科学を取り入れた最新心理学

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):DaiGoさんが学習したいことで、一番深いところはどこなんですか? 知識欲全般の中で何を知りたいか。

DaiGo氏(以下、DaiGo):そうですね。やっぱり心理学は一番知りたいと思ってるし。心理学って、前まではほとんど統計学だったんですよ。「統計学に乗っ取られた学問」ってちまたで言われてるくらいだったんですけど、最近やっと計測技術が……。

佐渡島:科学的になろうとしてる。

DaiGo:そうです。科学技術の発達と、ニューロサイエンティストとサイコロジストがちゃんと手を組んだんですよ。で、実験心理学ってジャンルがけっこうポピュラーになった。日本では(心理学が)文学部にあるせいで、これが遅れてるんですけど。

柳内啓司氏(以下、柳内):心理学って文系ですもんね。

DaiGo:そうです。でもイギリスとかアメリカとか行くと、そうじゃないんですね。完全に理系の学問で。オックスフォードに行った時にも、会ったのがプロフェッサー・フォックスという女性の先生なんですけど、エセックス大学でEU最大の心理脳科学研究センターみたいなのを作った人で。

この人がすごくおもしろい研究をしていて、心理学と遺伝学と神経科学を組み合わせている。例えば「ポジティブになる人ってどういう特性があるのか」とか心理学者は普通に調べるんですけど、彼女は遺伝子を調べる。

その特定遺伝子はセロトニントランスポーター遺伝子なんですけど、それが何なのかを突き止め、どういうときにオンになったりオフになったりするのかというところまで調べるんです。

そういう意味でいうと、ニューロサイエンスとサイコロジー、あとは遺伝学ですね。そういうところが組み合わさってどんどん新しいものが出てきてるので、そういう部分の知識はほしいなと。今、ベースはあるんですよ。あとは測るだけみたいな感じなんですよ。できることがいっぱいある。

僕もだんだん落ち着いてはきたので、もし研究とかに携わることができるのであれば、自分にしかできないことをやってみたいなと思ってますね。

DaiGo氏が語る、自分にしかできないこと

佐渡島:自分にしかできないことって、どういうことだと思ってるんですか?

DaiGo:2つできるなと思ってることがあって。1つは、わかりやすく説明するのがかなり得意なんですね。だから「研究に携わる」っていうと自分でやるイメージがあるんですけど、すごく能力があるのに資金を取ってこれない人がいっぱいいるので、そういうところに僕が出ることによって、(資金調達が)できたりとか。

後は、さっきもあったような企業さんと契約を結ぶ時に、僕は(契約事項に)「研究目的のデータの提供」というのを入れてるんですよ。そうすると、いろんなところとビジネスをやることによって得られたデータをもとに新しい研究ができて、その研究(結果)を逆に企業さんに返す。それで新しいビジネスが生まれたりとか。

あるいは「DaiGoが共同研究でこんなことやった」というのは、そこそこニュースになるじゃないですか。そういうPRも兼ねたことができれば。

佐渡島:今、DaiGoさんの本ってご自身が語り手になってるじゃないですか。そこにもう1人ライターを入れて……。『ヤバい経済学』って本を知ってますか?

DaiGo:知ってます(笑)。

佐渡島:あの感じで心理学とかを調べにいくのがDaiGoさんで、それをDaiGoさんが口頭で言うんだけど、さらに文章として価値あるものにするためにライターと組んで。みたいなのをやると、爆発的に売れそうな気がします。

DaiGo:すごい。なんか、プロの編集者の意見が(笑)。

柳内:今、企画会議してました?

DaiGo:ぜひ(笑)。

佐渡島:おもしろそう。

佐渡島氏の事業はタレントのマネジメント業に近い

DaiGo:『ヤバい経済学』、みんな読んだことあるかなあ。

柳内:黒い表紙の本ですね。

DaiGo:普通の学者さんとか著者が語るんじゃなくて、いろんなところに「こういう理論があるんですけど、実際どうなんですか」って切り込んでいったインタビューを元にして、「ぶっちゃけどうの」って最後にまとめるやり方で。

佐渡島:(著者の)片方は研究者で、自分のところでやってる研究もいっぱいあって。相撲が八百長かどうかとかね。あれ、完全にイギリスで八百長扱いされてて、でも日本の週刊誌では「八百長だ」「八百長じゃない」みたいなのがあっておもしろいですよね。

DaiGo:海外の翻訳本って、そういうのが書けちゃうからおもしろいですよね。日本でやるとちょっとめんどくさい。

佐渡島:大問題になるからね。

DaiGo:「これ、翻訳してるだけなんですけど」みたいな(笑)。

柳内:佐渡島さんとしては、そういう実用書とか、漫画以外も全然ありなんですか?

佐渡島:僕の会社自体は、本を出す会社じゃないんですよ。ほとんどタレントのマネジメント業に近いんですよね。だからDaiGoさんの本を1冊やるというのは起こりえなくて、DaiGoさん全体(のマネジメント)というのは起こりうるかもしれない。

柳内:業務範囲としてね。

佐渡島:タレントのマネジメント業って、ほとんどスケジュール管理になってくるんですね。最終的に。どこに出すとか、そこのブランディングになる。

柳内:一番の貴重なリソースって、その人の時間ですもんね。

佐渡島:そうですね。だけど、僕がやるのって「作家の作り上げたものが24時間365日世界中で働いてもらう仕組みを作る」ことなんで、外に出るコンテンツを作れるタレントのマネジメントをする会社なんです。

そのタレントの普段のスケジュール管理の中でも収入を得つつ、そこから生まれてきたものでどれだけ収益を最大化するかということをやる。

コンテンツを上手に再利用

DaiGo:おもしろい。あんまりないパターンですね。

佐渡島:そうですね。ディズニーはそうですけどね。

DaiGo:ああ、ディズニーがそうなんですね。

佐渡島:でもディズニーの場合は、それをやってる相手が少ないんですよね。仕組みとしてはあんまりやってなくて。サンリオもキティちゃんに対してやってるわけですよ。でも、それはキティちゃんにやっているんで、その元の人に対してはやってない。

DaiGo:コンテンツマネジメントって感じですね。著者じゃなくて、みたいな。

佐渡島:「コンテンツマネジメント」と「著者のマネジメント」をセットでやっていくっていう考え方なんですよね。昔の作家さんの本を読むと、講談社とか小学館とかは「雑誌に1回載せたものを単行本にするなんて、そんな格好悪いことはできない。雑誌だけで儲ける。それが本当の漫画だ」みたいなことを言ってたんですよ(笑)。

柳内:えー、マジですか!

DaiGo:今と真逆ですね(笑)。

佐渡島:今は単行本で稼いで雑誌は原稿料を払うだけ、みたいな形で。昔は1回限りしかビジネスをしないっていう感じだったんですね。タレントの人なんかも、テレビに1回出たところでギャラをもらってそれで終わりって感じじゃないですか。

でも、そういうふうに1回限りの仕事というのを減らしてって、1回やった講義をどうやって何回も使っていくかみたいな。そういうのは考えられるだろうなと思ってて。

今って、どんどんコンテンツが貯まっていくじゃないですか。(しかも)違う形で貯まっていったりするんで。同じ形だったら本で出版とかしやすいんですけど、違う形だとそれがしづらくて。

例えば、ネット上でいろんなものをまとめてる「NAVERまとめ」ってあるじゃないですか。あれは違う意見をいろいろ集めてくるんですけど、同じDaiGoさんの考え方をメルマガと本とツイッターから集めてきて、「わかりにくかった今回のDaiGoさんの考え方は全体から見るとこうだよ」って説明するのが、全然ありえる。

コンテンツって、どんどん何次利用もしていくことになる。そのときのやり方によって伝わり方が違っていくはずで、そこのマネジメントの仕方がこれからの時代、けっこう重要になるんだろうなと思ってて。そこのスキルを持ってる人が、日本にはあんまりいないんですよね。世界的にはちょろちょろいるんですけどね。

電流効果はあった!? 佐渡島氏へコメント続々

DaiGo:(前回から流し続けていたThyncの電流が)終わりました?

佐渡島:終わりました。

DaiGo:どうでした?

佐渡島:どうだか、わかんないです。

DaiGo:今、コメントでは「早口になってる」とか「電流効いてるじゃん」みたいなのが(笑)。

佐渡島:メガネかけてなかったから、全然見えない。

DaiGo:そうだったんですね(笑)。

柳内:コメントがね。

佐渡島:コメントも見えないし、DaiGoさんの顔はギリギリ見えるくらいだったんですけどね。

DaiGo:けっこう目が悪いんですね。

佐渡島:そうなんですよ。(コメントにて)「口数増えたよ」って。

柳内:これ(電流)の効果ですかね(笑)。

佐渡島:(コメントを見て)「おにぎり」って何なんだろう。

DaiGo:おにぎり?

佐渡島:「おにぎり完食」って。

DaiGo:おにぎり食べてた人がいたのかな? (パッドを見て)ああ、これだ! これがおにぎりの形してるから。

佐渡島:なるほど。

コンテンツ再利用へ向けて、テレビと漫画の大きな課題

柳内:僕もその流れになっていく気がしてて。ひとつのコンテンツがいろんな場所で何次利用もされていく、いろんなハコに乗っかっていくという。

きっとそれでよいものが残りやすくなるというか、一発で、ショットでやらなきゃいけないものより、本質的に価値があるもののほうがたくさん稼げる時代になるので。それってコンテンツクリエイターにとってもいいし、受け手にとってもいいことですよね?

佐渡島:そうなんですけど……。テレビも漫画も全部なんですけど、検索できないですよね。

DaiGo:確かに。

佐渡島:だから引っ掛けて持ってこれないんですよ。例えば、何かについて知りたかった時に、検索してもそれが動画として表れたりしなくて。メタデータとかが全然入ってないんで。

柳内:テレビも漫画もそこが課題ですよね。

DaiGo:テレビは何かやるって聞きましたけどね。「TVer(ティーバー)」でしたっけ?

柳内:あっ、「TVer」っていうのが10月26日から始まって。放送していて見逃したものを各民放が流して、1週間は広告付きで見れるっていうやつなんです。

それがいいのは、1週間限定ですけどハードディスクレコーダー要らずで、「あのドラマおもしろかったね」という時に追っかけて見ることができるんですよね。

佐渡島:それって見逃し視聴ができるだけであって、番組の中でしゃべられてることが全部人工知能で捕捉されて、言語化されて検索で引っかかるようになってたりはしないですよね。

DaiGo:PDFの透明化(注:透明テキストを付けて検索可能にする)みたいなやつですよね。

佐渡島:そうです。さらに、それがどれだけ重要度が高いことを言ってるか……。「○○のレストラン」というテーマに対して、『出没! アド街ック天国』がある街についてやってる時の順位がドーンと出てくるみたいなことは、そのままだと起きないわけですよね。

柳内:コンテンツが全部アンバウンド、バラバラになって、いろんなものに……。例えば「吉祥寺」とやった時に『アド街』もあれば『東京カレンダー』もあるみたいなことは、まだできてないですよね。

人工知能は声色の分析ができない

DaiGo:なるほどね。それはけっこう難しそうですよね。

柳内:難しいかなって、実務をやってるものとすれば思ったりしますけど。

DaiGo:権利的な問題と、後は技術的な壁で音声認識。長文とか、人間って声色の違いを聞き分けられるじゃないですか。だから、同時にいろんな人がしゃべってても分けられる。人って、まったく同時にしゃべられるとわからなくなるじゃないですか。そういう声色の分析が、人工知能にはまだできない。

文字に起こす場合も、テープ起こし屋さんっているじゃないですか。自分が思ったこととかをワーッと録音して、それを文章にしてくれる人とか。あれをディクテーションでできないかなと思っていろいろ調べたんですけど、やっぱり長文のディクテーションは無理でしたね。

佐渡島:でも人工知能が育ってくれば、どんどん学習速度が速くなるじゃないですか。やる人間が増えれば増えるほど、そこの学習もディープラーニングで速くなる。そうなった時に何年間かかるのかがわからなくて、権利的なところも「こっちのほうがビジネスになる」っていうのがわかっちゃうと、みんな一気に整備されるだろうなとは思ってて。

DaiGo:人工知能といえば、ここ(DaiGo氏と柳内氏)は2人とも人工知能の……。

柳内:(人工知能の)研究室だったんですよ。

佐渡島:そうなんですか。

柳内:(将棋ソフトの)「Ponanza(ポナンザ)」やってたのが後輩で。

佐渡島:山本(一成)さん?

柳内:そうです。

佐渡島:へえ〜。

柳内:自分でも音楽の自動生成やったりとか、「Gunosy」のひと昔手前みたいなことをやってたんです。RSSリーダーのレコメンデーションみたいなやつ。RSSリーダーを100個くらい登録すると、読み切れないじゃないですか?

それをおすすめ順に出してくれるようなやつを。「茶筌」っていう形態素解析のソフトを使って単語をバラバラにして、類似度を測って並べるみたいなことをやってたんですよ。

佐渡島:そうなんですね。

1人で作り上げたコンテンツには時代を超える力がある

柳内:さっきの何次利用みたいな話でいうと、一方で僕が疑問に思ってるのはコンテンツの賞味期限って話。コンテンツって旬があったり、時代と共に寝てるというか、そういう部分があるじゃないですか。そのへんってどう思います?

佐渡島:僕は、コンテンツに関しては時代が一番保つものって、1人で作ったものだと思うんですよ。だから僕の会社は、ストーリーを1人で作る人のエージェントをやってるんですね。

柳内:なるほどね。

佐渡島:シェイクスピアは、まだ保つじゃないですか。それに対して、演劇とか映画、ドラマってたくさんの人が関わってくるじゃないですか。そうすると、黒澤明さんみたいな感じで中心となってる人がいるにしても、結局はたくさんの人の意見が入ってくる。だから、なんだかんだいっても劣化してくる。

時代を耐えれないと思ってて、1人というのはけっこう重要かなと思ってますね。

柳内:1人が生んだものって、時代を超える可能性があると。

佐渡島:そうですね。僕らの精神のあり方みたいなものは、縄文時代とか弥生時代からあんまり変わってなかったりすると思うんですよね。

柳内:おもしろいですね。コンテンツって、そういう「関わってる人数」という種類で分けてもけっこう文化が違いますもんね。「テレビ」と「漫画」と「小説」と、ぜんぜん違いますもんね。

佐渡島:だから、例えば宮崎駿さんと庵野秀明さんとか……、僕も授業でアニメとかやったんですけど、絵コンテとか皆(絵が)バラバラなんですよ。それなのに何人もで、やっちゃうんですよね。

柳内:分業で。

佐渡島:分業でやるんですけど、そうするとけっこう質がバラけるというか。だけど宮崎さんとか庵野監督とかって、圧倒的に1人でやりきれるんです。それがすごいなって。