『ナウシカ』以来の喜びを味わった

司会者:最近公開いたしました『レッドタートル』についておうかがいしたいんですけれども。まず、『レッドタートル』というよりは、この監督との出会いってどこからスタートしたんですか?

鈴木:これは、『岸辺のふたり』、本当のタイトルは『Father and Daughter』で、それを見て、すごく感動というのか、これはすげぇ作品だなって。実際は、たった8分間。でも、その8分間のなかにいろんなものが込められている。

そんなときに、監督のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットとかなんとかって人がね(笑)。これ言いにくいんですよ。僕、100回くらい会ってるんですけど、いまだに言えなくて。しょうがないから「マイケル」なんて言ってるんですけどね(笑)。(マイケルが)ジブリに遊びに来たんですよね。

司会者:作品を観る前に?

鈴木:『Father and Daughter』を観たあと。それで、その作品をめぐって、「あれ良かったよ」ってことで、やってるうちに仲良くなっちゃったんですよ。彼は日本が大好きで、よく来日するたびにジブリへ寄ってくれたので。

そうこうしている間に、ふと思いついたんですよねぇ。「彼で長編アニメ作ったらどうなるのかなぁ」って。

僕は、思いつくとなんでもしゃべっちゃうんですよ。それで、マイケル捕まえて、「長編作らない?」って。そしたら、彼は、そんなに悩みは深くなかったですよね。若干の逡巡はあったと思うんですけれど、「ジブリが手伝ってくれるなら」って言われたんですよね。

そしたらやりたくなっちゃったんですよね、なんにも考えてないで。ただ単に、僕が観たかったんですよ(笑)。それだけ。

みなさんに、誤解されることを承知で言うと、こんな気持ちになれたのは、『ナウシカ』以来でしたね。やっぱり純粋に作りたかった。『ナウシカ』のときもそうでしたからね。だから『ラピュタ』のときは、「え~また作んなきゃいけないの」っていうね(笑)。この作品は大好きな方が多いのでこんなこと言うと、本当怒られちゃうんですけどね。

それで言うと、『ナウシカ』以来の喜びを味わったんですよね。なんにも考えなかったもん。とにかく映画ができることが楽しくて楽しくてしょうがなかったんですよ。

司会者:それが今となって『レッドタートル』ができたと。

鈴木:そう。「実現できて、よかったな」っていう。

ショートフィルムはまるで俳句?

司会者:そのきっかけがショートフィルムから始まった、ひとつのきっかけですけれども。今、宮崎監督が長編を引退されて、短編のショートフィルムを作っておりますけれども。鈴木さんにとって、ショートフィルムの魅力ってなんですかね?

鈴木:コンパクトに、短い時間の中に自分の考えていることを押し込める。その楽しさでしょうね。すごく凝縮されるじゃないですか。いたずらに長くないですからね。

僕は、ショートフィルムというのは、昔で言うと俳句かなって思ったことがあるんですよ。俳句って、五七五の中にすべて、そのなかでひとつの世界を作るわけでしょ。そうすると、たぶん同じようなことがある。

だから、例えば、松尾芭蕉なんてそれを作った人として有名なんですけど。なおかつ、彼は俳人として、日本全国を自分の脚で歩いて回るわけでしょ。

彼を誰が支えたかと言ったら、ある地域の偉い人ですよね。彼のために、宿泊から、食事から、そして彼が生活をやっていけるだけのなにがしかを。そうすると彼は、ひゃらひゃらひゃらっと俳句を書くわけでしょ(笑)。そういうもんじゃないかなって、どっかで思ってるんですよね。

司会者:ショートフィルムは俳句のようだと。

鈴木:(会場に)ショートフィルムを志す人が多いと思うんですけど、僕が思っていたのは、現代で言うと、なかなか世に出るのは難しいじゃないですか。ここはちょっと特別だと思うんですけどね。

僕が本当に思ってるのは、世界短編映画祭があって、そういうところで賞を獲るというのが、ものすごく大事なことになってくるんじゃないかなと。要するに、興行で、大向こうを張って、いろんな支持を得るというのは難しいわけだから。

とはいえ、『Father and Daughter』『岸辺のふたり』がアカデミー賞を獲ることによって、世界のいろんな人に観てもらえたわけですよ。そうすると、それに近いことがあるといいですよね。

ロシアの、ユーリ・ノルシュテインっていう人がいて。この人は、本当に短いものから、ちょっと長くて15分とか20分とか、いろいろ作って来たんですけどね。

ロシアがソビエト連邦、いわゆる社会主義国家だったとき、ソビエトにもいろんなアニメーターがいたらしいんですけど。僕はあえて言っちゃいますけど、このジジィ、ソビエトの短編のアニメーションのために取った予算、1人で全部使ってたらしいんですよ。

司会者:すごいですね(笑)。それもう。

鈴木:ちょっと問題あるでしょ?

司会者:問題ありすぎですけどね(笑)。

鈴木:問題あるんだけれど、その人の作品を観てると、それだけのお金を使う能力がある。才能がある。そして、できたものがすごいんですよ。

ゴーゴリの『外套』っていうお話があるんですけれど、それをアニメーションで作ってる。たぶん全部で30分くらいのやつですよ。これは、中編っていうんですかね。もうかれこれ、20年くらい作ってるんですよ。

みなさんご存知のように、宮崎駿という人は、今から3年前、引退宣言をしたんですよ。彼はそのとき、こういう言い方をしたんですよ。「長編からの引退である」って。正確に言うと、商業映画からの引退だと思ったんですよね。

司会者:あ~なるほど。

鈴木:彼といろいろ話してると、短編もさることながら、短編の企画もいろいろ話し合ってるんですけれど、突然、長編の企画が出てきたりするんですよね。「この人、なに考えてんのかなぁ」って思ったりするんですよ(笑)。

思うんだけれど、そんなことやってたら、ある日、思いついたんですよ。宮崎駿って75歳で、今、「長編のこういうのやったらどうかな」って言ってて、そしたら、ふっと思い付いたんですよ。誰か、100億円くらい出してくれないかなって。そういうのが本当にできたら、そういう人が出てきたら、夢じゃないですか。

みんな1人でやりたがる

司会者:若手クリエイター、若手のプロデューサーにとって、今、本当に必要なこと、足らないもの。どういったものがあったりしますかね?

鈴木:僕は本当に知ってるわけじゃないですけれど、僕の周りにもいろんな若い人がいるから(話を)聞いてると、ちょっと1つだけ気になることがあるんですよね。みんな1人でやりたがる。これは違うんじゃないのって。

こうやっていろんな技術が発展してくることによって、1人でできるものもあるかもしれないけどね。僕は、仲間を作って、みんなで作る。けっこうおもしろいんですよ。これは本当にそうですよ。

だから、「そういうことをやってみたらどうですか?」って。そうすると、ここは誰がやったかなんて、全部関係なくなるんですよ。僕がとか、私がとか、いわゆる自我が関係ないんですよね。そういうことを、みなさんに「どうかな?」って、僕は提案したいです。

司会者:最後に1つお聞きしたいんですが、今、監督が『毛虫のボロ』というショートフィルムを作られていますけども、あえてこれは3DCGに挑戦して?

鈴木:企画って、「これをやりたい」って言っても、できないときがあるんですよ。それはなにかと言うと、スタッフの力量。僕らは、常に、そのスタッフの力量に見合う企画を考えて来たんですよね。手描きの人も、CGの人も、なにかを探しあぐねている感じなんですよねぇ。

今回の『毛虫のボロ』が12分なんですけど。それだけのものを作るというときは1人じゃできない。そうするとね、優秀なアニメーターが欲しいんですよ。

今は残念ながら、かつてうまかった人たちは、みんな歳をとり。じゃあ「CGのほうで頭角を表している人は、どの程度いるのか?」僕は残念ながら、そういう人になかなか出会えない。そういうときって、本当に、どうしたらいいか難しいんですよ。

司会者:NHKさんで、『毛虫のボロ』のドキュメンタリーを放映。

鈴木:よくご存知ですねぇ。けっこうおもしろいと思いますよ。宮崎駿の苦悩が出てるんですよ。ぜひ、お時間の許す方は見てください。

司会者:ぜひご覧いただければと思います。ということで、まだまだ聞きたいところなんですけれど、ちょっとお時間が来てしまいましたので。

鈴木:短いですね(笑)。

司会者:1時間くらいですね。ありがとうございました。また別の機会にでも、こういったトークができればと思います。本日はありがとうございました!

鈴木:ありがとうございました。

(会場拍手)