不足しているのはライターだけではない

馬渕邦美氏(以下、馬渕):先ほど宮脇さんの楽しいスナックの写真とかあったんですけど。私は前職もオグルヴィで、ここ何年かはずっと外資エージェンシーのトップなんですけど職場は色々なカラーがありますね。

今、海外ではニューヨークタイムズとか、ワシントンタイムズなどトラディショナリルメディアでリストラが起こる度に、ジャーナリストの人たちが、世の中に溢れます。

クライアントサイドとか、エージェンシーの人たちがそのジャーナリストを雇って、コンテンツチームを立ち上げるというサイクルが出来ていて、今のコンテンツマーケットのベースができているところがあるんです。

まだ日本では、フリーのジャーナリストの流動性は低い気がしますが、あの場を使って、集めて、育成していこうという戦略なのでしょうか?

宮脇:はい、作り手は不足しています。伝えたいことが今これだけたくさんあって、いろんな企業さんが「こういうことやっていきたいんです!」という相談はたくさん受けるんですね。

うちの会社も小さい会社なので、正直、請けきれません。そうなったときに、外部のフリーライターの方とかと一緒にやるんですけども、今度は編集者が不足してくるんです。

よく「書き手がいない」と言われるんですけど、それをきっちり編集できる、企画できるという人も足りない。それを増やすのもコンテンツメーカー側の役割かなと思っています。我々は小さいながらもそれに取り組んでいるというのが1つ。

もう1つ、コンテンツを作るのは必ずしもライターとか企業側だけではないとも思っています。CGMのコンテンツは一般ユーザーが、生活者が作りますよね。そして、これは誰もコントロールできないコンテンツなんです。

例えば、もうすぐ節分ですけど、某コンビニでは今節分フェアをめちゃくちゃやっています。そして、どうやらアルバイトにまでノルマを課している。「売ってこい」と言っている。売れないやつはバイト代から差っ引くとか、買い取れというような、Twitterでそんな書き込みが溢れているんですよね。

そんなことをやったら、絶対ネガティブなことしかTwitterに書かれないじゃないですか。コンビニ大手が命令しているのか、オーナーや店長が強要しているのか私にはわかりませんが、人としてそんなこと絶対やっちゃダメですよね。やられて喜ぶ人はいない。コンテンツを作る以前の問題です。

アルバイトの子たちに「みんなでこれ、試食会やってみるか」「がんばったからこれ、家に持って帰りなよ」だったら、逆に「会社からこんなんもらった、うれしい」みたいな投稿をしてくれる可能性もあると思うんですね。そうすればその企業のイメージですとか(上がるじゃないですか。恵方巻きを買い取らせているらしいなんてログが流れたら、どう考えても好感度は下がります。

書き手・作り手という意味では、みんなが情報発信者で、フラットなんです。プロの書き手に依頼することもありますが、市井の声も大事にしていくというのも含めて、コンテンツマーケティングに必要じゃないかなと思います。

書き手として自立してもらうシステム

馬渕氏:なるほど。江幡さんお願いします。

江幡哲也氏(以下、江幡):先ほどもご説明したように、うちは書き手としての専門家を育てているんですね。そこで、創業以来ずっとあるのが「専門知識があって、サービス精神があっても、筆力はない」という人がいっぱいいることなんです。とはいえ、「インタビューして、ライターが書いて、カメラマンを手配して、編集者をつけて……」となったらコストが合わない。

「インターネットの構造の中で、ユーザーのみなさんが使いやすい(読まれやすい)ような書き方や切り口をどうするか」などライティングスキルを育てていくということを合わせてやっていて、書き手として自立していってもらうこれを繰り返してきています。

その結果、色々な分野・界で数多くの生活ジャーナリストを産み出してきています。

ぜんぜん違う話なんですけどももう1つ。インターネットによって一次情報を扱うユーザー側の力が増えてると思うんですね。だから、もっと企業はマーケティング目的で積極的にユーザーが扱いたい、扱いやすい素材を提供するべきだと思っているんです。特に生活分野で役立つ素材を一番持っているのは実は企業のみなさんなんだと思うんですね。

企業の中で、その製品を開発することに心血を注いでらっしゃるようなみなさんの現場の生の話とか、思いとか、研究成果だとか、これらを売らんかなのコミュニケーションじゃなくて、もうちょっと手前の加工されてないものを、もっともっと出すべきだと思っていてですね。

All Aboutの中でも、実は1,300のテーマのうち50ぐらいかな。スポンサードサイトといいましてこのテーマはこの企業さんが一番ネタを持ってらっしゃる、という企業様に公式テーマを開放しているんですね。

編集は我々がやりますが、そこに専門家として企業の方に立っていただく。その場合はできれば宣伝の方ではなく、実際の製品開発現場や研究セクションの方に立っていただく。そういったネタというのは、すごくウケがいい。

グループに「サンプル百貨店」っていう消費財を中心にお試し買いができるサイトがありまして非常に伸びています。ここでは1,000人規模のリアルのイベントを繰り返しやっています。

メーカーの製品開発をしている当事者の方が直接生活者に向けてプレゼンをし、その場で生活者がその1次情報を加工してネットで発信していくことをしています。サイト上での取り組みも含めて数百万の生活者の声、口コミが生成され、ユーザーのお試し購入の背中を押す構造になっています。

情報のAI化のレベルが上がっている

馬渕:みなさん今、デジタルパブリッシャーであったり、デジタルのコンテンツメーカーのお立場での話をしていただきましたが。新聞も雑誌社も、既存のメディア・パブリッシャーもあり方がどんどん変わっていくと思っています。

これから3年先、既存のパブリッシャーも含めて、世の中のコンテンツマーケティングがどう変わっていくかをみなさんにお聞きしたい。小林さんいかがですか?

小林弘人氏(以下、小林):最近だと、「Slack」を使って、有料で配信するコンテンツが出てきてたりしますね。

あと作家をクローズドなソーシャルメディアで育てていって、育ったら出版社に高く売りつける。そういうエージェントも、マーケティング業界向けにやるのも面白いでしょうね。

もう1つ注目しているのが、「ワードスミス」というAIのエンジン。僕はずっとテスターでしたが、最近はスポーツ中継とかフィナンシャルのレポートとかは、実はそのソフトが書いていたりします。

日本語だと、まだ自然言語でそこまでいくのは難しいかもしれません。でも、英語だとすでにけっこう達成している。これは下手なライターが書くよりも、ぜんぜんOKだなというレベルに上がっているんですよね。

おそらくある家電メーカーでは、英文に関しては、顧客向けの文章をそれぞれ違う文章で同時に生成して、30万通とか顧客に向けて送りつけてたりするレベルでしょう。

AIに助けられて、人間が最終的にそれを整形したり、デザインするようなコンテンツマーケティングは、きっと登場するだろうと思っています。といういか、もうすでに萌芽はあります。

馬渕:日経さんも、株式情報というんですかね。なかなかにAI化が進んでいたりしてますけれども、これからもっと進んでいく感じですよね。その後も、トラディショナルなメディア……とくに新聞社だと、そういったこと書いてた人たちって「いらない」という感じに、なっちゃいますよね?

小林:いや、なんないですよ。ぜんぜん。どんどんそれがコモディティになっていけば、今度は、検索で拾えない情報ソースの取得や心を動かせるライティングスキルがモノをいう。

馬渕:そうですよね。

小林:スキルがコピー不可能なものであれば、それが逆に価値をもちます。

常に揺り返しなので。ソシャゲが流行ったとき、重厚長大な作品を作って作家さんたちがバカにされたときがありましたが、逆にソシャゲがコモディティになると、その作家性が1つの希少価値になっている。いつも時代はバランスを取ろうとして揺り戻しを起こします。

だから、どっちかが偉いとか、そういう話ではないかな。

馬渕:もっと、ヒューマンなほうに、技のほうによってくるという。

小林:そうなるだろうし、技を助けるのが、マシーン。

「テキストにすると価値のあるもの」はどんどん出てくる

宮脇:あと、コンテンツという意味でいうと。講談社さんが、自らまとめサイトを作るという話がこないだなにかの情報で出てたんですけど。

馬渕:出てましたね。

宮脇:出版社って過去のものすごいアーカイブがあるんですね。ネットにない、絶対出てないような記事の宝庫なんです。

朝日新聞さんが「withnews」を始めたときは、膨大なバックナンバーの写真データを再活用して書くことによって、すごくおもしろいヒットする記事がたくさん出たんですね。

そういう意味では、今まで出版社の積み重ねのものを掘り起こして、それを出版社の中でキュレーションして出していく。それが価値あるコンテンツになり、企業さんがそういうメディアをスポンサードするようになる、記事広告を依頼するといった道はあるんじゃないかな、と。

馬渕:今までの膨大な資産を活かしていくという感じですね。

石村浩延氏(以下、石村):僕もまさに宮脇さんと同じことを言おうと思ったんですけど。以前からビジネス誌でも、大きな事件があったときに、その会社の過去の事件とかを特集して1つの出版をしたりしていて。

要は「過去の記事をアーカイブしてまとめていくこと」ができる会社とできない会社があるんですね。出版社の中でも、そのデータベース自体を構築していない会社さん、まだまだあります。デジタル化されてない出版のものはあるんですね。

まずはそういったもののデータ化をしましょうということ。あとは、それ自体をアーカイブするさいに、なにかあったときに、それ(コンテンツ)を生成できるようなかたちを作っていく。そうすれば出版業界でもデジタル化がすごく進むんではないかなと思っています。

出版業界だけではなくて、放送系だったり、そういったところでも「テキストにすると価値のあるもの」ってすごくあると思うんですね。だから、そういったもの(アーカイブ化されていないデータ)を表に出していく一連の動きは、出てくるべきだと思ってます。

馬渕:ありがとうございます。

デリバリーは多様化して、マネタイズも多様化する

江幡:答えになるかどうかわかりませんが、メディアのビジネスモデルの視点で見ると、コンテンツを作るところと、デリバリーするところ……。つまりユーザーリーチを取るところ、マネタイズをするところがすべて。

これまでのメディアビジネスでは1つの事業に統合されてたビジネスモデルだったんですけど、これがもっとアンバンドル化されて行くと思うんですね。コンテンツはコンテンツ屋。デリバリーは多様化して、マネタイズも多様化する。

自分で広告を集めなくても勝手にGDNやYDNがマッチした広告を配信してくれる。支持の高いコンテンツを創れば自分で集客しなくてもソーシャルメディアで拡散する、そういうことがあらゆるメディアに起こっていく思うんです。

新聞が売れなくなったから新聞記者いらないのかというと、コンテンツを作るところで力がある人は、アンバンドル化するビジネス構造の中で活躍できると思うんですね。

デリバリーを新聞というところに固定するからリーチが低くなってきているわけで、他のデリバリープレーヤーと他のマネタイズプレーヤーと組み合わせればいい。アンバンドル化によってそれぞれの得意なところで、どんどん事業がクロスしていくので非常におもしろくなっていくと思うんですね。

クロスを実現する機能も進化していく必要がありますね。わかりやすい例でいくと、テレビのスポットCで最後に検索ボックスが出てきて「検索してください」という方法。なんて面倒くさいのかと。あれおかしいと思うんですね。例えば「QRコードでピッとスマホでやれば終わる」これでテレビとネットのクロスがしやすくなるといったような。

まだ、そのアンバンドル化が進んでないんです。みんな抗っている。そこはやっぱり全部バラバラにして最適なかたちでコンテンツを流通させる。ユーザーのタッチポイントで一番態度変容を起こせるような設計。こういうのが、たぶん進んでいくんだろうと思いますね。

馬渕:ありがとうございます。そうですね。デジタル化においては、アンバンドルは、すごく大事なキーワードですね。

キュレーションとは「オリジナル観点で過去のものに光を当てる」

最後に、みなさんそれぞれ一言ずつ、今後のアンビションを語っていただければと思います。

小林:デジタルに置き変われるものはすべて、コモディティなってしまいます。特性なのでどうしようもない。だから、今度はデジタルから離れたところでの情報のディストリビューションを考えています。

冒頭に述べたように、リアルなイベントとかを仕掛けていきますし、単純にイベントという形態をとらないかもしれません。エクスペリエンスを大切にしたデザインで、高付加価値をつけていきたいなと考えています。そして、キュレーションサイトが話題になったので、1点だけキュレーションについてお話させてください。

馬渕:はい、どうぞ。

小林:キュレーションって、僕は思うんですけど、クリエイティビティがあって初めてキュレーションなんですよ。今までの自称キュレーションサイトって、単にパクリですね。

Upworthyのようなキュレーションメディアは、「過去にこんなすごい記事があったよ!」 というのを第三者に教えてあげて、気付かせてあげるために、新しいコピーを作ってたんですね。オリジナルの観点が過去や気づきもしなかったものに光を当てる。これがキュレーション。

出典をきちんと出して、元の著作者に対するリスペクトがキュレートという行為を産むわけです、そういった意味でのキュレーションは絶対、文化の生成のためには欠かせないんですね。

だから、今回「キュレーション」という言葉が地に落ちてしまったのは非常に残念なので、それを持ち上げるようなすごいキュレーションがまた出てくることを願っています。またそういったものを作ることに加担したいとも。

馬渕:そうですね。アートキュレーターって非常に高いクリエイティビティを持ってる人ってイメージがあったんですけど、今ではその言葉が変わっちゃいましたね。

はい、宮脇さんどうぞ。

宮脇:そうですね。野心的なものがあまりなくて、言いづらいんですけど……。今、私のところにはライターになりたいとか、そういう若い子がよく来てくれるんですよ。ありがたいことに。とはいえ、なかなか少ないリソースで教えたりできないので、そういう人たちをいかに支援していくかは、個人的には1つの大きなテーマです。

私、宣伝会議さんの編集・ライター養成講座で12年くらい講師をやっていまして、受け持っている講義では原稿を添削したりしているんですね。そういうのを、もうちょっとうまく仕組み化するといいますか、コンテンツづくりを体系化するといいますか、若い書き手が活躍できる場やきっかけをちゃんと作りたいですね。

馬渕:ありがとうございます。

コンテンツ作る人にちゃんとお金が回るという構造を

石村:そうですね。僕のほうからは、コンテンツのパブリッシャー的な側とマーケティング側というところがあるんですけども。パブリッシャーという部分のほうとしては、活躍の場を作っていきたいところがあります。

まだ、あまり具体的に申し上げられないんですけど、メディア系の企業さんと、今一緒に取り組みを進めようとしているのが、地方のライターさんが活躍できる場を作るということで。

以前、「素人ライター」と揶揄して「そんな奴らに物を書かせるなよ」みたいなことを、業界内部から石を投げる方がいたりするんですよ。

そういう素人ライターと言われる方々の中でも、書くのが好きな人も多くいらっしゃるわけで、そんな方々が活躍して「素人じゃないよね、もう」と言える場を作らないといけないと思うんですよね。場所がないからこそ、そういうことを言われてしまうものだと思うので。

そういった点では、自分自身が企画という領域で仕事をさせていただいているからこそ、そういった場を作ってあげられていないことに、自責の念みたいなものはあったりします。

なので、自分自身、場を作っていきたい。あとはクライアント、企業のほうのマーケティングを手伝うことで啓蒙していくことが、自分自身のミッションとして大きいと考えています。コンテンツを作っていく上で、しっかりKPIを持って、お客様を持ってこれるんだと実証していく。ビジネスとしてそこを、愚直に今後やってこうかなと思います。

馬渕:ありがとうございます。

江幡:アンビション……、大きな話でいうと、2つあるんですけど、それはインターネットがもたらす本質的な変化に立脚することだと思っていて、1つは個人をエンパワーメントする、もう1つはディスラプトです。

1つ目で言えば、は今やってることの延長ですが、よく言われているコンテンツ作る人にちゃんとお金が回るという構造を、先ほどのようなアンバンドル化の中で、作りたいですね。

YouTubeがコンテンツライツ持っている映像をコピペして、広告で稼ごうとした人たちに対してパクられたコンテンツでも、もしそこで広告がカウントされたら、もとのライツの人に広告費が戻る仕組みをやっていますね。

あれなんかもう、最高にいい話で。これによって、コンテンツがより流通するようになったりして。そういうことをしっかりやって、よい情報を作った人がちゃんと報われるような社会にしていきたいですね。

そしてもう1つは、これぜんぜんもっと飛んじゃうんですけど(笑)。そインターネットの本質ってディスラプトなんで、疲弊した社会システムや産業構造を叩き壊してあるべき姿に変えることですね。

そういう意味では我々においてもメディアビジネスで広告ビジネスをやって広告費に執着してるビジネスモデルは壊さなきゃいけないと思ってます。広告をやめて、それでもちゃんと成り立つようなビジネス構造に変えていく。ある種、広告は中間コストですよね。中抜きもネットが得意とするところです。

マーケティングの理想形は、無在庫、低価格、カスタマイゼーションだと思います。受注生産のような形にに近づいていけば実現可能です。売り手も買い手もより幸せになるような構造を作っていきたい。そんなことを考えています。

馬渕:はい、ありがとうございます。コンテンツマーケティングという非常に幅が広いお題のセッションで、今日はまだまだ語りきれなかったですが、非常に興味深い、みなさんのコンテンツマーケティングへの思いですとか、今後のアンビションをお聞きする事ができました。

スピーカーのみなさんに大きな拍手をお願いします!

(会場拍手)