「予定を入れない」という予定を入れる

陰山英男氏(以下、陰山):和田さんは手帳を買ったら、最初に何を書き込みますか?

和田裕美氏(以下、和田):1年のなかで絶対に忘れたくない記念日ですね。友達の誕生日とか、大切な記念日とか。これから起こるワクワクを最初に書きます。

陰山:なるほどね。結構近いけど、僕は少しだけ違うかな。「陰山手帳」は、休みの日から書き入れるようおすすめしています。

和田:へえ、その発想はなかったかも。なぜですか?

陰山:手帳はスケジュールを管理するものなので基本的には仕事のツールです。楽しいことから書き込まずに、いきなりビジネス案件を書き込んじゃうと、生活が仕事中心になってしまうのですよ。

和田:あーわかります。手帳を見るのがブルーになる感じですね。

陰山:これまで、仕事一途になりすぎて最終的に身体を壊してしまう人を何人もみてきました。これは僕の欠点でもあるかもしれないけど、どんな大事なことでも自分の身体を壊すことであればやめます。

和田:私も賛成です!

陰山:それで恨まれようが何しようが仕方がないじゃんって。校長をやっていたときも先生方職員にあれこれ指示はするのだけど、最後に「身体を壊すと思ったらやめてくれ」ってことだけは伝えていました。

和田:わかります。私は土日休みではないので、やろうと思えばすべて仕事で埋めてしまうこともできるわけです。実際8月は1日も休めなかった。それって実は危険なことだなと思うことがあります。

陰山:調子がいいときはいいのだけど、ちょっと疲れたなと思ったときにあと1週間働かなきゃ行けないと思うとブルーになるでしょ。

和田:なる! どうやったら休めるかとか、さぼることばっかり考えちゃう(笑)。

陰山:でしょ? そうなるくらいだったら、最初からここで休もうというのを決めちゃおうという提案です。

「休養日」「絶対休養日」のレベル高低をつける

陰山:そんなふうに考えられるようになったのは50を過ぎてからですね。40代で陰山メソッドが広く知られるようになってテレビに出始めた頃は、無我夢中だったから休みがなくても全然疲れませんでした。それがある程度ひと段落すると、「あー、しんどい!」となる。

和田:うんうん。そのときは忙し過ぎてご家族ともあまり過ごせていなかったのですか?

陰山:そうですね。無理をすれば身体を壊すし、家庭も壊れていくのがわかっていたけど、そうせざるを得ない状況が続きました。これではまずい、と。どうすれば脱却できるのかを考え、手帳に休日から書くことを思いついたのです。

和田:休みというと、家族旅行のために1週間くらいでしょうか?

陰山:いえ、1日~2日のものです。

和田:そんな短期間でもあえて休みをとるのですね。

陰山:だって朝起きたときに「今日はどこにも行かなくていい」と思ったらスッキリしませんか?

和田:ワクワクしますね。

陰山:それが3日も続けば、「人生もう春だろう!」みたいな。

和田:春ですね(笑)。

陰山:それをしないで、仕方なく午前中だけ予定を入れたり、2時間だけ打ち合わせを入れると、それだけで重たく感じるでしょう。

和田:特に女子は1つアポがあるだけで、ヘアメイクやら服やら準備に時間をとられますからね。なにもない日はスッピンにジャージ姿で犬の散歩ができるからすべてが楽チンです。休みってやっぱりありがたいわ!

陰山:ですから誰にも邪魔されないように、なにより先に休みを決めておくのですよ。

和田:それをスタッフの方と共有するのですか?

陰山:はい。一応レベルを設けていて、「休養日」はどうしてもという案件があれば仕事を入れることもあります。「絶対休養日」は、僕もスタッフもそっとしておくようにしています(笑)。

和田:え、絶対に? もし総理大臣に呼ばれたら?

陰山:それは……行くでしょうね。だって人生の一大事じゃないですか!

和田:ははは、そりゃそうか。

土日は携帯電話をオフにする

和田:「絶対休養日」の日は何をされますか?

陰山:寝ます(笑)。昼まで寝て琵琶湖の湖畔で家族と飯食べるとかね。

和田:パソコンを開くとか、読書は?

陰山:しないしない。

和田:本当にゆっくりしているのですね(笑)。情報のインプットはしないということですか?

陰山:だって情報を入れるのが苦痛だから休んでるんですよ。

和田:多くのビジネスマンは、休みというスキマ時間を使って情報を入れていると思いますよ。普段見られないDVDを見たり、本を読んだりね。特にスマホを持つようになってからは、ついメールチェックしちゃったり……。

陰山:家族と一緒にいるときは、なるべくスマホを見ないようにしています。

和田:持ち歩かないわけではないですよね?

陰山:一応携帯しているけど、電源をオフにするときもあります。

和田:「スマ断」と呼ばれるやつですね。スマホ中毒になっている人は見ないとイライラするみたいです。そういう人が電源をオフにするのは最初はストレスがかかるものですか?

陰山:いえ、電源を切ると自分で決めてオフにしている場合は、決断できているのでそうでもないのですよ。切るという行為が治療薬なのです。フィンランドでは、小学生に携帯を持たせますが、学校で朝の挨拶を済ませると、「携帯を出しましょう。さあ電源をオフに」というのをルールにしているそうです。

和田:へえ、そうなんだ。

陰山:僕もオフにするか、ほとんどマナーモードにしているかだから、電話に出ないことが多いですね。

和田:取材中や会議中など、物理的に出られないことも多いですよね。

陰山:ただ、ビジネスマンにおいてはまったく別の意見もあるようなんです。最近「できる男は5コール以内に携帯に出る」などと書かれたビジネス本を読んだのですが、なるほどと思うことがありました。

和田:えー、でもどうやって? 電車で携帯が鳴ったらわざわざ下車して出るとか?

陰山:いえ、そもそも一流の人は仕事の質が違うのです。

和田:ああ、なるほど。移動手段は車だし、会議中に社長が電話に出ても誰も怒りませんよね。

陰山:そうそう。そういう人には、かける方もくだらない内容では電話などかけてこないということです。重要度が高いから電話するわけですよね。

和田:そうか、重要とはじめからわかっているなら即出ます。

陰山:即断即決で話を返せると向こうもわかっているから気にせず電話をする。ただその代わりに土日は家族や自分のために必ず携帯を切るといわれています。

和田:カルロス・ゴーンさんとか、実行してそうですよね。

陰山:自分のペースやパフォーマンスをどうしたら大切にできるのかというのを自分主導でやらないといけないですよね。最初に休日を書き込むというのは、自分で休養日を選ぶということじゃないですか。この土日は絶対に休む、(できれば)携帯電話を切る。事前に周囲にアナウンスしておけば何の問題もないはずです。

和田:それくらい自己管理をしていないと流されちゃうかもしれないですね。嫌といえなくて、休みもなくて、夜も遅くなってとなると、やらされ感が満載になります。

陰山:だからね、日本の学校教育にありがちな「みんなと仲良くしましょう」とか、「できるわけないだろ!」って思いますよね。

和田:ははは! 仕事上でもみんなと仲良くしてどんなに知り合いが増えても全員と食事に出かけることはできないし。

陰山:そんなこと毎日してたら死にますよ(笑)。

和田:でも人脈術の本とか読むと、みんなめちゃくちゃ会食しています(笑)。SNSを見ても、みんな誰かとご飯食べていて、それも「みんな仲良く」の教育の結果ではないですか?

陰山:その通り。だから、誰と付き合うかもちゃんと選ばないと、ということですね。

手帳は仕事と生活を支えるフォーマット

陰山:どんなにいい仕事をしても、健康と家庭を壊してしまったら本当の成功とは言えないと僕は思います。

和田:同感です。身体を壊したら仕事もできなくなるわけですし。

陰山:だから、僕の手帳と和田さんの営業手帳の共通点を言うならば、「仕事習慣のフォーマット」が組み込まれているということですね。

和田:なるほど。おっしゃるとおり自分の目標や現状を「見える化」する仕組みが組み込まれています。

私は営業時代に手帳で数字を管理していました。「成約率98パーセント」を達成できたのも、目標とプロセスと結果を、記号を使って明確にしていたからです。会ったすべてのお客様からその場でご成約をいただくことが一番効率をあげることですし、それを実現していたからこそ「ライフ」の方も充実していたのだと思います。

陰山:ガチガチにまじめにならなくていいということです。一般的には手帳は仕事の計画をたてることばかりに触れているけど、それだと長くは続かないのですよ。

和田:特に、「陰山手帳」はプライベートのための手帳だってことですね。

陰山:楽しい妄想をした上でぼちぼち仕事の計画を立ててもらうくらいがちょうどいいのですよ。

2016 W's Diary 和田裕美の営業手帳2016 (アイボリー)

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