夫婦の未来設計と実父の存在

渡邉さやか氏(以下、渡邉):「今はないけど、3年後だったら別に駐在妻になっていてもいい」と思っているあたり、もうちょっと聞きたいなって思っていて。それはすごいしなやかだなと思うんですけど。

子どもが小さい方が大変なんじゃないかなって思うんです。今は行かないっていうのは、なぜなんですか?

池原真佐子氏(以下、池原):本当は「今後どうする?」という夫婦の未来設計を話したときに、「正直なところ2年後3年後までわからないよね」となったんです。今、ベストを尽くすか尽くさないか、それこそ今の選択で未来と変わってくる。「だから1年後にもう1回話し合おうよ」という判断をしたんです。なので臨月だけど日本に残るっていう。

(子どもを)1年間育ててきて1歳になった。「じゃあ2歳までにどうする?」というプランを私が考えています。産後3週間後に復帰して、今この時点で1年前とはまた違うお仕事も見えてきている。私の選ぶ未来は変わるので、常に今にベストを尽くすことだけを考えます。

渡邉:すごいですよね。そうやって今にフォーカスしながら、最初のキャリアのNPOから今の起業まで大事にしていることとはなんですか? いろんな選択をするときに大事にしていることとか、立ち戻る思いなのか、立ち戻る場所なのか。あるいは立ち戻るのではなくて、いつも決断するときに大事にしているものってありますか?

池原:「運」です。私、就活の時から常に長所欄で「運がいいこと」と書いてたんです。自分は運がいいって信じ込んでる。

渡邉:言い切れるのがすごい。

池原:長所は「運がいい」(笑)。なので、自分がなにを選んで失敗して打ちのめされたとしても、きっと大丈夫。

渡邉:なんでそう思えるんですかね。自分は運がいいぞ、なにがあっても大丈夫だぞっていう。

池原:父親の影響が大きいかもしれません。小学校でいじめに遭うとか、勉強ができずに引きこもるとか。いろいろあったんですけど、常に父親が私がいい方を見てくれたんですね。

例えば、「テストで30点しか取れなかった」と泣いて父親に見せても、「30点も取れたんだね、すごいね」と言ってくれた。父が常に「真佐子は運がいいから」と言ってくれた。受験で失敗して大泣きしているときも、「おめでとう」「これで挫折を知ったお前は運がいい」と両親は拍手。

失敗も多いし、みっともないとか怒られるとか人と喧嘩したり、常にあるんです。でも「これって運がいいよね」と思うようにしている。

渡邉:なるほどね。日々なにかが起こってをも、どんな選択肢を迫られたとしても、自分のそこでの決断は自信を持って……なのかな。

池原:自信がないながらも、なんとかなるかなっていう。

人のことを考える仕事だからこそ「自分を大切にする」

渡邉:(会場の参加者に向かって)今、真佐子ちゃんに質問したいことがあれば。この規模でなかなかトークイベントをやらないし、こんな距離が近くて、フランクに聞いてもらえればなんでも答えてくれる。なんかありますか? 大丈夫ですか?

質問者1:自分を大切にするとか、私もすごい成長や育成に対して本当に興味があります。それを糧に今生きているような感じなんですけど、真佐子さんが生きていらっしゃる中で、大事にしてる習慣はありますか?

池原:習慣って無意識になっているから難しいですね。あえて言うなら「自分を大切にする」ということですね。

私はうっかりすると自分を粗末に扱っちゃうんです。人の成長に貢献したいとか、人のことばかり考えていると自分をないがしろにしていることも多い。自分のことは後回しになってしまう。だから、意識して睡眠をしっかりとったり、体にいいものを食べたり、自分をケアするということは常に心掛けています。

心と体は繋がっているので、フィジカルなところをケアしないと、なんか前向きになれないですね。

製品化へ1年かかった「気仙沼の椿油」

渡邉:他にありますか? 大丈夫ですか?

池原:さやかさんに質問とか。

渡邉:私は今日は真佐子ちゃんの話を聞く側なんですけど(笑)。

池原:さやかちゃんはめったに日本にいないんで。こんなに活躍している女性もめったにいないと思うんですよ。

渡邉:さっき言った、陸前高田と大船渡地域は気仙地域というんですけど。気仙地域の椿の油って、実は作るのに1年ぐらいかかっているんですね。当時IBMで働いていて、もちろん事業計画はやったことはあるんですけど……。

池原:商品を作ったことないですか? 事業モデルはわかっているけど、自分では作れないってことですね?

渡邉:そういったところから現地に入り、さらに難しかったのは東京や大きな資本主義の中で契約書にすれば、僕らのビジネスになるという流れではなかったんですよ。地元の人と「この油を使いたい、この油は今までクッキングオイルにしかしてなかったけど、付加価値を付けて化粧品にしましょう」という話に1年かかったんですね。

それは大きな資本に飲まれることによって苦しくなってしまう地方地域とか、あるいは途上国もそうなんですけど。工場を作って100人とか200人雇用しました。だけど、ある日突然工場が潰れました。それでセックスワーカーになったりするわけですよ。

東北って、マーガリンのサンプル工場があったりとかしたんですけど、それも全部閉鎖なんですよ。そうするとその後、仕事がないというのを見てきた。「そういうことをするのであれば、一緒にはできない」と。

そして当時は石川さんという方が椿の油を絞っていたんですけど、息子さんを亡くされたんですね。息子さんを亡くされて、椿の事業もやめようというところから入っていって。「いやいや、椿はこの地域の市のシンボルですよね。こんなこともぜひ一緒にやらせてください」というのに、実は1年かかっているんですね。

もちろんハリウッド化粧品さんにご協力いただいていたんですけど、そのプロセスの中で1年ぐらいかかっています。

どんなマネージャーも悩んでいる

渡邉:ここには、私がなぜこの10月、11月とヨルダンのガザに行って難民を支援するのか、アジアの女性起業家の支援をするのかということと、けっこう似てるところがあります。

真佐子ちゃんが向き合っている人の成長、自分自身のことをどう見つめるのか、そして自分がなんで生きてるのか、おそらくこれはどの事業でも一緒です。

エグゼクティブコーチングをしているとまさにそうだと思うんですけど、人の成長と事業の成長は一緒なんですね。自分が変わらないと事業も変わらない。従業員が10から100人まで増えると運営の仕方も変わるというお話がありますけれども、それはすごく自分自身に対してはまだまだなんですけど。

東北もそうだし、アジアの起業家を見てもそうだし、これから向き合う難民の方々を見てもそう思います。でも怖いんですよね。偉くなればなるほど、エグゼクティブって、意外と大変ですよね。

池原:コーチングするときに、もちろん部下とかにもヒアリングするんですけど。居酒屋で聞くような話を延々と聞くわけです。

どれだけ悪人のように言われてるマネジメントでも、苦悩の中にいます。部下に言えること言えないこと、言っていいこと悪いことの間で苦しんでいる。それを見てると、本当に「人のマネジメントって大変だな」と思います。

習慣の意識化でコンフォートゾーンを維持する

渡邉:(質問者が)習慣について聞いてくださいましたけど、無意識の習慣はあります。ドラッカー・スクールのジェレミー・ハンター先生が言うには、無意識の意識化をすることによって、自分の気付いていない、自分のいい習慣に気付くんですよね。いい結果が出てる時って、無意識に自分がなにかいいことに向かっている。だからその結果、いいことが湧いて出るんですね。

ネガティブなことについては、けっこう反省するじゃないですか。「今回、なんでこれがうまくいかなかったんだろう」って。それも大事なことだけど、結果が出たときに「なぜいい結果が出たのか」と考える。そこにあるのは、結果だけじゃなくて、一瞬一瞬の自己判断。

どこでなにをしたのか。「リフレッシュするときにおいしいものを食べますか」という習慣を意識化することで、自分が今凹みそうだと気づき始めたことにより、安定的なコンフォートゾーンを維持できるんですって。

これ、真佐子ちゃんも絶対にその習慣があるはずなんだろうなって思うし、常に明るいけど、落ち込むこともあるだろうなって思うし。(池原氏が)すごいなと思うのは、子育てを1人でしない。旦那さんが日本にいないからこそだと思うけど、子育てする中で人に頼るようにしたというのはすごいことだなって思って。

人に頼りながらも、自分らしく、一緒に楽しく生きていくという気づきも含めて。

池原:私は強がりなので、全部抱え込むのが正義だと思っていました。でも子どもも産まれて、会社もやりながら子育てするってことが想像以上に大変で。そこで優先順位を意識するようになりました。たくさんの方の手を借りることも躊躇しません。

私の義理の両親も「たくさんの方の手を通ってきた子は必ずいい子になる」と言ってくれます。近所の友達が沐浴手伝いに来てくれたり、あやしに来てくれたり、ご飯持ってきてくれたり、いろんな方の手を借りてなんとかやってる。それが子どもにとってきっといい影響になるし、そこはすごく自分はハッピーになれるなって思いました。

弱さを出すことが人の魅力につながる

渡邉:すごいですよね。自分はここを外さない。ここは子どもと過ごすけど、他は頼ってもいいんだって。仕事も一緒ですよね、

池原:女性が産後復帰したりとかワーキングマザーとか、あるいは管理職になったときに一番の問題点は「抱え込みすぎ」ってよく聞くんです。自分でなんとかしなきゃって。でも他の人から見ると、仕事のプロセスがよくわかりにくいとか、任されてない気がするとかに繋がってしまう。

うまく頼る。お願いをする。「ごめんね、これできないんだ。ちょっと一緒にやってくれる?」って弱さを見せるっていうことが、結果的にチームとして大きなことができるのかなと思います。

渡邉:意外と女性はそこが得意なはずなんですよね。人に頼ったりとか。だけど自分に自信がなかったりするから、できない、言えない、頼っちゃいけない。頼ったら、「(自分は)できないと思われちゃうかも」という恐怖心があるのかなって思います。

そろそろ最後になりますが、こちらの商品は今日はこちらに置いていますが、真佐子ちゃんも本を出されたので。何か月前?

池原:5月のゴールデンウィーク。3ヶ月半ぐらいですね。

渡邉:そうですね。真佐子ちゃんの本も今日こちらで売っているので、ぜひご興味があったら手に取っていただけたらと思いますが、本の中にあることも含めて最後にみなさんにメッセージをお願いします。

池原:1人ではできないことってすごく多いし、そういう意味で弱さを出して周りの人にお願いして、一緒になにかやっていく。これが人の魅力につながると思います。

渡邉:ぜひ手に取っていただければ。チェック項目があるので。

池原:そうですね。

渡邉:今日は日曜日の午後にお時間を取っていただいてありがとうございます。そして真佐子ちゃんも来ていただいてありがとうございます。

(会場拍手)