

かなりざっくばらんに話して、みんなでなんとなく軽くノリで決めるという感じが多いですね。コミュニケーションとしては、遊んでいるような感じのほうが近いかもしれません。

西川:これから揉め事が起きるかもしれない?(笑)。

塚原:かもしれない(笑)。まだ平和です(笑)。

社長と喧嘩したり、ムカつくと思うことはある?

西川:わかりました。ありがとうございます。あと2問くらいはいけそうですね。具体的なことで、社長と喧嘩したり、「こいつムカつくな」と思うことはどういうときか、それぞれ教えてもらってもいいですか?

(会場笑)

塚原:喧嘩したことがないんですよね。

西川:すごい! 本当ですか? それは光本さんと?

塚原:はい、光本と喧嘩したことがなくて。意見が合わないことや、「あ、イライラしてるわ」ということはあるのですが。もちろん私もありますし。そんなに印象に残るようなものはないんですよね~。

西川:イライラしてるなと思ったときに、そのまま話すと喧嘩になったりしますよね。私と赤坂はそれでよく喧嘩をしていたのですが(笑)。そういうことをあえて避けるようにしているという感じですか?

塚原:そうですね。そうしたときは私もイライラしちゃうと疲れるので、「あ、かわいいな」と思うような(笑)。「はいはい、かわいいな~」といったように、ちょっと緩やかな気持ちで聞いたりすると、私もクールダウンするので、そうした感じでたぶんお互い上手に調整していたと思いますね。

西川:最初から?

塚原:たぶんそうです。

激しい議論はあっても揉めごとは起こらない

西川:なるほど。すごい。嶺井さんはどうですか?

嶺井政人氏(以下、嶺井):喧嘩はありません。ただ、議論が激しくなることはぜんぜんありますね。「上原ムカつく!」というようなことはないです(笑)。

西川:「ここが嫌い!」というのはないんですか?

嶺井:嫌いなんてことはぜんぜんありません。

西川:ないですか。

嶺井:嫌いはありませんが、「ああ、もう!それ前に言ったじゃん!」というような。「また!?」というようなことはやっぱりありまして。ちょっと前で言うと、上場準備期間もしくは上場後かな、「それSNSで書いちゃう!?」というような。

(会場笑)

嶺井:「書いちゃダメって言ったじゃん!」というような。でもうっかり書いちゃった。

西川:かわいいですね。

嶺井:上場が近づいてきたり、上場したら業績が推測できるような内容は、嬉しくても投稿しちゃダメじゃないですか。でも、スタートアップの経営者は、「会社がうまくいってるよ~」というときは、やっぱりPRも込めてSNS投稿を当たり前のようにするんですね。そうしたことなど、「え~!?」ということはあったりしましたね。

西川:それくらいしかないんですか?

嶺井:いや、話し出すと他にもありますが、ログミーさん入ってるので(笑)。

西川:わかりました(笑)。石亀さんはどうですか?

石亀:僕自身が争いを嫌う人なのかもしれませんが、ちゃんと「何を思っているんですか?」など(と聞いたり)……僕のやり方で、細かい話ですが。

とくにアーリーステージばかりやっているので、CEOがわりと未熟なステージで関わることが多い。とはいえ、僕もCOOとして確立できているわけではないという状態ですから。

常に意識していたのは、とりあえず言っていることがよくわからないと思ったら、必ず1 on 1をしてGoogle Docsに上から順番に「最近考えていることを言ってください」というような。バン、バン、バンと。出てこなかったら僕が、人事面、ビジネス面、戦略面、〇〇、〇〇と上から順番に聞いていくんですよ。

それを全部書く。書いて、そこに対しての認識をひとつずつ聞いていくんですね。「これで言った通りですよね?」と1個1個確認していくんですよ。そのようにやっていくと、どうしてそんなに意味のわからないことを言っているのか、ということのロジックが見えてきますから。

そのロジックを自分の中で掴んで、「そうした前提に立つのであれば、あなたが言っていることは間違っている」といった言い方をすると、だいたい納得してくれます。そうすると、コンフリクトが起こる確率が下がる。わりと文章にしちゃうということをよくやっていますね。

西川:なんだかみなさん、すごく大人ですね(笑)。揉めごとがないということがすごいと思ってしまいます。もうちょっと出るかと思ったのですが(笑)。

No.2の育て方と育ち方

西川:質疑応答の時間を取りたいので、最後に、たぶんこれはものすごくいろんなところで聞かれていると思いますが。No.2を育てるためには、どういったことが必要だと思いますか? 

私もすごくよく聞かれるのですが、育て方、育ち方は、なかなか言語化することが難しいと思っています。下からNo.2になりたい人、もしくは自分たちが育てるとしたら、どのように育てていくのが一番早いと思いますか?

嶺井:上に上がれば上がるほど、責任や権限が増えていきますよね。それによって、自分が向き合う仕事のコミットの度合いを増やしていかなければいけないと思います。

「育てたい」と思うのであれば、早いタイミングから権限と責任を渡してコミットさせる。上に上がれば上がるほどヒリヒリする瞬間が多いですよね。その経験を積ませることが、その人がNo.2なのかナンバー3なのか、とにかく経営者として育てていくためにはいいのではないかと思いますね。

塚原:似たような感じですが、やっぱりNo.2は、社長が今日いなくてもやばいときには決断をすることも多いし、それをやれないといけないし、やったほうがいいと思うんですよ。そうしたメンバーを育てるということだと思うので、自分で判断させるという経験をいっぱい積んでほしいと思います。

私の場合、No.2を育てた経験が残念ながらまだなくて、これからになるのですが。「社長が決めてくれる、副社長が決めてくれる」ではなくて、あなたが思うことをあなたが思うようにやって、成果がどうなるかをちゃんと見てね、というケツ持ちをさせるような。

小さいプロジェクトでもいいと思いますが、そうしたことをたくさんやってもらえると、最終的に、今だと私が今日いないけど、やばいことが起きてジャッジをしなければいけないときに、バリューを発揮すると思います。やっぱりそうした経験を積んでもらえるような環境であればいいと思いますね。

この1年で一番印象に残っているNo.2とは?

嶺井:ちょっと一つ、エピソードを共有してもいいですか。被害を受けられた方がおられるので言葉を選びながら話したいのですが。この1年でNo.2として一番印象に残っている方は、コインチェックの大塚さんです。

あの事件が起こったあとに、1番前面に立って、対応を進めていき、批判の矢面にも立たれたじゃないですか。それは社長との向き不向きだったり、役割分担の中で大塚さんがケツを持って、あれをやられたと思うのです。

実は去年の9月ですよね? あれはね? (石亀氏に聞く)

石亀さんと自分と大塚さんで今日と同じ『No.2とは?』というテーマで3人でほかのイベントに登壇させていただく機会があって。そのとき大塚さんがおっしゃっていたのは、「No.2はケツを持てる人であるべきだと思う」ということ。

そのときには、そんな事件が起きるとは誰も思っていないわけです。我々も「そうですよね~!」くらいの感じでノリノリで言っていたのですが。実際にあの事件が起きたときに大塚さんはケツを持たれたんですよね。

常日頃からなにかあったときに、自分がこの会社のケツを持つと思えている人をNo.2にする、そうしたマインドを持てる人に育てていくというのはやっぱりすごく大事なのだと。

やっぱりあそこで大塚さんが踏ん張ってケツ持ったから、和田さんが救われたところがあると思うんですよね。それによってコインチェックさんがこうやってまた新しいチャレンジができるようになったという面はあると思います。

今(塚原氏が)おっしゃったように、No.2がしっかりケツを持つということはすごく大事なことだと思います。

西川:そうですね。結局社長になにかあったら、No.2というか、経営チームで責任を取らなければいけないので、そうした意味で言うとケツを持てる人。

自分がNo.2に向いていると思うところ

西川:最後に1問だけ。私、この間、前田ヒロさんのインタビューでお話したのですが、「どういう人がNo.2に向いていると思いますか?」ということ。

ケツを持てる性格もそうですが、もう一つは、私自身は承認欲求があまりないんですね。それがけっこう重要かと思いまして。なぜかと言うと、No.1の人はものすごく目立つので、私も目立ちたいという思いが強過ぎると、No.1に嫉妬するようなことが出てきてしまうのかな、と思います。

西川:最後に、みなさんが「自分はこの部分があったからNo.2に向いていたんじゃないか」と思うところがあれば、一言ずつ教えてもらってもいいですか?

塚原:辛いときに逃げないとか。

西川:うんうん。

石亀:2つ挙げるとすると、僕の場合は極度に合理的であろうとし続けるところですね。自分を殺すのです。とにかくロジカルに、会社の成長にコミットする。社長がどうしてもこだわりを持つのであれば、自分がその意見を持ち続けるよりも、いっそ早く失敗したほうがいいと考えます。

あともう1つは、えっと、なにを言おうとしていたんでしたっけ(笑)。すごく大事なことを言いたかったのですが。あ、かなり近いのですが、あ、違う。ダメだ。

(会場笑)

嶺井:ダメじゃないですよ(笑)。大丈夫(笑)。

塚原:飲んでください。(石亀氏にお酒を渡す)

(会場笑)

トップの孤独と苦しみが理解できるところ

石亀:すっごく大事なこと、言いたいことがあったんだけどな~(笑)。

嶺井:先、自分がいきましょうか。

石亀:じゃあお願いします。

嶺井:自分がNo.2をやるために「これが活きたな」ということは、やっぱり社長経験なんですね。

西川:う~ん、なるほど。

嶺井:自分自身がトップをした経験がすごく活きています。一つはやっぱり、ケツを持つというマインドセットを持っていること。あとはトップの孤独さや苦しみがわかることですね。それがあるから、今の仕事をしやすい部分はあると思います。

西川:わかりました。

(全員石亀氏を見る)

石亀:あ、たいしたことない。

(会場笑)

嶺井:思い出しました?(笑)。

自分がNo.2であることにコミットする

石亀:たいしたことがない気がしますが、ケツを持つという話に近い。基本的にずっと無私というか、私を殺すという話をしているんです。本当に私を殺すということは何か? でも、私を殺し切るわけじゃないんですね。

結局、会社が成長すれば自分のためにもなるし、従業員の幸せがそのまま跳ね返って、自分の幸せにもなりますから。それをちゃんと理解したうえで、会社が成長することがすべて自分の幸せであると納得して、そのことにコミットする。

要は、「私はこうしたらいい」と思うのも、ロジカルに正しくないなと思ったらさっさと殺して、ほかにいいと思う意見があったらちゃんと採用すること。

CEOの場合は個人の感情などにこだわりを持ってもいいのですが、No.2として、僕がすごくこだわっていることは説明可能であること。ロジカルであること。そういった、みんなに対してちゃんと説明責任を果たせるという意思決定以外はしないこと。

CEOがわがままに振る舞える理由は、No.2がそうやって支えるから、というところをすごく思っているのです。ですから、そこにコミットする。逆に言うと、僕はNo.2であろうとすることにすごくコミットしている感じですね。

No.1が死んだらNo.1になりますけど。要は会社が求める成長に対して正しいこと、今自分に求められていることに集中しているという感じです。

西川:ありがとうございます。

No.1とNo.2の役割分担の決め方

西川:質疑応答の時間を10分くらい取りたいのですが、みなさんにでも、個別でもいいですが、なにか質問のある方? せっかくなのでなにか。

(会場挙手)

質問者:今日はありがとうございます。「役割分担」という言葉が何回かありましたが、得意不得意であったり、役割分担の決め方というのはなにかあるのでしょうか?

嶺井:では、役割分担と言った私からお答えさせていただくと、うちの場合はバックグラウンドがそもそも違うんですね。私はファイナンスバックグラウンド、上原はマーケティングバックグラウンドというところがあって。それでまず役割分担ができたというところですね。

それ以外のところと言うと、得意不得意だったり、今までの経緯から見て「彼が担当したほうがいいよね」、「自分が担当したほうがいいよね」というところを決めていきました。そうした判断でずっとやっています。

“社長ができないこと”が俺の仕事

石亀:1点だけ言わせてください。変わるかもしれませんが、僕の場合はなにもないんです。途中まで工学系だったのですが。今は基本的に、組織のことやビジネスの戦略、ファイナンスと、まったくやったことのないことばかりをやっているのですが。

そのときにすごく意識していることは、とにかくCOOということにコミットしているので、だとすると、“社長ができないこと”が俺の仕事なんですよね。正確に言うと。

社長ができない。できないことにブラインドスポットがあるとなれば、自分で勉強してそれをやるか。あるいは、誰を採用することによって補完するか。それが仕事だと思っています。

自分の役割分担について考えていることは、実は僕の場合は一度もないのです。とにかく社長ができないことをやる。社長がやりたい、またはできることはやらないということで、とにかくそのポリシーだけを持ってやっています。

塚原:私の場合は、バックグラウンドはけっこう似ているといえば似ているというか。どちらもエンジニアではありませんし、どちらもファイナンス経験があるなどの金融ではないといったような。どちらかと言うと、ゼネラリスト的な感じの2人なので、比較的似たような感じなのですが。

そのときに、私が徹底していたことが2つありました。まず彼の能力がズバ抜けてできるものに関してはもちろん彼。彼の才能自体をよりスピードアップさせるところは私ということと、彼が苦手なところも私(の択割)でした。その2つを役割分担してやっていましたね。苦手なことはやらなかったりすることが多いと思いますが、それを勝手に拾うようなことが多かったですね。

西川:社長と言うのは、赤坂もそうですが。「やれないことプラスやりたくないこと」がありますよね。

塚原:あ~あるある。

西川:私も、「赤坂がやれないことと、やりたくないことを全部やる」という役割分担だと言うようにしてやっていました。

質問者:ありがとうございます。 

西川:ありがとうございます。セッション2のあとも、ご登壇者のみなさまへご質問いただける時間がありますので、いったんここでセッション1を終わらせていただきます。ありがとうございました。

(会場拍手)