生産性を上げる意味をどう伝えるか
千葉正幸氏(以下、千葉):ありがとうございます(笑)。はい、他にお聞きになりたいことがある方。
(会場挙手)
質問者5:すいません。私も実はそういうメンタルトレーニング関係の仕事をしてまして。
田中ウルヴェ京氏(以下、田中):あやしいな、あやしいな。
質問者5:あやしいんですけど(笑)。京さんにいつもお世話になってるんですけど。
田中:いえいえいえ。
質問者5:それぞれ1つずつ別の質問別なんですけども。河野さんには、私自身が企業向けに研修をやってまして、生産性を上げるというのが僕にできることかなと思うので、そういうプロポーザルを出すんですけれども。
たまに「なんで生産性上げる必要があるんですか?」という質問が出るんですよ。生産性を上げる意味っていっぱいあるし、そういうものを説明させていただくんですけれども。結局、本人がそれを別に必要と思ってない、という状況があるんですね。
でも、当然、人口減少とかいろいろ考えて、世の中のGDP上げるとか考えると、「いや、上げたほうがいいじゃないですか」っていっても、本人が思ってない。本人というか企業としても、別にそれを取り組んでない。
そうなった時に、どう河野さんだったら、別に引けばいいということだとは思うんですけど、どうしてもそこに売り込みたいと思った時に、どのようなアプローチを取られるかということをお聞きしたいのとですね。
京さんには、本当にお忙しい姿をいつも見てるんですけども、それでもいつもこんなに素敵な笑顔を保たれていて、たぶんセルフケアをすごくされてると思うんですけれども。メンタルもフィジカルもそうだと思うんですけど、どんなセルフケアをされて、そのバイタリティを保たれているのかというところをおうかがいできればと思います。
河野英太郎氏(以下、河野):はい。生産性向上を課題と思ってない企業へのアプローチ、と理解すればよろしいですかね。たぶん日本の企業の特徴だなと思うのは。お話しされてる窓口はどういう窓口が多いですか? 人事のどの層でしょうか?
質問者5:まず担当者が出てきて、そこから。
河野:そうですね。なので、私たちもそうなんですよ。B2Bビジネスをやってる時に、日本ってだいたい中間からミドルアップダウンの意思決定ルートが多くて。だいたいミドル、骨抜きにされるんですよね。やっぱり経営者に行かないとダメだと思っていて。
とくに人事だと、評価項目にプロフィットを何パーセントまで上げるってのがないので、人事はとくに気にしないと思うんですよ。やっぱりビジネスライン、ないしは、要は株主からワイワイ言われる側、「なんでこんなに配当少ないの? それは生産性が悪いからだ」ということを言われる側のところに行かないと絶対ダメだと思っていて。
私たちもそういうふうにしようとしていますね。なので、1年目、2年目の営業メンバーにも、経営者と話すことを教育してます。どの会社もそうかと思いますけど。パスがなければつくるという、そういう手段をいっぱい種まきしてます。そういうことをやらないといけないなと、私自身は思っていて。
たとえば、Watsonってご存知ですか? 人工知能といわれるものですね。あれを導入すると非常に業務が効率化しますし、それこそ生産性がアップするはずなんですけど。
現場に落ちると、なんでも魔法のツールみたいな感じがして、「Watsonってこんなことできるの?」「え、できないの?」「こんなことできないの?」とか適当に話をして、うやむやになって、結局、「あ、やっぱWatson使いませんわ」って上げて終わりなんですよね。
そうじゃなくて、やっぱり「こうこうこういうことで、こう数字に出ます」というのを、上に持っていかないといけないんです。そのパスをどんどんつくっていくということを今やろうとしているんですよね。
なので、生産性向上を気にしてる人で、経営者がもし気にしなかったら、その会社は1回どっかで落ちていくしかないかなと思ってるんですけど、やっぱり経営者に行くべきかなと。結論は一言ですかね、いろいろとお話しましたけど。そんな感じを持ちます、一般的な回答ですが。
認めてもらいたいのに認めてもらえなかった20代を経て
田中:はい。私、「21歳でメダルをとったら、人生すべてバラ色だ」と当時思っていて。それで、バラ色じゃなかった人間でして。
メダルをとった後に、自分のデュエットパートナーの小谷実可子さんとか、当時のフィギュアスケートの伊藤みどりちゃんとか、スピードスケートの橋本聖子さんとか、このへんが同じ世代なんですけど。この今いった3人の中で、田中って微妙にマイナーですよね(笑)。
そのことに、いろいろ20代引退した直後に気づいて、メダル取ったからって、どうも質感が違うっぽいと。
有名・無名で、どうもなんかこう、社会に受け入れてもらう度合いがどうも違うみたいなことで、20代の10年間、やっぱりすごーく自分のことが嫌いだったし、「なんでそもそもシンクロやっちゃったんだろう?」とか。
メダルをとったけど、自分はすごくカッコ悪い。後になったら素敵だなと思えるようになって、でも、自分はカッコ悪いと思ってるとか、なんかすごい葛藤してたことがあっての今なので、そのセルフケアはなにもやる気ないんですよ(笑)。人生に対してやる気ってなくて。いっつも朝起きたら、「面倒くさいな」って言ってます(笑)。「あー、面倒くさ」って。
でも、面倒くさいだと怖いんです。何が怖いかというと、「いつ死ぬんだろう?」と毎日思ってる。子どもの時からずっと、「いつ死ぬんだろう?」「なんで生まれてきたんだろう?」って、毎日毎日思ってて。それがまずシンクロ選手の時の原動力でした。
「なんで生まれてきたんだろう? 名前を世に残すためだ」みたいに決めたから、最初はがんばっていて。でも、「あ、なんだ。がんばっても世に名前残せないじゃん」みたいなのがいろいろあって。でも、「じゃあ、何だろう? 何のために、死ぬ直前まで何してるとギリギリ死ぬのが遅くなるんだろう?」みたいなものがモチベーションで。
その意味では、若い時に知ったんですけど、後になってとても質感として大事に感じているのはガンジーさんの言葉で、「明日死ぬかのように生き、永遠に生きるかのように学べ」「Live as if you were to die tomorrow. Learn as if you were to live forever」というこの言葉をいつも書斎につけてるんですけど。
それを見て、なんか「今日が最後かもしれない」って言ったらすごくカッコいいですけど、モチベーションというよりは「最後かもしれないのでご縁を大切に」って。
20代の時にやっぱり「認めてもらいたいのに認めてもらえなかった」っていう思いがあまりに強くて、人と接せられない自分がいたもんですから。それを心理学が救ってくれたし。だから、その意味では、そういうメダリストっているから。メダリストだけじゃなくても。
そうするとやっぱり、自分が学んだことを伝えられたらなとは思ってます。ただ、本当にやる気ないなって、いつも思います。はい(笑)。以上、セルフケアでした。
千葉:ありがとうございます。他にどなたか、質問まだおありの方いらっしゃいますか?
田中:あ、ごめん。さっきの(質問者5)ね、あやしくないです。有能なアメリカの大学院を出た方。
千葉:あ、そうなんですか。
田中:すいません。科学的根拠にのっとった方です。
千葉:はい、ありがとうございます。どなたかいらっしゃいますか? せっかくの機会です。
「納得いかない」という気持ちをコントロールするには?
質問者6:今日はお話ありがとうございます。私まだ本を読んでないんですけど。
河野:ぜひ、売ってますので。
質問者6:はい(笑)。帰りに買って帰ろうと思ってます。ありがとうございます。なので、内容がズレてしまったら申しわけないんですが。
ビジネスの中で、やっぱり先ほど言ったような合理性という話もあるんですけれども、「納得いかない」とか、そういうことがあると思うんです。そういった時に、怒りじゃないですけれども、そういったものをメンタルマネージするコツというのを教えていただければなと。……なんか漠然としててすいません(笑)。
千葉:はい、ありがとうございます。どうでしょうか?
河野:ご自身が納得がいかない? 相手に納得させる?
質問者6:たぶん、使役。先ほどのお話を聞くと、「使役じゃないよ」とは言われたんですけども。たぶん自分の意見を、上司や同僚に、通すわけではなくて理解したうえでの回答がほしいとか。
そういった時に、そういう回答が得られなかったり、たとえば先ほど言ったような、Aって言われて、「いやでもBとかCが絶対合理性だ」と思っているのに、結果そうじゃない。ということって、やっぱりビジネスでは絶対にあるところだと思うんですね。
そうなった時に、「納得いかないな」というような気持ちをどうコントロールしていくかって難しいかなと思ったんですけど。
河野:そうですね。2つぐらい回答があると思ってまして。1つ目は、同じシリーズのオレンジ色の本があるので、それを買って……。
(会場笑)
田中:なにそれ! ダメダメ、それ。まず緑が先。
河野:上司の机の上に置いておくというのが1つですね。そこは読んでほしいところに付箋を貼っておく。
(会場笑)
あともう1つ、真面目な回答として、後藤田5ヶ条というのがあって。全部暗記してるわけじゃないんですけど。
後藤田正晴という人が中曽根内閣の時に官房長官をやってた時に、部下にいろいろ言ったらしいんですね。官房長官って内閣の中の閣僚なんですけど、各省庁からの出向組をまとめてた人なんですね。
それで「省益じゃなくて国益を優先しろ」とか5ヶ条あるんですけど。(その中に)「違和感があったら常に意見しろ」と。やっぱり「黙ってないで意見しろ」というふうに言われました。その次に書いてあるのが、「ただ、決まったら従え」と。
だから、たとえば「上司のご判断には従いますが、私はこう思います」という意見の仕方だと、向こうとしても受け入れる要素もあるはずなんですね。
単純にこいつは反抗してるわけじゃなくて、国益に、ないしは部や課の益、チーム目標を思って言ってるんだってことが、わかってくれると思うんですね。そういうコミュニケーションをするといいかな、と。
相手を尊重しつつ、自分の意見をロジカルな面で言う。できれば「私は結論に納得したいので、相談に乗ってください」というようなアプローチをすることでいけるかなと、私は実践面でそういうかたちでやっています。いかがでしょうか。
納得できない状況を文章化する
田中:この実践をするために、これが建設的な表出行動ですよね。できればこれをやれたらいいじゃないですか。なので、ここにいく前提で1つやっていただきたいのが、本の中で感情の4象限って書いてあります。
納得できないというこの状況を自分はどう感じてるのかというのを、悪いストレス感情、たとえば、イラつく、焦る、落ち込む……単純にしちゃってますけど、この3つで納得できない状況を文章化する、というのをやってみてください。
それで、イラついてるということはないのかもしれないし、それとも、もしかしたら「いや、もっと上司はこう聞くべきよ!」ってちょっと怒ってるのか、それとも、「ハァ、自分がバカだからですよね」と思いながらガックリしてるのか。
納得できないというストレッサーに対して、どう感じている自分がいるかというのを、まず自分で知っておいて。まだなにも解決してないですよ? でも、その時に、「あー、自分はこういうふうに言われて納得してないことに、こんなふうにイラついてるし、こんなふうに落ち込んでるんだな」って。
まずこの状況の私というのを知ることで、翌日行っていただくと、その状況で違う目で見れます。なんも変わってないのに「変わった!」みたいな。その時にストラテジーをしっかり持って、タクティクスを使ってやれると、自信になります。
何の自信かというと2つ自信が持てて、納得できないイヤな上司のおかげで、1は自分の感情の可視化、つまり、セルフアウェアネスができる。つまり、自己コントロール感という感覚がわかる。
2番目は、「あ、表出行動って変えられるんだ」。つまり、「使役動詞はないんだ」っていうことを実感として感じられると、「なんでもオッケーよ!」みたいになります。それで、なんでもオッケーじゃないってことに、そのうち気づきます。
たとえば、どう考えても納得できない事象ってありますから。その時に、「あ、解決行動は出ないな。でも、今、自分はこんなことで不公平を感じて、不正を感じるな」だけでも、体の内部の血管がよくなります。自律神経が整います。たかがこんな人のためだけに、自分の身体を崩さなくてすみます。変えられないものにはね。そういうふうにしてみてください。
熱く語りました、今(笑)。
(会場笑)
質問者6:ありがとうございました。
自分の感情に気付くことの重要性
千葉:そろそろ時間が迫ってきたようなので、じゃあ、最後。
田中:短く。……あ、こっちが短く答えるわ。
(会場笑)
質問者7:この本、母親が読んだほうがいいんじゃないかなと思ったんですけど。自分は今、世代はもうちょっと変わってるんですけど、マイナス評定で育てられたんですね。
目標というのが実は明確に設定されない状況で、世間体とかそういうのでずっと育てられて、けっこうネガティブシンキングな人間になってしまって。今、緑の本じゃなくて、緑の手帳の世話になってるような状況なんですけれども(笑)。
これは、もうちょっと世代が変われば、ウルヴェ先生が新入社員研修などをする機会が減って、若い人と接する機会が減るかもしれないんですけど。母親として、もうちょっとお母さんに読んでもらって。
とくに今、貧困世代とか、片親の世代とか、ごはんを食べさせられない世代の人に、ゆとりがないからこそこれを読んで、子どもの目標設定、子どもが自立するまでは親が子供をスタートに導かなきゃいけないかなと思うんですけど、これお母さん向けに読ませたらどうかなと思ってるんですけど、どうでしょうか? 簡単にYES、NOでいいんですけど。
田中:お母さん向け出してるよ。河野さんと違ってぜんぜん売れてない。
(会場笑)
ごめんなさい。書店には出てないの。Amazon行ってくれる?
(会場笑)
せっかくね、出版社紹介したら、こっちだけ売れちゃって。お母さん、あるある。
質問者7:あります? じゃあ……。
田中:絶版になってるのも若干あるけど。
(会場笑)
ありがとうございます。ごめんなさいね。
千葉:ありがとうございます。じゃあ、時間がそろそろですので、最後にお二人に一言ずつ、この本を出して、どんな方にどんなふうに読んでいただきたいかということ、ご自身にとってのメンタルマネジメントの話を、一言ずついただけますでしょうか?
河野:私は最初、冒頭申し上げたように、ホワイトカラーの生産性向上ということで、いつも活動していて、組織に所属して、日々自分本来のパフォーマンスを出せない人のために書いた感覚があるので、ぜひなるべく多くの方に(笑)。
どんな人にというと多くの方になんですけど、読んでいただいて、より職場が楽しくなればいいかなと本当に思っています。ですので、そういう方になるべく多く読んでいただければと思っています。ぜひ、よろしくお願いいたします。
千葉:ありがとうございます。京さん。
田中:はい。この『メンタルのコツ』を出していただいたのは河野さんのおかげです。そして、本当に出版社のおかげで、ありがとうございます。
この本に書いてあるとおり、感情に気づくということをすると、そりゃあイラつくようになれちゃうし、焦るようになっちゃうし、落ち込む自分に気がつくという。ごめんなさい、最初はストレスに感じるかもしれない。これがしかも非効率に感じる時も、1週間ぐらいはあるかもしれない。
仕事の中で、すべて無感情になってたほうが効率がいい自分を今までつくりあげてたかもしれないけど、がんばって読みながら自分に当てはめると、実は急がば回れじゃないですけど、実はすごく効率性のいい自分が出てくる。
あともう1つは、感情4象限の右側ですよね。要は、ちゃんと悪い感情に気づくようになると、自分のワクワクとか、楽しいとか、「あ、このことには落ち着くんだ」みたいな、柔らかな、よいといわれる感情の質感も高まるので。わざとイラつく、焦る、落ち込むを出すと、そちらも高まるということは、何度も言いますが、実は効率も上がるし生産性も上がるしそのことが世代継承できる。
つまり、自分の反省がすべて言語化できるようになると、下の世代の人たちに継がれるなんてことは、それは40代、50代になった時の我々のモチベーションになったりもするなんていうことで。
ぜひみなさんがこの本を読んでいただいて、ご自身で周りと一緒に生きていっていただければと本当に心から思います。この機会をいただいて、本当にありがとうございます。
千葉:ありがとうございました。じゃあ、本編はここらへんでおしまいにして、この後、サイン会に移りたいと思いますので、まずお二方に拍手を。
(会場拍手)